SNS型投資詐欺の手口は巧妙化、身を守る術は?テスタ氏×森永康平氏×田代昌之氏
トウシル / 2024年7月20日 16時0分
SNS型投資詐欺の手口は巧妙化、身を守る術は?テスタ氏×森永康平氏×田代昌之氏
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「【テスタ氏×森永康平氏×田代昌之氏】SNS型投資詐欺の手口は巧妙化、身を守る術は?」
フェイスブックやインスタグラムなどのSNS(交流サイト)上で著名人になりすましてお金をだまし取るSNS型投資詐欺の被害が拡大しています。
詐欺に遭わないためにどうしたらいいのか、具体的な手口などについて、カリスマ個人投資家のテスタさん、経済アナリストの森永康平さん、金融ジャーナリストの田代昌之さん(司会)による鼎談(ていだん)を7月5日に行いました。鼎談の動画版も近く公開する予定です。
投資詐欺が急増、被害の半数がSNSに不慣れな50、60代
田代 SNS型投資詐欺の被害が急増しています。警察庁の資料では2024年1~5月の認知件数は3,049件で前年同期の約6.3倍、被害額は430.2億円で約8.8倍に上っています。4月にピークを迎えて5月はやや減少しています。SNS型投資詐欺の実態が認識され出したことが減少の一つの要因と思われます。
2024年1~5月、被害者の性別と年齢層(警察庁資料より抜粋)
総数3,049人の内訳は男性と女性ほぼ同じぐらいで、ほとんどは個人の方です。年齢層はSNS を使った投資詐欺なので、20~30代の若い方の印象があったのですが、50代と60代の方が半分以上を占め、この世代が多いのが特徴です。
学校で金融教育が始まって教育を受けた20代の方がようやく出てきたぐらいだと思いますから、ほとんどが金融教育を受けていない方々です。例えば、50、60代の会社員の方は退職が近づき、老後を真面目に考え出した矢先、こういった被害に遭われている印象があります。テスタさん、この内容を見ていかがですか?
テスタ 10、20代はSNSをずっと使ってきた世代ですが、50、60代はSNS初心者ということもあります。株を始めたら、SNSでの情報収集がしやすいので使い始めた人もたくさんいると思います。若い人は、自分は詐欺に引っかからないから大丈夫ではなくて、両親や祖父母に普段から大丈夫か声をかけることが大事ですね。
森永 20、30代は投資をするといってもお金をそんなに持っていないし、投資ができる余力を考えると40代以降がターゲットでしょうね。僕になりすました広告で詐欺被害に遭った方はフェイスブックから誘導されるケースが非常に多い。フェイスブックは、若い人はあまり利用していませんが、中高年は頻繁に投稿している印象があります。
なりすましの偽アカウントが次々出てくる
テスタ 僕もこの1年でありとあらゆるSNSでなりすまし広告の被害を受けました。僕の名前や写真でアカウントを作られたり、広告を勝手に出されたり、僕が関与も関知も一切していないところで無限と言っていいほど偽物が出てきました。通報してくれる方がいて偽アカウントが1個なくなっても、次の日には新しく偽アカウントが10個出てくる状態です。
新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で投資初心者がこの世界にどっと入ってきたこともあるでしょうし、お金が集まるところで詐欺は発生します。SNSの使い方は教科書で教えてくれないので、自分でちゃんと勉強していくしかないですね。
森永 月次の認知件数の推移はまさに自分の体感に近いです。昨夏ぐらいから僕のところに問い合わせがぽつぽつと来て、今年に入って加速しました。昨夏は2週間に1件程度でしたが、今年1、 2月は毎日4、5件来ました。
「このLINEやフェイスブックのアカウントは本物ですか」「お金を振り込んで返ってこないけどどうなっているんですか」といった内容です。テスタさんや実業家の前澤友作さん、堀江貴文さんが被害の実情を発信するようになって、ようやく最近は減った実感があります。
