私たちはお金を稼ぎたいのだから、お金を失わないことがもっと重要だ
トウシル / 2024年4月11日 18時33分
私たちはお金を稼ぎたいのだから、お金を失わないことがもっと重要だ
強い数字の裏に隠された米労働市場の質の悪化
BLS(米労働統計局)が4月5日に発表した3月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が30万3,000人増と市場予想(29万人増)を大きく上回り、2023年1月以来、約1年ぶりの高い伸びとなった。失業率は3.8%と前月(3.9%)に比べて小幅に低下した一方、平均時給は0.3%増と市場予想に一致した。
雇用の内訳を見ると、教育・ヘルスケア分野(7万2,000人)と政府関連(7万1,000人)がそれぞれ7万人を超え、3月の雇用全体の約半数を占めた。その他、建設業で3万9,000人、レジャー・接客業は4万9,000人の増加となった。
政府関連の雇用が7万1,000人増加
雇用形態別の内訳は、フルタイム雇用が6,000人減少した一方、パートタイム雇用は69万1,000人増の2,863万2,000人となった。これらのことから、3月の雇用統計は、量的な面では改善が見られたものの、質的な面では決して喜べる内容ではない。
パートタイムの雇用が急増
予想を上回った米CPI(消費者物価指数)伸び率
そうした中、昨日は3月の米CPIが発表され、消費者物価は市場の予想以上に上昇した。エネルギー費や住居費の急増がCPIをけん引している。CPIを受けて、米国10年債利回りは2023年11月以来初めて4.50%を超えた。
米国の電気料金の上昇
FOMC(米連邦公開市場委員会)の会合に対する現在の市場の予想は以下のようになっている。
2024年5月1日:一時停止
2024年6月12日:一時停止
2024年7月31日:一時停止
2024年9月18日:25bps引き下げ、5.00~5.25%
2024年11月7日:一時停止
2024年12月18日:25bps引き下げ、4.75~5.00%
市場のFF金利予想
バイデン大統領の就任以来、「バイデンフレーション」といわれるスタグフレーションが進行中だ。
われわれは1970年代のインフレ移動の再現をみているのだろうか? 深刻な米国の債務不均衡は必然的に中央銀行を金融抑圧(インフレ以下の金利)に向かわせ、FRB(米連邦準備制度理事会)にインフレ率をより長期間高いままに放置させるよう強いることになる。しかし、インフレの軌道がこの青写真に沿うなら、金融市場は相応のショックを受けるだろう。
1974年から1982年のインフレサイクルと現在のインフレサイクル
バイデン大統領はCPIの数字を受けて、「インフレのニュースは利下げを遅らせるかもしれないが、FRBが何をするかは分からない。しかし年末までに金利は引き下げられるだろう」とコメントした。
11月の選挙前に緩和を確実に開始するために、来月あたりに銀行や商業用不動産の危機が利下げのいけにえとして差し出されるのだろうか? 5月相場の動きを注視したい。
現在のマーケットの概況
FRBはコロナ禍を背景としたリセッション局面が終息した後も2年近くにわたって超緩和政策を続けた。このMMT(現代貨幣理論)政策がインフレを生んだのだ。
MMTは政府が自国通貨建ての借金をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるとする理論である。米金融当局は米国経済をソフトランディングできると自信を見せているが、インフレは一度加速し始めると、沈静化させるのが非常に難しい。
インフレに対処するために非伝統的な政策を段階的に廃止し、政策金利を引き上げれば、大規模な債務危機と深刻な不況を引き起こすリスクがある。
しかし、緩い金融政策を維持すれば、2桁台のインフレに陥り、次の負の供給ショックが発生したときに深いスタグフレーションに陥るリスクも高い。インフレについて過小評価している投資家は一段の波乱に直面するかもしれない。
FRBが市場に介入し金融市場の信用の流れを維持する政策(モラルハザード)に打って出たとき、われわれの経済に何が起こったのか、そして今日の市場は典型的なバブルとどう違うのだろうか? 現在の相場は「バブル」というよりも「国家管理相場」である。
米国は直接的に(量的緩和やゼロ金利政策)・間接的に(著しくずさんな経済統計の発表や時間軸政策の導入など)大規模な介入を実施してきた。バーチャル(架空)の価格体系を維持するためだ。今、それがインフレによって崩壊する危機に直面している。
さて、現在のマーケットの概況を見ておこう。
米国債は利上げが来るかのように取引されている。
米国10年国債金利(日足)
ゴールドは利下げが来るかのように取引されている。
ゴールドCFD(日足)
ドル円は利上げが来るかのように取引されている。
ドル/円(日足)
ダウ工業株30種平均はソフトランディングやノーランディングが終わったかのように取引されている。
NYダウCFD(日足)
S&P500CFD(日足)
原油価格は、FRBがリセッション(景気後退)を回避したかのように取引されている。
NY原油CFD(日足)
住宅価格は、住宅金利が3%であるかのように上昇している。
ケース・シラー米住宅価格指数
上記の市場の動きや連関に明確な整合性はないように感じられる。だが、マクロ分析と市場はイコールではない。相場は行きたいところに行く。私たちの目標は相場との戦いに勝つことであり、そのためにはいくつかの戦いに負ける必要があるかもしれない。 そう、私たちはお金を稼ぎたいのだから、お金を失わないことがもっと重要だ。
4月10日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
4月10日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、今中能夫さん(楽天証券経済研究所チーフアナリスト)をゲストにお招きして、「エヌビディアの未来」「HBM(広帯域メモリ)相場は息が長い」「インテルの問題点」「米国と日本の株式市場の点検」「リスクはインフレ(金利上昇)」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。
4月10日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
(石原 順)
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