米国大統領選のしくみ&注目ポイント!
トウシル / 2024年4月27日 11時0分
米国大統領選のしくみ&注目ポイント!
ドナルド・トランプ前米大統領が立候補を表明して以降、2024年の米大統領選挙がニュースをにぎわすことも多くなりました。ただ、アメリカの大統領選挙は、州ごとにルールが違ったり、単に得票数だけで勝敗が決まらなかったりするなど、日本人から見てやや分かりづらい構造になっています。
今回は、アメリカ大統領選挙に詳しい、東洋大学の横江公美教授に、日本とは異なるアメリカ大統領選挙のしくみと、注目ポイントについて、解説してもらいました。
監修:横江公美教授
プロフィール
愛知県名古屋市生まれ。明治大学卒業後に松下政経塾に入塾(15期生)。1995年にプリンストン大学で、1996年にはジョージ・ワシントン大学で客員研究員を務めた後、2004年に太平洋評議会(Pacific21)代表として政策アナリストの活動を開始。2011~2014年までは米国の大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」でアジア人初の上級研究員として活躍。2016年から東洋大学グローバル・イノベーション学科研究センターで客員研究員を務め、2017年からはグローバル・イノベーション学科教授を務める。著書に『ポスト・トランプのアメリカ』『判断力はどうすれば身につくのか アメリカの有権者教育レポート』などがある
[1~6月]長期間にわたる「予備選挙」
米国大統領選挙には、州ごとに、民主党と共和党、それぞれの党の大統領候補を決める「予備選挙」があります。
党のリーダーである大統領候補を決めるということは、その党がその後の4年間、どんな方針でアメリカを動かしていくのか、という「綱領」(政党や労働組合などの団体の政策・方針などの基本を示したもの)を決めることになるため、アメリカ国内だけでなく、国外からも非常に注目されます。
予備選挙で注目されるのは、アイオワ州の選挙(一番最初に予備選挙が行われる)、ニューハンプシャー州(全米の動向がほぼ読める)、3月のスーパーチューズデー(3月第2火曜日。約半分の州の選挙が集中する)。全州が予備選挙を終えるのは6月。1月~6月まで目が離せません。
[7~8月]夏の党大会
長い予備選挙を戦い抜き、民主党、共和党それぞれの党の代表候補者と、その党の綱領が、夏の党大会で正式に宣言されます(2024年度は、共和党:7月15日~、民主党:8月19日~。それぞれ3~4日間開催される)。
共和党(2024年はドナルド・トランプ氏)、民主党(2024年はジョー・バイデン氏)の立候補者が確定し、それぞれが指名する副大統領候補も確定します。バイデン氏の副大統領候補は、現在の副大統領であるカマラ・ハリス氏で決まっていますが、トランプ氏はまだ発表していません。党大会をさらに盛り上げるため、党大会で発表されることが多いです。大統領、副大統領候補、そして党の綱領も決まり、いよいよ、党VS党の本選挙への活動が本格化します。
夏の党大会はとにかくお祭り! 大きな会場を借り切り、各党の大統領候補を支援する支持者が集まり、候補者に加えて配偶者、そして有名政治家、これから有望な政治家が演説などを行います。今後の党、候補者の方針が議論されるので、全米のキー局は全国党大会の中継にジャックされます。
全国党大会で、トランプ氏、バイデン氏が何を発言するか、日本人もぜひチェックしてください! 今後の世界経済に大きな影響が出ます!
選挙が本格化 接戦州の選挙が熱い!
勝敗を決める州に候補者は足しげく通い、遊説活動を行います。候補者の演説など遊説会場はテレビでよく放映されます。今年の大統領選挙の勝敗を決める州は、この図では黄土色のペンシルバニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州、ジョージア州、アリゾナ州です。この州で行われる遊説ばかりを、皆さんも見ることになります。テレビコマーシャルもネットで流れるコマーシャルもこの地域に投下されます。地元での投票活動を支える地域の選挙事務所もこの接戦州に集中して設置されます。
カリフォルニア、ニューヨークといった青色の州は民主党に決まっていると予想され、一方、赤い色の州は共和党です。赤色が多いように見えますが、海岸沿いの青い州の方が人口が多いの、色の面積が多い方が強いと言うわけではありません。
[9~10月]テレビ討論会
全米が注目するのは、候補者が議論で激突するテレビ討論会(公開討論会)です。例年、大統領候補が3回、副大統領候補が1~2回、予定されています。
大統領が職務不能におちいった場合に、副大統領が大統領職を継承します。トランプ氏もバイデン氏もかなりの高齢…。副大統領が誰になるのかも要チェックということになります!
