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米国株は上昇し続ける?米景気が次に後退局面に入るのはいつ?(窪田真之) 

トウシル / 2024年7月9日 8時0分

米国株は上昇し続ける?米景気が次に後退局面に入るのはいつ?(窪田真之) 

米国株は上昇し続ける?米景気が次に後退局面に入るのはいつ?(窪田真之) 

米景気「強すぎず、弱すぎず」ほど良い加減が継続

 今年に入って、多くのエコノミスト・ストラテジストにとって最大のサプライズ(驚き)は、米景気が想定以上に堅調なことです。

 年初の市場コンセンサスでは、米景気は今年「かなり減速する」見通しでした。「米景気減速が鮮明になり、米国株は反落。FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに転じ、円高が進む」という見方が、市場コンセンサスでした。

 ところが、米景気が想定以上に強いため、米国株の上昇が続き、米利下げが遠のく中、円安が進んでいます。米景気は「強すぎず、弱すぎず」米国株にとって都合の良い景況が続いています。

 ただし、景気は循環します。いつまでも良好な景況が続くことはありません。いつか必ず、景気悪化局面が来ます。そこで、今日は、「米景気が次に後退局面に入るのはいつか?」考えることにします。ただし、それを考える前に、そもそも米景気が今年かなり減速(悪化)するとみられていたのに、そうならなかった理由を考えます。

米景気の経験則は外れたのか?

 今年、年初に、米景気がかなり減速するとみられていた理由として二つあります。

【1】米国の長短金利が逆転してから1年以上が経過

 米景気は、長短金利逆転から1年以上経過した後に後退期に入ることが多かったので、不安が生じました。

【2】コロナ禍で生じた過剰貯蓄が解消

 2020年にコロナ禍で消費が抑え込まれた反動から、2021年には米国でリベンジ消費が盛り上がりました。2020年に家計に過剰貯蓄ができたことも寄与しました。2020年の消費抑制と、コロナ関連で巨額の給付金が出たことが、過剰貯蓄を生みました。

 それを使って、2021年に消費が過熱しました。ところが、その後、過剰貯蓄も吐き出し、リベンジ消費の反動で消費が減速しました。

 以上、まとめると、過剰貯蓄がなくなり、インフレと金利上昇の影響で、2024年には米国の消費が失速するとみられていました。ところが、現時点で、そうなっていません。

米国の長短金利が逆転してから、米景気の見方が錯綜

 2022年秋に米国の長短金利逆転が起こった後、米景気について強気弱気の議論がどう推移してきたかを振り返ります。まず、以下の資料をご覧ください。

米国の長短金利(10年金利とFF金利)推移:2021年12月末~2024年7月8日

出所:ブルームバーグおよびQUICKより楽天証券経済研究所が作成

 2022年から2023年にかけて、FRBは過去に例のない急激な利上げ(FF金利誘導水準の引き上げ)を行いました。「米景気を犠牲にしてでもインフレを抑える」スタンスでした。そのため、2022年秋には長短金利逆転が起こりました。

 そこから1年経過した2023年秋には、「そろそろ米景気悪化が始まる」との不安が出ました。2024年の年初には、米景気が「いよいよ後退期入りする」か、「かなり減速するものの後退期には入らず持ち直すか」議論が分かれていました。

 私は、「かなり減速するが後退期入りはしないで持ち直す」いわゆるソフトランディング(軟着陸)を予想していました。米景気は、今のところ、私の予想以上に堅調に推移しています。

 コロナショック後、米景気がどう変化してきたか、四半期別のGDP(国内総生産)成長率から見てみましょう。

米国のGDP成長率の推移(四半期別・季節調整済み・前期比年率%):2018年1-3月期~2024年1-3月期

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所が作成

 四半期別のGDP成長率を見ると、2022年の1-3月期と4-6月期が、2四半期連続でマイナスとなっています。いわゆる「テクニカル・リセッション」【注】の状態です。

【注】欧米では、GDPが2四半期連続でマイナスだと原則リセッション(景気後退)とみます。ただし、それだけでリセッションが確定するわけではありません。米国の2022年前半は、2021年後半の高成長の反動で少し下がっただけで、年後半には高い成長に戻っているので、ここはリセッションとはみられませんでした。

 米国のGDP成長率は、2022年前半にマイナスになった後、2022年後半から2023年にかけて持ち直し、再度、成長率が高まっていきました。つまり、GDP成長率で見ると、2022年前半がもっとも景況が悪く、その後景況は改善していったことになります。

 FRBが利上げピッチを加速したのは、2022年の後半からです。そのために、長短金利が逆転したのは、2023年の秋です。長短金利逆転によって、米景気が悪化する不安が語られていましたが、実際には米景気は2022年の後半から2023年にかけて、逆に持ち直していったことが分かります。

