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ゴールドの最高値更新とインフレの恐怖

トウシル / 2024年5月23日 16時59分

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ゴールドの最高値更新とインフレの恐怖

利上げで債務急増、利下げでインフレ危機という袋小路

 FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレを止めるために利上げをしなければならないが、そのために債務が急増する。一方でFRBは債務を軽減するために利下げとQE(量的緩和)への回帰をしなければならないが、さらに大きなインフレ危機を引き起こす。

 FRBのウォラー理事は5月21日、「物価データの軟化が今後3~5カ月間続けば、金融当局は年末の利下げ実施も検討できるだろう」と述べた。米金融当局は、膨大な利払いや銀行の国債評価損に対処するために利下げをしたいが、粘着性のインフレが収まらないという苦しい状況に追い込まれている。

 ゴールドマン・サックスは、「本日のウォラー理事の演説での発言により、最初の利下げが7月の当社の予想より遅くなるリスクが高まった」とコメントした。また、ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは「政府支出」により米経済の回復力が高まっていることから、米金融当局が今年利下げを行うことはないとの見方を示した。

 そもそも、米国株式市場は史上最高値更新相場を続けており、米国の不動産価格は過去4年で30~50%上がっている。よほどのことがない限り、この状況で利下げなどできないだろう。

米国の州全体の住宅価格の4年間の変化

出所:ResiClub

 住宅の値上がりはCPI(消費者物価指数)には含まれていない。過去2年間の7%の住宅ローン金利は、米国の住宅の上昇を阻止できなかった。住宅の上昇の理由はファンドの買い占めとキャッチボールである。それでも今、FRBは金利引き下げを準備している。

 現在、米国でマクドナルドのビッグマックセットは州によっては18ドル(日本円換算で約2,800円)である。日本のマクドナルドのビッグマックセットは750円だから、米国のインフレのひどさが分かるだろう。米国の大衆はファストフードですら、もう簡単には手が出せない。インフレは米国民打撃を与えている。

【米国は今、1.家計負債は過去最高の17兆7,000億ドル、2.住宅ローンは過去最高の12.4兆ドル、3.自動車ローンが過去最高の1.6兆ドル、4.学生ローンが過去最高の1.6兆ドルに迫る、5.クレジットカード負債が過去最高の1兆1,000億ドルに迫る。

住宅ローン負債総額は2006年のピーク時の2倍以上、クレジットカード負債総額は2020年以降50%増加している。2024年第1四半期だけで、クレジットカード残高の約9%、自動車ローンの約8%(年率換算)が延滞に移行した。金利上昇は、過去最高の債務残高を抱える消費者に打撃を与えている。消費者はいつまで持ちこたえられるのか?】

出所:The Kobeissi Letter

 FRBが存在しなければ、米国民はもっと幸せになれるだろう。FRBはMMT(現代貨幣理論)というインフレ政策によって債務を現金化することでドルの価値(購買力)を下げ、インフレを引き起こしている。

 レイ・ダリオは米国の債務水準上昇が米国債市場に打撃を与える可能性があると警告している。

 米国の30年債は2020年4月以来45%下落しており、過去1世紀で最大の4年間下落となった。米ドル一辺倒から多様な対象に分散投資するのは賢明な決断だ。2021年以降、ゴールドは米ドル建て債券を75%上回っている。

1919年以降の米国30年国債トータル・リターン・インデックス

出所:バンク・オブ・アメリカ

 膨大な負債と急速に高齢化する世界経済は投資にどのような影響を与えるのだろうか? イダンナ・アッピオは、ソブリン債務危機の歴史を分析しニューヨーク連邦準備銀行に15年間在籍した。

 現在は1,380億ドルのファースト・イーグル・インベストメンツのファンドマネジャーをしている。アッピオはブルームバーグのインタビューで、「株式と信用保有のバランスをとるために世界で最も安全な資産と見なされるもの(米国債)を購入するのではなく、ゴールドを追加しています。米国債は保有するにはリスクが高すぎる」と答えている。

 農林中金は日本の巨大ヘッジファンドなどと持ち上げられてかなりリスキーな米国債券運用を続けてきたが、金利の上昇で窮地に追い込まれているようだ。

 日本の長期金利(10年国債金利)は1%を超えてきたが、金利上昇にもかかわらず円安基調は変わらない。結局、MMTは過去一度も機能しなかった。はたして、現在の円安はワイマールスタイルの通貨の崩壊なのだろうか?

