[今週の日経平均]日銀会合と米FOMC通過で上昇できるか?~持っておきたい冷静な視点~
トウシル / 2024年3月18日 13時43分
[今週の日経平均]日銀会合と米FOMC通過で上昇できるか?~持っておきたい冷静な視点~
先週末15日(金)の日経平均株価終値は3万8,707円でした。前週末終値(3万9,688円)からの下げ幅が981円と比較的大きかったほか、週間ベースでも2週続けての下落となっています。4万円台に乗せていた前週から株価水準を一段階切り下げた格好です。
今週は市場が注目する金融政策イベントが日米で予定されています。18日(月)から19日(火)には日銀金融政策決定会合、19日(火)から20日(水)にかけてはFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されるわけですが、これらのイベントを通じて、株式市場が再び買いの勢いを取り戻せるかが焦点です。
そこで、まずはいつものように、足元の状況から整理し、今後の株式市場のシナリオについて考えて行きたいと思います。
日経平均の日足チャートから得られる情報は意外と多い
図1 日経平均(日足)とMACDの動き(2024年3月15日(金)時点)
あらためて、先週の日経平均の値動きを振り返ると、冒頭でも触れたように、4万円台から3万8,000円台へと株価水準が切り下がり、25日移動平均線を攻防の境界としながら、方向感のない展開となりました。
前回のレポートでは、3月7日(木)に出現した大きな陰線に注目しました。4万円水準をまたいでいることや、前後のローソク足との組み合わせを見ても、相場の天井を示すことが多いとされる「抱き線(包み線)」と「はらみ線」の両方が併存する格好となり、サインとしてはかなりのインパクトがある点を指摘しました。
実際に、そのサインを受けた先週の日経平均は下落したわけですが、一応、25日移動平均線がサポートとして機能しているため、現時点では「天井サインに従って株価は下落したものの、まだ相場は崩れておらず、本格的な下落トレンドには入っていない」ということになります。
となると、今週の金融政策イベントなどを通じて、日経平均が25日移動平均線を足掛かりとして再び上昇していくのか、それとも25日移動平均線から下放れする格好で、株価の調整が進むのかを見極めて行くことになります。
上の図1から読み取れるテクニカル分析的なサインとしては、「今年になって初めて5日と25日の移動平均線のデッド・クロスが出現した」こと、「MACDがシグナルとの下抜けクロスが出現した以降も下向き基調を続けている」ことなどから、下向きを意識させるものが増えています。
それと同時に、3万8,000円の株価水準も相場の「節目」として意識されそうです。2月半ばからの株価上昇をローソク足で捉えると、方向感のない「十字足」や「コマ足」が頻発していることや、時折出現する大きな陽線によって株価水準が切り上がっていることが分かります。
こうした値動きは、上昇基調の強さを示すほど買いが続かず、押し目を作るほどの下落したわけでもないため、結果的に株価は上昇しているものの、実際のトレードで利益を出すのは意外と難しい「あまり嬉しくない上昇」だったと言えます。ですので、3万8,000円あたりまで株価下落はあまり驚くことではないと言えます。
さらに、25日移動平均線の傾きも注目されます。先週末15日(金)時点での25日前は2月8日(木)ですが、今週は18日(月)の株価が移動平均線の計算に加わり、8日(木)の株価が計算から外れ、翌19日(火)には9日(金)の株価が計算から外れて行くことになります。
つまり、外れていく株価が次第に3万8,000円に近づくことになり、金融政策の結果が出揃う19日(火)や20日(水)にかけて、現在の株価水準に近づくタイミングでもあるため、今週の値動き次第では移動平均線の傾きが下向きになる可能性があります。
このように、図1の日足チャートから得られる情報は意外と多いですが、全体的には弱めである点に留意しながら、今週は株価の方向性を探る重要な週になります。
金融政策イベント通過後の株価は上昇しやすい?