SNSのダイレクトメッセージや会社宛てのメールで問い合わせが来て、被害に遭ってほしくないから、なるべく全部返すようにしています。大きな負担です。僕が詐欺をしたと最初からけんか腰の方もいる。「僕じゃないですよ」と言っても冷静に受け止めてくれない。殺害予告もきます。
SNSで僕にだまされたと書き込みをする人もいて、勝手に顔写真を使われただけではなく、営業妨害や名誉毀損の被害も受けています。
テスタ 僕も全く同じ状況です。見る人が見ればうそっぽい広告だと分かるのですが、テスタはあやしい商売をしている人だと思われて、イメージが悪くなる被害が出ています。本当に迷惑でしかないので、勝手に広告を出してほしくないですね。
ビデオ通話で著名人が話しているように見せかける手口も
田代 生成AI(人工知能)が当たり前の世の中になってきて、詐欺に悪用する例も出てきました。
テスタ まだ画像レベルが多いですが、動画で僕や森永さんが本当にしゃべって勧誘しているように見えるものが出てきたら、今までだまされなかった人もだまされる恐れがあります。詐欺の手口は巧妙化して進化していくから、自分が今のまま止まっていたら付いていけなくなる。詐欺の最新手口を常に意識しておかないと被害に遭う可能性はありますね。
田代 今のところ有名人や著名人をかたった詐欺がメインですが、証券会社の名前をかたった詐欺も出てきていますよね。
森永 詐欺被害を防止する方法として、僕は相手方から名刺を渡されたら会社名を金融庁のホームページで(金融商品取引業者など)登録業者かどうか検索するよう伝えています。だけど、実際の詐欺では、登録業者の名前を勝手に使って詐称している例があり、僕の伝えた通りに金融庁のHPで調べると社名が載っているのでかえってだまされるパターンもありました。
生成AIはすでに動画生成にも使われるレベルになっています。詐欺グループが(AIで偽の映像や音声を作ることができる)ディープフェイクを使ってLINEのビデオ通話で僕がリアルタイムで話をしているように見せかけてだます例も出てきています。
詐欺グループのLINEチャットにあえて登録してやり取りをしたことがありますが、昨年ぐらいまではグループチャットで「本当に森永さんなんですか? ビデオ通話をしてください」と送ると、グループから追い出されてしまいました。だけど、今年からは「いいですよ」と返事が来て、「僕」とビデオ通話ができるんです。
僕やテスタさんはYouTubeでいくらでもしゃべっているので、動画や音声のデータはたくさんあります。受け答えはAIが相手側の言葉を聞いて、チャットボットが自動的に文章を作って、それを僕の声で読ませているだけのようです。
まだクオリティが高くなくてちょっとレスポンスに遅れがあるのですが、LINEのビデオ通話は電波状況によってはちょっとがたつくじゃないですか。その応答ラグがリアルに見えて逆に引っかかってしまったと被害者の方から聞きました。その技術力を詐欺以外に使えよと思います。
田代 そこまでいくと、どう対応したらいいか分からなくなりそうですね。
有名人は投資スクールをしていない
森永 僕もテスタさんも堀江さんもそうでしょうが、基本的に投資スクールをしていません。まずは前提を知ってもらいたいです。
テスタ 僕もX(旧ツイッター)のプロフィールにそういうものはしてないと書いているから、ちょっと調べれば分かると思います。
「このLINEは本物ですか」という問い合わせをいただくのですが、僕は知らない方と個別に LINEすることや、見知らぬLINEグループに入ることはありません。新しく投資を始める人が市場に入ってきているから、これからも定期的にそういう情報を発信していかないといけないと思います。
テスタさんのSNS、本物はどっち?詐欺の実例で学ぶ1
田代 ここで実際にテスタさんの本物と偽物のSNSを用意しました。テスタさん、この写真は両方ともご自身で間違いないですか?
