米国株は底入れするか?「もしハリシナリオ」に注目!(香川睦)
トウシル / 2024年8月2日 7時0分
米国株は底入れするか?「もしハリシナリオ」に注目!(香川睦)
FOMCの9月利下げ期待で米国株式を下支えできるか
米国市場のS&P500種指数は7月16日に付けた最高値から反落し25日まで4.7%下落しました。強気相場をけん引してきた大手ハイテク株が利益確定売りに押された一方、出遅れ感のあったバリュー株(景気敏感株や金融株)や小型株(ラッセル2000指数)が買われる循環物色がみられました。
こうした中、25日に発表された2024年4-6月期の米・実質GDP(国内総生産)成長率(前期比年率/速報値)は+2.8%と予想を上回る強さを示し、26日に発表されたPCE(個人消費支出)価格指数の前年同月比伸びが+2.5%と市場予想に沿うインフレ率減速を確認し「ソフトランディング」(景気の軟着陸)期待が根強い印象もあります。
注目されていた30~31日のFOMC(米連邦公開市場委員会)は、市場の想定通り政策金利の据え置きを決定しました。パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は記者会見で、インフレについて「2%の目標に向けてさらなる一定の進展があった」とし、早ければ9月のFOMCで利下げを開始する可能性を示唆しました。
こうした「利下げ転換期待」を受け、債券市場では2年債金利が4.2%台に、10年債金利は4.0%台にそれぞれ低下(31日)。株価調整の一巡感もあり、大手ハイテク株に買い戻しが見られS&P500指数は反発(図表1)。ただ、1日には景気減速懸念などが出て大幅安と乱高下の動きとなっています。
4-6月期の決算発表を巡っては、S&P500を構成する500社のうち313社が決算を発表した時点(31日)で、売上高総額は前年同期比4.2%増収、純利益総額は11.1%増益(Bloomberg)と平均的には「増収増益」となっており、株式市場の下支え要因となる可能性もあります。
<図表1>金利低下期待の高まりは、米国株を下支えできるか?
軽視できなくなった「もしハリ・シナリオ」に注目
米国大統領選挙の動向を巡り、7月中旬までは想定できなかった変化が起きつつあります。21日に大統領選挙からの撤退表明を表明したバイデン大統領が推薦したカマラ・ハリス副大統領(59歳)が民主党の大統領選候補の本命に踊り出ています。
13日に発生した暗殺未遂事件のヒーローとして勢い付いていたトランプ前大統領(共和党)に各種世論調査の支持率や当選予想でハリス氏がトランプ氏を猛追しています(Bloomberg報道など)。バイデン大統領とトランプ氏の老々対決に嫌気を感じていた「ダブルヘイター」と呼ばれる無党派層の政治的関心を刺激しています。
ハリス氏は、カリフォルニア州の検事、司法長官、上院議員を経て弁舌が鋭く、「消費者をだます詐欺師や、自分の利益のためにルールを破る者など、(検察官として)あらゆる犯罪者と闘ってきた」と自身のキャリアをアピールし、「私は、トランプ氏のようなタイプを知り尽くしている」と断言しました。
ハリス氏はバイデン民主党の主な政策方針を引き継ぎ、「中間層の拡充」を訴えています(図表2)。また、カリフォルニア州に所在するシリコンバレー(ハイテク産業の一大拠点)とのパイプも注目されています。
<図表2:民主党・共和党の政策公約や相対的弱点の比較>
こうした中、トランプ氏が副大統領候補に指名したバンス上院議員が共和党陣営の重しとなっています。2021年のTVインダビューでバンス氏が発した(一部の女性や同性愛者を蔑視した)発言が問題視され、党派を超えて女性が反発しSNS(交流サイト)上で炎上する展開となりました。
ハリス氏による副大統領候補者指名(激戦州の白人男性知事との見方が有力)、8月の民主党大会での正式候補者指名を経て、9月10日に開催される予定の「第2回・大統領候補者TV討論会」の優劣と支持率調査の行方が当面の焦点となります。
なお、リベラル(民主党寄り)で知られるテイラー・スウィフト(世界の歌姫)が2020年10月と同様に「民主党支持」を再表明すれば、「もしハリ・シナリオ」(米国初の女性大統領誕生=トランプ氏の返り咲き失敗)が現実味を帯びてくる可能性があり注視したいと思います。
長期投資の姿勢を維持したい本当の理由を知る
