「もしトラ」トレード始まる~7月のビットコイン見通し~
トウシル / 2024年7月5日 7時30分
「もしトラ」トレード始まる~7月のビットコイン見通し~
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著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「【暗号資産】7月のビットコイン見通し~「もしトラ」トレード始まる」
6月のビットコインイベント
NEW! 6月4日 | BTC ETFオーストラリアでローンチ、タイ証券取引委員会も承認 |
NEW! 6月24日 | Mt.GOX 7月初めから14万BTC債権者に弁済 |
*2024年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。
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材料面から見た7月見通し
6月の振り返り
6月のビットコイン価格(円)とイベント
6月のBTC相場はレンジ内で上限・下限に跳ね返される展開。
BTCは3月にドル建てで史上最高値を更新した後は、5万9,000~7万4,000ドルのレンジで取引が続いていたが、5月初に5万6,000ドル台と一時レンジを割るも切り返し、下旬には7万2,000ドル手前まで上昇し、レンジの上限に迫った。
6月に入ると、再度のレンジの上限をトライするも、前月同様7万2,000ドル手前で跳ね返されると、月末にかけては一時5万8,000ドル台を付けるなど、今度はレンジの下限をトライする展開となった。
ただし、6月27日の米大統領選挙TV討論会で、バイデン現大統領が精彩を欠き、「トランプ新大統領」が誕生した場合を想定した取引が始まり、BTCは6万3,000ドル付近まで値を戻している。
FF先物利下げ織り込み回数
ファンダメンタルズは比較的追い風だった。月初の雇用統計は強めに出たが、注目のCPI(消費者物価指数)は予想を下回った。そうした中、FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーの予想に反して、先物市場での年内の利下げの織り込みは1回から2回に上昇、BTCには追い風となった。
また、BTC現物ETF(上場投資信託)への資金フローが相場を押し上げた。5月13日から4週間で40億ドルの流入となり、6月7日にはBTCは5月に付けた円建て史上最高値1,124万円に肉薄した。
しかし、翌週からETFフローがマイナスに転じると相場は一変、月末にはMt.GOX(マウント・ゴックス:2014年に大量のビットコインを失ったことをきっかけに破綻した、東京都に拠点を構えるビットコイン交換所)が、7月初めから90億ドル分のBTCを債権者に弁済するとしたことが嫌気され、一時930万円台まで急落した。
BTC ETFフローとBTC/USD
レンジの上限を抜けきれなかった理由
2月から3月にかけて記録的なETFフローでBTC相場は大きく上昇、その後、フローの一服とともに5月13日から19営業日連続、4週間で40億ドルの流入が見られ、史上最高値更新は時間の問題かと思われた。しかし、6月に入りフローが増加したにもかかわらず、相場は上げ渋った。逆にそれから2週間で13億ドル流出したが、相場の下げは限定的だった。
この背景にヘッジファンドらのBTC現物ロング、CME(シカゴ先物取引所)先物ショートの裁定取引の存在が指摘された。現物を保有するには資金コストと保管コストがかかるため、その分だけ理論的には先物価格が高くなる。先物価格が高くなると先物を売って、現物を買っておけば期日に差額がもうかる計算となる。
これまでのBTC市場では、この現物保管に難があったため、こうした裁定取引はそれほど一般的ではなかったが、現物の保管コストを劇的に減少させるBTC ETFが誕生したことにより、こうした取引が膨らんだ。
特に3月末の機関投資家の保有残高報告で大手ヘッジファンド、ミレニアムが20億ドル分のBTC ETFを保有していることが判明、5月から6月にかけてさまざまなプレーヤーが参入した結果、CMEのBTC 先物におけるレバレッジド・ファンドのショートポジションが過去最高水準に膨らんだ。
こうした取引の相場への影響はフラットとなるため、フローが増えた割に相場が上がらないという事態が生じたわけだ。実際、6月28日期日の先物価格と現物価格は6月初に500ポイント以上の乖離(かいり)があったが、裁定取引が続いた結果、ほぼ解消している。
BTC現物価格とCME先物価格
月末の急落の背景
