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ポジティブサプライズ決算の主力10銘柄!業績と株主還元を分析

トウシル / 2024年5月31日 7時30分

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ポジティブサプライズ決算の主力10銘柄!業績と株主還元を分析

2024年3月期決算は業績サプライズ限定的でも、株主還元が拡大

 2024年3月期の決算発表は5月15日の段階でほぼ終了しました。集計方法などで多少の違いがありますが、2024年3月期経常利益は前期比で11~15%の増益となったようです。

 一方、2025年3月期経常利益は0~5%の減益見通しとなっています。新年度の見通しは市場予想の5~6%増を下回っていますが、例年通り、期初の会社計画はやや保守的な傾向が強いことから、特段のサプライズ(驚き)は小さい印象です。ちなみに、為替相場に関しては、約8割の企業が1ドル=145円以下と現状より円高を設定しているようです。

 業種別で見ると、2024年3月期の増益率が高かったものとして、自動車、電力・ガス、空運、小売りなどが挙げられます。一方、減益率が高かったものとしては、化学、医薬品、総合商社、陸運などが挙げられます。

 また、2025年3月期の増益率見通しが高い業種は化学、精密、医薬品、情報通信などが挙げられ、減益率見通しが高いものは鉄鋼、自動車、石油、電力・ガスなどとなっています。化学は石油製品市況の改善、精密は半導体市況の回復、医薬品は研究開発費などのコスト削減、情報通信はDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の進展などが背景となりそうです。

 一方、鉄鋼は鋼材価格下落によるスプレッド(販売価格と原料価格の差)の悪化、自動車は円安メリットの剥落、石油は在庫評価益の減少、電力・ガスは値上げによる収益急改善の反動が主な減益見通しの要因と考えられます。

 今回の決算では、業績数値以外に株主還元策の拡充に注目が集まりました。東証によるPBR(株価純資産倍率)改革などを背景に、ROE(自己資本利益率)向上を目指した自己株式の取得や大幅増配を発表する銘柄が多くなりました。

 2024年3月期の配当金合計は前期比で10%程度の伸びとなっているほか、4~5月にかけての自社株買い発表は前年同期比で1.6倍の水準となっているもようです。2025年3月期の配当金は、現時点で前期比5%程度の増加が計画されており、配当性向は3割強と前年並みの水準にあるようです。

 ただ、配当金は業績数値以上に今後の上振れ可能性が高く、今後引き上げられる余地が大きいとみられます。

株価が決算発表後に10%以上上昇した銘柄

 2024年3月期決算がポジティブサプライズとなって、決算発表を契機に株価が急伸した銘柄を以下の表でリストアップしています。

 具体的には、3月期本決算企業で時価総額が3,000億円以上の銘柄の中から、決算発表日翌日(場中決算発表銘柄は当日)に株価が10%以上上昇した銘柄のリストとなっています。

 業績の実績値が想定を上回って着地したもの、新年度業績見通しが市場コンセンサス水準を上回っているもの、増配幅や高水準の自社株買いなど株主還元策が予想以上に強化されたものなど、株価インパクトとなった要因はさまざまです(時価総額5,000億円以上の銘柄に関しては以下で詳細を記述)。

 決算サプライズとなった銘柄は、次回の四半期決算発表までは注目し続けられやすいと考えられます。全体相場の先行きに不透明感が強まる状況下や、物色の新たな手掛かり材料が乏しい中ではなおさらでしょう。

 とりわけ、セクター内での選別物色の対象となってくることで、業種内での相対的な株価の上昇傾向は続きやすいと考えられます。また、第1四半期決算発表が接近するタイミングでは、あらためて期待感も高まりやすくなります。

 さらに、高水準の自社株買い発表銘柄は、下値での需給下支え効果が大きく、増配によって配当水準が高まった銘柄は利回り妙味が下支えすることになるでしょう。なお、決算を受けて株価が上昇後、調整してきている銘柄などには押し目買い妙味が高まっているとも指摘できます。

