米国は大恐慌時のような経済刺激策を続けている
トウシル / 2024年5月16日 18時6分
米国は大恐慌時のような経済刺激策を続けている
米CPIを受けて株式、債券、ゴールド、暗号資産が急騰
市場が注目していた米CPI(消費者物価指数)は前月比で予想を下回る伸びとなった。CPIがわずかに下回ったことで利下げ期待が高まり、株式、債券、ゴールド、暗号資産が急騰した。もちろん、ウォール街は歓声を上げた。なぜなら彼らは、経済が悪化してFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げやQE(量的緩和)といった金融緩和政策を再開することを祈っているからだ。
ピーター・シフは、「本日の4月の消費者物価指数の発表について、祝うべきことは何もない。年率0.3%の上昇で、インフレ率は4%近くになる。しかし、全ての経済データやその他のデータは、将来的にCPIがもっと大きく上昇することを示している。もしFRBが利下げをするためのインチキな口実が必要なら、投資家はCPIがその口実になることを望んでいる」と述べた。
米国のインフレ率は現在37カ月連続で3%を超えており、これは1980年代後半から1990年代前半以来最長のインフレ期間となっている。
米国CPIインフレ率の推移(1948~2024年)
ピーター・シフが指摘しているように、昨日の米国の経済データはスタグフレーション(不景気の物価高)の三重奏だった。4月の小売売上高、5月のエンパイアステート製造業は予想を大きく下回った。4月のCPIはさらに0.3%上昇し、前年比3.4%の上昇となった。
小売売上高は減少し、インフレは再び上昇し、失業率は上昇している。これを経済学ではスタグフレーションと呼ぶ。
バイデン政権は11月の大統領選挙に勝つために膨大なカネをばらまき、金利とは関係のないところで緩和的な政策をずっと続けている。利下げも利上げも今の市場にはほとんど関係ない。
S&P500種指数は今年23回目の史上最高値更新を記録し、2023年10月以降29%上昇した。2024年1月以降、株式市場はすでに合計4回の利下げが織り込まれているにもかかわらず、指数は2024年の5月までに11.5%上昇している。
MMT(現代貨幣理論)によるばく大な赤字増大と34兆ドルの国家債務が証明しているように、現在の米国は大恐慌時のような経済刺激策を続けている。なのに、一体どうしてウォール街は利下げを期待するのだろうか?
米国の債務残高(1800~2024年)
FF金利の市場予想
米国の株式市場は高値更新相場を続けている。このような環境で利下げは必要なのだろうか?
S&P500CFD(日足)
ナスダック100CFD(日足)
NYダウCFD(日足)
自社株買い、助成金、高金利への抵抗、膨大な現金残高、新産業への進出、ロビー活動、競合企業の買収能力により、ビッグテックはメガテックになる。米国株式市場での銘柄の選択肢は、ビッグテックを買うか、ビッグテックが買うものを買うかという2択となっている。
エヌビディア(日足)
マイクロソフト(日足)
メタ・プラットフォームズ(日足)
アップル(日足)
米CPIと小売売上高の発表を受け、米10年債利回りは低下した。それを受けて、ドルインデックスは1カ月以上ぶりの最低水準に下落している。とりあえず日本銀行は安堵(あんど)しているだろう。
ドルインデックス(日足)
ドル/円(日足)
ユーロ/ドル(日足)
米国が低金利とQEに戻れば、インフレは爆発的に進むだろう。一方で金利上昇と景気刺激策にとどまるなら、11月の米大統領選挙後の世界的な株の下落は避けられないのかもしれない。
中国は記録的なレベルでゴールドを購入している。そして、ロシアに倣ってドルへのエクスポージャーを減らそうとしている。2022年と2023年だけでも、世界の中央銀行はそれぞれ1,081トンと1,037トンのゴールドを購入した。
ゴールドCFD(日足)
政治的、ファンダメンタルズ的、経済的背景が中期的に投資家にとってより敵対的なものとなっていく中、これから損失に対する「ヘッジとしての現金の価値」を理解することがより重要になってくる。
「ゴールドはお金です。それ以外はすべて信用です」
(ジョン・ピアポント・モルガン)
エクスターの逆ピラミッド(金融資産の階層)
この世で最も賢い億万長者の人生
クオンツの帝王と呼ばれたルネッサンス・テクノロジーズ(通称レンテック)のジェームズ・シモンズが亡くなった。クオンツとは企業業績や財務などのミクロ・データや経済指標などのマクロ・データ、あるいは株価や金利、為替などの値動きといったマーケット・データを数学的な手法で解析し、バリュエーション評価や市場価格の変動予測などに利用する運用手法のことである。
数学者だったジェームズ・シモンズは40代に入り数学者から運用者に転向し、価格変動を予測する定量分析でマーケットに挑んだ。
ジェームズ・シモンズはもう何年も前に運用の最前線からは引退しており、最近は体調を壊して入院しているという話が伝わっていたが、シモンズの年間66%のリターンというパフォーマンスは、ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、カール・アイカーンのパフォーマンスを上回っている。ジェームズ・シモンズはこの世で最も成功したトレーダーである。