半減期により発行量が4年に一度半分になるBTC市場は、供給要因により4年サイクルを描く傾向がある。供給が減れば価格が上昇するが、すでに供給減が分かっているせいか、半減期に向けて期待先行で上昇する一方、半減期を過ぎると半年から1年程度低迷する傾向がある。
というのは、半減期で供給が減る半面、それを収入としているマイナーの採算が悪化し、資金繰りに困ったマイナー勢の在庫売りなどが上値を押さえる展開だ。データ解析会社によれば6月に入ってマイナーの在庫が20億ドル分減少したもようで、こうした売り圧力が相場の上値を押さえているもようだ。
BTC半減期の価格イメージ
もう一つ、Mt.GOXや米独政府の保有分の売却懸念がある。前者については7月初から債権者に対し14万BTCの弁済が開始する。これが売り圧力となると懸念され、相場は大きく下落した。Mt.GOXは2013~2014年当時、世界のBTC取引の7割を占め、ハッキング被害に遭って失った85万BTCは、当時の発行残高の7%程度に相当する伝説的な存在だ。
ただし、今回市場に出回る14万BTCはブラックロックのビットコイン現物ETF 「IBIT」が保有する30万BTCの半分以下だ。それでも巨額であることに違いはないが、受け取った債権者が、ただちに全額を売るわけではない。その割に市場は1月から3月の上昇の4割以上が下落するのはやや下げ過ぎだったか。ちなみに今年に入りBTC ETFが購入したのは約52万BTC。
仮に14万BTCの半分が売りに出たと仮定すれば1割強という計算となる。
このように個別の需給分析には弱点がある。ブロックチェーンから個別フローをある程度把握することができるようになったが、すべてを把握できるようになったわけではない。しかし、いわゆるオンチェーン分析(ブロックチェーン上に記録されたデータを分析する手法)では、(ブロックチェーン上に記録されたデータを分析する手法)では、判明した一部のフローの影響を過大評価しがちだ。
市場における売りと買いの数は常に同じで、売る事情があれば、買う事情もある。例えるなら、これまで信じられていた病気の原因が、全ゲノム解析の結果、見当違いだったといったことはよく聞く話だ。
月末月初の切り返し
もう一つ、大きな材料が月末に到来した。6月28日の米大統領候補者討論会では、期待に反して暗号資産への言及はなかったが、話した内容よりもバイデン大統領の覇気のなさが目立ち、ニューヨークタイムズやワシントンポストといった民主党寄りとされるメディアがこぞって候補者の交代の必要性を報じた。
CNNの調査では討論後、候補者の交代が必要とする視聴者が7割に上ったもようだ。しかし、実際には候補者を交代する手続きの煩雑さに加え、残された時間でトランプ氏を凌駕(りょうが)することは困難と考えたせいか、民主党幹部は交代説の火消しに回っているとされる。
こうした中、減税策による財政悪化から米債券が売られ、景気回復を見越した米株買い、また2016年の就任時の記憶もあり米ドルが買われるなど、「もしトラ(もしもトランプ氏が大統領になったら)」ディールともいうべき動きがみられた。そうした中、米長期金利が上昇、ドル買いにもかかわらず、BTC価格は上昇している。
材料面から見た7月のBTC相場
材料面から見ると、7月のBTC相場は、上値は重いが底堅い展開が続きそうだ。
まずファンダメンタルズでは9日に予定されているパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の議会証言が注目される。というのは、足元ではFRBは年1回、市場は年2回と想定している利下げ回数に乖離がある。年2回の場合でも、早くて9月FOMCから利下げを開始する形となるが、その判断は9月のCPIを見てみないと何とも言えない。
従って、市場の見方が変わる可能性は低い。一方で、FRBが見方を変える可能性は十分にある。特に(学者でなく)サラリーマン出身のパウエル議長が政権や議会に忖度(そんたく)する可能性は残っている。従って、この材料では基本もみ合いだが、あるなら上方向か。
次に需給面をみてみよう。ETFフローは、ふたを開けてみないと分からないものの、7月、8月とホリデーシーズンが本格化する中で、機関投資家のフローが活発化する可能性は高くなさそうだ。当初7月4日以前ともいわれていたETH ETFのローンチも遅れている。
7月8日以降との話だが、月内にローンチすればポジティブ材料となるが、BTCと同様に当初は少しが入り、本格的に影響が出るのは8月以降ではないだろうか。
Mt.GOXの関連の売りは未知数だが、少なくとも買い材料にはなるまい。また半減期サイクルでマイナーの売りによる低迷期に入っており、需給的には横ばいないし、あって下方向か。
最後に、にわかに浮上した「もしトラ」ディールの影響。今後は共和党の支持率が上がればBTC買いといった展開が到来しそうだが、次回TV討論会は9月10日で、事態が7月中に大きく動く可能性は高くなさそうだ。