原油下落・インフレ低下によって米景気は持ち直し

 2022年後半から2023年にかけて、なぜ米景気は持ち直していったのでしょうか? さまざまな要因が絡まっていますが、中でも大きいのは、原油価格およびインフレの動向です。ロシアによるウクライナ侵攻があった2022年2月、原油価格が急騰してインフレがさらに深刻になる不安が高まりました。

 ところが、2022年の後半から2023年にかけて、原油価格は反落し、それにつれて、米インフレも沈静化に向かいました。

 利上げによって、金利はどんどん高くなっていきましたが、インフレが鎮静化していったことで、米消費は持ち直したと考えられます。

WTI原油先物(期近):2022年1月3日~2024年7月8日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

米インフレ率(CPI総合指数・コア指数の前年同月比上昇率)推移:2020年1月~2024年5月

出所:米労働省より楽天証券経済研究所が作成

 もちろん、インフレ率低下だけで米景気が持ち直したというわけではありません。生成AI(人工知能)ブームが広がり、米エヌビディアを筆頭に、半導体ブームが復活したことも、米景気に追い風となっています。

米経済の強さを生む四つの要因

 21世紀に入り、米景気がリセッション入りしたのは3回しかありません(出所:NBER)。

【1】ITバブル崩壊不況:2001年3月(景気の山)~11月(谷)、景気後退期間は8カ月
【2】リーマンショック:2007年12月(山)~2009年6月(谷)、後退期間は1年6カ月
【3】コロナショック:2020年2月(山)~4月(谷)、後退期間は2カ月

 21世紀に入ってから、米景気はリセッションが短く、景気拡大期がとても長くなっています。

米GDP成長率(四半期別、前期比年率):2000年第1四半期(1~3月)~2024年第1四半期(1~3月)

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所が作成

 米景気の強さの背景として、四つあります。

【1】移民パワー:移民は当初、低賃金の労働力を供給。貯蓄ができてくると消費の有効需要拡大に寄与。

【2】AI革命:ネットビジネスのインフラを米国の大手ハイテクが支配。ネット・AIの拡大で恩恵を受ける。

【3】シェール革命:かつて世界最大の原油輸入国であった米国は、世界最大の産油国に転換。

【4】資本主義・民主主義国:近年陰りが見えているが、それでも、覇権主義国家が増えている世界にあって、株式会社が栄えるための資本主義・民主主義の基盤がもっとも整備されているのが米国であることに変わりない。

 米景気が予想外に堅調である背景として、短期的なインフレ率や金利水準とは別に、上記四つの要因が効いている可能性はあります。

米景気、次の悪化はいつか?

 将来の景気を正確に予測することはできません。ただし、いくつかシナリオを描くことはできます。今後3年で考えると、メインシナリオでは米景気が深刻なリセッション入りする可能性は低いと考えています。

【今後3年:メインシナリオ】巡航速度(年率1.5~3%)の成長が続く

 米景気は減速・加速を繰り返すものの、「景気後退」と定義されるほどの悪化はない。米経済の足腰は強く、リーマンショックのような金融危機が起こらない限り、米景気は緩やかな加速、減速を繰り返すだけで、巡航速度の成長が続くと考えられます。

【リスクシナリオ】2025年から2026年にかけてリセッションが起こる

 現時点で想定していないような重大な危機が起これば、米景気がリセッション入りすることもあり得ます。例えば、新興国で金融危機が起こり欧米に波及、あるいは米中対立激化で、グローバル経済の分断が深刻化、あるいは今まったく想定していない問題が起こって、米国および世界景気が急激に落ち込むことも、ないとはいえません。

 将来の景気予測をするのは困難で、いつ米景気が悪化するか、正確に予測することはできません。ただし、先に述べた米景気を押し上げる四つの要因が崩れない限り、米経済の足腰は強く、深刻なリセッションに陥ることはないと予想しています。

米国株は上昇し続けるのか?

 最後に、今お話ししたメインシナリオを前提とすると、米国株はどうなるでしょうか? つまり、米景気が今後3年、深刻なリセッションに陥ることなく、巡航速度の成長が続くとしたら、米国株は上昇し続けるのでしょうか?

 景気が巡航速度で成長し続けるとしても、米国株がそれに連動して上昇し続けるとは限りません。株には、先行きの好材料を一気に織り込んで上昇する局面と、好材料が織り込み済みであまり上昇しない局面があります。

 米国株の中期的な上昇期待は高いものの、一本調子で上昇し続けるとは考えられません。これまでもそうだったように、短期的な急落・急騰を繰り返しながら、上昇していくと考えています。

NYダウ(指数化チャート)過去35年の月次推移:1989年末~2024年7月(5日)

出所:1989年末を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

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(窪田 真之)

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