[今週の日経平均&株式市場]日米金融政策イベントでどうなる?~動くのは「森」か「木」か~
トウシル / 2024年6月10日 12時14分
[今週の日経平均&株式市場]日米金融政策イベントでどうなる?~動くのは「森」か「木」か~
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「【テクニカル分析】今週の日経平均&株式市場 日米金融政策イベントでどうなる?~動くのは「森」か「木」か~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し>」
今週は、米国のFRB(米連邦準備制度理事会)がFOMC(米連邦公開市場委員会)を11日(火)から12日(水)に開催するほか、国内でも日本銀行が金融政策決定会合を13日(木)から14日(金)にかけて開くなど、「金融政策イベント」ウィークになります。
基本的な今週の相場シナリオは、こうした日米の金融政策イベントの動向を見極めつつ、主に以下がポイントになります。
- 米FOMCの結果が出てくるまでは様子見の可能性が高そう
- 今回の米FOMCでは政策の変更はない見込み
- パウエルFRB議長の記者会見で米利下げ開始時期の言及があるかが焦点
- 米利下げ観測が後退しなければ、イベント通過で全体的に株価が上昇しやすい
- 日銀会合では何らかの政策変更(国債購入額の減額など)があるかに注目
このあとも、チャートをいくつかチェックしていきますが、先週の米国株市場では、利下げ観測の高まりによって、S&P500種指数やNASDAQが最高値を更新する場面を見せるなど、相場の地合いは米金利の動向に敏感に反応しやすくなっています。それだけに、とりわけ米FOMCの行方が市場のムードを左右することになりそうです。
市場では、米FOMC通過後の米利下げ観測が、「維持・前進すれば買い」、「後退すれば売り」といった具合に、市場全体として方向感が明確になってくるという見方が優勢ですが、実際のところ、株式市場の反応はそう単純なものではないかもしれません。
そこで、今回のレポートでは、どこに注意を払ったら良いのかなどについて確認して行きたいと思います。
まずは、先週の日本株の状況から見て行きます。
意外に「ちぐはぐ?」だった、先週の日本株
図1 日経平均(日足)とMACDの動き(2024年6月7日時点)
先週末6月7日(金)の日経平均株価終値は3万8,683円でした。前週末終値(3万8,487円)比では196円高、週間ベースでは3週ぶりに上昇に転じています。
ただし、上の図1の通り、チャートの形状自体は前回とあまり変わっていません。75日移動平均線に沿った株価推移が継続し、株価の上値は75日、下値は25日の2本の移動平均線に挟まれたわずかな範囲内での動きにとどまったほか、下段のMACDの傾きがほぼ横ばいで、「0円ライン」の攻防が続いています。
つまり、先週の日経平均は、「週間ベースで株価が上昇したほどの強さを見せていなかった」と言えます。
その一方、TOPIX(東証株価指数)についてもあまり状況は変わっていませんが、日足チャートから受ける印象は日経平均とは異なります(下の図2)。
図2 TOPIX(日足)とMACDの動き(2024年6月7日時点)
先週末7日(金)のTOPIX終値は2,755pでした。
前週末終値(2,772p)からは下落したものの、25日移動平均線が下値のサポートになっているほか、週初3日(月)の取引時間中には節目の2,800p台に乗せる場面があるなど、上値を試す動きも見られました。
また、4月終盤以降のTOPIXは、図2にも描かれているように、「ネックライン」が抵抗となる形で、度々上値をトライしています。今週以降の株価も再びネックラインへ向かうのであれば、3月22日の直近高値を超える可能性があるほか、1989年12月18日につけた史上最高値(2,884p)も視野に入るところに現在の株価は位置しています。
そのため、先週のTOPIXは、「週間ベースで株価が下落した割には、意外としっかりしていた」と言えます。
このように、先週の日経平均とTOPIXの動きを振り返ると、相場の方向感に欠けているという共通点はありますが、チャートから受ける印象は異なるという、「ちぐはぐ」さがあります。
最高値を更新してきた米S&P500とNASDAQ
続いて、先週の米国株市場の動きについても見て行きます。
冒頭でも触れましたが、先週のS&P500とNASDAQは、米国の利下げ観測の高まりによって、最高値を更新する場面を見せています(下の図3~図5)。
図3 米NYダウ(日足)とMACDの動き(2024年6月7日時点)
図4 米S&P500(日足)とMACDの動き(2024年6月7日時点)
図5 米NASDAQ(日足)とMACDの動き(2024年6月7日時点)
こうした、米利下げ観測の温度感で株価が上下する展開は今週も続きそうです。
図3から図5の米株価3指数(ダウ工業株30種平均・S&P500・NASDAQ)のチャートを見ると、いずれも週末7日(金)のローソク足が上ヒゲの長い線となっています。上ヒゲは「高値をとりに行ったが、押し戻されてしまった」状況を表しています。
この日に公表された米雇用統計(5月)が、利下げ期待を後退させる結果(非農業部門雇用者数や平均時給の予想以上の伸びや失業率の上昇など)だったことが、その背景として挙げられます。実際に、米雇用統計の結果を受けた7日(金)の米10年債利回りは、前日の4.2%台から4.4%台へと上昇しました(下の図6)。
