「ほぼトラ」リスクで米国株は揺れる?大統領選挙の行方と影響(香川睦)
トウシル / 2024年3月15日 7時45分
![「ほぼトラ」リスクで米国株は揺れる?大統領選挙の行方と影響(香川睦)](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_44570_0-small.jpg)
「ほぼトラ」リスクで米国株は揺れる?大統領選挙の行方と影響(香川睦)
トランプ前大統領の「返り咲き」を市場はどう織り込むのか
米国市場ではS&P500種指数(S&P500)が2024年に入ってから今週12日まで17回にわたり過去最高値(終値)を更新しました。業種別にみると、最近1カ月は「素材」、「エネルギー」、「金融」、「公益事業」、「資本財サービス」などに属するバリュー株のリターンが「IT(情報技術)」を上回り、循環物色がみられる点が特徴となっています(3月13日)。
パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が前週の議会証言で「経済が予想通りに進展すれば、2024年のある時点で利下げを開始するのが適切になるだろう」と述べたことも市場の支えとなっています。ただ、昨年秋以降のS&P500は上昇ピッチが速かったため、利益確定売りが先行する場面も警戒されます。
こうした中、3月5日の「スーパーチューズデー」(共和党と民主党それぞれの予備選・党員集会集中日)を終え、民主党ではバイデン現大統領が指名を確実にし、共和党ではニッキー・ヘイリー氏(前国連大使)が撤退を表明したことでトランプ前大統領(以下トランプ氏)が指名を確実にしています。
「もしトラ」(もしトランプ氏が当選したら)リスクが「ほぼトラ」(ほぼトランプ氏当選の見込み)リスクに変化し、株式市場への影響を不安視する投資家もいるようです。
しかしながら、図表1が示すとおり、1970年以降に「現職大統領が再選を目指して失敗した(再選されなかった)年」は4回ありましたが、米国株式(S&P500)は暦年平均で16.8%上昇してきた実績が検証できます。
また、実際にトランプ氏が大統領を務めた2017年から2020年までの4年間でS&P500は67.8%上昇した経緯があります(年平均騰落率は+16.9%でした)。バイデン大統領再選失敗(=トランプ氏の返り咲き)がもたらす市場へのリスクを過度に不安視すべきではない点にも留意したいと思います。
<図表1>「現職大統領・再選失敗年」でも米国株は堅調に終わった
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/d/7/-/img_d7fe24b39da2582101ef2292afd6a1a725571.png)
「トランプ返り咲き」には懸念される点も期待される点もある
トランプ氏とバイデン現大統領が、7月の共和党大会と8月の民主党大会で大統領候補者指名を受けても、9月から10月に3回実施される「大統領候補者討論会」の結果と影響を注視する必要があり、どちらかの当選を「決め打ち」はできません。とはいえ、現時点では「Real Clear Politics」(世論調査)や「PredictIt」(賭けサイト)などは、トランプ優勢を予想しています。
トランプ氏は大統領在任中から、Twitter(現在のX)を介した過激な発言で市場を揺さぶった経緯があり、11月5日の本選挙に向けて「トランプ・リスク」を織り込む夏から秋にかけて、市場がいったん警戒するというリスクがあります。
特にトランプ氏が公約に掲げる「米国第一主義(孤立主義)」や「対中輸入関税を60%超に引き上げる」との公約は、西側同盟国との外交混乱、米中対立激化、インフレ懸念を市場が不安視する可能性もあります。
一方、バイデン大統領は3月7日に連邦議会で行った「一般教書演説」で、大統領2期目に「法人増税」や「富裕層増税」を実現したい意向を表明しました。トランプ氏は、伝統的な共和党の政策路線に沿い、自身が大統領在任中に実現させた法人減税の延長や規制緩和の推進を提唱しています。
どちらも、大統領選挙日に同時実施される上下両院議会議員選挙の結果(上院議会と下院議会の勢力図)次第でその実現が難しくなる可能性があり不確実です。
ただ、トランプ氏が当選する場合は大統領令で決定できる「パリ協定からの即時離脱」や(バイデン政権下で進められた)「EV(電気自動車)普及策や再生エネルギー振興策」の中止を決める可能性が高く、市場では「EV、再生エネルギー関連株」に試練を与えそうです。
逆に、シェール関連株を含むエネルギー株や石炭株には追い風となるとの見方が浮上しています。一方、バイデン再選ならオバマケア(医療保険制度改革法)推進に伴う薬価引き下げ圧力でヘルスケア関連(薬品株など)が劣勢になるとの見方も出ています。
<図表2>大統領候補者の政策公約と影響比較(概略)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/b/2/-/img_b23fa574bfd8240f1b86874ab21d658a30208.png)
米国の経済悲惨度は低位でバイデンの支え~無党派層の動向がカギ
11月本選挙までは道のりが長く、不測の事態を含めてトランプ氏当選が確実視されているわけではありません。米国の有権者は概して、新鮮味のない「バイデンとトランプの再対決」に盛り上がりを欠いている状況です。バイデン大統領は「高齢・健康不安」や「無所属立候補者(ロバート・ケネディー・ジュニア氏など)の影響」が相対的な弱点とされる一方、トランプ氏は「複数の刑事裁判の行方と影響」、「無党派層の支持」、「共和党穏健派の支持」が当選に向けたアキレス腱とされています。
参考までに、1970年以降の大統領選挙で再選を目指した現職大統領が再選を逃した当時の「経済悲惨度指数」(失業率+コアインフレ率)の水準を図表3で示しました。
フォード落選(1976年)、カーター落選(1980年)、ブッシュ(父)落選(1992年)、トランプ落選(2020年)当時の「経済悲惨度指数」が高水準であったのに対し、バイデン政権下の現在(2月時点)は7.7%と比較的低いことが分かります。選挙本選に向けた失業率とインフレ率の動向は、バイデン大統領再選の行方にとりカギとなりそうです。
<図表3>比較的低い「経済悲惨度」はバイデン大統領の支えとなるか
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/d/3/-/img_d38a30a0a84ab5b79904551901f5130937163.png)
米国の世論調査によると、民主党支持者でもなく共和党支持者でもない「無党派層」が有権者の約4割を占めるとされます。こうした中、「世界的な歌姫」と呼ばれ強力なインフルエンサー(Instagramのフォロワー数は約2.8億人)として知られるテイラー・スウィフトさんの言動が注目されています。
詳細は以下をご参照ください→S&P500の目標値を上方修正:スウィフトさんが大統領選を動かすならいつ?(香川睦) | トウシル 楽天証券の投資情報メディア
米国では「セレブ」と呼ばれる有名な歌手が(是非はともかく)政治的な立場を表明することはめずらしいことではありません。
実際、「リベラル」(中道左派寄り)であることが知られているスウィフトさんは、前回(2020年)大統領選挙の直前(10月)に「トランプ大統領は白人至上主義者で人種差別の火を焚きつけている」と痛烈に批判した上で、「大統領選では誇りを持ってジョー・バイデン氏とカマラ・ハリス氏に投票する」と表明。民主党政権誕生に寄与したことが知られています。
スウィフトさんの「無党派層」への影響度は4年前と比べて格段に増している状況です(2024年1月のニューズウィーク誌・世論調査結果)。トランプ陣営からの政治的な圧力やけん制を受けている中で彼女が「バイデン支持を再表明するか否か」と「再表明するならいつか」は、無党派層の投票行動に想定以上の影響を与える可能性があり軽視できないと考えています。
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