初の女性大統領誕生!?米国株は11月からハネムーンラリーか(香川睦)
トウシル / 2024年9月18日 7時30分
初の女性大統領誕生!?米国株は11月からハネムーンラリーか(香川睦)
米国株式の堅調が世界株式のリターンをリードしている
このたび「資産形成入門!グローバル投資のトビラ」を執筆させていただくマリン・ストラテジーズの香川睦です。「マリン」とは海のように広い視野で資産形成や投資戦略を考えていきたいとの意味です。
まずは、下段の図表1をご覧ください。内外の主な株式市場(株価指数)について期間別のリターンを一覧しました。
<図表1>米国株式と世界株式の期間別リターン
2024年の年初来で比較すると、米国株式(S&P500種指数)が世界株式(MSCIオールカントリー)のリターンを上回っていることが分かります(9月16日時点)。ともにドル建ての時価総額加重平均指数ですが、世界株式の時価総額ウエートで6割超を占める米国株式の優勢が分かります。実際、S&P500は7月16日まで年初来で38回過去最高値を更新しました(終値ベース)。
先行き景況感のブレ、地政学的リスク、AI相場を巡る期待後退を不安視する利益確定売りで4月、8月、9月に市場需給が一時的に揺れましたが、S&P500の100日移動平均線は上向きトレンドを維持しています。
なお、3年、5年、10年のS&P500の期間別総収益(配当込み年率平均)も世界株式を上回ってきました。今週開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会:17~18日)ではFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを決定する公算が高く、債券市場金利が3.6%前後に低下してきたことも株式相場のサポート要因です。
大局的に見た金融当局の「利下げ転換」はインフレ減速傾向の確認だけでなく、労働市場を下支える姿勢を示します。本稿では、米国外の市場にも影響を与えやすい米大統領選挙動向における「トラピン」(トランプのピンチ)現象を解説します。
「米国初の女性大統領誕生」に向けた動きに注目
11月5日の本選挙が近づく中、大統領選挙情勢が一変したことを示す動きが見られます。7月21日に選挙戦撤退を表明したバイデン大統領が推薦したハリス副大統領(59)が民主党大会での正式指名を受けた後に世論調査や当選予想で躍進しています。
図表2は、PredictIt(予測市場:オンライン賭けサイト)の候補者別当選予想の推移を示しています。トランプ前大統領(78)の当選予想は、7月13日に発生した暗殺未遂事件から共和党大会での指名獲得にかけて上昇した後に下落した一方、ハリス氏は若者、マイノリティ(有色人種)、女性の関心を獲得しつつ躍進。
9月16日時点の当選予想は、ハリス氏当選予想が57%でトランプ氏(46%)を上回っています。特に、10日に激戦州ペンシルベニアで行われた「大統領候補者討論会」(ABCニュース主催)でハリス氏が笑顔を交えた堂々とした姿勢で対峙(たいじ)し、トランプ氏は押された印象を与えました。
CNNが討論会視聴者を対象にした世論調査によると「ハリス氏勝利」は63%、「トランプ氏勝利」は37%でした。11日付けのWSJ紙は「トランプ氏はハリス氏の策にはまった(Harris Baits Trump in Fiery Presidential Debate)」と評しました。
討論会でハリス氏が「中間層の子供として育った」「このステージ上で中間層と労働者層の底上げを図る計画を持つのは私1人だ」と訴えた一方、トランプ氏は「不法移民はペットの犬や猫を食べている」と吹聴するなど、いつもの奔放な発言が批判されました。
<図表2:カマラ・ハリス候補の優勢が鮮明になってきた>
そして、ついにペンシルベニア州出身で「世界の歌姫」と呼ばれるテイラー・スウィフトさんが討論会直後にハリス支持を表明しました。彼女はインスタグラム(フォロワー数:2億8,400万人)で「多くの皆さんと同じように、私も討論会を観ました。
