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不動産不況脱却に向けた緩和策を政府が発表。中国経済は回復できるのか

トウシル / 2024年5月30日 7時30分

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不動産不況脱却に向けた緩和策を政府が発表。中国経済は回復できるのか

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
不動産不況脱却に向けた緩和策を政府が発表。中国経済は回復できるのか

低迷を続ける中国不動産市場は「調整期」にある

 中国で不動産不況が続いています。中国経済において、不動産関連業界はGDP(国内総生産)の3割、投資の4割、国民の資産運用の6割を占めるとされます。そんな不動産市場の動向が景気全体に及ぼす影響は甚大であり、その意味で、コロナ禍から続く不動産不況は決して軽視できない状況といえます。

 参考までに、国家統計局が5月17日に行った記者会見を見てみましょう。中国政府の不動産市場に対する現状認識が透けて見えます。劉愛華報道官が記者からの質問に回答した中で、不動産に関するものはあからさまに短く、「あまり多くは語りたくない」という中央政府の心境が垣間見られました。状況が良ければ多くを語り、逆もまたしかり、というのは国家も人間も同様なのでしょう。

 劉報道官は次のようにコメントしています。

「今年に入ってから、各地方自治体はその土地の状況に基づいた施策を通じて不動産政策を不断に適正化してきている。4月の主な統計結果からすれば、不動産市場は引き続き調整期にあるといえる」

「1~4月、不動産開発投資は前年同期比で9.8%減、新たに建てられた住宅面積は同20.2%減、売上高は同28.3%減、新たに着工した住宅面積は同24.6%減であった」

「今後についてであるが、中央政治局会議の精神に基づき、党中央による政策や措置を切実に、貫徹して実行していくことで、不動産市場を巡る需給関係の新たな変化、および国民の良質な住宅への新たな期待に適応していく。売れ残っている物件をどう消化していくか、増えている住宅をどう適正化するかといった政策措置に関する研究も進めていく。不動産市場の発展を巡る新たなモデルを構築することで、同市場における質の高い発展を促していく」

 確かに、不動産市場が引き続き低迷している現状が見て取れます。劉報道官は、不動産市場は「調整期」、言い換えれば「過渡期」にあると発言していますが、私は言外に2つの点を示唆(しさ)していると理解しています。

 1つ目は、調整期、過渡期にあるが故に、市場全体が低迷する、場合によっては、不動産バブルが局地的に弾けたり、一部不動産企業がデフォルト(債務不履行)したり、会社清算したりといった状況が生じるのは止むを得ない、という中国政府なりの「弁解」です。

 2つ目が、中国不動産市場が過去のような高度成長、あるいはバブル期に戻ることはないという点です。他の産業とのバランス、経済成長モデルの調整、構造改革、環境政策、地方財政、税制改革、住民所得といったあらゆる要素を考慮しながら、「新たなモデル」を構築すると主張しています。それが結果的に何を意味するのかに関しては、現時点では何ともいえません、少なくとも過去に戻ることはないでしょうから、我々も中国における不動産市場を従来とは異なる視点に立って観察する必要があるのだと思います。

共産党指導部が不況脱却に向けた緩和策を発表、中央銀行も追随

 今後の中国不動産市場の行方を考える上で、国家統計局の劉報道官が言及した「中央政治局会議の精神」を理解するのが重要だと私は分析しています。

 中国の最高意思決定機関である中央政治局が4月30日、会議を召集し、不動産政策に関して、次のように、最高指導部としての方針を提起しました。

「重点分野におけるリスクを緩和、防止する必要がある。各地方に基づいた政策を引き続き堅持し、地方政府、不動産企業、金融機構が担うべき責任をきっちりとグリップしていく。住宅の引き渡しを保証し、住宅購入者の合法的な権利と利益を保障する」

 その上で、劉報道官も言及した「売れ残っている物件をどう消化するかを研究する」ことの重要性を主張しています。

 要するに中国共産党最高指導部として、

  1. 不動産不況を中国経済に実質的影響を与える要素として正視、懸念している
  2. 不況脱却のために、地方政府、不動産企業、金融機関という3者が担う役割と責任を重要視し、圧力をかけている
  3. 全国各地における多くの不動産物件が売れ残っている(=価格が下落し、状況次第ではバブルが弾けるリスクがある)という現状認識の上、それをどう消化していくか、が昨今の難局を打開する上で鍵を握る

