米雇用市場が強いって、本当ですか? 6月米雇用統計 詳細レポート
トウシル / 2024年7月3日 14時20分
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米雇用市場が強いって、本当ですか? 6月米雇用統計 詳細レポート
FOMC(米連邦公開市場委員会)が6月の会合で公表した最新の経済見通し(SEP、Summary of Economic Projections)によると、メンバーの過半数が、今年の利下げ見通しを「1回(以下)」と予想していることがわかりました。3月時点では3回でした。
FOMCが利下げに慎重になる理由は、米国の労働市場のせいです。先月発表された5月の雇用統計のNFP(非農業部門雇用者)は27.2万人増と、事前予想の19.0万人増を大幅に上回りました。また平均労働賃金は、前月比0.4%上昇し、4月の0.2%増から上振れしました。
毎月25万人を超える就業者増加や、労働賃金上昇率の高止まりは、雇用統計の過熱状況がFRB(米連邦準備制度理事会)のインフレ目標達成を遠ざけるという懸念を強めます。
とはいえ、利下げ回数は、あくまでも現時点での「見通し」です。今後発表される経済データによっては2回に増える可能性もあります。FRB(米連邦準備制度理事会)のウォラー理事も、決定するまでに「あと数ヵ月は様子を見る必要がある」と述べています。
雇用統計は、9月18日のFOMC会合までにあと3回(今回、8月14日、そして9月11日)発表されます。9月会合の前には、世界各国の中央銀行総裁や政治家が集まるジャクソンホールのシンポジウムが開催されます。もしFRBが9月に利下げするのならば、パウエルFRB議長が世界の金融市場に伝える絶好のチャンスとなるでしょう。
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6月雇用統計プレビュー
BLS(米労働省労働統計局)が7月5日に発表する6月の雇用統計では、NFPの予想は、前月より約8.4万人少ない18.8万人増となっています。失業率は前月と変わらず4.0%で、平均労働賃金は前月比0.3%増(前月0.4%増)、前年比3.9%増(前月+4.1%増)の予想です。
FRBは、雇用者の増加数の適正水準を20万人前後と考えているようですが、
その水準を今月下回るならば、2カ月ぶりということになります。とはいえ、米国の就業者は半年間で約160万人も増えています。米雇用市場の過熱状態はまだ続いています。
最近の雇用統計は、予想と発表値、発表値と修正値の差がかなり開く傾向があります。4月の雇用統計のNFPは、25.0万人増の予想に対して17.5万人増と、7.5万人下回りましたが、5月は逆に、19.0万人の予想に対して27.2万人増と8.2万人も上回りました。さらに、翌月には大幅な下方修正や上方修正もあるので、果たしてどれが正確な数字なのかわかりません。これはコロナ禍後に起きている冬と夏の季節変動の振幅の減少、いわゆる季節性の喪失という構造変化にBLSの季節調整モデルが十分に対応していないことが原因のようです。
雇用統計は、予想と結果のギャップに毎回大騒ぎするよりも(それはそれで楽しいのですが)、雇用市場の変化が及ぼすマクロ的な影響により注目するべきでしょう。
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雇用統計は、予想よりもトレンドが大事!
米国の雇用市場は、FRBが懸念するほど過熱しています。BLSの雇用統計によれば、昨年12月から今年5月までの半年間で、米国では約160万人の就業者が増加しました。その一方で、同期間に25万人の雇用が減ったという統計もあります。毎月の非農業部門雇用者数が多いにしても少ないにしても、その数字が正確であるかどうかは疑問なのです。
コロナ禍以降、米国の雇用市場は急速に変化しています。在宅勤務やフレックス制などの働き方、ネット販売などの小売スタイルの変化、ギグワークやフリーランスの増加、インフルエンサーといった新しい「職業」の登場、セルフレジやセルフサービス、ボランティア活動の普及、早期退職(FIRE)をする人、ミッドライフ・クライシス(中年期の危機)を乗り越えて仕事にとどまる選択をした人、テレワークによる地方移住など、これまでにない仕事スタイルが労働市場に影響を与えています。しかし、雇用統計はこれらの変化を十分に捉えていないようです。
雇用統計が発表され第一金曜日は、市場参加者が毎月楽しみにしているお祭りの日ですが、予想と実績のギャップに毎回大騒ぎするよりも、よりマクロ的な影響に注目すべきです。例えば、失業率が過去最低水準にあることは、仕事を失う恐怖が薄れていることを意味します。将来に備えて貯金するよりも、今お金を使おうとする人々が増えていることは、米国の景気を支える重要なファクターです。
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また、実質賃金の伸びが緩やかになり、名目賃金の伸びが鈍化することは、米国経済がデフレやハードランディングを回避し、緩やかなインフレの状態でソフトランディングを果たすことを示しています。米国経済の「ゴルディロックス」状態(過熱も冷え込みもない適度な状況)が続く期待が高いということであり、米国資産にとって良いニュースとなります。
労働市場の構造変化は、働き方スタイルを一変させますが、その反動として「全社員はオフィスに戻るべき」といった復古主義(コロナ禍前の昔に戻りさえすれば、全てがより良くなるという主義)の危険な考え方がはびこることがあります。変化を認識し、それに適応する方がはるかに生産的です。
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(荒地 潤)
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