テスタ 写真自体は僕ですね。
田代 左の方は総利益100億達成とありますが、右の方は情報が古いのか、「50億円、2022年」と書かれています。調べれば分かるけれども、ぱっと見ただけでは写真が同じだと分からない可能性がありそうです。
テスタ 左のものが僕のXのアカウントで本物です。右はフェイスブックで偽物です。僕はフェイスブックをしていないので、フェイスブックでテスタと名乗るものは全て偽物です。
SNS上で検索したら一番上に出てきたり、偽物がある中で一番本物っぽいものがあったりしても、本物が一つもないこともあります。フォロワー数が少なくておかしいということからも偽物だと分かります。ただ、画像だけならフォロワー数はいくらでも加工して変えられるので、自分でアクセスしてフォロワー数を見て、本物かどうか区別しないといけないですね。
田代 テスタさんは本物のアカウントでは「塾、サロン、LINE等お金かかる系は何もしてないのであったら全て偽物」と強調されていますね。
テスタ 詐欺グループに「テスタさんはプロフィールにこう書いているじゃないですか」と指摘しても、その言い訳を多分用意していると思うんですよね。「お金かかる系はしてないけど、今回は無料なんだ」とか。著名な方はそういうことはしていません。
それを前提に投資するときは、お金の管理は誰かに任せるのではなく、自分の口座で管理すること。著名人に任せてその人がお金を増やしてあげるようなものは全て詐欺だと疑う方がいいですね。証券会社などが行う資産運用サービスは別ですが。
森永さんのSNS、本物はどっち?詐欺の実例で学ぶ2
田代 次は森永康平さんのSNSです。左と右、どちらが本物でしょうか。見比べてみると、写真が同じですね。
森永 右が本物で、左が偽物です。左は派手というか攻め過ぎでしょう。「毎週10%以上もうかる」株を僕が知っていたら、誰にも言わず自分で投資をします。
普通に考えたら引っかからないと思うのですが、この左側のLINEのQRコードから詐欺グループのチャットに登録して被害に遭った方から連絡がありました。個人の方が毎週10%以上のリターンを期待して、詐欺グループのチャットに登録してしまうことが実際に起こるんですね。こういったものがSNS上に無数にあります。LINEやXのほかにインスタにもあります。
僕単体のものもあるし、父親(経済学者の森永卓郎さん)と一緒に写った写真が無断で使われているものもあります。僕が被害者から報告を受けただけでも被害額は5億円くらいになっています。父のところに連絡が来ているのだと10億円を超えています。
田代 森永卓郎さんのお名前をかたった詐欺の被害が大きくなっているんですね。
森永 1件で被害額が1億円を超えているものもあります。すごく迷惑なのは僕ら親子が詐欺で15億ぐらいもうけていると言われることです。うちの父はフェイスブックもXも、SNSを一切していません。世の中に出回る「父親」のSNSは全部うそです。
田代 卓郎さんはメディアに非常に出られていたイメージがあります。SNSをしていないので全部偽物だということを調べないで、被害に遭われる方がいらっしゃるのでしょうね。
森永 SNSのフォロワー数がテスタさんなのに0人や1桁、2桁の数だったら、慣れている方だったら偽物だと分かる。最近ややこしいのが、詐欺グループが、フォロワー数が多い休眠アカウントを買ってくるらしいです。買ったのがフォロワー数5万人のアカウントだったら、そのプロフィールを僕と同じ内容にすれば本物っぽい感じになります。
僕の本物のアカウント名はアルファベットの「K」と「M」だけを大文字にして、「KoheiMorinaga」ですが、Kの次の小文字の「o」を数字のゼロにして見かけを紛らわしくする手口もあります。怪しいという目で見てようやく気付けるレベルまで詐欺が進化しています。
新NISAで投資初心者が増加、「絶対」「必ず」など断定的表現は詐欺を疑う
