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年金問題の正しい見方:【年金財政検証】で投資家がミスリードしてはいけないこと

トウシル / 2024年7月6日 11時0分

年金問題の正しい見方:【年金財政検証】で投資家がミスリードしてはいけないこと

年金問題の正しい見方:【年金財政検証】で投資家がミスリードしてはいけないこと

関連記事:【年金財政検証】年金破綻論に騙されるな!個人投資家は、将来の年金をどれくらい織り込むべきか

7月3日、国の年金財政検証結果が公表

 7月3日、国の年金財政検証結果が公表されました。社会保障審議会(年金部会)で行われたもので、厚生労働省WEBに当日用いた資料は開示されていますので、誰でも閲覧することができます。

 参考:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証の資料

 財政検証は、国全体としての年金制度運営に支障がないかシミュレーションを行い判断する取り組みです。いくつかの経済指標を前提に置いて試算をするほか、オプション試算としても「もし、この法律改正を行ったら」というような試算も行っています。

 これを参考にしつつ、次の年金改正の議論が行われることになります。しかし、公表翌日以降の報道は、やはりというか不安をあおるような見出しが多かったように思います。

 それでも5年前、10年前と比べればまだトーンは抑えられているかなという印象です。なぜなら、年金運用は好調かつ、女性と高齢者の労働環境が大幅に進展したことがプラスになったため、「ほら、破綻するじゃん」みたいな批判を加えにくい結果となったためです。

 今回のコラムは、「個人投資家が、ミスリードしたくない年金財政を理解するポイント」をまとめてみたいと思います。

悪い数字は、悪い前提で作っている試算 当然のことだから気にしない

 まず、悪い数字(所得代替率が50%前後まで低下する)のような試算についてはあまり気にしないことです。それは「悪い経済見込みで試算をしたら、悪い結果になった」ということに過ぎないからです。

 正直なところ、所得代替率が個人にとってどこまで役に立つかは疑問な数字です(制度の検証には必要だが)。「50.4%」という結果は、実質経済成長率が年マイナス0.1%が30年後まで続くという仮定に基づいています。

「33~37%」まで下がる前提は、マイナス0.7%の経済成長が続き、かつ年金制度の改正をまったくせずに放置し続けた場合の仮定です。後者はほとんど意味がありません。

 すなわち、過去の議論の経緯も含めて、「悪い可能性も示せ!」となったので、経済成長率が数十年にわたって実質マイナスであるような、ほとんど非現実的な数字も前提に置いて試算をかけています。代入した数字が悪ければ、試算結果が悪いものになるのは当然です。

 また、年金財政検証結果を理解するときは、「国の経済成長そのものが年金財政の安定化につながる」と考えればいいのです。むしろ悪い前提を置けば悪い試算結果が出るというわけですから、年金官僚が数字をいじってごまかすレベルではない、ということを正直に示している試算結果ともいえます。

 普通の人の理解であれば真ん中で読み解けば十分だと思います。そうすると、現在の所得代替率が61.2%のところ、57.6%までしか下がらないという結果になります。もちろん制度運営が破綻せずに続くことは間違いありません。

 一方、マスコミがよく用いる年金破綻の定義もあいまいで、給付がまったく不可能になる、ということだとしたらそれはありえません。すでに保険料収入と年金給付はバランスさせる仕組みが整備済みです。20年ないし30年後に問題がある、という試算が財政検証結果で出たとしたら、それに合わせて法改正をするからです。

 そして、今回はそういう事態にはなっていないのです。

公的年金運用は好調かつ重要だが、実際のところ決定的ではない

 個人投資家の多くは国の年金運用を行っているGPIFの運用状況が好調であることはご存じのことでしょう。皆さんの投資のベンチマークとしてGPIFの成績を横目に、にらんでいる人もいるはずです。

 しかし、中長期的にブレずにGPIFと同等の運用をしていくことは個人にとっても重要ですが、近年の年金運用の結果は良好に推移しています。これをもって「年金財政は問題なし」と考えるのも、ちょっとミスリードです。

 四半期ごとの運用実績がマイナスになるたび「年金運用マイナス」と報じるマスコミもミスリードですが(増えたときには小さくしか報じない)、実のところ、年金運用が決定的に年金財政を改善するわけではないのです。

 厚生労働省の資料によれば、100年くらいの試算をしても年金積立金が給付に使われる割合は1割程度とのことです。私たちはなんとなく、年金運用が国の年金財政の半分くらいを左右するように思っていますが、9割方は保険料収入と国庫負担で賄われます。

 つまり、保険料は働く人が稼いだお金の一部を納めるものであり、国庫は税負担の一部が回るものです。どちらもリアルな経済の営みこそが年金制度を支えるということです。

 確かに、年金運用が好調であることは年金財政の安定性に寄与しますし、数ポイントくらいは所得代替率にもプラスの影響を及ぼします。しかし、GPIFの運用の巧拙が、年金財政の安定性を確保する本丸である、とは考えないことです。

 とはいうものの、GPIFなどの年金運用は重要です。少なくとも物価上昇率や賃金上昇率を上回る運用成績を確保し続けていかなければなりません。このあたりは、理解するのが難しいところですが、個人投資家であれば知っておきたいところです。

結局のところ、日本経済の発展が年金制度の安定性を高める

 今回の年金財政検証結果も、試算を行う前提の数字がいくつか示されていますが、複数の「ケース」に違いがあり、年金財政そのものに影響を及ぼすことに着目してもらいたいと思います。

 例えば、年金制度にプラスの影響を与える要素を整理するとこのような感じです。

  • 国内の持続的な経済成長
  • 物価上昇を上回る賃金上昇
  • 女性や高齢者の雇用促進
  • 少子化対策の奏功
  • 年金積立金運用の超過収益
  • (日本人が長生きしなくなること)

 いずれも、それひとつで年金制度を革命的に好転させることはありません。また、官僚だけがどうこうするものではなく、国全体で取り組むべき課題が多いことが分かります。官僚の不作為や悪意によって年金制度が悪化していくような言説もしばしば見られますが、それもミスリードです。

 話を簡単にするために、問題を一つに絞ろうとする論説も多いので(例えば少子化→年金不安増だけ取り上げるなど)、これにも応じないことが大切です。

 さて、いくつかポイントをまとめてみましたが、これ以降、年金財政検証結果に関する記事を見る目が少し変わってくるのではないかと思います。

 ミスリードされた解説に引きずられて、あなたの運用方針がリスク過剰になってしまうことは絶対に避けなければならないことです。ぜひ、あおり系記事に引きずられないようにしてください。

(山崎 俊輔)

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