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日銀のタカ派変心、米FRBの利下げ遅れ懸念で大揺れ!1ドル=140円割れの可能性も

トウシル / 2024年8月7日 16時0分

日銀のタカ派変心、米FRBの利下げ遅れ懸念で大揺れ!1ドル=140円割れの可能性も

日銀のタカ派変心、米FRBの利下げ遅れ懸念で大揺れ!1ドル=140円割れの可能性も

日経平均、ブラックマンデーの超えの暴落

 日経平均株価(225種)が5日に過去最大の下げを記録した翌6日に過去最大の上げという、まさにジェットコースターに乗っているような相場が続いています。まさか1987年のブラックマンデーの翌日に付けた下落幅を上回る暴落が起こるとは思いもよりませんでした。

 前回のコラムでお話しましたように、8月は、1971年8月15日のニクソンショック(金・ドル交換停止、10%の輸入課徴金)や1990年8月2日のイラクのクウェート侵攻、2007年8月9日のパリバショック(サブプライム住宅ローン問題)のように経済的、軍事的大事件が時々起こり、相場が大きく動くことがありましたが、今年は経済も金融も軍事も同時にかつ複合的に起こってしまいました。

 米国の景気後退懸念から米国株が下落し、日本株も下落したとの報道がされていますが、今回の円高や株安はそれだけが理由ではない点には留意する必要があります。

 今回の相場大変動の背景としては、タカ派に変心した日本銀行、ハト派にこれから変心しようとする米国のFRB(連邦準備制度理事会)、そうせざるを得ない米国の経済状況に加え、米大統領選の不透明、中東の地政学リスクの高まりが重なり、日経平均は8月に入ってからの3営業日で約7.600円の大暴落となりました。

日銀のタカ派姿勢への急転換、FRBのハト派対応遅れ懸念で相場崩れる

 今回の相場の大変動は7月31日の日米の金融会合の結果がきっかけになったと考えています。

 日銀が政府からの圧力に応えるかのように、予想外の7月利上げを行い、先行きに対しても植田和男総裁は0.50%の壁を意識せず、追加利上げの可能性もあるとの認識を示しました。

 一方、FRBはFOMC(連邦公開市場委員会)の声明でインフレリスクだけでなく雇用のリスクにも注意を払うと述べ、FRBのパウエル議長は記者会見で「9月に利下げが検討される可能性がある」と発言しました。

 しかし、8月1日(木)公表の米7月ISM(米サプライマネジメント協会)製造業景況指数が46.8と前月より低下し、2日(金)の7月雇用統計は市場予想を下回り、失業率も4.3%と悪化しました。

 これにより米景気後退懸念が高まったことから、9月の利下げ開始は遅すぎるのではないかとの疑念が浮上しました。FRBは経済をオーバーキル(金融を引き締め過ぎること)してしまったのではという印象を市場に与え、7月に利下げを開始すべきだったのではないか、あるいは9月は0.50%の利下げもあり得るのではないかとの景気後退懸念が市場を覆い、米金利は急低下し株は下落、ドルは売られる動きとなりました。

 これまでの日銀の大規模緩和継続姿勢、その結果としての過度な円安、米国のソフトランディング(軟着陸)という株高の前提が、日銀のタカ派急変の驚きとFRBのハト派対応の出遅れ懸念によって一気に崩れてしまったのがこの1週間の出来事とみています。

 加えて、ブリンケン米国務長官が4日に*G7(先進7カ国)の外相に対して、イラン側の報復攻撃が早ければ24~48時間以内に始まる可能性があると伝えたと報じられたことが、より市場に緊張をもたらせたのではないかと考えています。相場環境が悪いときには、これらの情報は保有資産を売却し、現金化しようとする動きに拍車をかけることになるからです。

*G7…日本、米国、ドイツ、英国、カナダ、フランス、イタリアの7カ国

 また、米大統領選は、6月28日のテレビ討論会以来目まぐるしく情勢が変化してきたため、選挙の不透明感が高まったことも、これまで積み上げてきた保有資産の売却を進めたかもしれません。

日銀のタカ派姿勢いつまで?米景気低迷によるFRBの急速な利下げあり得る?