(表)決算発表翌日(当日)の株価急伸銘柄

上昇日 コード 銘柄 株価 時価
総額
上昇日
終値
上昇日
騰落率
騰落率
4月26日 4205 日本ゼオン 1,434 3,291 1,590 12.41 ▲9.8
30日 6301 コマツ 4,646 45,243 4,755 11.52 ▲2.3
6503 三菱電機 2,817 60,475 2,773 15.88 1.6
9507 四国電力 1,466 3,042 1,311 11.06 11.9
5月9日 4732 USS 1,220 6,270 1,345 14.13 ▲9.3
7012 川崎重工業 6,105 10,251 5,607 14.27 8.9
8012 長瀬産業 3,117 3,675 3,064 13.48 1.7
10日 2875 東洋水産 11,290 12,518 11,505 14.25 ▲1.9
8334 群馬銀行 1,037 4,414 1,062 10.62 ▲2.4
13日 6315 TOWA 13,130 3,288 13,450 20.84 ▲2.4
8418 山口FG 1,790 4,202 1,823 13.09 ▲1.8
14日 1802 大林組 1,846 13,315 1,901 13.39 ▲2.9
5020 ENEOSHD 792 24,023 791 10.76 0.2
15日 3099 三越伊勢丹HD 3,063 11,954 2,654 13.57 15.4
6005 三浦工業 2,868 3,593 3,037 14.50 ▲5.6
16日 5991 ニッパツ 1,886 4,601 1,783 12.04 5.8
8253 クレディセゾン 3,338 6,190 3,206 11.75 4.1
21日 8725 MS&ADHD 3,302 53,103 3,149 13.79 4.9

(注)株価は5月27日終値、騰落率は上昇日終値から5月27日終値までの騰落率
(注)取引時間中の決算発表銘柄は上昇日が発表日当日

主力10銘柄(コマツ、三菱電機、ユー・エス・エス、川崎重工業、東洋水産、大林組、ENEOSHD、三越伊勢丹HD、クレディセゾン、MS&ADHD)

1 コマツ(6301・東証プライム)

 2024年3月期営業利益は6,071億円で前期比23.7%増となり、事前の市場コンセンサスを100億円超上回りました。建設機械・車両事業において、売上高が北米、中南米、オセアニアなどで増加し、販売価格の改善や為替のプラス影響もあって増収増益となりました。

 2025年3月期は5,570億円で8.3%減の見通しとしています。5,850億円前後の市場予想を下回っていますが、もともとコンセンサスも減益予想でした。中南米・アジアの建設機械の需要減少に加えて、1ドル=140円前提の為替動向も収益のマイナス要因とみています。

 年間配当金は2024年3月期が前期比28円増の167円、2025年3月期は横ばい水準を計画しています。2025年3月期の配当性向は45.5%となります。ちなみに、会社側では配当性向40%以上を目標としています。今回の決算サプライズにつながったのは、発行済み株式数の3.5%に当たる3,300万株、1,000億円を上限とする自己株式の取得実施を発表したことです。

 取得期間は4月30日~9月30日となります。懸念されていた減益見通し発表による悪材料出尽くし感に加え、想定以上の規模の自社株買い発表が株高要因となっています。

2 三菱電機(6503・東証プライム)

 2024年3月期営業利益は3,285億円で前期比25.2%増となり、ほぼ市場コンセンサス水準での着地となりました。新車販売台数増加による自動車機器分野の好調に加えて、ビルシステムや空調・家電なども増収増益のけん引役になっています。

 2025年3月期は4,000億円で21.8%増の見通しとし、市場コンセンサスの3,500億円レベルを大きく上回っています。

 1ドル=140円前提で為替はマイナス寄与となる見込みですが、FA(工場の自動化)システムの価格改善効果、空調機器の需要拡大などを見込んでいるようです。会社側業績計画はこれまで保守的な傾向が強かったため、期初段階での想定を上回る増益予想がインパクトになりました。

 2024年3月期年間配当金は50円で前期比10円増配となりました。2025年3月期は現在計画未定となっています。2022年3月期から2026年3月期までの5年間で、キャッシュ創出3兆4,000億円を見込み、そのうち6,000億円を株主還元に充てる方針です。

 2024年3月期まで3年間トータルの還元額は3,700億円程度と試算されます。今後2年間は、配当金や自社株買いの水準は大きく変化しないとみられます。今回の決算において、株主還元に関しては特に材料視されなかったものと考えられます。

3 ユー・エス・エス(4732・東証プライム)

 中古車買取専門店「ラビット」を展開する中古自動車オークション運営会社。2024年3月期営業利益は489億円で前期比11.8%増となり、市場コンセンサスを10億円強の上振れとなりました。オートオークションが出品増や成約増で拡大し、中古自動車等買取販売も販売台数増加で増収増益になりました。

 2025年3月期は515億円で5.2%増の見通しとし、増益率は低下するものの、コンセンサスを30億円程度上回る水準となっています。業界シェア向上による出品台数、成約台数の微増を見込むほか、手数料の値上げ効果などによって主力のオートオークション事業の堅調推移を見込んでいます。

 2024年3月期年間配当金は前期比7.9円増の75.4円、2025年3月期は1:2の株式分割考慮後で、2.5円増の40.2円を計画しています。配当性向は55.2%の水準となります。株式上場以来、25期連続での増配予想ともなっています。

