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日銀の金融政策正常化は不発!?年内1ドル=160円の円安も、エミン・ユルマズ氏

トウシル / 2024年3月26日 16時0分

日銀の金融政策正常化は不発!?年内1ドル=160円の円安も、エミン・ユルマズ氏

日銀の金融政策正常化は不発!?年内1ドル=160円の円安も、エミン・ユルマズ氏

 日本銀行は3月18、19日の金融政策決定会合でマイナス金利の解除などを決定し、2013年4月から続いた異次元の金融緩和を終了しました。4万円台を突破した日経平均株価(225種)や、為替、金利の見通しなどを国際エコノミストのエミン・ユルマズ氏に聞きました。(インタビューは3月19日にオンラインで実施しました)。

「日銀は金融政策の正常化をする気がない」

――日銀が3月の金融政策決定会合でマイナス金利解除とYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)の撤廃を決めました。一方、長期国債の買い入れはこれまでと同程度の金額で継続することを発表しました。日経平均株価は会合後には上昇し、為替相場は円安に振れました。日銀の政策修正をどのように評価しますか?

 事前に政策修正についてのリーク記事が各報道機関から出ていたので、サプライズ感がない発表でした。日銀はマイナス金利の解除を決めましたが、金融政策の正常化を本気でしたいのかどうか分からない内容でした。日銀がマイナス金利解除後に金利を徐々に引き上げたいのか、物価高を抑制したいのか、今回の政策修正の目的が現時点ではよく分かりません。

 YCC撤廃に関しても狙いが見えてきません。日銀はこれまでYCCで長期金利の変動上限を1.0%をめどにして、低く抑え込んできましたが、今回の撤廃でそうした上限をなくす一方、国債をこれまでと同程度の金額で買い続けると言っており、日銀がどうしたいのか見えてきません。

 今回の日銀の政策修正はほぼパフォーマンスといっていいものだと思います。物価高なのになぜ引き締めに動かなかったのか後々責められないための、既成事実をつくったにすぎないのではないでしょうか。

 日銀の植田和男総裁の記者会見でも「当面は緩和的な金融環境が続く」と説明していて、本音がどこにあるかはともかく、日銀は少なくとも金融政策の本格的な正常化をする気がないとのメッセージを発信しています。

――日銀はETF(上場投資信託)やJ-REIT(ジェイ・リート:国内の不動産投資信託)の新規買い入れを終了することも発表しました。ETFの買い入れでは、これまでTOPIX(東証株価指数)が午前終値で前営業日終値より2%下落したら、日銀が買い支える「2%ルール」なるものが市場で意識されてきました。日銀によるリスク性資産の買い入れがなくなる影響はどうみますか?

 リスク性資産の買い入れはリスクオフの局面では確かに役立ってきた面がありますが、火事が起きた時の消火器みたいな役割しかなかったと思います。特に相場の下落材料にはならないと思います。日銀は緩和的な環境を維持するので、相場の急落といった火事のような事態は起こりづらいとみています。

 それに植田総裁は経済・物価見通しが下振れた時には「これまで使用したさまざまな(緩和)手段も含めて幅広く検討したい」と説明していたので、リスク性資産の買い入れが必要になった時は再び導入すればいいだけの話です。

 日銀が今回、政策修正をしたメインの材料はやはり金利です。基本的には利上げ幅は微々たるものだったので、市場金利にはあまり影響を与えないでしょう。

――日銀が政策修正するポイントとなった今年の春闘での賃上げですが、日本経済のネックとなっていた個人消費の弱さを解決していくと思いますか?

 今年の春闘では、連合が3月15日に発表した第一回集計で賃上げ率が平均5.28%と高い水準(※第二回集計で5.25%)になったことが日銀にとって予想外だったんだと思います。労働組合が要求した通りの満額回答が相次ぎ、要求額を超える回答も目立ちました。

 今年の賃上げが個人消費の回復につながるかどうかは、今後のインフレ次第だと思います。インフレがまだ落ち着いたとは言えない状況です。

 国民が感じているインフレ率は日銀が実施した生活意識に関するアンケート調査(昨年12月調査)によると16.1%です。 賃上げによる消費拡大への好影響は全くないとは言えないものの、5%上がっただけでは、消費に走るとは思えません。

年内1ドル=160円まで円安進行も、米金融政策だけ見ればいい

――日銀のマイナス金利解除などの決定後、結果的に円安に振れました。通常は円金利が上がることは円高材料になりやすいですが、円安是正の狙いも感じられなかったでしょうか?

