春闘の賃上げ率4%が日銀の背中を押すか。ポイントはベースアップ(愛宕伸康)
トウシル / 2024年2月28日 8時0分
春闘の賃上げ率4%が日銀の背中を押すか。ポイントはベースアップ(愛宕伸康)
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「春闘の賃上げ率4%が日銀の背中を押すか~ポイントはベースアップ~」
日本銀行の内田真一副総裁が2月8日の講演で「重要なイベント」と指摘した、春季労使交渉(春闘)。今年は3月13日に集中回答日を迎え、15日に連合がその第1回回答集計結果を発表します。さて、マイナス金利解除を模索する日銀の背中を押す結果になるかどうか。今週は春闘における賃上げ率の見方を整理します。
春闘の賃上げ率は、いつ、だれが発表するの?
連合では毎年7回集計を行っており、7回目を最終結果として7月上旬に発表しています。1回目から回を重ねるごとに下方修正されるのが例年のパターンですが、修正幅自体はそれほど大きくなく、事実上、1回目の集計結果で大勢が判明します(図表1)。
<図表1 春闘の第1回回答結果と最終結果の賃上げ率>
昨年(2023年)の春闘では、3月17日に発表された第1回回答集計の賃上げ率が、定期昇給(定昇)込みで3.8%でした。その後徐々に下方修正され、7月5日に発表された第7回(最終)回答集計結果では3.58%と、第1回から0.22%ポイント下振れて着地しました。
ちなみに、厚生労働省が公表している「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」の2023年の賃上げ率は3.6%であり、連合の最終結果とほぼ一致しています。このように、過去においても厚生労働省と連合の結果がさほどかい離していないことが、図表1から確認できます。
2024年春闘の見通しは?
さて、2024年の春闘ですが、(1)好調な企業業績、(2)人手不足の深刻化、(3)高インフレへの配慮、(4)官民での賃上げ機運の高まり、などを背景に、15日に発表される第1回回答集計では、賃上げ率が4%の大台に乗ってくるとみています(図表2)。
<図表2 春闘賃上げ率の推移>
第1回回答集計結果の賃上げ率が4%程度だとすると、最終集計結果はそれから若干下振れて3.9%程度になると予想されます。従って、厚労省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」の2024年の賃上げ率も3.9%程度になると想定され、そうなれば1993年の3.89%以来の高さということになります。
こうした高い賃上げ率が、所得から支出への好循環を促すという点で日本経済にとって好ましいことは言うまでもありませんが、日銀の目指す消費者物価上昇率2%を達成するのに十分かどうかは、慎重に検討する必要があります。後述するように、重要なのはベースアップ(ベア)です。以下では、ベアがどうなるかを考えてみます。
2024年のベースアップ(ベア)は2%超に
図表1と2で示した賃上げ率には、社員の勤務年数などに応じて増える定期昇給分も含まれます。従って、まずは賃上げ率をベアと定昇分に分ける必要がありますが、それを行っているのが中央労働委員会です。中央労働委員会では、彼らが集計する賃金改定率(図表2の点線)を、ベースアップ分と定期昇給分に分けて公表しています(図表3)。
<図表3 賃上げ率のベースアップ分と定期昇給分>
中央労働委員会が公表している直近値は2022年ですが、賃金改定率2.17%(ちなみに、厚労省の賃上げ率は2.20%)のうち、ベアが0.56%、定昇分が1.61%でした。
もし、2023年の賃金改定率が厚労省の3.6%と同じになったとすると、定昇分が2022年と同じ1.6%と仮定して、ベアは2.0%になります。さらに、2024年の賃金改定率が、連合の第1回回答集計の見通し4%程度を前提とする3.9%程度になったとすると、ベアは2.3%と計算することができます。
春闘の賃上げ率4%は日銀の背中を押す
改めて、定昇分を含む賃上げ率、ベアと消費者物価上昇率との関係を見たものが図表4です。図には参考までに毎月勤労統計の所定内給与も掲載しています。これを見ると、明らかに賃上げ率よりもベアの方が消費者物価の前年比を考える上で重要であることが分かります。
<図表4 ベアと消費者物価上昇率>
今後、消費者物価の前年比が安定的に2%程度で推移していくためには、賃上げ率が4%超、ベアが2%超で定着することが必要であることを、図表4は示唆しているようにみえます。そうなるかどうかを確認するには、今後数年単位で点検していく必要がありますが、少なくともそのスタートラインには立っているように思います。
3月15日の第1回回答集計結果の賃上げ率が4%に乗れば、印象としてかなり強いというイメージを市場に与えるだけでなく、ベアが2%を超えたことを示唆しており、マイナス金利政策解除を模索する日銀の背中を押すことになる、つまり、3月18~19日に開催される金融政策決定会合で決断する可能性が高いとみています。
(愛宕 伸康)
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