報道では、バイデン大統領を候補から下ろそうという動きがある一方で、そうした懸念を払しょくするために民主党が党大会を前倒しにしてバイデン指名を確定させようとする動きもあると聞く。
ただ、前者の場合、民主党が一体となって支持できる候補を擁立するのは困難だという見方もあり、どちらに転んでも現段階でのトランプ優勢は変わりそうもなく、一方で、7月の段階で勝者を決めつけることはできない。
このように材料面では7月の相場は決め手の欠ける展開が予想される。
テクニカル面で見たBTC相場見通し
BTC/USD
BTCは3月半ばにドル建てで史上最高値を更新して以降、横ばいレンジで推移している。5月1日に付けた5万6,000ドル台から反発、レンジの上限をトライしたが5月21日、6月7日と7万2,000ドル手前でダブルトップを形成して反落した。
6月23日にこの上昇の半値押しとなる6万4,000ドルをクリアに割り込むと翌24日には5万8,000ドル台まで急落した。しかし、そこから反発すると、サポートだった6万4,000ドルがレジスタンスとなっている。
先月「レンジ内で2往復して3往復目に差し掛かっているイメージで、いつレンジを上抜けしても不思議はないが、過去のパターンで見るともう少しもみ合っても不思議はない」と申し上げたが、3往復目の下値を固めている段階だ。
今後の展開だが、その6万4,000ドルは一目均衡表の雲の下限であり、かなり強めのレジスタンス。さらに、ここを抜けても、6月の下落の半値戻しとなる6万5,000ドル、ダブルトップのネックラインとなる6万6,000ドルとレジスタンスが並んでいる。
材料次第ではあっさり抜ける可能性もあるが、普通に考えれば上抜けにはもう少しこの水準でもみ合って力をためる必要がありそうだ。
BTC月別騰落一覧
恒例の月別のアノマリーでは、6月はどちらかといえば強めの月だったが、小幅陰線に終わった。7月も比較的強めだが、過去13年で8回陽線でこれも6割強で、強気予想の根拠とまでは言い難い。陽線から陰線に転じた次の月に陽線となるか陰線となるかについても目立った偏りも見られない。7月は横ばい推移となる可能性が高そうだ。
7月見通し
6月の相場はレンジ内での横ばい圏での取引を予想する。先月は「材料的には6月中は決め手に欠くが7月以降上昇しそうな雰囲気」と申し上げた。6月は予想通りレンジ内での推移だったが、7月も決め手に欠けそうだ。
テクニカル的にはレンジ内で3往復目に入った形で、下抜けの可能性は残るが、上昇フラッグに近い形状となっており、セオリーで言えば次は上抜けだと考えるが、それにはもう少し時間がかかりそうだ。
2024年 時事イベントと暗号資産イベント(最新順)
5月24日 | ETH ETF承認 |
5月23日 | 米下院FIT21可決、民主党からペロシ含む71名造反 |
5月15日 | 退職年金運用するウィスコンシン州投資委員会、ビットコインETF保有 |
5月9日 | トランプ候補、暗号資産支持を明確化 |
5月1日 | バイナンスCZ前CEO禁固4カ月 |
4月20日 | BTC半減期 |
4月4日 | ビットコインキャッシュ(BCH)半減期 |
3月13日 | ETHデンクンアップデート |
3月5日 | ドル建てで史上最高値更新 |
2月29日 | ブラックロックのIBITが史上最速7週間で100億ドルファンドに |
2月19日 | 週次の暗号資産ファンドへの流入が過去最高の24.5億ドルに |
2月15日 | 円建てで史上最高値更新 |
1月11日 | BTC現物ETF10件ローンチ |
1月10日 | SEC、ETF承認(日本時間11日) |
*マイニングとは:暗号資産(仮想通貨)は一般的にブロックチェーンと呼ばれるネットワーク参加者が誰でも見られる元帳上に取引を記録していきます。そのブロックチェーン上に取引データを記録する際に、膨大な計算を行うことで新たなブロックを生成する暗号を見つけ出し、その報酬としてコインを手に入れる行為のことです。マイニングの主な役割は「暗号資産の新規発行」と「取引の承認」です。
**BlockFiとは:暗号資産融資プラットフォームBlockFi(ブロックファイ)が提供する暗号資産を預かって利息を払うサービス(レンディング)が証券法に違反したと提訴された事件に関する和解として、SEC(米国証券取引委員会)に1億ドル(約115億円)を支払うと発表。
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(松田 康生)
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