では、今週注目の日米の金融政策イベントが、株価の方向性にどのような影響を与えそうなのかが気になるところです。
結論から言ってしまうと、現時点での状況を整理すれば、金融政策イベント後の株価は上昇しやすいと思われます。
18日(月)~19日(火)に開催される日銀の金融政策決定会合ですが、事前の報道にもあるように、「マイナス金利の解除」が行われる見込みです。これについては、すでに先週までの日経平均の値動きに織り込まれており、実際にマイナス金利の解除が決定されても、株式市場に与えるインパクトは限定的になると思われます。
このほか、「YCC(イールド・カーブ・コントロール)の見直し」や「ETF(上場投資信託)の買い入れ停止」なども注目されていますが、こちらもすでに報じられている情報です。
となると、今後の視点は、「マイナス金利解除後も追加の利上げが実施されるのか?」へと移っていくことになります。ただし、国内の物価上昇の背景にあるのは、経済成長に伴う需要拡大というよりも、国際的な資源価格の高騰や円安に拠るところが大きいことを踏まえると、当面は緩和的な政策運営を続けていくと思われます。
こうした政策運営姿勢が、会合後の植田日銀総裁の記者会見などで確認できれば、安心感による買いのきっかけになりそうです。
また、日銀会合に続く、FOMCについても、市場では政策金利の据え置きがほぼ規定路線という予想です。
今後の利下げ開始時期をはじめ、FRB(米連邦準備理事会)における、景気やインフレに対する認識、QT(量的引き締め)緩和の議論の動向などを、パウエルFRB議長の記者会見や、FOMCの結果と同時に公表される「ドット・チャート(FRBメンバーの金利&経済見通し)」などを材料に消化しつつ、こちらも日銀と同様にハト派であれば、安心材料となりそうです。
もちろん、植田日銀総裁や、パウエルFRB議長からタカ派的な発言が出てくるケースには注意が必要ですが、金融政策イベントだけで判断するならば、イベント通過で買いを入れやすい状況になる可能性は高そうです。
株価が反発できても、上値を追える勢いについては微妙か
しかしながら、仮に日米の金融政策イベントを通過して、株式市場が上昇していく展開となった場合、より重要になってくるのが、「株価が反発できても、上値をトライできるほどの勢いが出てくるか?」です。
日経平均で言えば、先ほどの図1にもあるように、「3月7日(木)の取引時間中につけた高値(4万472円)を超えることができるか?」ということです。
図2 日経平均(日足)と多重移動平均線(2024年3月15日(金)時点)
上の図2は日足の日経平均チャートに多重移動平均線を重ねたものです。
多重移動平均線については、前回のレポートでも紹介しましたが、短期から中期までの異なる移動平均線(2日から28日までの2日間刻み)を複数(14本)描くことで、トレンドの強弱や変化を探るのに使われます。トレンドが発生している時は多くの移動平均線が同じ方向を向き、移動平均線の束の幅が広くなっていきます。
図2を見ても分かるように、足元の状況は株価が移動平均線の束の下限あたりまで下落し、束自体の幅も狭くなりつつあります。また、75日移動平均線と株価の距離は大きく離れている状態が続いています。
チャートをさかのぼると、ちょうどこれに似た状況が昨年の6月あたりにも見られます。この時は、移動平均線の束の下限あたりで株価が反発したものの、3万4,000円の節目の株価水準や6月の高値を上回ることができず、再び反落してしまい、その後は10月末までの下落トレンドへとつながって行きました。
そのため、金融政策通過の安心感だけでは、短期の需給的な思惑による株価の上振れがあったとしても、上値トライを持続するだけの買いの強さを取り戻すには新しい買い材料が必要かもしれません。
米国株市場の動きがポイント
さらに、少し注意しておきたいのが、最近の米国株市場の動きです。
先週の米主要株価指数は、週間ベースでNYダウ(ダウ・ジョーンズ工業株平均株価)が0.02%安、S&P500種指数(S&P500)が0.11%安、ナスダック(ナスダック総合指数)が0.69%安と、揃って小幅な下落ではあるものの、株価水準自体は最高値圏を維持しています。
図3 日米の主要株価指数の値動き比較(2023年10月末を100)