図6 米10年債利回り(日足)の動き(2024年6月7日時点)
もっとも、米雇用統計の結果が、仮に利下げ期待自体を覆すほどの内容だったのであれば、米10年債利回りがさらに上昇し、株価も大きく下落したと考えられるため、今回の米雇用統計の結果は、「まだ一応、利下げ観測は維持できる範囲内の内容」だったと言えます。
先週の日本株が米国株の上昇に乗り切れなかったワケ
ここで話を再び日本株に戻すと、良くも悪くも先週の米国株の上昇に乗り切れなかったわけですが、その要因としていくつかの理由が考えられます。
具体的には、今週開催予定の日銀金融政策決定会合で、「国債買い入れ額の減額などの政策変更が行われるのではないか?」という観測による国内金利の上昇や円安後退をはじめ、国内自動車企業による認証不正問題の浮上、海外アクティビストがレーザーテックに対して不正会計を指摘したレポートを嫌気する動き、実質賃金が25カ月連続でマイナスとなっている国内景況感への警戒などが挙げられます。
また、こうした相場環境の中、金利上昇で買われてきたバリュー株(自動車、海運、銀行、保険など)に陰りが見られたことや、その反対に、金利低下で買われやすいグロース株の上昇についても、銘柄によってその勢いがまちまちとなっていることなど、これまでとは少し異なる様相を見せ始めており、今週の日米の金融政策イベントによって再び相場の流れを取り戻せるかも焦点となりそうです。
米国株も相場全体として上昇するのは難しい?
仮に、今週の米FOMCで利下げ観測が維持された場合、前回のレポートでも指摘した通り、市場の初期反応は、いったん「業績相場」を見越して上昇していくと思われますが、利下げ決定後も景況感の悪化傾向が続いてしまった場合には、これまで織り込んでこなかった「逆業績相場」へと逆回転する動きも一部で出てくることが考えられます。
図7 日米の主要株価指数(日足)の指数比較チャート(2023年末を100)
上の図7は昨年末を100として、日米の主な株価指数の年初からのパフォーマンスを比較したものです。図の中央あたりにグレーで塗りつぶされている部分は、4月半ばにかけて株価が急落した場面を示しています。
年初から現在までの状況を見ると、日本株(TOPIXや日経平均)のパフォーマンスは、SOX指数(米主要半導体銘柄で構成される株価指数)に続く高いところに位置しているのですが、4月半ばの株価急落前の高値を上回っている株価指数は、SOX指数とNASDAQ、そしてS&P500の3つのみとなっています。
TOPIXは図2でも見てきたように、高値更新が視野に入っていますが、日経平均は3月22日の高値(4万1,087円)まで、まだ距離を残しています。
さらに、NYダウは5月半ばに4万ドルの大台に乗せたものの、その後は失速、米中小型銘柄で構成されるRussell(ラッセル)2000は、先週末7日に初めて昨年末比でマイナスとなるなど、株価指数のあいだにかなりのバラツキが出始めていることがうかがえます。
とりわけ、構成銘柄(中小型株)の性質上、金利や景気の影響を受けやすいとされるRussell2000が冴えない動きとなっていることから、米国株市場でも景気の後退を想定する動きが出始めている可能性があります。
そのため、米国株市場でも、足元でパフォーマンスの良いグロース銘柄を中心に、「買える銘柄」を選別する動きが進むことが想定されますが、その代表格は、やはり米半導体企業のエヌビディア(NVDA)株になりそうです。
図8 米エヌビディア(日足)とMACDの動き(2024年6月7日時点)
上の図8は、米エヌビディアの日足チャートです。
エヌビディア株は5月22日の決算発表後も株価を伸ばし、先週も6日(木)の取引時間中に高値を更新したほか、週末7日の終値でも節目の1,200ドル台に乗せるなど、好調な値動きとなっています。
エヌビディア株の強さについては、好調な業績と見通し期待が続いているだけでなく、新しいAI向け半導体の投入計画が発表されたことをはじめ、今週10日(月)に「1対10」の株式分割が実施されることや、それに伴うNYダウ銘柄採用の思惑、そして、大企業のテック銘柄という財務面での安心感によるディフェンシブ性など、とにかく話題が尽きない印象です。
特に、ディフェンシブ性については、先ほども述べたように、景気後退が警戒されつつある状況下では、今後の銘柄物色の手掛かりとして重要視されやすくなると思われます。
その場合、例えば、かつて「BIG5」と呼ばれていた大手テック株(メタ・プラットフォームズ(META)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)、アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット クラスA(GOOGL))などが候補に挙がるかもしれません。
したがって、今週の日米金融政策イベント後の市場の反応は、相場全体の方向感という「森」で動くには制約が多く、それよりも、どの銘柄が取引を集めるかという個別の「木」に注目することが大切になりそうです。
(土信田 雅之)
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