自社株買いをすると、株価はどのくらい上がる?
トウシル / 2024年3月23日 8時0分
自社株買いをすると、株価はどのくらい上がる?
「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第21回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。
今日のクイズ:自社株買いをすると、株価は理論上何%上がるか?
A社は財務良好で、収益力が安定しています。A社は2024年2月6日の取締役会で自社株買い(自己株式の取得)を決議したと、以下の通り発表しました。
A社が自社株を上限である4億1,700万株を取得すると、A社の株価は理論上、何%上昇しますか?次の選択肢から選んでください。
【1】0% 【2】約5% 【3】約11%
【参考】自社株買いは、株主への利益配分の手段
自社株買いとは、上場企業が、自社が発行している株を買い戻すことです。例えば、「NTTがNTTの株を買う」のが自社株買いです。「自社株買い」は、「配当金の支払い」とともに、株主への利益還元の手段です。米国のハイテク企業の中には、株主への利益配分は自社株買いのみ(配当なし)という場合もあります。
ヒント:自社株買いのメリット、ケーキの分け方に例えると
自社株買いは、株主への利益配分方法の一つです。株主への利益配分で一番普通の方法は配当金支払いですが、自社株買いも株主への利益配分となります。
なぜ、自社株買いが利益配分になるのでしょうか?「自社株を買うんだから株価も上がるんでしょ」と、自社株買いのメリットを「買いが入る」という需給材料と考えている方もいます。
確かに「自社株買い」を発表した企業の株価が、短期的に大きく上がることもあります。自社株買いをネタに、短期筋が買い上がると、そうなります。
でも、それだけならば、短期的な株価材料にしかなりません。企業の投資価値が変わらなければ、いずれ売られて、元の株価に戻るでしょう。
自社株買いの一番の意味は、「株価を押し上げる」ことではありません。「1株当たりの利益を増やす」ことにあります。企業が自社株を買うと、発行済み株式数が減ります。企業の純利益の総額が変わらなくても、1株当たり純利益が増えます。
1株当たりの純利益が増えることを好感して株価水準が高くなることが期待されます。それが、自社株買いによる株主へのメリットです。
少し分かりにくかったかもしれないので、「例え話」で説明します。
40個のケーキ(企業の純利益)を株主10人で均等に分け合うことを考えてください。1人4個ずつもらえます。ここで、企業が自社株買いを実施し、株主2人の株を買い取ったとします。すると、株主数は8人に減りますので、1人当たりのケーキの割り当ては、5個に増えます。このように自社株買いとは、株式数を減らすことで、1株当たりの分け前を増やすことにあります。
クイズの正解は:1株当たり利益が●して、■%上がる
正解は【3】。発行済み株式総数の約10%の自社株買いを実施すると、株価は理論上、約11%上昇します。
A社は、「発行済み株式総数の10%に当たる4億1,700万株を上限として自社株買いを行う」と発表しました。この自社株買いが、株主にどのくらいのメリットを生むか、おおよその見当を付ける方法を、お教えします。
A社が発表した自社株買いが上限いっぱいまで実行されると、A社の発行済株式総数が10%減ります。すると純利益の額が変わらなくても、1株当たり利益が約11%増えます。PER(株価収益率、株価が1株当たり純利益の何倍になっているかを示す指標)での株価評価が変わらなければ、株価は約11%上昇することになります。
簡単な例えで計算してみましょう。A社の利益総額を100億円、発行済み株式総数を1億株とします。すると、1株当たり利益は、100億円÷1億株=100円です。
ここで、A社が発行済み株式総数の10%(1,000万株)の自社株買いをしたとします。すると、発行済み株式総数は1,000万株減少して、9,000万株となります。1株当たり利益は、100億円÷9,000万株=約111円となります。
従って、1株当たり利益は、100円→111円と約11%上昇します。
自社株買いのメリットの目安
自社株買いの発表があった時、株主へのメリットはどれくらいか、目安は以下の通りです。
自社株買いを上限まで実施するとしたら、発行済み株式総数の何%減少するのか、株価がその減少分に応じて理論上、上昇すると考えれば良いです。
例えば、発行済み株式総数の2%を上限とする自社株買いの発表があれば、株主へのメリットは、約2%と考えれば良いことになります。
ただし、注意事項があります。自社株買いは、必ずしも上限まで実施するとは限りません。自社株買いをこれまでいつも上限までしてきた企業については、上限までする可能性が高いとは言えます。
配当金と自社株買い、株主にとってどっちが良い?
次の【1】と【2】で、株主にとってメリットが大きいのはどちらでしょうか?
- 配当利回りで2%に相当する配当金を出す
- 発行済み株式総数の2%に相当する自社株買いをする
【1】と【2】で会社に必要な資金はほぼ同じです(自社株買いのマーケットインパクトをゼロと仮定した場合)。ところが、株主にとってのメリットは【2】自社株買いの方が大きいと言えます。
株主が2%の配当金をもらうと、配当金から源泉税などの税金が引かれます(NISA (ニーサ:少額投資非課税制度)などの非課税投資口座を使わない場合)。得られた配当金で投資を続ける場合は、改めて株を買い直す必要もあります。
一方、2%の自社株買いで理論通り、約2%株価が上昇する場合は、株主はすぐに税金を取られることはありません。売却して売却益を確定させない限り、税金はかかりません。いつ売却して税金を払うか、株主に選択権があります。再投資する手間もなく、そのまま複利で投資を続けられます。
従って、株主にとって、配当金より自社株買いの方が本当はありがたいのです。それが分かるから、米国の大手ハイテク企業では、株主への利益還元は自社株買いだけで行い、配当金はなしにしているところも多数あります。
(窪田 真之)
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