まだ観ていないなら、いま私たちが直面している問題や、自分にとって一番大事なテーマについて、この候補者たちがどういう立場なのかを調べるのに絶好のタイミングです」とした上で、「大統領選挙ではカマラ・ハリスとティム・ウォルズ(副大統領候補)に投票します。私がハリスに投票するのは、戦士に必要だと信じる権利と大義のために彼女が戦うからです」と述べました。
スウィフトさんはリベラル(民主党寄り)で知られ、前回大統領選挙直前(2020年10月)に「バイデン・ハリス支持」を表明した経緯があり、今年もその言動が注目されていました。強力なインフルエンサーとして知られるスウィフトさんのハリス支持表明が無党派層に与える影響を軽視できません。
実際、ニューズウィーク誌が2024年1月に有権者を対象に実施した世論調査の結果では、「スウィフトさんが支持すると言った候補者に私も投票する可能性が高い」という人が18%(約5人に1人)に及びました。トランプ氏はFOXテレビとのインタビューで「彼女はおそらく市場でその代償を払うことになるだろう」と述べ、脅しとも焦りともとれる反発を示しました。
米国株式は11月から「ハネムーンラリー」に向かうと予想
トランプ氏や共和党陣営は、バイデン政権下での「米国経済の悪化とその責任を負う」としてハリス副大統領を批判しています。そこで、ファクトチェックのため米国経済の好・不調を示す指標として知られる「経済悲惨指数」(Economic Misery Index=失業率+インフレ率)を図表3に示します。
同指数が高ければ米国経済が悪化(失業率が高くインフレも高い)、低ければ改善している(失業率が低くインフレも低い)ことを示します。1970年以降の同指数を平均すると10.1%でした。
<図表3>「経済悲惨度指数」の水準は与党ハリス候補に味方?
参考までに、この間に大統領選挙で再選を目指した現職大統領(与党)が再選を逃した当時の経済悲惨度が高かったことに注目してみましょう。フォード落選(1976年)、カーター落選(1980年)、ブッシュ(父)落選(1992年)、トランプ落選(2020年)当時の経済悲惨度指数は高水準でした。
現在の与党(民主党)バイデン政権下の経済悲惨度指数は最新で6.7%(8月の失業率4.2%+CPI[消費者物価指数]上昇率2.5%)と比較的低位であることが分かります。トランプ氏が「バイデン政権下の経済は史上最悪」と呼ぶには誇張もあります。
選挙においては新政権に向けた政策論争も盛んです。トランプ氏が大統領に返り咲く場合に市場が警戒するのは
(1)強権的かつ独善的な政治
(2)輸入関税引き上げによる世界貿易戦争
(3)法人減税による公的債務拡大リスク
(4)パリ協定からの再離脱
などです。著名エコノミストの中には、トランプ氏が再び大統領になる場合のインフレ再燃、債券金利上昇、成長率鈍化を懸念する見方もあります。
一方、ハリス氏が当選する場合の警戒要因は、中間層拡充の財源にするための
(1)法人企業増税
(2)富裕層や高所得者層に対する増税案
などが挙げられます。
ただ、減税にしても増税にしても、連邦政府の税制を変えるには議会の承認が必要で、11月5日に同時実施される上下両院議会選挙の結果次第で大統領府と議会に「ねじれ」が生ずる可能性があり、どちらの実現可能性も不確実です。
筆者は個人的見解として、トランプ氏の「移民に対する寛容性の欠如」を懸念しています。最近約十年で米国のイノベーションを進展させてきたベンチャー系企業やIT系企業の経営者に移民や移民二世が増えたことが知られています。移民は米国の経済成長を支えてきた労働人口増加やインフレ抑制にも寄与してきました。
治安上、不法移民の増加には歯止めをかけるべきでしょうが、「合法移民とその子孫」が米国の技術革新と労働人口増加をけん引してきたことも事実です。「移民の合法的受け入れ継続」を主張するハリス氏が当選すれば、寛容性の後退に歯止めがかかると思われます。
