8年ぶりの西安!中国出張で見たEV化と景気迷走。出入国は厳しく
トウシル / 2024年8月15日 7時30分
8年ぶりの西安!中国出張で見たEV化と景気迷走。出入国は厳しく
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「8年ぶりの西安!中国出張で見たEV化と景気迷走。出入国は厳しく」
約8年ぶりに訪れた「長安」
今月、私は中国西部にある陝西省西安市を約8年ぶりに訪れました。西安はかつて「長安」とも呼ばれ、漢や唐の時代の都でありました。敦煌やシルクロードに興味を持つ方も多い日本人にとっては、西安よりも長安という名称のほうが、なじみやすいのかもしれません。
今回の西安訪問は、中央アジア出張のためのトランジットという位置付けであったこともあり、同地での滞在時間は約1日と短かったですが、それでも最新の中国事情を理解するという意味で、収穫はありました。
中国政府は日本国籍保有者に対する短期渡航ビザ免除措置を解禁しておらず、15日未満であればビザ免除だったコロナ禍前とは異なり、中国渡航には依然としてビザが必要です。
ただ、予約確定済みの国際線航空券などを所持し、中国を経由して第三国・地域へ渡航するという前提であれば、トランジットビザが免除される口岸が設けられています。西安市はその一つで、144時間以内であれば、西安市、咸陽市内という限定付きで、中国国内での滞在が認められます。私は今回、この措置を利用する形で中国に赴いたということです。
EV化の進行と迷走する景気
昨今の中国情勢というスキームで陝西省、西安市というと、最高指導者である習近平(シー・ジンピン)総書記の故郷が陝西省富平県という背景もあり、政治、経済、市民の生活や所得レベル、インフラなどを含め、陝西省の為政者、政府にとっては「失敗は許されない」という政治事情が働いているという前提は念頭に置くべきだと考えます。
実際、西安市内で議論をしたある地元の企業経営者にして富豪は、自らも物件を有していた別荘地が、高級官僚たちの腐敗の温床となっていたため、習近平政権が大々的に取り組んできた「反腐敗闘争」の観点から取り壊され、官僚たちは無条件で別荘を没収、取り調べを受け、失脚した人間も多数いたとのことです。ちなみに、この経営者は公の地位にあるわけではないため、購入時の1,000万元(約2億円)が現金で返ってきて、「実質損をしたのは改装代だが、それでも30万元(約600万円)はかかった。政治に巻き込まれたということ」とため息をついていました。
市内を移動する道中で実感したのは、自動車のEV化が急速かつ広範囲で進んでいたことです。目にした中で最も多かったのが比亜迪(BYD:01211)で、次が奇瑞(Chery)でした。テスラ、ドイツ車、レクサスなども散見されましたが、やはり国産車が圧倒的に多く、中には全く知らない、見たこともないブランドのEV車も走っていました。
現地で議論した、民間のメーカー幹部は、「中国のEV車は、ブランド数という意味で乱立しており、これからその多くが淘汰(とうた)され、最終的には5社くらいに落ち着くだろう。注目しているのはBYDとシャオミ(01810)」と指摘していました。「無人車がそこら中で走っている光景を見る日も近いだろう」(同)。
2023年、世界最大の自動車市場である中国乗用車販売台数は3,000万台を突破(3,009万台)し、うち新エネルギー車が占める割合は31.6%に達しています。多くの消費者が「ガソリンよりも電力の方が安くて便利」と実感する中、この傾向と比重は今後ますます顕著になっていくでしょう。
一方、道端から眺める限り、景気は迷走しているという感じでした。曲江という観光地、繁華街周辺で21時過ぎに夕食を取りましたが、小雨が降る中、道路は渋滞し、市民で溢れかえっていましたが、レストランやバー、モールをのぞき込んでみると、お客さんはあまり入っていない。時間帯によるのでしょうし、地域差もあるでしょうが、コロナ禍明け後訪れた上海や北京、浙江省の街中、道端で感じたのと同様の光景、感覚でした。
4-6月期のGDP(国内総生産)の実質成長率は前年同期比4.7%増と、1~3月の5.3%増から鈍化し、6月の個人消費も前年同月比2.0%増と低迷しています。注目される不動産不況に関しても、現地で話を聞いた5人の市民全員が、住宅価格は下がっており、彼ら・彼女らが市内に所持する物件も10~30%程度下落しているとのことでした。
外国人にとっての支払いと厳格化する出入国事情
外国人が中国に渡航する上で、往々にして不満の種となるのが、「支払いが不便」という点だと思います。海外のクレジットカードが使用できない場合が多く、かつ中国人の間で普遍的に使用されているアリペイやウィーチャットペイといったオンライン決済サービスは、中国の銀行が発行するキャッシュカードとひも付ける必要がある、しかも「最後のとりで」である現金に至っては、もはや日常の売買や支払いでほとんど使われないことが多く、「打つ手なし」と落胆してしまう渡航者も多いでしょう。
7月に行われた三中全会閉幕後に発表された公式文書では、外国人の中国での支払いを便宜化するという点が盛り込まれました。今年3月、国務院が「決済サービスの最適化と支払いの利便性向上に関する意見」を発表し、以下の措置を実行するとしています。
- 海外クレジットカードの利用環境を着実に改善する
- 現金の使用環境の最適化を継続的に推進する
- モバイル決済の利便性をさらに向上する
- 消費者が決済手段を選択できるようにする
- 銀行の口座関連サービスを向上する
- 決済サービスの広報・普及を強化する
今回の滞在期間中、市内のレストランや空港の書店など、全ての場面で現金を使用しましたが、嫌な顔をされることもなく、お釣りもきちんと返ってきました。また、空港内の店舗では「現金使用を支持する」という統一した標識が張られていました。上記の政策を反映する動向といえるでしょう。
最後に、出入国についてです。パスポートコントロールで実感したのは、外国人、中国人を含めて、出入国に際して、さまざまなことを聞かれる状況が常態化しているということです。例えば、中国人出国者の多くは「あなたは旅行に行くのか」「帰りの航空券は持っているか」「企業による行為か個人旅行か」「普段どんな仕事をしているのか」「企業名を言いなさい」「(パスポートを提示している状況下で)身分証を見せなさい」といったやり取りが多く行われていました。
国家安全を重視する習近平政権下ならではの実情と理解すべきです。
外国人に関しても同様です。隣の窓口で入国しようとしていたビジネスマンが「あなたはどんなビジネスをしているのか」「今回はどこの都市に行く予定か」「中国の携帯電話を持っているか」「中国語はどこで勉強したか」「なぜホテルに泊まらないのか」「(帰りの航空券を買っていないのを受けて)なぜ買っていないのか? どこから出国する予定か」など、あらゆる質問を受けていました。
私が把握する限り、中国政府、税関の日本人渡航者への信頼や評価は高く、あらゆる質問をさみだれ式に受けるという光景が常態化する可能性は低いと思われますが、それでも、特に入国時には、その目的や動機を警戒され、あらゆる質問を投げかけられる可能性は十分にあり、その点、これから中国への出張や駐在を予定されている方は、心の準備をし、事前に「理論武装」をしておく必要があるように思います。
(加藤 嘉一)
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