 日銀はマイナス金利を解除しても緩和的な金融環境が続くと今回の会合前から丁寧に地ならしをしてきました。円安を是正したいのではなくて円高にならないようにしたとしかみえません。

 日銀の政策修正は、為替相場のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)からすると、ノイズレベルのものだと思っています。為替相場の先行きを分析する上では、米国の金融政策の動きを見ていればいいと思います。

 為替相場が決定内容の公表が、円安に振れたのは日銀のメッセージを正直に受け取ったからだと思います。為替はうそをつきませんから。

――円相場の水準は今後どのくらいになると思いますか?

 為替は具体的なレートよりも、方向性を見た方がいいです。円安の方向は変わりません。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が今年、利下げする回数はせいぜい2、3回くらいです。日銀が大きく政策修正をしないことはほぼ確定しているので、日米の金利差が本格的に縮小することはありません。ずっと円安だと思っています。

――円相場はここ2年ほど、1ドル=151円台後半まで円安ドル高が進んでは円高に転じることを繰り返してきました。日銀のマイナス金利解除決定後に再び151円台後半まで円安に振れましたが、今年はこれよりもっと進みますか?

 今の水準からだと年内に1ドル=160円くらいまで円安になると思っています。ただ、米国株が10%や20%値下がりしたら、逆にドルが急速に下落するリスクがあります。

 そのため、1ドル=150円よりも円安になってから米国株投資をするのは為替リスクが大きいと思います。その場合、為替ヘッジをしていない個人投資家は大打撃を食らってしまいます。ショート(売り)ポジションを持っているならいいですが、機関投資家と違って、個人投資家は為替ヘッジをしていないので、リスクが大きいです。

図:円相場の推移

――円キャリートレードの巻き戻しが起きて円高になる心配はないでしょうか?

 日本の事情でというより、世界経済で大きなリスクオフとなるショックが起きないと、キャリートレードが巻き戻されて円高になるということにはならないと思います。

日経平均は長期的に上昇基調、下がったら押し目買いのチャンス

――日経平均の今後の見通しは?

 日経平均は当面4万円台に乗せては跳ね返されることを繰り返すと思います。これまでも2万円台、3万円台に乗せた時ももみ合いが続くレンジ相場がしばらく続きました。5,000円くらい下落する調整もありました。今回も半年くらいはもみ合いが続き、5,000円くらいの調整は十分あり得ると思います。

 もちろん米国株が大きく崩れたら、下落幅が5,000円よりさらに膨らむ可能性もあります。

 ただ、5,000円や6,000円くらいの調整だったら、日本株にエントリーしやすくなります。押し目があると投資をしていない個人の方も投資の世界に入ってくると思います。そうした調整を越えれば、次は5万円を目指す相場になっていくと思います。日本株に関しては順張りのスタンスを持っていたらいいし、大きく下がったら押し目買いのチャンスです。

図:日経平均株価(225種)の推移

――日本株の急上昇を支えたのは海外投資家ですが、日本株が海外から魅力的に映るのはなぜでしょうか?

 日本市場は流動性が大きいし、市場規模もそれなりにあります。これまで割安に放置された銘柄もあり、円安で買いやすくなっていることもポイントです。

 東京証券取引所による市場改革も好材料です。東証は「資本コストや株価を意識した経営」を昨年3月から上場企業に呼び掛けていますが、コーポレートガバナンス(企業統治)が良くなって、株価やEPS(1株当たり純利益)の上昇という形で成果が表れてきています。株主還元を促す動きも生まれ、昨年の自社株買いは9兆円を超える規模にまで大きくなりました。 

 ただ、日本株で上がっているのは大型株とバリュー(割安)株です。日本の場合は半導体以外のグロース株は厳しい状況です。新興株や中小型株は海外投資家の目に触れにくく、株価はなかなか上向いていません。個々の企業の業績や成長性の問題というより資本の流動性の問題です。日経平均やTOPIX採用銘柄の方に買いが入りやすい構造です。

――エミンさんは、日経平均は2050年には30万円になると発信してきました。改めて日経平均の長期的な見通しはどうでしょうか?

 日本株は一時的な調整はあっても、中長期では上がっていくと思います。米中の新冷戦で日本の地政学的な位置付けが変わってきました。半導体などの製造拠点が台湾から日本に移り、海外資本も中国から日本への投資に移行してきています。

 それにインフレで名目値が上がっていることも上昇要因となります。円安が速いペースで進めば、もっと早くに30万円に到達する可能性もあります。

――日本の近くには北朝鮮やロシア、中国など非民主主義的な国があります。台湾有事などが起きる地政学リスクもありますが、そのあたりのことは懸念材料にならないでしょうか?

 そうした地政学リスクは日本だけではありません。どの国にも存在しています。唯一ないと言っていいのは米国だけです。取り立てて日本のリスクを心配するほどではありません。

――日本経済は少子高齢化で労働力人口の減少がネックになります。AI(人工知能)や省人化への投資で、乗り越えられますか?