日本10年国債金利(日足)1%に到達

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

ドル/円(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 ゼロヘッジの記事『スターンリヒトのスターウッド・リート、CREの嵐で償還が急増し資金不足に』によると、「フィナンシャル・タイムズ紙は先週末、SREIT(Starwood Real Estate Income Trust)が「投資家からの資金回収要求により流動性が不足し、2023年に入ってから15億5,000万ドルの融資枠のうち13億ドルを利用したと報じた。懸念を抱く投資家の間で償還が急増している。第1四半期、SREITの投資家は13億ドルのキャッシュバックを要求した。しかし同ファンドは、償還上限が5%に設定されているため、この四半期には5億ドルの返還にとどまった」という。

 商業用不動産の問題は水面下でどんどん悪化しているようだ。SREITは100億ドル規模の非上場REIT(リート:不動産投資信託)で、経営難に陥っているBlackstoneのBREITに次ぐ第2位の規模だが、長期金利上昇が商業不動産の嵐を悪化させるとの懸念の中、投資家の償還が急増し、深刻な流動性不足に直面している。

資産運用の究極の目的は「インフレヘッジ」である

 中国政府は、西側諸国への依存からの脱却に関するロシアとの共同声明に続き、少なくとも533億ドル相当の米国債を売却した(それでゴールドを購入)と発表した。

 JPモルガンは、バイデン氏の制裁の武器化が脱ドル化を加速させていると警告している。これにより、存在するドルの3分の1にあたる8兆ドルを占める外貨準備金が危険にさらされることになる。中央銀行がドルの売却を続ければ、再び二桁のインフレに陥る可能性がある。

 ロシアのサンクトペテルブルクの裁判所は、西側の銀行3行が所有する7億ユーロ相当の資産を差し押さえた。「ウニクレディト、ドイツ銀行、コメルツ銀行の資産7億ユーロを差し押さえた」とFTが報じている。

【重要な点は、FRBは景気後退がないと想定していること、そして議会が何をしようと、FRBは長期的にインフレ率を2%に抑えると想定していることだ。つまりFRBは、歴史がそうでないことを示唆しているにもかかわらず、自分たちがコントロールしていると思い込んでいるのだ。FRBは不況を予想したこともなければ、不況をリアルタイムで発見したこともない。

財政赤字は現在34兆ドルを超え、国民が抱える負債は27兆ドルだ。国債の利子は1兆ドルを超えている。投資に回されるはずの資金は、代わりに国債保有者の手に渡る。どちらの政党も赤字支出を直そうとはしない。今後もそうだろう。そして、次の不況ではさらに悪化するだろう。無制限な財政刺激策が今の混乱を招いたのであり、選挙でどちらが勝っても政策転換を示唆するものは何もない】

(出所:5月19日ゼロヘッジ 『誰が選挙に勝とうとも、インフレはさらに進むだろう』)

 米国や日本だけではない。世界の債務対GDP(国内総生産)比は急上昇している。政府は通貨の購買力を徐々に低下させることで、膨大な借金(財政の不均衡)をごまかすことができることを知っており、G7の先進国経済はインフレによって富の移転を図っている。

 すなわち、インフレは、預金貯蓄者と実質賃金から政府への隠れた富の移転であり、それは偽装された税金である。

 こうした中、中国の爆買いによってゴールドは対ドルで史上最高値を更新してきた。

ゴールドCFD(週足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 下の図はもう何年も前にレポートで取り上げたレイ・ダリオの『世界秩序の変化』だが、これから米国の分断が加速度的に進むだろう。

米帝国のサイクル

出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)

 バイデン政権(米民主党)は大統領選挙に勝つためなら、なんでもするだろう。11月の米大統領選挙までは株価維持政策と自社社株買いで株式市場の大幅な下落は避けられるだろうが後が怖い。

 ダウ工業株30種平均は2万ドルに達するまでには121年かかった。それから7年で4万ドルに到達した。これは100年に1回のスーパーバブル現象ではないだろうか?

NYダウCFD(月足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 現在、世界中で横行している財政・金融介入によって、債務が前例のない規模に膨れ上がっている。『国家興亡の方程式 歴史に対する数学的アプローチ』の著者ピーター・ターチンによると、往々にして、迫りくる崩壊の最終的な引き金になるのは国家の財政破綻だという。エリートたちは市民の不満を、補助金や配給によってなだめなければならない。

 それらが尽きれば、もはや不満分子を監視し、人々を弾圧するしかなくなる。

 金融インフレの時代には資産価格が、ほぼ際限なく、つまりシステム全体が破綻するまで上昇するが、過去の超インフレ期に株価がどう動いたか、1919~1923年のワイマール共和国や1978~1988年のメキシコをみれば分かるように、金融インフレに積極的に関与するシステムは、つまるところ破綻する。

 インフレ期には実質賃金が減少して大衆の生活水準が落ちてしまうからだ。

 いずれにせよ、問題は「インフレ」だ。資産運用の究極の目的は「インフレヘッジ」である。インフレへの転換によって、私たちの生活を支えるには「金融」よりも「モノ」の方がはるかに重要であることが今後徐々に認識されていくだろう。今後、世界の国々で「金融」への関心が薄れ、「モノ」への関心が高まっていくことが予想される。

5月22日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 5月22日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、今中能夫さん(楽天証券経済研究所チーフアナリスト)をゲストにお招きして、「米国の例外主義が生んだ巨大成長企業エヌビディア」「米国株市場はエヌビディア1銘柄がけん引か!?」「エヌビディアの取引先に注目!」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

5月22日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube

(石原 順)

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