「トランプなら買い、ハリスなら売り」に異変?10月のビットコイン見通し
トウシル / 2024年10月7日 9時0分
「トランプなら買い、ハリスなら売り」に異変?10月のビットコイン見通し
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「「トランプなら買い、ハリスなら売り」に異変?10月のビットコイン見通し」
9月のビットコインイベント
NEW! 9月17日 | ブータン政府、水力発電でマイニング、1.3万BTC保有 |
NEW! 9月18日 | トランプ氏、BTCでハンバーガー代支払い |
NEW! 9月23日 | ハリス氏、立候補後、初めて暗号資産に言及 |
*2024年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。
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材料面から見た10月見通し
9月の振り返り
9月のビットコイン価格(円)とイベント
9月のBTC相場は上昇。5万9,000ドル近辺から5万2,000ドル台半ばに下落、そこから切り返すと6万6,000ドル台半ばまで上値を伸ばした。ざっくり言えば、7,000ドル下がって、1万4,000ドル下がった格好だ。
8月後半から見ると、25日に6万5,000ドルで上値を押さえられると、5万2,000ドルまで下がり、6万6,000ドルまで戻す、いわゆる下に行って来いの展開となっている。
BTC/USD(日足)
エヌビディア株急落
レイバーデイ明けの金融市場はリスクオフに揺れた。日本銀行の植田和男総裁が経済財政諮問会議の資料で経済・物価が見通し通りなら追加利上げをする方針と従来の主張を繰り返したところ、円高が再燃。
円キャリー取引の巻き戻しを懸念したせいか、エヌビディア株が急落、史上最大の時価総額喪失を記録した。これを受けBTCは5万2,000ドル半ばまで急落、同社株が反発するとBTCも値を戻していった。
0.5%利下げ
8月の高値6万5,000ドルと、9月の安値5万2,000ドル台半ばとの半値戻しとなる5万9,000ドル台で上値を押さえられると、トランプ氏の暗殺未遂を受けたリスクオフでいったん値を下げた。
しかしFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ幅が0.5%となり、またトランプ氏が大統領候補として初めてBTCで支払を行ったことも好感され6万ドル台に乗せると、全値戻しとなる6万5,000ドルを目指して上昇していった。
中東情勢の悪化
ただし、イスラエルがヒズボラへの攻撃をエスカレートさせ、また6万4,000ドル近辺の200日移動平均線にも上値を押さえられていた。ところが、これまで暗号資産に対する言及を控えていたハリス氏がデジタル資産などの先端産業を支持すると表明したことを受けBTCは6万5,000ドル乗せに成功、6万6,000ドル台半ばまで値を伸ばした。
しかし自民党の総裁選後の円高の影響で日本株が急落するとリスクオフ気味に値を下げ始め、さらにイスラエルがレバノンに地上侵攻や10月に入りイランがイスラエルに報復攻撃を実施し、中東戦争への懸念が浮上したため、一時6万ドル近辺まで値を落とした。
BTC相場のリスク要因
先月のこちらのレポートで7月29日の7万ドルから8月5日の4万9,000ドルへの下落は3つの要因に分けられると申し上げた。
第1フェーズの7万ドルから6万5,000ドルまでの下落は中東情勢の悪化とハリス氏の追い上げ、第2フェーズの6万5,000ドルから6万1,000ドルへの下落は米国の景気悪化懸念、第3フェーズの6万1,000ドルから4万9,000ドルに至る急落は円高と日本株の暴落が主な要因だった。
円高リスク
9月のBTC相場もおおむねこうした要因で説明可能だ。まず第3の要因、円高。これはFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げと日銀の利上げによるものだが、市場に流動性を供給してきた円キャリートレードが巻き戻されると、世界中の脆弱(ぜいじゃく)なバブル相場が巻き戻される。その代表的な例が日本株とエヌビディア株だった。
PER(株価収益率)で見れば日本株は割高ではないという見方もできるが、その日本企業の収益が円安によって水増しされているとの見方もできる。
エヌビディアも確かにAIブームの中で驚くほど業績を伸ばしているが、2年前にETHのマイニングが終了し、GPUの需要が減るといわれていた頃から株価は10倍以上に膨れ上がり、一時アップル、マイクロソフトを抜いて時価総額で世界一になったことを適正と考えるかは見方が分かれる。
ただし、9月の日銀政策決定会合で植田総裁が景気・物価が見通し通りなら利上げを継続するとしつつも、市場が混乱している間は利上げをしないし、円高により物価上昇圧力が後退し時間的余裕が生じたとしたことから市場に安心感が広まった。
ただ、自民党総裁選後の円高で市場に不安が入った様に、今後はこの円高によるリスクオフという局面が度々現れ、BTC相場の変動要因となり続けそうだ。
米景気懸念
米景気後退懸念も後退した。9月FOMCでの利下げ幅は0.25%と0.5%で見方が分かれていたが、FRBは0.5%の利下げを実施、年内あと2回利下げをするとの予想を公表した。
8月は経済指標が悪化し、FRBが0.5%利下げに追い込まれるという見方からリスクオフとなったが、今回は指標はそれほど悪化していないがFRBは0.5%利下げで景気を支えてくれるという見方からリスクオンで反応した。何よりもFRBが金融緩和にかじを切ったことは長い目で見てBTC相場の転換点になると考える。
この様に、9月は第2、第3の下落要因に一応のめどがついたことに加え、ハリス氏の暗号資産への態度にやや改善が見られたことから8月の戻り高値6万5,000ドルをクリアしたが、中東情勢がむしろ悪化、上値を押さえられた格好となっている。
ハリス氏の変貌?