 AIといっても企業は設備投資をしないといけません。運転手が足りなければ自動運転の自動車を導入しないといけないし、政府は早く自動運転が普及するように音頭を取らないといけません。

――新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)も今年1月から始まりましたが、エミンさんは日本の個人投資家は本格的に買い向かっていないと指摘されています。日本人が日本株を買わないのはなぜでしょうか?

 日本株の買い越しは外国人中心で、日本の個人投資家はあまり買っていません。

 理由は日本株への信頼がないからだと思います。円安傾向が続いていて、米国株の方が円安分のもうけも得られるのでお得ということになります。円高に動いたり、米国株が下がったりして米国株が危険だと認識が広まれば、より日本株が注目されるかもしれません。

エヌビディアなどAI投資で盛り上がる米国株はリスク大きい

――米国株ではエヌビディア(NVDA)などAI関連の銘柄が市場をけん引しています。一方、昨年マグニフィセント・セブンと持ち上げられたハイテク7銘柄のうち、アップル(AAPL)テスラ(TSLA)アルファベット(GOOGL)の株価は今年はさえません。より特定の銘柄が押し上げる今の米相場のリスクをどうみますか?

 何といっても価格ですね。バリュエーション(株価評価)が高すぎます。エヌビディアのPSR(株価売上高倍率)は36倍くらいまで高くなっている。これから20年、30年分の成長を既に織り込んでしまっています。

 AIや半導体が今後どうなるかは分かりません。必ず成長すると確信して投資に動くことはよくありません。そもそもFRBはマネーストックを減らして、金融引き締めをしている最中です。

――AIバブルという言葉を使って、今の米国の相場を評価されていますが、こうしたバブルはいつまで続くとお考えでしょうか?

 バブルがはじけるタイミングはバブルの最中や崩壊直後の時点では分かりません。崩壊してしばらくたってから初めて分かります。

――2000年のITバブルが崩壊した時と比べて現在はどうでしょうか?

 ITバブルの時に株が買われていた会社と比べると、今は中身がある会社が多いとは思います。ただ、当時の投機マネーは100社くらいに分散していましたが、今はエヌビディアなど数社に集中しています。こうした集中リスクはもっと危険です。何%のリスクプレミアムが株価に乗っているかしっかり見極めないといけません。

――日経平均採用銘柄でも、アドバンテストや東京エレクトロンといった半導体関連銘柄が相場をリードしています。

 エヌビディアのおかげで上がっている銘柄はエヌビディアの株価が下がれば、一緒に下がってしまいます。

――米大統領選で、バイデン氏対トランプ氏の構図が固まりましたが、株式相場に影響はありますか?

 株価には関係ないと思います。大統領選がある年は株価が上がりやすいと言われますが、ITバブルやリーマン・ショック(2008年)、コロナショック(2020年)も大統領選の年にありました。

――米大統領選ではバイデン氏とトランプ氏のどちらが勝つと思いますか?

 基本的には景気後退がなければ現職のバイデン大統領の方が有利になると思います。米国は二大政党制なので、それぞれの岩盤支持層があります。トランプ氏の支持者が多いようにも見えますが、アンチトランプも結構います。選挙の勝敗を最終的に決めるのは真ん中で動く人です。そういう人たちは景気が良いか悪いかだけで判断することになります。

――現在のバイデン政権にとっては景気を刺激する緩和的な金融政策の方が望ましいとも言えるかもしれませんが、FED(連邦準備制度)は政府から独立はしているとはいえ、利下げへの政治的圧力は働きやすくなりますか?

 あると思います。利上げはしづらくはなるでしょう。

――市場が織り込んでいる年内3回の利下げがあるシナリオは楽観的でしょうか?

 FRBから現時点の市場コンセンサスとは違うメッセージが出たら、それは楽観的ということになるでしょう。

 FRBのメンバーが昨年12月に金利見通しで示した今年3回の利下げがあるという予測に市場予想も沿ったものになってきています(3月19、20日のFOMC[連邦公開市場委員会]でも今年3回の利下げ予想は維持されました)。そういう意味では、市場との対話が現在うまくいっています。(聞き手はトウシル編集チーム・田嶋啓人)

  エミン・ユルマズ氏  1980年生まれ。トルコ出身。1997年に日本に留学し、東大院修士課程修了。2006年野村証券。その後、国際エコノミストとして活躍。著書に『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(大橋ひろこ氏との共著)、『世界インフレ時代の経済指標』。エミン氏が株や為替、マクロ経済を解説しているnoteはこちら

(トウシル編集チーム)

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