 以上のような考え方を前提とすると、今後の展開をみる上では以下の点に注目したいと思います。

  1. 日銀の7月会合でみせたタカ派姿勢に変化が見られるかどうか
  2. FRBは、市場が出遅れ感があるとみている利下げ時期や利下げ幅を修正するのかどうか
  3. FRBの急速な利下げが必要になるような米景気減速が起きるかどうか

 まず、(1)の日銀については、7月の利上げをもたらした過度な円安は、15~20円の円高になったことから利上げをこれ以上急ぐ必要がないと日銀は判断し、金融正常の方向は変えなくてもスピードを落としてくる可能性が考えられます。

 植田総裁は、経済物価情勢が日銀の見通しに沿って動いていけば、引き続き金利を上げていくと説明しています。しかし、急激な円高による輸出企業への影響や物価への影響、株安による逆資産効果による消費の萎縮などによって、日銀の見通し通りに経済・物価は動かず、追加利上げの必要性が薄れてくるかもしれません。

 また、政府筋からも株価下落による景気後退を意識し、金融正常化を望む姿勢に微妙な言い回しの変化がみられるかもしれないため注意が必要です。

 このように考えていたら、内田真一副総裁から7日、市場の動揺を鎮めるための発言が出てきました。

 内田副総裁は「円安修正は政策運営に影響する」、「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要」、「金融市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と発言しました。これを受けて株は上昇し、外国為替相場は早朝の1ドル=144円台から一時147円台の円安となりました。

 この発言によって動揺が収まればよいのですが、マーケットにはこれまで積み上げた円売りポジションや株など、今回の円高や株下落によって調整できなかった売りポジションが戻り局面を待っていることも予想されます。また、米国サイドの要因もあるため、まだ不安定な状況は続きそうです。今後も日銀要人からの発言に注目です。

(2)のFRBについては、7月のFOMCの声明ではインフレだけでなく雇用のリスクについても注意を払うということを加えました。しかし、9月利下げについては、パウエル議長が記者会見で可能性を触れただけで声明には示唆する文言はありませんでした。

 7月の時点ではFOMC内でまだ意見が分かれていたのかもしれません。その後の悪い経済指標や株急落、金利急低下を受けて、FRB内部での方向が同じになるかどうか、今後のFRB高官の発言に注目です。株式市場の動揺や弱い経済指標が続くと、ハト派色の発言が多くなるかもしれません。

 逆にタカ派発言が相次ぐと、株式市場を予想以上に揺らすかもしれないため注意が必要です。また、株式市場の動揺が続くと、9月のFOMCを待たずに緊急開催されることも想定されます。ひとまず、8月22~24日のジャクソンホール会議でパウエル議長がよりハト派になっているのかどうか注目です。

(3)の米景気については、5日の米7月ISM非製造業景況指数は51.4と予想を上回り、米景気減速の懸念を弱める結果となりました。この結果を受けて米金利もやや戻り、ドルは買い戻されましたが、ダウ工業株30種平均は米景気の先行き不安から1,000ドル近く下げました。まだ、不安定な相場地合いとなっているため、警戒する必要がありそうです。

 これまで米株式市場をけん引してきた半導体・AI銘柄は、2024年4-6月期の決算発表の後、先行きの業績不透明感から軟調地合いが続いています。米株高や慎重な利下げ姿勢の前提だったソフトランディング(軟着陸)に変化が起きるのかどうか注目です。ハードランディングはなくても株下落による逆資産効果も影響し、景気低迷が続くかもしれません。

1カ月で20円の円高進行、1ドル=140円割れを目指す可能性も

 為替相場はこの約1カ月で20円の円高となり、そのうち8月に入ってからは、3営業日で9円近くの円高となりました。3日という短期間でこの円高の値幅はかなりの急激な変動です。

 内田副総裁の発言によって円安に戻していますが、まだ、相場地合いは落ち着いたとはいえないため、値動きの荒い相場が続きそうです。このような荒っぽい相場のときには逆張りの売買はかなりリスクが高いため注意が必要です。

 また、これまでのように安心して円を売り続けることには相当慎重になることが予想されます。それよりも、今後の日米の金融政策の動きや、米大統領選、中東情勢などを勘案すると、まだ解消されていない円ショートポジションの巻き戻し(円買い)が続くことも予想されるため、円安に戻った場面では、すかさず円買いが出てくると考えられます。

 1ドル=160円はかなり遠く、155円でも遠い水準かもしれません。1ドル=150円の攻防を試す場面があるかもしれませんが、140円台の居心地を試す展開になるかもしれません。

 株式市場の動揺が収まり、日銀がペースを落としてもこのまま利上げ方針を変えず、FRBが年内に複数回の利下げに動くならば、1ドル=140円割れを目指す展開も予想されます。これまでの枠組みで築き上げられてきたポジションの調整は始まったばかりかもしれません。

(ハッサク)

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