 という現段階における3つの結論を出し、中央政府の各省庁、地方政府に対する指針としたということです。

 それから約2週間後の5月17日、中央政府でマクロ政策の統括を担う何立峰国務院副総理兼政治局委員が、「住宅引き渡しを保証するための仕事」に関するビデオ会議を全国各地とつないで開催しました。「中央政治局会議の精神」を具体化した上で、各地に指示を出すための会議です。

 何氏は、「(資金不足などで建設工事が中断したまま完成していない)未完成建築の建設を進めるために必死で戦う。住宅の引き渡し保証を着実に進め、売れ残っている住宅を消化していく」と主張。

 より具体的には、「売れ残っている住宅」を地方政府が買い取った後、安価な住宅に転換した上で、最終購買者に売り渡すとのこと。そして、特筆すべきは多くが巨額の債務に苦しみ、財政難に陥っている地方政府がそれらを買い取るための資金を、中国人民銀行(中央銀行)が最大3,000億元(約6兆円)規模の再融資制度を創設するとした点。この新規創設を含め、中央銀行の立場から「売れ残った住宅を消化する」ための融資額は5,000億元(約10兆円)に上る見込みだと同行の陶玲副総裁は17日の記者会見で語っています。

 中国人民銀行はこの日、不動産市場を下支えするための3つの声明を出しましたが、いずれも、「中央政治局会議の精神」、および何立峰副総理による「号令」を受けてのものです。上記再融資制度の創設以外に、住宅ローン金利と頭金比率を引き下げるとも発表。具体的には、頭金比率は全国平均で、一軒目が20%から15%に、二軒目が30%から25%に引き下げられました。また、住宅ローン金利に関しては、これまで設けられていた下限(何%以下にしてはならないという政策)を全国的に取り消し、「住宅ローン金利の市場化」をうたいました。

上海の実例と今後の展望

 5月17日の何立峰副総理による号令、中国人民銀行による具体策の発表を受けて、各地方自治体は、それに便乗すべく、不動産市場に科された各種規制の緩和に急いでいるように見受けられます。

 ケーススタディーとして、ここでは中国人の間でも「規制が最も厳しい」と有名な上海市が5月27日に打ち出した最新の緩和策を取り上げたいと思います。

 緩和策の具体例は以下です。

  • 上海市の戸籍を持たない独身男性に科されていた住宅購入規制が、従来は同市に社会保険税と所得税5年納めてからでなければ同市内で購入できなかったのが、3年に短縮された(北京市は現在に至るまで5年基準を継続)。また、購入可能な地域範囲が、郊外の新築と中古物件に加えて、市内の中古物件が加えられた。
     
  • 住宅購入時の最低頭金比率が、1軒目が30%から20%に、2軒目が40~50%から郊外30%、それ以外は35%に引き下げる。翌日(28日)から適用。
     
  • 1軒目の住宅ローンの最低金利を従来のLPR(最優遇貸出金利)マイナス10ベーシスポイント(bp)から、LPRマイナス45bpに引き下げる。
     
  • 離婚した夫婦の住宅購入制限を撤廃
     
  • 二人以上の子供を持つ家庭に関しては、上海市戸籍を持っていようがいまいが、現行の政策の下、1軒多く住宅を購入することができ、その過程で、住宅ローンにおける一軒目の認定基準を適正化する。

 私から見ても、具体的かつインパクトのある緩和策だと思います。これらの措置を経て、上海市で暮らす住民が、「それなら住宅を購入しよう」と思うようになるのかどうか。共産党指導部、中央銀行などによる一連の方針、政策、措置を経て、不動産市場は徐々にでも回復し、2024年以内にV字回復する局面は見られるのか。

 上記で不動産市場が過去の高度成長やバブル状態に戻ることはないと指摘しましたが、それはすなわち不動産市場が中国経済にとって重要でないことを意味しません。不動産市場に相当程度回復してもらわないと、景気回復はままならない、当局としてそう重く受け止めているからこその緩和策だとみるべきです。

 私個人的には、国家統計局を含めた中央政府が、不動産市場の「調整期」が終わって次の段階に入った(=新たなモデル?)といつ宣言するのかに注目しています。

(加藤 嘉一)

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