田代 投資など金融経験があると、左下にある「上昇銘柄を無料で手に入れる 毎週10%以上のリターン」という文言でおかしいと気付きますよね。
森永 もうかり続けることは株に限らずあり得ない。それに引っかかるのは投資歴が短い証拠です。新NISAを批判するつもりはないですが、新NISAが投資詐欺を後押しした印象がすごく強くて、実際に被害に遭った方たちと会話をすると、初めて投資をする人たちは、信じられない誤解をしている方が多いです。
新NISAは運用益が非課税になるだけなのに「政府が新NISAを推しているから、投資をしても損はしない」「損が出ても政府が保証してくれる」と思っている方もいる。そうした方だと「プロだったら絶対損しない銘柄を知っているかもしれない」という思考回路になってしまうのかなという気がします。
田代 「絶対」や「必ず」といった断定的な判断を示して商品の勧誘をすることは法令で禁止されています。今年から新NISAで投資の世界に来られた方だと、そうしたことを知らないケースはあるのでしょうね。
森永 僕は証券会社や運用会社の調査部でリポートを書く立場だったので、仮に「絶対に」と書いたとしても、コンプライアンスの部署から書くなと言われて世の中に出る前にそうした文言は消されます。そういう訓練をずっと受けていたので、「絶対に上がる」といった表現は使いません。そういうものに引っかかる方が毎月出ている印象があります。
田代 新しいNISA制度がスタートして、勉強しないで投資の世界に入ってこられる方も多いとのことですが、基本的には勉強するしか詐欺を防ぐすべはないと思うのですが、いかがでしょうか?
テスタ 詐欺は投資だけではなく、時代が変わればいろんな場面で新しい手口が出てきます。SNSでこういう詐欺がはやっていると注意喚起をすれば、ある程度減りますが、詐欺師は別のパターンで仕掛けてきたり、もうかるほかの業界を探したりして、詐欺はどんな形でも起こります。SNSや電話もあるし、友人を介してだまされる場合もあります。
まず自分のお金は自分で守ること。簡単に言うと他人から聞いたおいしい話に乗らないことです。仕事も投資も自分で努力して考えてないといけない。もうかる話が向こうから勝手にやってくることは基本的にないと思っておくべきです。
SNSの詐欺の手口で多いのは、日本か海外か聞いたことがない金融機関の名前を言われて「こういう証券会社があるから口座を開設してください」とか「ここにお金を振り込んでください」と言われるんですけど、存在しない会社の場合があります。
投資だと引っかかりそうになってしまうんですが、銀行だったら「ここで口座を作って振り込んで」と言われても、そんな危ないことをしないじゃないですか。証券口座と銀行口座はそんなに変わらない。お金を自分のメイン口座から移動させるよう言われたら大丈夫なのか考えてほしいですね。
田代 私は以前、暗号資産の仕事をしていましたが、暗号資産が2016年に日本で広がり始めたときに暗号資産関連の詐欺が増えたことがありました。
暗号資産交換業は日本では登録業として法令で規制されていますが、日本よりも規制が緩い国があるので、「このコインが上場する」とか、「あなたにだけに教えます」と持ち掛けてくるのがよくあるパターンで、今もあります。株や為替、暗号資産といろいろな詐欺のバージョンが出てきていますね。
テスタ 詐欺は手を替え品を替えで、僕が株を始めたのは20年ぐらい前ですが、当時はDVDでした。「投資の勝ち方」を紹介した商材が30万円とか。今はUSBに入っているものやAIの自動売買プログラムとか。AIといった最新技術を織り込むことで信ぴょう性がちょっと持たされているので注意してほしいですね。
詐欺は昔からあるので、詐欺自体がなくなることはありません。詐欺師がゼロになることは難しいので、詐欺をなくすより、自分の身を守るために知識を入れることしかできない気がします。
だまされやすさの心理傾向チェック、いい人ほどだまされる?
