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「良いとこなし」の中国不動産市場はこれからどうなっていくのか

トウシル / 2024年4月25日 7時30分

「良いとこなし」の中国不動産市場はこれからどうなっていくのか

「良いとこなし」の中国不動産市場はこれからどうなっていくのか

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「良いとこなし」の中国不動産市場はこれからどうなっていくのか?

最新の統計からみる中国の不動産不況

 先週のレポートでは、中国1-3月期の主要統計の発表を受けて、中国経済の現状と展望を検証しました。この期間、市場関係者らとも議論を重ねてきましたが、1-3月期のGDP(国内総生産)実質成長率が前年同期比5.3%と市場予想を上回った一方、依然として不況にあり、悪循環を抜け出せていないようにみえる不動産市場は果たしてこれからどうなるのか、が議論の焦点になりました。

 1~3月、中国の固定資産投資は前年同期比4.5%増でした。内訳を見ると、インフラ投資が6.5%増、製造業投資が9.9%増、そして不動産開発投資が9.5%減(うち住宅投資は10.5%減)でした。不動産開発投資を除けば、固定資産投資は9.3%増だったということで、不動産が依然として投資を含めた中国経済の足を引っ張っている現状が容易に見てとれます。

 その他の不動産関連の最新統計を見てみましょう。

  • 不動産デベロッパーによる施工面積11.1%減(うち住宅施工面積11.7%減)
  • 新着工面積27.8%減(うち住宅新着工面積28.7%減)
  • 竣工面積20.7%減(うち住宅竣工面積21.9%減)
  • 新築住宅販売面積23.4%減、新築住宅販売額30.7%減(いずれも前年同期比)

 ということで、全ての数値が顕著なマイナス基調で低迷しています。

 中国政府が毎月発表している主要70都市における新築、中古住宅価格(1~3月)を見てみると、新築で価格が上昇したのは14都市、中古は0都市でした。また、ロイター通信が国家統計局のデータを基に算出したところ、直近の3月の新築住宅価格は前年比2.2%下落し、2月の1.4%下落よりも下げ幅が拡大。2015年8月以来の落ち込みとなっています。

 このように、少なくとも数値から俯瞰(ふかん)する限り、中国の不動産市場は、政府による相当程度の不動産支援策にもかかわらず、回復の兆候が見いだせない、「良いとこなし」状況なのです。

中国政府の不動産不況に対する現状認識と「弁明」

 中国不動産市場はこれからどうなっていくのでしょうか。この問題を考える上で、私が参考になると捉えたのが、4月16日、国家統計局の盛来運副局長の記者会見における説明です。

 以下、盛副局長が語った、中国不動産市場を巡る経緯、現状、展望について、ポイントをまとめてみます。

・昨今の中国不動産市場の調整を理性的に見なければならない。中国不動産業界は20年以上の高速拡張をへて、一産業の成長周期に基づいた調整期に入っているのは正常なことだ。

・不動産の段階的調整は、これから不動産業界が新たなモデルを構築し、質の高い発展を実現する上で有利に働く。

・中国不動産市場にも支えがある。中国の都市化はまだ完成していない。2023年、常住人口に基づく都市化率は66.2%。ただ戸籍人口に基づく都市化率は50%にも満たない。また、1.8億人の出稼ぎ労働者(農民工)は依然として都市戸籍を持っておらず、都市部で暮らす彼らの住宅購買率も高くない。中国不動産市場には確かな需要があり、持続的に、健全に発展していくための支えとなる条件を有しているということだ。

 私なりにこれらのポイントを解釈してみると、

  1. 昨今、中国の不動産市場が一時的な不況に陥っているのには合理的な背景と理由がある
  2. 都市化率の低さこそが、中国の不動産市場が今後一定期間においてまだまだ成長の余地がある根拠になる
  3. 中国の不動産市場が「過去」に戻ることはなく、「新たなモデル」に行きつく見込みである

 ここで言う「過去」というのは、盛副局長が言及した「20年以上の高速拡張」です。要するに、中国不動産市場が、2000年以降続いてきた「バブル」に戻ることはなく、今後は、「住宅とは住むためのものであり、投機のためにあるのではない」という習近平(シー・ジンピン)政権のスローガンに基づいて、日本で言うところの「公営住宅」の大規模な建設を含め、実質的ニーズに基づいた住宅建設、そのための土地売買、価格調整を行っていくということなのだと思います。

改めて考える、中国経済における不動産の重要性

 では、中国経済にとって、不動産市場はもはや重要でなくなったのでしょうか?

 端的に言えば、答えはノーだと思います。

 以前も本連載で紹介したように、中国において、不動産業界はGDPの約3割、投資の約4割、国民の資産運用の6割を占めるとされます。これらの数字の背景には、盛副局長が「過去20年の高速拡張」という言葉で表現したように、不動産価格が異次元のスピードで上がり、「不動産さえ持っていれば資産は安泰。とにかく買えるだけ買え」というマインドセットが社会全体で形成されていった経緯があると思います。実際、私の中国の知人のほとんどが、過去において、自身、家庭の未来を不動産投資に託していました。

 今後の動向として、私が注目しているポイントが3つあります。

 1つ目が、昨今、少なくとも局地的に起きている不動産バブルの崩壊がどこへ行きつくのか、です。中国政府内には、住宅価格が相当程度下がることで、新たな住宅購入のニーズが刺激され、価格が再び上昇気流に向かう、という議論もあるようです。一直線に下落するのか、あるいは、何らかの曲線を描くのか。注目に値します。

 2つ目が、不動産業界自体が中国経済に占める割合や地位がどう変遷(へんせん)していくか、です。言うまでもなく、過去20年において、中国経済成長の不動産市場に対する依存度は異常でした。この依存度が減っていくのは不可逆的な趨勢(すうせい)でしょうが、では、どんな業界が不動産に取って代わるのか、あるいはその穴を埋めるのか。注目に値します。

 3つ目に、中国国民のマインドセットがどう変わっていくのか、です。彼らの資産運用の6割は不動産関連とされますが、仮にこの割合が4割に減ったとして、差額の資金源はどこへ向かうのか。株式投資なのか、教育・医療なのか、グリーン商品(例えば電気自動車)なのか、あるいは、将来への不安から、後ろ向きの貯蓄に走るのか。

 いずれにせよ、中国経済の将来を考える時、不動産というのは極めて重要な要素であることに変わりはありません。私も継続的に観察、分析していきたいと思っています。

(加藤 嘉一)

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