ルネッサンス・テクノロジーズのようなクオンツ運用を、普通の投資家が行うことはまず不可能だ。これができるのは、ハードウエアを十分に活用できるアプリケーションデザイナーと開発者チームを結成できる潤沢な資金を持つ者たちだけである。
しかし、「長期的に成功している投資家は、自由裁量トレーダーであれ、システムトレーダーであれ、例外なくシステマティックなトレーディング戦略を使っている」(ロバート・パルド)ということは疑いのない事実である。
筆者の独断と偏見で言わせていただくと、筆者の運用に最も役に立った本は、コンピュータートレーディングのエキスパートであるロバート・パルドが書いた『アルゴリズムトレーディング入門』(著者:ロバート・パルド 2010年パンローリング刊)である。
この本は「アルゴリズム取引入門」というタイトルになっているので、一般の投資家からは難しそうな本だと敬遠され、全く売れていない。
しかし、「本書はシステムトレーダーであろうとなかろうと、いかなるトレーダーにとっても価値のあるものだと信じている。こういうことを言うと驚く人がいるかもしれないが、本書は自由裁量のトレーダー、つまり、システムトレーディングを行わないトレーダーにもぜひ読んでもらいたい本です」とロバート・パルドは述べている。
もう20年以上前から、ネットでファンド運用者の求人を検索すると、英語と数学・物理学が必須と書いてある会社が多い。ジェームズ・シモンズは、トレーダーに数学、物理学、統計学などの専門家しかファンドに採用しない。
ルネッサンス・テクノロジーズはクオンツ的なアルゴリズム売買と短期売買が特徴で、日本の株式市場でも大量の売買を繰り返している。彼の運用哲学は多くのトレーダーに影響を与えた。
近年、クオンツ運用や高速売買運用は苦戦が続いており、現実はクオンツ運用なら稼げるというわけではない。筆者の関連するファンドのところには、クオンツ運用のファンドの営業マンが頻繁に訪ねてくるという。
ミレニアル世代の若いクオンツたちの運用成績は魅力的で、思わず投資しそうになるというが、よく見てみるとドローダウン(運用成績の上下動)がすさまじく、シャープレシオでみたリターンは決して良くない。投資しないでしばらく運用成績を見ていると、こういうファンドは3年以内に大損をするか解散していく。
債券の帝王と呼ばれたビル・グロースは、「未熟なギャンブラーは2~3ドル勝っただけで得した気になり、カードが不利に転じたときには全てを使い果たす」と述べているが、最近の若い運用者は相場の怖さを知らない人が多い。
秘密結社めいたファンドと呼ばれたルネッサンス・テクノロジーズだが、ジェームズ・シモンズは以下の5原則を大事にしていたという。
- 美に導かれなさい。偉大な定理が非常に美しいのと同じように、非常にうまく、非常に効率的に機能している会社も美しいのです。
- できるだけ賢くて優秀な人々に囲まれてください。彼らに任せてください。彼らの上に座ってはいけません。彼らがあなたより賢いなら、なおさら良いです。
- 何か独創的なことをしてください。集団で行動しないでください。全員が同じ問題を解決しようとしているなら、そうしないでください。
- 簡単に諦めないでください。粘り強くやり遂げてください。永遠にではなく、本当に目的の場所にたどり着くチャンスを与えてください。
- 最後の原則は幸運を願うことです。
ジェームズ・シモンズは生前、「私はたくさんの計算をしました。たくさんのお金を稼ぎましたが、そのほとんどを寄付しました。それが私の人生の物語です」と述べていた。
レイ・ダリオは、「ジェームズ・シモンズは最高の人物でした。信じられないほど偉大な投資家であり、慈善家であり、人格者でした。私や彼を知る全ての人が、彼の不在を惜しむことでしょう」と追悼の言葉を述べた。
「シモンズ財団は、共同創設者で名誉会長のジェームズ・ハリス・シモンズ氏の死去を深い悲しみとともにお知らせします。ジェームズ氏は受賞歴のある数学者であり、伝説的な投資家であり、寛大な慈善家でした」
(シモンズ財団)
享年86歳。ジェームズ・シモンズという史上最高のトレーダーの物語はこれで終わった。
5月15日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
5月15日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、荒地潤さん(楽天証券FXアナリスト)をゲストにお招きして、「前代未聞!日本はイエレンに介入の了解をとっていないのか?」「もし我々が金本位制を採用していたら、現在のような投機の横行は1929年のような大恐慌につながるだろう」「もしトランプが大統領になれば円高か?」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。
5月15日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
(石原 順)
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