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8月の中国経済は失速。「鬼門の夏」が過ぎ、景気回復は見られるか?

トウシル / 2024年9月19日 7時30分

8月の中国経済は失速。「鬼門の夏」が過ぎ、景気回復は見られるか?

8月の中国経済は失速。「鬼門の夏」が過ぎ、景気回復は見られるか?

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]8月の中国経済は失速。「鬼門の夏」が過ぎ、景気回復は見られるか?

8月の中国経済主要統計は「失速」

 中国国家統計局が9月14日、8月(1~8月)の主要経済統計結果を発表しました。以下、6月、7月と比較しつつ整理します。

  8月 7月 6月
工業生産 4.5% 5.1% 5.3%
小売売上 2.1% 2.7% 2.0%
固定資産投資 3.4%(1~8月) 3.6%(1~7月) 3.9%(1~6月)
不動産開発投資 ▲10.2%
(1~8月)
▲10.2%
(1~7月)
▲10.1%
(1~6月)
貿易(輸出/輸入) 4.8%
(8.4%/0%)
6.5%
(6.5%/6.6%)
5.8%
(10.7%/▲0.6%)
失業率(調査ベース、農村部除く) 5.3% 5.2% 5.0%
16~24歳失業率(大学生除く)   17.1% 13.2%
消費者物価指数 0.6% 0.5% 0.2%
生産者物価指数 ▲1.8% ▲0.8% ▲0.5%
中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。前年同月(期)比。▲はマイナス

 生産、消費、投資という主要分野が軒並み失速している現状が見て取れますし、いずれも市場予想を下回る結果となりました、貿易も輸出は伸びていますが、輸入は横ばいで、中国政府も引き続き懸念を強める「需要不足」という構造的問題が影を落としていると言えます。ここ数カ月の輸出入の推移を見ても、不安定感が拭えず、国内外の情勢に「振り回されている感」が否めません。

 失業率も全体的に上昇傾向にあり、季節的要因(卒業シーズン)も作用したとはいえ、6月から7月にかけて一気に3.9ポイントも上昇した若年層の失業率が、8月どのあたりに落ち着くかも気になるところです。

「出口」の見えない不動産不況とデフレスパイラル

 不動産不況も出口が見えないのが現状です。1~8月の不動産開発投資は前年同期比10.2%減で、1~7月から横ばいでした。伸び率のさらなる下落はなかったとはいえ、過去1年で最低の数字であることに変わりはありません。ちなみに、ちょうど1年前の2023年1~8月は前年同期比8.8%減でした。1~8月の商業用住宅販売面積は前年同期比18.0%減、同販売額は23.6%減。参考までに、2023年1~8月はそれぞれ7.1%減、3.2%減でしたから、この1年で不動産不況が悪化してきた経緯が容易に見て取れます。

 中国政府が毎月発表している主要70都市における新築と中古の住宅価格推移を見ても、不動産不況に改善は見られません。8月、前月比、前年同月比で価格がわずかに上昇したのは上海市と西安市のみ、中古に至っては全70都市で下落しました。

 8月、CPI(消費者物価指数)は0.6ポイント上昇しましたが、これは異常気象の影響を受けた食品価格(果物4.1%、豚肉16.1%、野菜21.8%上昇)が主な原因であり、食品とエネルギーを除くコアCPIは0.3%上昇にとどまっています。また、PPI(生産者物価指数)はマイナス1.8%ということで、前月、前々月と比べても、下げ幅が拡大しています。中国経済がデフレスパイラルから抜け出したとは到底言えないのが現状だと言えるでしょう。

 2023年の出生率が過去最低の1.20を記録した少子化問題を含め、不動産不況、デフレといった構造的問題の長期化は、「中国経済の日本化」や「中国経済衰退論」に拍車をかけることでしょう。

 国家統計局を含め、中国政府や官製メディアは「そうはならない」「中国経済は全体的には安定して運行している」(同局劉愛華報道官)「中国経済のファンダメンタルズと潜在力はしっかりしている」といった宣伝に躍起になっていますが、逆に言えば、そうせざるを得ないほど、「昨今、外部環境の変化がもたらすマイナスの影響は増えており、国内における有効な需要は依然不足しており、経済が持続的に改善していくためにはまだまだ多くの困難と課題に直面している」(同報道官)ということなのでしょう。

「鬼門の夏」が過ぎ、契機は訪れるか

 8月の主要経済統計が失速した背景・原因として、統計局を含め、中国政府や官製メディアは高温や災害といった「異常気象」が経済活動に影響を与えた結果だと主張しています。  

 8月は夏休みシーズンでもありますが、それは個人消費の促進といった観点からすれば、プラス要因ともなり得ますが、異常気象というマイナス要因のほうが強く作用したというのが、中国政府としての総括なのかもしれません。

 そんな「鬼門の夏」が過ぎ、地域によってはしばらく残暑が続くのでしょうが、短い秋を経て、これから冬へと向かっていくにつれて、中国経済は回復するでしょうか。

 特に注目される不動産に関して言えば、9月14日の記者会見で、「不動産市場はこれから、伝統的な金九銀十に入っていくが、どう見通すか?」という中国官製メディアからの質問に対して、劉報道官は「政府が各種政策措置を取る中、一部指標に限定的ではあるが、回復の兆しが見られる」としつつも、「昨今の不動産市場は引き続き調整中である」。

※金九銀十:9月から10月にかけては不動産販売のハイシーズンという意味

 言い換えれば「足元の不況は今しばらく続く」と語っています。その上で、「中国の都市化プロセスは持続的に推進される」「不動産の発展を巡る新たなモデルの構築が加速される」「不動産市場には依然として比較的大きな潜在力と空間がある」などと語っています。

 一方、前述で記者が提起した「金九銀十の見通し」に対する回答は避けました。中国政府としては、短期的見通しに関しては答えようがない、言いかえれば「調整中」という言葉に体現されているように、短期的には回復・改善は困難であるという立場を表していると言えるでしょう。

 その他、夏に失速した生産、消費、投資といった各種指標を含め、これから年末に向けて景気回復は見られるのか。中国政府は今年のGDP(国内総生産)実質成長率の目標を5.0%前後と設定しています。1-3月期は5.3%増、4-6月期は4.7%増と推移してきていますが、来月発表される7-9月期の成長率はどうなるのか。中国経済から引き続き目が離せません。

(加藤 嘉一)

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