田代 自分自身がだまされないと思いながらだまされる方が非常に多いということですね。消費者庁がつくっている、「だまされやすさを測る心理傾向チェックシート」を今回、テスタさんと森永さんに回答してもらいました。
消費者庁のホームページからどなたでも利用できます。A(勧誘者の信じすぎ)、B(売り口上の信じすぎ)、C(自分の欲しい衝動)の各5項目について1~5点で自分に当てはまりやすいものを評価します。「とても当てはまる」が5点で、「ほとんど当てはまらない」が1点といった具合です。
75点満点で点数が高いほどだまされやすいことになります(勧誘を受けた際に契約してしまう確率、60点以上:約70%、50点台:約50%、40点台:約40%、30点台:約30%、30点未満:約25%)。自分がどれだけだまされやすいか事前に分かることができたら、詐欺を未然に防げるかもしれません。
消費者庁「だまされやすさを測る心理傾向チェック!」
森永 僕は30点未満で一番低いランクでした。ただ、これは僕が優秀だからだまされないわけではなく、この半年ぐらいで嫌というくらい詐欺被害者とずっと対話を続けてきたので、何も期待しない体になってしまいました。おいしい話があっても褒められても全部詐欺だろうと斜めに構える癖が付きました。
テスタ 32点だったので、30点未満よりはだまされやすいレベルでした。褒められると弱い。素直な人やいい人ほどだまされてしまうと思います。すごく多いのが「信用できる人に言われた」というパターンです。信頼できる人自体がだまされているわけですね。
その人がだまそうとしているわけではなくて、いい話だから友達に善意で勧めようとする。その人の言うことだったら信じてしまうことが増えている。「自分を絶対だます人ではないから、この人の言うことは100%大丈夫」ではなくて、その人もだまされているのではないか考えないといけないですよね。
田代 ちなみに私は50点でした。AとCの項目はほぼ5点でした。おだてられると弱いですね。ただ、Cの項目で「良いと思った募金にはすぐ応じている」「資格や能力アップにはお金を惜しまない」といったものがありますが、真面目な方やいい人の方がだまされやすさの点でデータ上高く出てきてしまうのかなというところです。
テスタ 素直な人や投資と無縁な世界でずっと生きてきた人ほど、引っかかってしまうかもしれないですね。
田代 50、60代の詐欺の被害が非常に多いということで、退職前後で老後のことを真剣に考えてしまうがために詐欺被害に結果的に遭ってしまうということですね。
テスタ 学校を卒業してからずっと同じ職業で頑張ってこられた方には他の世界のことを知らない方もいます。
将来を考えて何かしようとなったときに退職金を全部なくしてしまった方も実際にいらっしゃいますから、親や祖父母に連絡を取って、「こういう話があるんだけど、大丈夫?」といった声がけが大切になります。自分は大丈夫でも周りが大丈夫か分からないので友達も含めてこうしたことを話題にすることが大事です。
政府、SNS事業者に広告の事前審査強化を要請
田代 政府は対策としてSNS事業者に広告出稿の事前審査基準を策定することやその公表などを要請しています(詳細は以下です)。
◇SNS事業者への主な要請内容
- 広告の出稿前に事前審査基準の策定やその公表
- 審査に当たっては日本語や日本の文化・法令などを理解する従業員を配置すること
- LINEのような限られた利用者しか参加できないクローズドチャットを遷移先とする広告は原則、採用しないこと
- 捜査機関からの情報を基に迅速に詐欺広告やアカウントを削除すること
- 捜査機関からの紹介に対応する国内窓口の設置
- 知らないアカウントを友達に追加するときに警告表示
◇法整備など
- 5月に成立した情報流通プラットフォーム対処法の速やかな施行(しこう)。SNS事業者にネット上の違法・有害情報の削除対応の迅速化や運用状況の透明化を義務付け
- SNS事業者が偽広告の放置などで刑事責任に問われる場合があり得ることを盛り込んだガイドラインの策定
私は証券出身で金融業界の感覚からすると、SNS広告ではこれまで事前審査基準がなかったのか非常に緩い印象を持ったんですけど、森永さん、いかがお感じですか?
