強すぎる米国株に付いていけない日本株。エヌビディア決算は期待上回れず
トウシル / 2024年11月25日 12時10分
強すぎる米国株に付いていけない日本株。エヌビディア決算は期待上回れず
今週の株式市場は11月最終週となります。米国では、週末29日(金)の「ブラックフライデー」から本格化するクリスマス商戦の動向が注目されるほか、来月12月17日から18日にかけて開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)への思惑や意識もぼちぼち高まってきそうなタイミングです。また、季節的には、年末ラリーへの期待で株価が上昇しやすい時期でもあります。
ただし、足元の相場環境を見渡すと、トランプトレードの一服や、米半導体企業のエヌビディア(NVDA)決算に対する株式市場の微妙な初期反応などを見ると、相場の牽引役が乏しくなる一方で、割高な米株式市場や、トランプ次期大統領の政策の副作用(財政悪化やインフレ再燃)への警戒、中国景気後退懸念、地政学的リスクの高まりなど、懸念材料も増えている印象です。
しかしながら、先週の米国株市場は堅調な動きを示しています。
堅調さが目立つ米国株市場
あらためて、先週の米国株市場を振り返ると、週間ベースでダウ・ジョーンズ工業株平均株価(NYダウ)が1.96%高、S&P500種指数(S&P500)が1.68%高、そしてナスダック総合指数(ナスダック)が1.72%高となっています。
その一方で、日本株市場に視線を向けると、週間ベースの日経平均株価が0.92%安、TOPIX(東証株価指数)が0.55%安となっており、先週は日米の株式市場の値動きが異なった格好となっています。
図1 各主要株価指数のパフォーマンス比較(2023年末を100)(2024年11月22日時点)
また、上の図1は、昨年末を100とした、各国の株価指数のパフォーマンス推移を示したものですが、やはり、足元の米国株の強さが目立っていることが確認できます。
それに対し、日本株(日経平均とTOPIX)や、中国株(香港ハンセン指数と上海総合指数)、そしてインド株(SENSEX指数)などは、昨年末比でプラス圏を維持してはいるものの、足元の米国株の上昇について行けていないような印象となっています。
それを踏まえて、米国株市場の株価指数について、もう少し細かく見ていきます。
図2 米株価指数のパフォーマンス比較(2023年末を100)(2024年11月22日時点)
上の図2では、先ほどの図1で確認した米主要株価3指数に加え、米国の半導体関連銘柄で構成される「SOX指数」と、同じく米国の中小型銘柄で構成される「ラッセル2000」の推移を表示しています。
SOX指数については、生成AIブームを背景に、7月上旬まではダントツのパフォーマンスだったのですが、現在では当時の勢いはかなり後退しているように見えます。その一方で、上昇の強さが感じられるのがラッセル2000です。先週末時点ではわずかにSOX指数を上回っています。
「生成AI・半導体」ブームはいったん終了?でもテーマ自体は終わらない
先ほどの図2では、SOX指数の勢いの減速について見てきましたが、そんな中、先週の株式市場で注目されたのが、米半導体大手のエヌビディア決算です。決算の内容と株式市場の初期反応については、こちらのレポートでも簡単に触れていますが、あらためて、決算を受けた株価の動きをチャートで確認していきます。
図3 米エヌビディア(日足)の動き(2024年11月22日時点)
上の図3は米エヌビディアの日足チャートになりますが、先週20日(水)の決算発表を受けた、21日(木)のエヌビディア株価は、1ドル=152ドル台まで上昇する場面があったものの、値動き自体は乱高下しました。ほか、翌22日(金)も下落して取引を終えており、決算後の株式市場の反応は微妙なものとなりました。
決算発表を通過したことによる出尽くし感や、決算内容が市場の期待に応えたものの、予想を裏切るほどの強さを示せなかったことなどによる売りが出たものと思われます。
とはいえ、決算で出てきた業績の数字自体は悪くはなく、他の企業や業種と比べても、十分に高い成長をしていることは事実ですので、このままエヌビディア株が下落し続けるとは考えにくいと思われます。
図4 米エヌビディアの業績推移の状況
図5 米エヌビディア売上高の予想と実績の比較
しかしながら、上の図4と図5を見てみると、前年比の売上高成長率が鈍化傾向にあるほか、売上高の予想と実績との上振れ率を見ても、これまでのように、予想を大きく上回る実績を出す勢いが弱まりつつあることが確認できます。