「史上初めての女性大統領」という清新性と寛容性を備えたリーダーが誕生すると、選挙を巡る不透明感が晴れ、民主主義の維持に重要となる「格差是正」に向けた大局観を市場が再評価する可能性に期待しています。
図表4は、1988年以降の「大統領選挙年とその翌年」におけるS&P500の推移を平均化したものです(選挙年の年初=100)。
この間に大統領選挙は9回ありましたが、平均すると大統領選挙年の11月から、翌年1月の新大統領就任式を経て、その年末まで株価が堅調傾向をたどった「ハネムーンラリー」が見て取れます。「歴史は繰り返さないが韻(いん)を踏む」(The past does not repeat itself, but it rhymes.)との相場格言にも注目したいと思います。
<図表4>大統領選挙前後からの「ハネムーンラリー」はアノマリー
市場は大統領選挙を巡るジレンマを乗り越えるか
投資を続けていく過程でリスク(リターンのブレ)は避けられません。過去に大統領選挙前の9月や10月に相場が不安定となることは多々ありました。ハリス氏は再度の「大統領候補者討論会」を呼び掛けていますが、トランプ氏は拒んでいます。
次の焦点は10月1日に開催が予定されている「副大統領候補者討論会」の結果と世論調査動向とされます。その他、過去の大統領選挙直前に発生した「オクトーバー・サプライズ」と呼ばれる事態には警戒を要します。
また、今回の選挙もペンシルベニア州など激戦7州(Swing States)における中道無党派層・浮動票の行方が大きく影響するとみられ、(毎度のことですが)選挙結果はぎりぎりになってもふた(投票箱)を開けてみるまで分からない状況です。
一方、上述したように先週ハリス支持を表明したスウィフトさんは、トランプ氏の地元であるフロリダ州のマイアミにある「ハードロック・スタジアム」で10月18~20日まで数万人規模のコンサートを集中開催する予定です。
スウィフトさんは4月に新曲として「Florida!!!」(フロリダ!!!)を発表しました。選挙直前のフロリダ州のステージ上で世界の歌姫が「選挙に行こう!」と聴衆に訴えるならば、民主党支持者のアーティストとして戦略的に「さすが」です。
2020年の選挙まで「レッド・ステーツ」(共和党にとり大票田:選挙人数30人=カリフォルニア州とテキサス州に次いで全米3位)とされるフロリダ州が、「スウィフト効果」で「ブルー・ステーツ」(ハリス候補が同州の得票数のうち最多数を獲ると選挙人30人を総取りする)に転じると、全米選挙人総数538人(50州と首都ワシントンD.C.の人口に応じて振り分けられた選挙人数)のうち30人をハリス氏が獲得し、トランプ氏が30人失う事態となります。
大統領選挙当選に必要な選挙人総数は270人です。そうなると「トラピン」は現実味を増しそうです。当然のことながら、今後トランプ陣営による「アンチ・スウィフト」を目的とするあの手この手の反発・妨害行為も想定されます。
なお、ロイター/イプソスが候補者討論会後の12日に実施した世論調査(登録有権者1,405人を含む全米の成人1,690人が対象)ではハリス氏の支持率が47%に対してトランプ氏が42%とハリス氏が5ポイントリードしています。
とは言っても、世論調査の優劣が選挙結果を占うにあたり適切かどうかは予断を許しません。2016年、2020年の大統領選挙では「かくれトランプ支持者」(表立ってトランプ氏支持を表明しない投票者)が存在したからです。
9月15日にはトランプ氏に対するゴルフ場での銃撃事件(暗殺未遂)が発生し容疑者が逮捕されたと報道されました。本選まで何が起きるか分かりません。こうした一方、冷静かつ長い目で大統領選挙前の不確実性に反応して相場のブレを振り返ると「一時的なノイズ」でしかなかったことも知られています。
大統領選挙に向けた思惑などを反映した需給の乱れ(相場変動)で株価が下落する場面では、米国株式の押し目買い、積み立て投資、買い持ちを続けることが長期的な資産形成にとり合理的であると考えています。
(香川 睦)
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