森永 実際どうか分からないのですが、広告審査をAIでしていると聞いたことがあります。AIによる広告審査は二つの基準で、一つは出血や暴力などのグロテスク、もう一つはアダルトで、AIでそうした動画や画像を落とせるというんです。
でも、投資詐欺の広告では僕やテスタさんの写真を使っているだけなのでAIの審査を通ってしまう。グロテスクとアダルトの2軸でしか落とせないんだったら全く機能していない。
審査のために人を使わないのか聞いたら、「コストがかかる」。プラットフォーム会社はコスト削減といって広告審査を緩めておきながら広告掲載料をもらっていますよね。そういう広告を載せることを許可して被害者を生んでいる…この構図はおかしいと思いますね。
テスタ 政府の対応は遅いと言われるわけですが、僕はちょっと違うと思います。対応がめちゃくちゃ早かったら問題になっていないわけです。
問題になるのは対応が遅く見えるものしか問題になっていない。本当は10個中9個は早く対応している可能性もある。その全てを未然に防ぐことは不可能です。1人が声を上げたものを全部対策するわけにもいかない。たくさんの人が声を上げて初めて対策するのはある程度は仕方がない。遅い早いではなくて、どういう対応をするかに重点を置いて見てほしいと思います。
田代 ITジャーナリスト・高橋暁子さんのお話ではメタ社が偽広告の削除に力を入れてこなかったことを問題視しています。EU(欧州連合)ではSNS事業者が偽情報の拡散防止に取り組まなければ巨額の制裁金を課されるデジタルサービス法があって、日本でも刑事責任が問われる可能性があることを明確化して、SNS事業者に対応を促していく必要を指摘しています。
◇ITジャーナリスト・高橋暁子さんの話
「メタのようなグローバル企業はこれまで英語圏での対応を優先し、日本市場や社会を軽視してきたのではないか。メタは直近の決算で過去最高益を上げているのに、偽広告の削除や監視に力を入れてこなかったと思う」
「EUにはSNS事業者が偽情報の拡散防止に取り組まなければ巨額の制裁金を課されるデジタルサービス法がある。日本でも刑事責任が問われる可能性があることを明確化して、SNS事業者に重い腰を上げさせることが大切だ」と指摘。
「SNS型投資詐欺の被害は50、60代が半数、だまされない対策は?ITジャーナリスト高橋暁子氏」
グローバル企業を相手にどこまでできるのかというところはあります。前澤友作さんがメタなどに偽広告を巡って「1円」の損害賠償を求める訴訟をしていますね。
自分のリテラシーを高める、相談できる第三者をつくる
テスタ 海外の会社ということもありますね。政府やSNS事業者がこういう取り組みをしていくことはもちろん大事ですが、被害に遭った方からしたらあまり意味がない。
大前提として、自分の金融リテラシーを上げてまず引っかからないこと、お金は自分で守ることをまず考えてほしいです。自分のフィルターが高くないと、手を替え品を替え出てくる詐欺に引っかかってしまう可能性があります。勉強していくしかないです。
森永 被害者の中にはこれ以上自分のような被害を増やしたくないから、自分の事例をYouTubeやSNSでバンバン出して警鐘を鳴らしてくれという方もいます。
そうした方に投資詐欺のニュースを見たことがないのか聞くと、意外なことに見たことがあって、ニュースの被害者のことを「正直ばかだなと思っていた」と話されるんですね。
それなのにどうして詐欺に引っかかったのか聞くと、「この話だけは本当だと思った」とみんな同じ説明をするんです。他人の話だと引っかかるのはばかだと思うのに、自分の話になると違う。いわゆる正常性バイアスみたいなものにかかってしまう。
僕がいつも言っているのは、自分ごとになると冷静な判断ができなくなるので、親や友達など話せる相手をちゃんとつくって、第三者の視点からダブルチェックするようにしないといけない。
自己防衛をしているつもりでも当事者になると実は守りが効いていないケースがほとんどです。自己防衛する能力を高めることと同時に第三者的な視点を持つ話し相手を見つけること。この2段構えです。
テスタ 今どういう詐欺の手口がはやっているか常に調べることも大事です。ちょっと前にSNSではやったのは、お金を配るというものでした。それに登録するとあの手この手でお金を取られることにつながっていく。はやりは必ずあるので常にチェックしておかないとひっかかってしまう。全財産をなくすことすらあるので気を付けてほしいです。
