米FRB大幅利下げ期待で、円高ドル安の圧力高まる
トウシル / 2024年9月11日 16時0分
米FRB大幅利下げ期待で、円高ドル安の圧力高まる
米労働市場減速、11、12月は0.50%利下げ期待高まる
米国の8月雇用統計が6日に発表されましたが、強弱混合の内容でした。非農業部門雇用者数は前月比11.4万人の増加と市場予想を下回り、過去2カ月分も8.6万人と大きく下方修正されました。
一方、失業率は4.2%に改善し、時間当たり賃金の伸びが前月の0.2%から0.4%に加速しました。ドル/円は1ドル=144円近辺から142円近辺の間を乱高下する相場となりました。
雇用統計は今月のFOMCで0.50%の利下げが決定されるとの確信を強めるほどではありませんでした。しかし、労働市場の減速を示には十分な内容でした。そこにタカ派のウォラーFRB(米連邦準備制度理事会)理事が年内大幅利下げの可能性を否定しなかった発言も重なって、結局、米金利の低下とともに、1ドル=141円台後半の円高となりました。
米8月雇用統計の発表直後、9月の0.50%利下げ期待は一時50%を超えましたが、その後、30%近辺に下がりました。しかし、11月、12月は労働市場の減速から0.50%の利下げ期待が増える結果となっています。つまり、これまでの年内1.0%利下げ期待だけではなく、1.25%利下げ期待も出始めているということです。
ECB理事会利下げなら、円高圧力強まる可能性も
週明け9日の東京株式市場では、日経平均株価の前週末からの下落幅が米景気減速懸念と円高から一時1,000円超となりましたが、下落幅縮小とともに1ドル=143円台後半へと円安が進み、141~143円台を行き来する展開となり、来週のFOMC待ちとなっています。
17~18日のFOMCまでには、米8月CPI(消費者物価指数)が11日に発表されます。この結果次第では利下げ幅拡大の思惑が強まる可能性があり、相場が動きそうです。CPIの前年同月比上昇率は前月(2.9%)を下回る予想となっており、ドル/円の上値を重たくしています。予想通りであれば、前月を下回っても相場は限定的な動きになりそうです。
しかし、予想を下回った場合は、0.50%の利下げ期待が高まることも予想され、もう一段の円高が進むかもしれないため注意が必要です。逆に予想を上回っても、金融政策の焦点は物価より雇用に移っているため、9月利下げや今後の大幅利下げを後退させる要因にはならないと思われます。
12日のECB(欧州中央銀行)理事会でも9月利下げ期待が高まっており、注目です。今後の方針としてハト派姿勢を強めるかどうかもポイントです。ユーロ圏の8月の物価は前年同月比2.2%上昇と前月の2.6%上昇から一段と鈍化し、3年ぶりの低水準です。
ECBの利下げ時期が遅れると、物価目標の2%を下回るのではないかとの懸念も出始めています。さらにドイツ経済はマイナス圏であるため、ユーロ圏全体の経済を失速させないためにも、9月利下げに加えて年内の追加利下げ期待が高まることが予想されます。
ECBが12日に利下げを決定すれば、これまでの米利下げ期待によるドル安ユーロ高からユーロ安、そしてユーロ安・円高地合いに変わると予想されます。そして、この対ユーロでの円高圧力が円高ドル安の後押しになる可能性があります。また、ECBのハト派姿勢が強まれば、円高ユーロ安圧力も強まるでしょう。
さらにFRBが18日に利下げを決定し、追加利下げを示唆する内容であった場合は、一段とドル売り圧力が強まり、円高が進むことが予想されます。
ただし、このシナリオは一般的な見方であり、この思惑が事前に市場に織り込まれる過程で相場が動くことも予想されるため注意が必要です。
また、期待が大き過ぎれば、事前のポジションが大きくなり過ぎて、利下げ決定の事実が分かった段階で反対の動きをする場合があります(今回の場合、円高シナリオですから、利下げ決定後円安に動くということになります)。
しかし、ポジション調整が一巡すれば、再びドル売り圧力、ユーロ売り圧力、円高圧力は続くと思われます。
日米欧の金融会合控え、1ドル=140円台後半で円高いったんブレーキ
9日に発表された日本の2024年4-6月期実質GDP(国内総生産)の改定値が2.9%増と速報値の3.1%から下方修正されました。個人消費と設備投資の下方修正が影響したようです。
9日のドル/円の円安は、この下方修正が、植田和男日本銀行総裁が追加利上げの前提としている「経済・物価見通し実現の確度が高まれば、金融緩和の度合いを調整する」ことに影響するのではないかとの懸念も円売り要因となったようです。
しかし、19~20日の日銀金融政策決定会合で、日銀の経済・物価見通しの見方が変わらず、追加利上げ姿勢も変わらなければ、先んじて米欧が利下げする環境ではドル/円の円高圧力にユーロ/円の円高圧力が加わり、ドル/円は1ドル=140円方向に行きやすくなることが予想されます。
一方で、利下げの背景となる欧米の経済が悪化していく中で日銀の利上げが困難になってくるのではないかとの見方がある点にも留意していく必要があります。日銀は欧米の政策決定に影響されないと説明すると思われますが、市場は今後違った見方をしてくる可能性もあるかもしれません。
日銀会合前には、11日に中川順子委員、12日に田村直樹委員の発言があります。中川委員が11日に「見通しが実現していけば緩和度合いを調整していく」と発言したことで、トランプ氏とハリス氏のテレビ討論中でしたが、1ドル=142円台前半から一時140円台後半の円高に動きました。
このような動きを見ると、12日の最もタカ派とされる田村委員の講演は注目です。前回3月には予想外のハト派発言で円売りが強まりましたが、今回追加利上げにどのような姿勢を示すのか見ていきたいと思います。
ドル/円は1ドル=140円台後半までいったん行き、円高にブレーキがかかっているような動き方をしています。
テレビ討論会、あるいは大統領選挙を控えてインフレ、金利高を意識した動きとの見方もありますが、それよりも日米欧の金融会合を控えている今、会合結果を見極めるまでは次の大きな方向に動けないという背景の方が大きいのではないでしょうか。金融会合後の大きな動きに注意する必要があります。
ハリス氏とトランプ氏討論会で直接対決、新大統領がどちらか読むのは時期尚早か
10日のトランプ氏とハリス副大統領とのテレビ討論会では、政策討論よりもどちらが米大統領にふさわしいか注目されていました。今回、トランプ氏のハリス氏に対する個人攻撃は抑制的で、ハリス氏の決定的な失点もなかったことから、トランプ氏とバイデン大統領の6月の討論会のように決定的な優劣は見られませんでした。
政策については、どちらの陣営が勝っても拡張的な財政運営が志向される可能性が高いため、インフレ的になり、金利は上がりやすいといわれています。
しかし、選挙はしてみないと分かりません。さらに新大統領が打ち出す政策が法制化は上下院の議会勢力がどうなるかにかかっています。ねじれ議会になれば法制化が阻まれるかもしれません。従って選挙前から新政権の政策を意識して相場を読むのは、時期尚早の可能性があります。思惑だけで相場が動いても相場の方向付けには至らないのではないでしょうか。
(ハッサク)
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