米景気不安と日銀利上げ期待で「ドル高、円高」
トウシル / 2024年9月4日 10時28分
米景気不安と日銀利上げ期待で「ドル高、円高」
今日のレンジ予測
[本日のドル/円]
↑上値メドは146.85円
↓下値メドは144.75円
円安:財務省「円安の抜本的是正には、日本経済の構造改革が必要」
賃上げ:「賃上げはこれまで低すぎた給料に対する調整であり、個人の努力に対する正当な報酬である」サラリーマンがこのように認識している限り、政治家に感謝することはない。
永久高金利:中立金利はFRBの認識(0.6%)よりも大幅に高い2%の可能性
スイス中立金利:スイスの政策金利1.5%はまだ引締め的。名目中立金利は1.0%の可能性
EU:中国製EVを反ダンピング認定。関税を10%から35%に引き上げ
前日の市況
9月3日(火曜)のドル/円相場は前日比1.41円の「円高 」だった。月曜日がレーバーデー休場だった米国市場にとっては9月初日となったこの日は、リスクオフのドル買いが強まった。
2024年177営業日目は146.82円からスタート。ドル/円は8月28日から4営業日連続で円安が進むなかで、東京時間昼前には前日の高値(147.17円)を超え147.20円まで上昇した。
しかし、植田日銀総裁が経済財政諮問会議において、「利上げ継続」の姿勢を明らかにしたことが伝わると、一転して円買いの流れとなった。NY市場では、NYダウ(ダウ工業株30種平均)が大きく下げたことを受けて景気敏感通貨といわれるユーロや豪ドルが対ドルで売られたが、円はリスクオフで買われた。夜遅くには146円台を割り前日の安値(145.78円)を通り抜け、この日の安値となる145.09円まで大きく下げた。終値は145.48円。24時間のレンジ幅は2.11円。
FOMC(米連邦公開市場委員会)が、政策金利(FF金利)を5.25%-5.50%に据え置くことを決定した7月の会合では、声明文の内容に重要な変更があった。
前回までの声明文は、インフレのみに焦点を合わせた、「引き続きインフレリスクに高い関心を払っている」という表現だったが、今回は「(インフレと雇用の)デュアル・マンデート(2大責務)の両面リスクに注意を払っている」に変更されていた。
労働市場についての認識も変わった。これまでは、「雇用の増加は力強く、失業率は低いままである」だったが、今回の声明文では、「雇用の増加は緩やかになり、失業率は低いままであるが上昇した」と慎重になった。
パウエル議長は、FRB(米連邦準備制度理事会)は今「インフレ再加速」と「米経済の減速」という「二面性のリスク」に直面していると述べた。FRBが早急な利下げに踏み切ればインフレが再加速する可能性がある一方で、利下げが遅すぎると経済に悪影響を与えるおそれがある。
パウエル議長は8月23日、ジャクソンホール会議で、「9月利下げ」を強く示唆した。しかし、マーケットの関心は「その先」にある。果たして9月に0.5%利下げをするのか。あるいは0.25%ずつ、11月、12月と三回連続で下げるのか。米大統領が代われば利下げは止めるのか。
全ては今週の米雇用統計次第だ。
主要指標 終値
今日の為替ウォーキング
今日の一言
自分の欠点ばかり気になり出したら、そんな劣等感を直してくれる人間はこの世に一人しかいない。つまりあなた自身だ。- カーネギー
Heat of the Moment
7月の雇用統計は弱かったが、マーケットが言うほど悪くはなかった。雇用統計が示しているのは、新型コロナ後から続いてきた米国経済の「異常な成長」が落ち着き、トレンドに戻ったということだ。
7月の就業者が予想を大きく下回ったのは、悪天候が大きな理由だった。増加数は減っているが、リストラの不安が広がっているわけではない。失業率はサーム・ルールに該当したが、サーム氏本人が「米国はリセッションにあらず」と述べている。移民急増や労働形態など、新型コロナ後の雇用市場の構造変化がルールの有効性を減じているということらしい。
マーケットの一部はFRBの緊急利下げを予想しているが、過去においてFRBが雇用市場を理由に利下げしたのは、雇用者が2カ月連続でマイナスになった時だけだ。また現在の状況が、FRBが911やリーマンショックや新型コロナ流行時ほど深刻かといえば、そうではない。逆に言えば、FRBが0.50%の利下げをするならば、世界規模の不況がやってくる「オーメン」だと覚悟するべきだ。
FRBが本当に懸念しているのは雇用者数ではなく、賃金上昇率である。米国では、ベビーブーマー世代を中心としたグレート・レジグネーション(大量離職)が発生した結果、構造的な働き手不足に直面している。企業は労働力を確保するために高い給料を払う必要がある。その労働コストは価格に転嫁されるのでインフレ率も上昇する。インフレで生活が苦しくなると、より高い賃金を求めて転職しようとする人が増えるので、企業はさらに賃上げしなくてはいけない。そしてそのコスト分(以上)が値上げされる「賃金・物価スパイラル」が止まらないことをFRBは問題視しているのだ。
FRB前議長で経済学者でもあるイエレン財務長官は、30数年前に発表した労働市場に関する学術論文の中で、「不況の後、多くの人々は労働市場から完全に離れるが、時間の経過と共に、景気回復と賃金の上昇を期待して再び労働力として戻ってくる」と論じた。
2020年の新型コロナ禍で多くの人々が仕事をやめたせいで、その後の経済再開の時に人手不足が深刻な問題となり、「賃金・物価スパイラル」が発生した。しかし、時間が経てば、一度は仕事をやめたものの、高賃金に惹かれたり、インフレで生活が苦しくなったりすることで再び働こうとする労働者が増えてくる。労働力参加率が上昇するなかで失業率と賃金は次第に安定に向かい、賃金の伸びは低下していく。これがイエレン氏の需要と供給の考えだ。今後の雇用市場はイエレン理論の正しさを証明することになるかもしれない。
今週の注目経済指標
今日の重要ブレークアウトレベル
コーンチャート分析
(荒地 潤)
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