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日銀利上げで1ドル=150円割れの円高に向かうシナリオも、8月は荒れ相場か

トウシル / 2024年7月31日 16時0分

日銀利上げで1ドル=150円割れの円高に向かうシナリオも、8月は荒れ相場か

日銀利上げで1ドル=150円割れの円高に向かうシナリオも、8月は荒れ相場か

日銀の利上げ期待と米6月CPI伸び鈍化で円高に

 相次ぐ政府要人らからの「金融正常化要請」の発言によって、7月の日本銀行の金融政策決定会合で利上げ期待が高まり、予想以上に円高が進みました。ドル相場は、11日公表の米6月CPI(消費者物価指数)前の1ドル=161円台後半から152円割れまで、値幅は約10円となりました。

 IMMの通貨先物の23日時点の円ショートポジションは10万7,108枚(約1.3兆円)と、前週の15万1,072枚(約1.9兆円)から4万3,964枚の大きな減少となりました。CPI発表前の7月2日時点の18万4,223枚(約2.3兆円)と比べると42%の減少となります。かなりポジションが調整されたようです。

 一方、1ドル=152円割れで止まったのは、日本政府による円買いの為替介入と米4月雇用統計後に付けた5月3日の1ドル=151.86円近辺を意識した水準と推測されます。この水準から7月の1ドル=161円台後半まで円安となったのですが、今回の一連の円高でこの円安が帳消しになったと言えるかもしれません。

 今週の30~31日の日銀の金融政策決定会合と米国のFOMC(連邦公開市場委員会)では、一段と円高が進み、円売りポジションの巻き戻しがさらに進むかどうか、あるいは期待通りではなかったことによる失望感から円安に戻るのかどうか注目したいと思います。

 このコラムを読むころには日銀会合の決定が発表されているかもしれませんが、想定シナリオや重要ポイントなどを参考にしてください。

日銀会合後の想定シナリオと注目点、利上げで1ドル=150円割れの円高向かう可能性も

(1)利上げした場合

 30日に「日銀は政策金利を0.25%程度引き上げる案を議論する」との観測報道によって、再び1ドル=152円台へと円高が進みました。この報道の通り利上げとなれば、7月は利上げ見送りとの見方もあったため、サプライズで円高が進む可能性があります。
 しかし、実質賃金動向や景況感から追加利上げに慎重になり、今後の追加利上げの道筋が示されなければ、円高の後、材料出尽くしからの利食いによる円売りが優勢になるかもしれないため注意が必要です。また、8月1日未明(日本時間)にはFOMCが控えているため、この円売りも抑制的になることが想定されます。

 利上げと同時に追加利上げの道筋も示されれば、追加利上げの期待が強まり、1ドル=152円割れを再トライし、150円割れを目指して円高に進むシナリオが想定されます。来年の道筋も示されれば、1ドル=140円台定着の可能性も高まってくるかもしれません。

(2)利上げがなく、利上げの道筋も示されない場合

 利上げがなく、しかも今後の利上げについて慎重な姿勢が示された場合は、失望感からどこまでドルが反発(円安)するのか注目です。節目である1ドル=157、158円台を抜けて160円まで反発するのかどうか、あるいは1ドル=160円まで反発する勢いがなくても157、158円台の水準でとどまることができるのかどうか注目です。
 市場の利上げ期待がくすぶっていれば、1ドル=157、8円の水準は維持されないかもしれませんが、その一方で、7月に利上げはないとの見方も多かったため、ドルの反発も限定的になるかもしれません。また、1日未明(日本時間)にはFOMCが控えているため、ドルの反発も抑制的になることも想定されます。

(3)利上げはないが、利上げの道筋が示された場合

 利上げがなくても、利上げの道筋が示されれば、ドルが反発しても限定的な動きになるかもしれません。道筋の内容によっては、再び利上げ期待が強まり円高に向かうシナリオが想定されます。

(4)国債買い入れ減額要因

 今回の決定では、事前に利上げ期待がかなり高まったため、国債買い入れ減額の要因だけでは相場には大きく影響しないかもしれません。ただ、国債買い入れ減額は、実質金融引き締めとなりますので円安の抑制要因にはなると思われます。

(5)今後の注目点

 7月に利上げがなかった場合、次回9月の利上げ期待が高まります。9月の日銀政策決定会合とFOMCの日程は、日銀が9月19~20日、FOMCが17~18日開催となっており、米利下げの後に、日銀は利上げすることになるかもしれません。
 また、岸田文雄自民党総裁の任期満了に伴う総裁選が9月下旬に予定されているため、総裁候補から金融正常化について圧力が強まることも予想されます。

 景気と物価環境については、物価は2%超の上昇率を維持しているかもしれませんが、1~3月期実質GDP(国内総生産)の改定値が年率換算で1.8%減から大幅に下方修正され2.9%減となりました。個人消費もリーマン・ショック時以来、15年ぶりの4四半期連続マイナスとなる0.7%減となっています。
 実質賃金が26カ月連続マイナスの中、個人消費と景気が回復し、利上げができる環境になっているのかどうか注目です。

 仮に、7月利上げをしても景況感から追加利上げは慎重になることも予想されるため、景気・物価動向は注目する必要があります。8月15日には日本の4~6月期GDPが発表されます。