★ATTENTION★ |
米国民はテレビにかじりつきます。自分の施策を有利に発表し、相手の施策の欠点を指摘しあう激しい舌戦! アメリカ国民はその内容を見て「自分はどちらを支持するか」を決定する機会です。テレビ討論会直後に世論調査が行われ、どちらの候補者がディベートを制したのかすぐに判明します。1回目で失敗した候補者は起死回生をかけて2回目、3回目に臨みます。
[9~11月]選挙資金集め
選挙が近づくにつれ、候補者の資金力に注目が集まります。選挙資金と人気は連動しているので、資金を多く集めた候補者が大統領になると見なされているからです。
候補者の選挙資金の状況は4半期ごとに開示される公開情報になっています。選挙の寄付は免税特権を持っているので公開情報になっています。大統領選挙は予備選挙から本選挙まで1年以上にも及ぶので、会社会計のような扱いになっています。
大統領=商品、施策(綱領)=商品の説明書、選挙運動=商品を売るためのマーケティング、と考えると分かりやすいと思います。
いかに商品をうまく売るか、そのための広報宣伝費用が選挙資金。選挙資金をたくさん集められる人=今後のアメリカをうまく運営していける人、という視点なので、「選挙資金」というとダークなイメージが強い日本とは最もこの点が異なるのではと思います。
[11月5日]決戦の投票日「一般投票」
11月の第1週の火曜日が選挙日と決まっており、今年は11月5日です。18歳以上の有権者登録をしたアメリカ人全員が投票する「一般投票」が行われます。
この選挙の分かりづらい点は、得票数がそのままカウントされ結果を決めない点。有権者は、候補者の名前で投票しますが、州ごとに結果を出す州取り合戦になっています。とは言っても、獲得した州の数で勝敗が決まるわけではありません。人口によって決められたしゅうに割り当てられた選挙人(代理人)の数を獲得します。
538人の選挙人が50州に割り当てられているので、過半数である270人を獲得した候補者が勝利します。そのため、一般投票で勝利した候補者が大統領にならないと言う事態が出てきます。
2016年の選挙では、一般投票の獲得数では負けたのですが、選挙人の数で勝利したトランプ氏が大統領に当選。2000年の選挙では、一般投票ではトランプ氏が勝利しましたが、選挙人の数で勝利したブッシュ氏が当選しました。この「選挙人数での逆転劇」は、過去4回、発生しています。
日本では、18歳になると自動的に選挙権が発生し、自治体から選挙案内が届きますが、米国では18歳になったら、自分自身で「有権者登録」をしないと、選挙権は発生しません!
[11月]勝敗確定
一般投票後、州ごとに割り当てられた選挙人による投票が行われますが、これは形式として行われるだけで、この選挙結果で大統領は決定します。
ただし、今年も2020年の選挙と同様に投票日に結果は出ないと思われます。2016年のように大接戦だけが理由ではなく2020年から郵便投票などの期日前投票が増加しているからです。期日前投票はどんどん増えており、投票終了時間8時に「当確」が出る日本とは、この点も大きく異なります。
両者の差分が1%前後の場合、リカウント(数えなおし)を要求できるため、さらに紛糾します。
2018年の中間選挙、2020年の大統領選挙、2022年の中間選挙も投票日当日は共和党が勝ち、郵便投票が数えられた後は、全ての選挙区で民主党が勝利しています。民主党は2016年の大統領選挙でトランプに敗れてから郵便投票に注力してきました。これのイニシアチブをとっているのがオバマ元大統領です。
郵便投票といっても簡単なものではありません。接戦州で郵便投票をサポートするのも選挙資金が使われる選挙運動です。地味な選挙運動ですが、結果を見ると民主党が力を入れ、成功していることがわかります。バイデン氏の選挙運動がテレビ的に盛り上がっていないように見えても、決して侮れないのが、この郵便投票戦略があるからです。郵便投票は2024年度の大統領選挙でもじわじわと効いてくると考えます。
[翌年1月]大統領、就任演説
今までは、全ての結果が出る前に「当確」が出たと思われた時に、負けた候補者は「敗北宣言」を行います。戦い抜いた末の「敗北宣言」は感動を全米に感動を与えます。その流れの中、次の大統領が勝利演説を行い、全米が次期大統領を受け入れてきました。
勝利演説は次の大統領のアメリカを語るので、全米のみならず世界中が注目します。しかしながら、2020年の大統領選挙ではトランプ氏は負けを認めずに、敗北宣言を行いませんでした。その結果が1月6日の国会議事堂の暴動に繋がったと見られています。
特に注目したいのは、「対中国への姿勢」。それによっては、日本の安全保障上も、経済上も、大いに影響を与える可能性があります。就任演説で新大統領が何を発言するのか、しっかりと聞いておきましょう。
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