これまでのように、積極的に期待を先取るような格好で株価が上昇していくのは難しくなってきたと思われますが、もちろん生成AIというテーマが終焉したわけではないので、ココから先は今までとは違った相場リズムで株価が上昇・下落していくと思われます。
金利上昇と株価
次に、図2でも強さが確認できた、米ラッセル2000の動きについても考えて行きます。
米ラッセル2000は、中小型銘柄を中心に構成されているという特徴から、景気や金利の動きに敏感に反応しやすく、相場の先行指標として参考にされることが多い株価指数です。
米国の景気については、「12月のFOMCで利下げが見送られるのではないか?」という観測が浮上するほどの堅調さを見せているというのが、市場の認識となっており、ラッセル2000にとっては追い風です。
ただし、金利については、下の図6の米10年債利回りの推移を見ても分かるように、金利が上昇基調となっているため、この点については好ましくない材料です。
図6 米10年債利回りの推移(2024年11月22日時点)
一般的に、金利の上昇は株式市場にとって、マイナスに働くことが多く、これまでのレポートでも、米10年債利回りと株式益回りの比較や、PER(株価収益率)面でみた割高感などを通じて紹介してきました。
そんな中でも、ラッセル2000が上昇しているのは、まだ「トランプトレード」が影響していると考えられます。こちらのレポートでも紹介したように、株式市場ではトランプ氏の掲げる政策のポジティブ面を評価する動きが反映されていると思われます。
一方、債券市場はネガティブ面が反映されているものと思われ、必ずしも金利が上昇、もしくは高止まりする中でラッセル2000ないし、米国株全体が上昇して行けるかについては、「相場の強気ムードがどこまで続くのか?」に左右されそうです。
また、米国の金利上昇は、新興国にもマイナスの影響を与えます。実は、米国の金融政策の見通しが利下げへと転じた際に、買いが向かっていたのが新興国株でした。
もちろん、最近の中国株やインド株が伸び悩んでいるのは、中国の景気後退懸念や、インド株市場における「*アダニ・ショック」も影響していると思われます。しかし、足元で米国の金利が低下から上昇に転じたことも大きく影響しているでしょう。
*アダニ・ショック…石油、ガス、港湾、空港や鉱山など幅広い業種に権益を持っているインド有数の民間インフラ企業「アダニグループ」に不正会計疑惑が持ち上がり、株価が暴落
いずれにしても、米国市場の株価と金利が同時に上昇する状況は、余程の買い材料がない限り、持続していくのは難しいとされています。この状況を説明するものとして、「米国の中立金利(景気を刺激も引き締めもしない金利水準)が2%台から3%台に切り上がっているのではないか?」的な議論も出てきています。
今後も米金利の動向や、「下がり切らない」米国株市場のムードの変化には注意が必要です。
日本株は引き続き「迷い」の中で方向感を探る
そして最後に、こうした状況を受けた日本株の状況についても見て行きますが、結論は、前回のレポートでも指摘した通り、3万8,000円の株価水準や、75日・52週移動平均線などを「節目」として意識する展開に変更はありません。
図7 日経平均(週足)と線形回帰トレンド(2024年11月22日時点)
そこで確認するのが上の図7です。日経平均の週足チャート上に、「線形回帰トレンド」を表示させています。
前回のレポートでは、同じ日経平均の週足チャートに「エリオット波動」を描いて、相場の動きを波として捉えました。しかし、今回の線形回帰トレンドでは、相場の方向感と株価位置について見て行きます。
上の図7では、2023年1月6日週を起点にしていますが、現在の株価は、マイナス2σ(シグマ)近く、そして、52週移動平均線のところに位置しているため、今週の日経平均は、これらをサポートに下値を固めることができるかが焦点になります。
また、仮に株価が上昇していった場合には、中心線を上抜けできるかが注目されます。夏場に株価がこの中心線を下回って以降、株価の上値を抑える抵抗として機能しているため、ここを抜けるには、単なるムードだけでなく、積極的になれる買い材料が欲しいところです。
したがって、これまで見てきたように、今週の日経平均が素直に上昇していけるかについては微妙なところかもしれません。
そして、やや膠着感が強まっている状況の中、今週に予定されている、FOMC議事録(11月開催分)の公表や、小売関連企業の決算、11月分の消費者信頼感指数と個人消費支出などの公表といった、米国のイベントをにらみつつ、落ち着きどころの良い株価水準を探っていく展開がメインシナリオになりそうです。
(土信田 雅之)
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