上述したとおり、マイノリティー(有色人種)、女性、若者(Z世代~ミレニアム世代)の政治への関心を喚起したハリス副大統領の勢いが続くかどうかと、大統領選挙(11月5日)同日に行われる上下両院議会選挙の結果も来年以降のワシントン情勢を占う上で注目されます。
ただ、米国市場の長い実績で振り返ると、大統領選挙や議会選挙を巡る不安が「市場の短期的なノイズ」でしかなかったことも知られています。実際、共和党政権下でも民主党政権下でも株価が上がることもあったし、下がることもありました。
個人的なお話しですが、筆者は1989年に某投信会社に入社。1991年から1995年まで米国現地法人(ニューヨーク市)に出向しポートフォリオマネジャー(北米株式を担当する投資顧問業)に従事していました。
この間、オフィス近くのワールドトレードセンター(悲しいことに2001年9月の同時多発テロで崩壊)の1階に所在していた「チャールズ・シュワブ証券」の店舗を何度か訪れました。
同店舗には営業担当者(いわゆるセールス)がおらず、店舗を訪問した顧客が店内に展示してあるファンド(公募型投信)のパンフレット(販売用資料)に興味を抱くと、中央カウンター内にいる担当者がプロスペクタス(目論見書)を丁寧に説明するスタイルでした。
当時、日本で常識的だった証券会社が「販売手数料を稼ぐためのファンド乗り換え」を顧客に勧めていた営業手法(現在は違う?)と異なり、「投資家のリスク許容度やニーズを重視する長期投資」を勧めるスタイルが新鮮でした。
ご参考までに、筆者が米国株式に関わった1990年からのS&P500の総収益指数(配当込みトータルリターン指数)の対数チャートを図表3に示してみます。
<図表3>米国株式の総収益指数を長期で振り返る
この間にS&P500の総収益は31.8倍となり、平均総収益率は+11.8%でした。「時間を味方につけた米国株式への長期投資」が生み出した投資成果を示す市場実績です。
上記は過去のボラティリティ(変動)を比較的鮮明に示す対数チャートですので、長期ではITバブル崩壊、景気後退、金融危機などで大小の株価変動を経験してきたことが分かります。そうした変動を乗り越え、1990年初からのS&P500の配当込み総収益が世界市場の中で秀でてきた実績に注目いただければと思います。
第2次世界大戦時に英国の首相であったウインストン・チャーチル氏は「Americans will always do the right thing, only after they have tried everything else.」(米国は最後には正しい事を行うが、そこに到達するまでに何回も失敗する)と述べました。チャーチル氏の米国への評価と皮肉が込められているとされます。
米国株式市場のリターンも、上げ過ぎの反動安、下げ過ぎの反動高を挟み、結果的には長期的な投資成果をもたらしてきました。前週は米国の投資格言「TIME in the market is more important than TIMING the market」(相場の上下に合わせて売買するよりも、長く投資を続けていく方が有利)をご紹介しました。
投資を続けていく過程でのリスク(リターンのブレ)は避けられない一方、一般個人の投資家が短期売買を繰り返して投資成果を上げ続けることが至難であることも知られています。
1990年代初めに筆者が訪れたチャールズ・シュワブ証券の顧客も、401K(米国の確定拠出型年金)やIRA(個人退職勘定)など非課税投資枠を活用して長期積み立て投資を続けてきた米国の一般投資家が長期の時間軸で投資成果を得てきた市場実績をご紹介しました。
1990年代も現在もそして今後も米国が世界最強かつ最大の資本主義経済国(市場)であることに変わりはないと思います。日本の個人投資家もコストが低いインデックスファンドを活用して米国株式に長期積み立て投資を続けていくことは合理的であると考えています。
なお、筆者が本稿の執筆を担当するのは最後となります。末筆となりましたが、皆さまの資産形成のご成功とご多幸を心よりお祈り申し上げます。最後までお読みいただきありがとうございました。
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(香川 睦)
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