本が自宅に届いて、グループチャットに誘導されるケースも
田代 今、日本銀行券が旧札から新札に切り替わるタイミングです。それに関する詐欺も警戒されています。
森永 「旧札が使えなくなる」といった最新ネタも詐欺師は仕込んできますね。僕が聞いた最新の詐欺の手口では、著者を名乗る人物から突然本が届くそうです。僕や父、テスタさんが書いた本とか。
受け取った人は著者から届いたと、うれしくなって本を開くと、名刺が挟まっている。「本を読んでくれてありがとうございます。LINEをしませんか」と書いてあってQRコードが記載されている。そうした手口に引っかかる人が多い。僕もテスタさんも知らない人に本は送りません。
ラッキーと受け取るのはいいんですけど受け取るだけにしてください。そこに挟まっている名刺はすぐ捨てた方がいいです。
田代 本自体は本物ですか?
森永 本物です。送付先の住所がどうやって漏れているのか詳しくは分かりませんが、テスタさんが話した現金配りとかに応じてしまうと、そこで名簿が作られているようです。現金配りにすぐ反応する人は詐欺師からしたら、言葉は悪いですがカモなので、そうしたリストが流れるらしいです。
田代 詐欺は日進月歩で、最新のネタを使った手口がどんどん出てきます。新NISAがスタートして、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)が史上最高値を更新したといったお金絡みのニュースが今ものすごく多い。そうした背景もあって、投資詐欺が広がっていると思います。
テスタ 投資というワードがはやったら詐欺師が集まりますし、AIがはやったらAIに詐欺師が集まります。詐欺師は世の中のトレンドに沿って来るので、常に気を付けてほしいです。おいしい話に乗らないことです。
田代 投資の世界に「絶対」「必ず」といった断定的表現はありません。
テスタ 投資で元本保証とうたうのは違法だし、資格を持たないのにお金を預かって増やしてあげるみたいな話も駄目なので、そういう矛盾に気付いてほしいですね。
田代 自分の金融リテラシーをどんどん上げていくことも必要ですね。
テスタ 何回もこの鼎談で言いましたけど、自分が大丈夫だからみんな大丈夫ではないです。自分は大丈夫だけど友達や家族は大丈夫かちゃんと聞いてみることが大切です。自分の周りの人に一回確認してほしいですね。
森永 詐欺に遭った方と話をして、単純にお金をなくすだけじゃなく、家族関係や友人関係がめちゃくちゃになったり、最悪な場合だと命を絶つケースもあったりします。気を付けすぎても気を付けすぎることはない。甘い誘惑に乗らないことを念頭に置いて警戒しながら接してほしいと思います。
テスタ氏
投資の世界では誰もが知るカリスマ個人投資家。2005年に株のデイトレードを始め、6年目に1億円プレーヤーに。その後、中長期トレードも行うようになり、収支は19年連続プラス。2024年2月に総利益100億円を達成。Xのフォロワー数は82万4,000人(2024年7月19日現在)
森永康平氏(もりなが・こうへい)
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。その後、業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。2018年6月、金融教育ベンチャーのマネネを創業。国内外のベンチャー企業の経営にも参画。
著書に『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。
田代昌之氏(たしろ・まさゆき)
金融ジャーナリスト。1979年生まれ、北海道出身。中央大卒。新光証券(現みずほ証券)やシティバンクなどを経て、金融情報会社に入社。アナリスト業務やコンプライアンス業務、グループの暗号資産交換業者や証券会社の経営に従事。IFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA®)を保有。酒と古地図と歴史をこよなく愛する。ラジオNIKKEIでパーソナリティを務める。
(トウシル編集チーム)
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