 自社株買いも含めた総還元性向は過去3年間で60%以上の水準となっていましたが、2027年3月期までの期間はそれを80%以上に引き上げる方針です。配当性向は55%以上を維持することから、機動的な自己株式取得の実施が想定されることになります。総還元性向の大幅な引き上げがインパクトにつながりました。

4 川崎重工業(7012・東証プライム)

 2024年3月期事業利益は462億円で前期比43.9%減となりましたが、従来計画430億円を上振れる着地になりました。運航上の問題に係るエンジンの損失計上が響く形となったほか、精密機械・ロボットの操業低下も影響したようです。

 一方、2025年3月期は1,300億円と前期の約2.8倍の見通しで、1,150億円程度のコンセンサスを大きく上回る水準となっています。エンジン損失の一巡に加えて、パワースポーツ&エンジン事業において、メキシコ工場の稼働、オフロード四輪車の拡販などを織り込んでいるもようです。

 為替前提が1ドル=140円と保守的な中での想定以上の増益予想に、ポジティブなインパクトが強まりました。

 2024年3月期年間配当金は前期比40円減の50円となりましたが、業績急回復の2025年3月期は90円増の140円を計画しています。配当性向は30.1%となります。会社側の配当政策は、中期的な配当性向の基準として30%を挙げています。

 還元政策に関しての変化は今回みられませんでしたが、為替の前提や予備費予算の確保状況から見て、利益計画は上振れる公算が大きいことで、30%の配当政策に伴う2025年3月期の増配余地は大きいとみられます。

5 東洋水産(2875・東証プライム)

 2024年3月期営業利益は666億円で前期比65.4%増となり、市場コンセンサスを50億円程度上振れる着地になりました。海外即席麺事業における販売数量の増加や価格改定効果が大幅増益につながりました。円安メリットも寄与したもようです。

 2025年3月期は720億円で8.0%増の見通し。前期の上振れ分が大きく、市場コンセンサスを60億円程度上回っています。引き続き、海外事業における販売数量増加効果を見込んでいるようです。原材料価格も安定するとみています。なお、為替レートの前提は1ドル=151円としています。

 2024年3月期年間配当金は170円で前期比70円の増配、従来計画から50円の増配となりました。2025年3月期は前期比横ばいの170円を計画、配当性向は29.4%の水準となります。

 今回、今後の株主還元方針に関して明確な説明はなかったようですが、2026年3月期からの新たな中期経営計画期間入りに向けて、還元強化への検討は進められていくとみられ、市場の期待感は継続していくものと考えます。今回の決算では、海外事業の拡大による業績実績の上振れがストレートに評価されることとなりました。

6 大林組(1802・東証プライム)

 2024年3月期営業利益は793億円で前期比15.4%減となり、会社計画740億円を上振れる着地になりました。東京・八重洲を含む複数案件での損失引当や海外土木での貸倒引当計上などが主な減益要因となりましたが、国内土木や海外子会社の工事利益改善などが図れました。連結受注高も前期比13.1%増と拡大しています。

 2025年3月期は930億円で17.2%増の見通しとし、880億円程度の市場コンセンサスを大きく上回っています。国内建築における前期損失の反動や新規子会社の寄与などを見込んでいます。国内建築や海外土木を中心に受注高も引き続き伸長を見込んでいます。

 2024年3月期年間配当金は前期比33円増の75円、2025年3月期は5円増の80円を計画しています。配当性向は65.9%となります。3月に配当方針を見直しており、DOE(自己配当率)3%程度から5%程度に変更、前期大幅増配の背景となっています。会社側では、必要自己資本額と利益の状況に応じて、特別配当や自社株買いを実施するとしています。

 必要自己資本は1兆円目標ですが、2024年3月期末は1.15兆円の水準になっているため、今期中には特別配当の実施、あるいは自社株買いのアナウンスがなされる可能性は高いとみられます。

7 ENEOSHD(5020・東証プライム)

 2024年3月期営業利益は4,649億円で前期比65.3%増となり、市場コンセンサスを300億円程度上回りました。白油、化学品マージンの良化を主因としたエネルギー事業の改善がけん引役となりました。

 一方、2025年3月期は4,000億円で14.0%減を計画、在庫評価益を除いた実質ベースでは1.7%増の見通しになっています。市場コンセンサスは4,300億円程度であり、業績見通しに関してはネガティブな印象となります。補修費や人件費などのコスト増が市場予想以上に影響するようです。

