台湾の頼清徳氏が5月20日に総統就任演説。「台湾有事」に動きはあるのか
トウシル / 2024年5月16日 7時30分
台湾の頼清徳氏が5月20日に総統就任演説。「台湾有事」に動きはあるのか
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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「台湾の頼清徳氏が5月20日に総統就任演説。「台湾有事」に動きはあるのか」
週明け、台湾の頼清徳氏が総統就任へ
台湾有事。
この4文字が日本の社会、市場、世論で取り上げられ、議論されるようになって一定の時間が経過しました。私が見る限り、政府も企業も、来る台湾有事に向けて、それに備えるべく、あらゆる準備や対策をしています。私自身、台湾有事は、日本の経済や安全保障環境にとっての最大の不安要素であり、リスクだと考えています。
そんな台湾有事の行方を占う上で極めて重要なイベントが、週明けの5月20日(月)に台湾で開かれます。今年1月の台湾総統選で新総統に当選した、民進党(現与党)の頼清徳氏の就任式、および就任演説が行われるのです。過去4年、蔡英文総統を副総統として支えてきた頼氏が台湾の最高指導者として指揮を執る局面が間もなく現実になるということです。
就任式には、日本からも超党派国会議員が過去最多となる37人出席する予定であり、日本を含めた地域・国際社会の今回の台湾総統選就任式に対する注目度は非常に高いといえます。1996年に直接選挙が導入されて以来、台湾では国民党と民進党という2大政党が2期8年できれいに政権交替する局面が続いてきました。過去8年は民進党が政権を担ったわけですが、今回、台湾の歴史上で初めて、同党が2期8年を越えて、3期目に突入することになります。
過去に一度も起こったことのない局面が、5月20日に生まれる意味、そしてその先に生じ得る影響を、我々は過小評価すべきではありません。これから台湾で何が起こるのか、台湾はどこへ向かうのか、そしてそれらのプロセスは日本の経済や安全保障にどのような影響を及ぼすのか。緊密に注視し、深い次元で思考していく必要があると私は考えます。
蔡英文総統が2016年、2020年の就任演説で語ったこと
頼清徳氏の就任演説で何に注目すべきか、それはなぜなのか、について考えていきたいと思います。4年に1回、5月20日に行われる台湾総統の就任式ですが、2016年、2020年の蔡英文総統は就任演説でいずれも30分前後話しています。新政権として、これから何をしていくのかを発信する場です。
蔡英文総統による過去2回の演説内容を振り返り、読み比べてみました。
2016年は「若者」に焦点を当てていました。「若者こそが国家の未来」という観点から、報酬アップなどを含め、若年層に寄り添おうとする内容、論調が目立ちました。一方2020年は、新型コロナウイルスが感染拡大する中で迎えたこともあり、それに対する対策がクローズアップされました。また、米中対立や中国の台湾に対する軍事的圧力が強化される中、「国家安全」が強調され、国防を巡る改革や、インド太平洋戦略という文脈で、日本、米国、欧州との連携強化がうたわれました。
最大の注目ポイントである中国との関係については、2016年時に比べて2020年は明らかにトーンが上がった、すなわち、中国に「対峙(たいじ)」する姿勢が前面に打ち出されました。
具体的には、2016年は、「九二コンセンサス※」を巡る歴史的事実を尊重し、「両岸間の対話に関して、(筆者注:国民党の馬英九政権が構築してきた)既存のメカニズムを維持するよう努力する」と主張したのに対し、2020年の演説では「我々は北京当局が、『一国二制度』という名義で台湾を矮小化し、台湾海峡の現状を破壊することを受け入れない」と強硬的な姿勢をあらわにしています。
※九二コンセンサス
「九二共識」:1992年に中華人民共和国当局と中華民国当局の間で『一つの中国』を巡って交わされた合意。ただし『一つの中国』を巡って、両者間の立場と認識には今日に至るまでギャップが存在する
2016年と2020年の違いで私が最も重要だと捉えたのが、後者において、蔡英文総統が「中華民国台湾」という6文字を使った事実。4年前の演説では使用されなかった用語・概念です。
蔡氏の演説を注視していた中国側は、2期目に入る蔡英文政権が「独立志向」を強めていると判断したのは想像に難くなく、その後の台湾に対する軍事的、外交的、経済的圧力強化、および冒頭で言及した「台湾有事」にまつわる地域情勢の緊張化につながっていきました。
頼清徳氏は就任演説で何を語るか?中国がどう反応するかに注目
蔡英文現総統による過去2回の演説で語られた内容や論調、およびそれがどのように台湾海峡を巡る情勢に反映されたのかを検証してきました。前述したように、過去4年、頼氏は蔡英文第2次政権の副総統を担っていたわけですから、これから始まる新政権において、前政権と一定の連続性を持つのが既定路線だと思われます。
一方で、中国からのあらゆる圧力は日々強化されており、米中対立のはざまにおける台湾という構造もますます固定化されています。情勢が質的に変化する中、政策や対応がそれに適応するのは当然だといえます。その意味で、頼清徳新政権は、中国に対する姿勢が従来と比べてどうなるのか。より強硬的になるのか、あるいはその逆なのか、そしてそれらの姿勢の変化が、就任演説の中で、どのような内容、論調、文脈、用語として発揮されるのかに私は注目しています。
例えば、「中華民国台湾」という用語の使用を継承するのかどうか。中国共産党をどのような言葉で呼ぶのか(2016年はそもそも名指ししておらず、2020年は「北京当局」と呼称)。
中国との平和的共存や対話、交流を前面に出すのか、それとも衝突や危機を既成事実に据えた上で、それにどう対するかという姿勢を前面に出すのか。
それと同時に私が注目しているのが、頼清徳氏の就任演説に、中国側がどう反応し、その後台湾海峡で何が起こるのか、です。具体的に言うと、演説の内容次第では、中国側が台湾を取り囲むような大規模な軍事演習を行う、台湾と国交のある国家に断交圧力をかける、台湾に対する経済制裁を強化する、といった政策が打ち出されるのかどうか。
頼清徳氏の演説とそれに対する中国側の反応。それら次第では、台湾海峡を巡る情勢が変化する、言い換えれば、「台湾有事」が動く可能性につながっていきます。
週明けの台湾に注目いたしましょう。
(加藤 嘉一)
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