とはいえ、上の図3を見ても分かるように、3月に入ってからの日米の主要株価指数のほとんどが、2月までに見られたような上昇の勢いが後退しているような印象です。
先週発表された米国の経済統計では、2月分のCPI(消費者物価指数)やPPI(卸売物価指数)が予想よりも強い結果となり、粘り強いインフレ傾向が示されたことや、2月小売売上高や3月NY連銀製造業景況指数なども景気の陰りを匂わせる結果となっています。
こうした結果を受けて、先週の米10年債利回りは再び上昇しています(下の図4)。
図4 米10年債利回りの推移(2024年3月15日(金)時点)
このように、「景気が減速しつつある中で、物価が高止まりしているのでは」という微妙な警戒感と、足元の金利上昇が最近の株価の重石になっていると思われます。
米半導体2銘柄にも注目
また、米国株市場では、図3のSOX指数にもあるように、引き続き半導体関連銘柄の動きがカギとなっています。日本株市場でも、日経平均への寄与度の大きい東京エレクトロン(8035) や、アドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、SCREENホールディングス(7735)などは、米半導体関連銘柄の動きに連動しやすい傾向があるため要注目です。
図5 米エヌビディア(日足)とMACDの動き(2024年3月15日(金)時点)
まずは、米半導体銘柄の筆頭格であるエヌビディア(NVDA)の状況からチェックします。
前回のレポートでは、前週末に出現した大きな「抱き線」によって、トレンド転換への警戒を指摘しましたが、先週の値動きを見ると、抱き線となった8日(金)のローソク足の値幅内での推移が中心となりました。
売りに押されながらも値崩れすることもなく、天井の兆候となるサインが出ていた割には、しっかりした展開だったと言えますが、上値の重たさが感じられ、少なくとも、エヌビディア株がこれまでのような、株式市場の上値追いのエンジン役となるには、8日(金)の高値974ドルを超えて、抱き線を打ち消すことが必要になります。
それと、今週は同じく米半導体関連企業のマイクロン テクノロジー(MU)が20日(水)に決算を発表する予定となっており、こちらも注目されることになりそうです。
図6 米マイクロン・テクノロジー(日足)とMACDの動き(2024年3月15日(金)時点)
マイクロン テクノロジーの日足チャートを見ても、エヌビディアと同様に前週末の7~8日にかけて大きな抱き線が出現していますが、同社株の先週の値動きは、25日移動平均あたりまで下値を探りに行くような動きとなっていることもあり、決算を受けて上昇に転じることができるかが注目されます。
日経平均の予想レンジは4万500円~3万7,000円
最後に目先の日経平均の予想レンジについても見て行きたいと思います。
上値については先ほども触れたように、3月7日(木)の高値(4万472円)超えが意識されるため、4万500円あたりが目安となり、下値については25日移動平均線からの下放れを想定する必要があるため、移動平均線乖離(かいり)率を使って確認して行きます(下の図7)。
図7 日経平均移動平均線乖離率(25日)のボリンジャーバンド(2024年3月15日(金)時点)
先週末15日(金)時点の25日移動平均線乖離率はマイナス0.28%と、25日移動平均線からやや下回っているところに位置しています。
ボリンジャーバンドでもマイナス2σ(シグマ)を下抜けているため、今週以降の日経平均が下方向への動きを強めた場合には、下向きに広がるマイナス2σに沿って低下していくため、図7を過去に遡ってみても分かるように、マイナス5%あたりまで乖離が進行する展開も想定しておく必要がありそうです。
先週末時点の25日移動平均線の値が3万8,817円でしたので、マイナス5%乖離は3万6,876円となり、3万7,000円の節目が下値の目安として機能しそうです。
これまで見てきたように、今週の株式市場は日米の金融政策イベントの通過で、株価が反発する可能性は高いと思われるものの、株価上昇の強さと持続力が問われること、米国株市場に不安の火種もくすぶっているため、冷静に相場に臨む必要がありそうです。
※来週(3月25日)は、当連載は休載です。次回は4月1日になります。
(土信田 雅之)
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