 2024年3月期年間配当金は前期比横ばいの22円で、2025年3月期も同水準を見込んでいます。配当性向は31.3%の水準となります。

 今回ポジティブサプライズとなったのは、発行済み株式数の22.68%に当たる6億8,000万株、2,158億円を上限とする自己株式の取得実施発表です。2月に発表した上限500億円の自社株取得期間中であったため、水準はもちろん、タイミングも予想外でした。

 ポートフォリオ見直しによる財務体質の良化を今回の取得決定の背景としています。これで、2025年3月期の総還元性向は126%の高水準となります。

 当面の株価は需給要因が下支えとなって下値が堅い状況が続きそうです。

8 三越伊勢丹HD(3099・東証プライム)

 2024年3月期営業利益は543億円で前期比83.6%増となり、市場コンセンサスを30億円程度上回っています。伊勢丹新宿本店の売上高が過去最高を更新したほか、三越日本橋本店や銀座店の売上も大きく伸長しました。経費構造改革の効果で販管費の抑制も図れました。

 2025年3月期は640億円で17.7%増の見通し、570億円程度の市場コンセンサスを大きく上回っています。インバウンド(訪日外国人)好調も見込んで百貨店売上の一段の拡大を見込むほか、経費コントロールを全社レベルに広げることで販管費の抑制も続く見通しです。コスト削減進展などは市場の期待以上とみられます。

 2024年3月期年間配当金は前期比20円増の34円、従来計画から2円上乗せとなりました。2025年3月期は10円増配の44円を計画しています。

 また、発行済み株式数の2.3%に当たる850万株、150億円を上限とする自己株式の取得実施も発表、取得期間は5月15日~10月31日としています。会社側では総還元性向50%を意識するとしており、2025年3月期は59.5%の水準となります。

 期初の計画にとどまらず、利益や投資計画の進捗(しんちょく)および株価水準を注視し、随時追加の還元も検討としています。経営の株価に対する意識の強さもうかがえます。決算数値、株主還元ともに評価が高まった銘柄の代表格です。

9 クレディセゾン(8253・東証プライム)

 2024年3月期事業利益は719億円で前期比18.0%増となり、従来計画の700億円を上回る着地になりました。ショッピング収益が順調に推移したほか、前年の貸倒引当金計上の反動でペイメント事業が大幅増益となり、不動産関連事業のセゾンファンデックスの利益貢献やスルガ銀行の持分法適用化でファイナンス事業も伸長しました。

 2025年3月期は770億円で7.0%増の見通しです。市場コンセンサスを小幅に上回る水準とみられます。1年前倒しで中期計画を達成したため、2027年3月期までの新中計を策定しました。事業利益は1,000億円目標とし、インドを中心としたグローバル事業の拡大を想定しています。

 2024年3月期年間配当金は105円で前期比35円の増配、2025年3月期は横ばい水準を計画しています。配当性向は32.9%となります。新中計期間中の配当性向は30%以上をめどとしています。

 また、発行済み株式数の15.2%に当たる2,500万株、500億円を上限とする自己株式の取得実施も発表しています。会社側では中計期間中に自己株式取得700億円を計画しているようです。政策保有株式の70%相当縮減目標なども含め、資本効率向上に向けた取り組みへの意欲が強く感じられ、ポジティブなインパクトにつながりました。

10 MS&ADHD(8725・東証プライム)

 三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険などを持つ険持株会社です。2024年3月期グループ修正利益は3,799億円で前期比71.0%増となり、2023年11月時点での予想2,800億円を大幅に上振れました。資産運用損益増加で国内損保事業が拡大したほか、MS Amlinの収支改善など海外子会社の寄与も大きかったもようです。

 2025年3月期は6,300億円で同65.8%増を計画しており、これは市場コンセンサスを1,000億円以上上回る水準とみられます。政策株式売却加速による売却益増加で、国内損保事業の大幅増益を見込んでいるようです。自動車保険や火災保険の料率引上げ効果などによるアーンド(既経過)保険料増加も見込んでいるようです。

 2024年3月期年間配当金は270円で前期比70円の増配とし、2025年3月期は1:3の株式分割考慮後で前期比55円増の145円を計画しています。配当性向は37.7%の水準となります。45円は特別配当となりますが、今期の増配幅の大きさはサプライズにつながったとみられます。

 また、発行済み株式数の8.2%に当たる1億3,000万株、1,900億円を上限とする自己株式の取得も発表しています。会社側では、2030年3月期までに政策株式残高をゼロとすることを目標とし、売却に伴うグループ修正利益の50%を株主へ還元するともしています。損保大手各社の中でも還元策に対する積極性は最も高かった印象です。

(佐藤 勝己)

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