FOMCの想定シナリオと注目点

(1)9月利下げシナリオ

 米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の利下げ時期は7月見送り、9月利下げとの見方が大勢で、市場でもほぼ織り込まれています。7月FOMCでは9月利下げを示唆するのかどうかが注目されています。物価の鈍化傾向や労働市場の減速から年内複数回の利下げが示唆されるのかどうかも焦点です。

 複数回の利下げが示唆されれば、さらにドル安円高が進むことが予想されますが、直近発表された4~6月期GDP速報値は実質年率2.8%増と予想を上回り、前期1.4%増から加速しました。GDPの7割を占める個人消費が2.3%増と前期1.5%増から伸びが拡大し、底堅い消費が経済をけん引しているようです。
 このような堅調な米経済状況では利下げも慎重になり、複数回の利下げは難しくなることも想定されます。

 ただ、9月利下げについては、FRBが物価の目安として注目する、26日発表の6月個人消費支出物価指数(PCE)コア指数(除食品・エネルギー)は前年同月比2.6%上昇と予想を上回りましたが、前月と同じだったことから市場の9月利下げ観測は変わっていないようです。

 9月利下げが示唆されれば、いったんドルは売られるかもしれませんが、年内の追加利下げに慎重姿勢であれば、すかさずドルは買い戻されるかもしれないため注意が必要です。

(2)利下げ示唆するも時期を明示しない場合

 7月のFOMCでは、年内の利下げを示唆しても時期は明確に示さないかもしれません。その場合、利下げ期待で売られてきたドルは、買い戻される可能性もあるため注意する必要があります。

 9月利下げについては8月22~24日の経済政策シンポジウム・ジャクソンホール会議でFRBのパウエル議長が示唆するシナリオも想定されますので注意する必要があります。

(3)今後の注目点

 日銀もFRBも、今後の政策変更の道筋、すなわち、今後の利上げや利下げの道筋についていち早く示した方が、相場の中期的なトレンド形成に影響を与えるという点には留意する必要があります。

 逆の言い方をすれば、慎重姿勢を続けた方の通貨は、これまでと同じトレンドを続けるということになりそうです。

 つまり、日銀が追加利上げに慎重姿勢を取れば円売りが復活し、FRBが年内や来年の利下げに慎重姿勢を取り続ければ、ドル売りは抑制的な動きになるということです。毎回の決定会合で今後の政策の道筋をどのように示しているかを見極めることが、今後より重要になってくると思われます。

 日米とも、7月の会合、8月のジャクソンホール会議(8月の金融会合は日米とも開催されません)、9月の会合で、年内や来年に向けた政策変更の道筋をどれだけクリアに示すのかどうかを市場は注視しています。

8月は荒れる為替相場、日米金融政策の変わり目

 このコラムでも何回かこのテーマを取り上げてきましたが、必ずしも8月に円高に行くということはないようです。1990年のイラクのクウェート侵攻や2007年のパリバショックのように、8月に起こった経済的、軍事的大事件によって大きく円高に動いた印象が強く残っているのかもしれません。
 また、8月はマーケット参加者が少なくなることも影響していると考えられます。日本ならお盆休み、欧米の投資家にとっても夏休み休暇中のため、本来なら夏枯れ相場になりやすいのですが、参加者が少ないため値動きが荒くなりやすいのかもしれません。

 ちなみに過去4年の動きを見てみると、8月は円安相場でした。2020年や2021年の8月は、コロナ禍だったこともあり、月間値幅は各年2円程の動きでした。月初と月末の値幅も2020年は約10銭の円安、2021年は約30銭の円安でほとんど動いておらず、夏枯れ相場となりました。

 2022年の8月の値幅は約8円70銭、月初と月末の値幅は約5円60銭の円安相場、2023年の8月の値幅は約5円80銭、月初と月末の値幅は約3円20銭の円安相場でした。

 このように過去4年間は円安相場となっており、特に2022年、2023年はFRBの利上げが円安の背景にあります(FRBは2022年3月から利上げを開始、2023年5月までに計11回5.25%の利上げを実行)。

 今年の8月は日米中央銀行の政策の変わり目の時期に当たるため、相場が動きやすくなるかもしれません。夏枯れ相場と言うよりは、荒れやすい相場に注意した方がよいかもしれません。

8月に発生した経済的、軍事的大事件

日時 起こった出来事
1971年8月15日 ニクソンショック。金・ドル交換停止、10%の輸入課徴金
1990年8月2日 イラク軍がクウェートに侵攻
2007年8月9日 パリバショック
2008年8月7日 北京オリンピック開催中に南オセチアでグルジア軍と軍事衝突。翌8日にロシアが軍事介入→欧州経済悪化も加わり、ユーロ/円が8円の円高
2011年8月8日 米国債務問題から米国債が格下げされ(5日)、翌週8日に世界同時株安
2015年8月24日 中国景況感の悪化から上海株が急落し、世界同時株安に。上海株が一時8%近く急落した日は、ドル/円の値幅が6円近くの荒れ相場に
2019年8月5日 米中貿易戦争激化の中、人民元安と米国の中国「為替操作国」指定で円高に。ダウ工業株30種平均は、一時960ドルを超える下げ
2022年8月2日 ペロシ米下院議長の台湾訪問報道により米中悪化懸念からアジア株が軟調、ドル/円は2円程度円高が加速

(ハッサク)

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