まずハリス氏が9月に自身の選挙キャンペーンサイト上に公開した最新の経済政策でも、「米国のイノベーションや労働者をサポートする」という項目で「半導体やクリーンエネルギー、AI(人工知能)、その他の最先端技術において米国がリーダーでいられるように引き続き取り組む」とは説明したが、暗号資産への言及はなかった。
しかし22日のNYでの資金調達パーティーで「消費者と投資家を保護しながら、AIやデジタル資産のようなイノベーティブな技術を奨励する」と初めて暗号資産(を指していると思われる)に言及した。さらに25日にはブロックチェーン分野での支配的な地位を維持すると演説した。
ただ、実際にハリス氏がバイデン政権の暗号資産「敵視」政策から転換する可能性は高くなさそうだ。
同氏が改めて公開した80ページに及ぶ経済政策の中でデジタル資産への言及は1カ所だけで、さらに暗号資産を推進する議員に献金する政治団体Stand With Cryptoが同氏の暗号資産に対する態度をBからN/Aに引き下げており、ゲンスラー委員長の解任や外貨準備への採用を掲げているトランプ陣営との格差は大きい。
こうしたスタンスの違いを反映して、暗号資産の保有の有無によって支持政党が分かれ始めている。
しかし、ハリス氏が初めて暗号資産に言及した影響は大きかった。7月末に「ほぼトラ」が怪しくなって以降、下火になっていたETF(上場投資信託)フローが回復したからだ。
すなわち、親暗号資産のトランプ氏、反暗号資産のハリス氏のどちらが勝つか分からない状況では機関投資家としてはETFを購入しにくかったが、ハリス氏が中立になっただけでも多少は買い始めてもいいかと思い始めたのかもしれない。
中東情勢の混迷
中東情勢は混迷を続けている。市場が恐れるシナリオはイスラエルとイランとが全面衝突、背後に控える欧米と中ロの代理戦争、さらに周辺国も巻き込んだ中東戦争に拡大することだ。
ちなみに欧米と中ロとが直接ぶつかる第3次世界大戦とまでなれば、法定通貨からの逃避という意味でBTC人気が高まる可能性もあるが、「戦争」という不透明な状況となると投資家はポジション量を落とそうとするのでボラテリティの高いBTCは真っ先に売られやすい。
足元の情勢は、7月末にイスラエルがイランの新大統領就任式に出席していたハマス幹部をテヘランで殺害した(イスラエルは公式に認めてはいないが、イラン・サウジアラビアなどが主張)。イランは報復攻撃をガザ地区での停戦を条件に保留した。
するとイスラエルはイランが支援するヒズボラへの攻撃を激化、遂にはレバノンに地上侵攻するに至り、イランがミサイル攻撃を実施、BTCは6万ドル近辺まで急落した。
ただ4月にイスラエルがシリア国内のイラン大使館を空爆した際にイランが報復攻撃した時に状況は似ているとの声もある。この時はイランがミサイルなどで攻撃したものの米軍などに事前通告を行い、そのほとんどが迎撃され、逆にイスラエルもイランの空軍基地に小規模な反撃を行った時点で手打ちとなった。
今回は米軍への事前通告は無く、多少の被害は出ているもようだが、イスラエルはほとんど被害はなかったとしており、同様の経路をたどるかもしれない。イランの新大統領は核協議再開による制裁解除を目指しており、事態の悪化を望んでいないとの見方もある。
しかし、イスラエルの反撃が思いのほか大規模で、例えば核施設を破壊すると言った場合、イランも国内の主戦派を抑えきれなくなり、事態が泥沼化する可能性もあり注意が必要だろう。
10月見通し
10月のBTC相場は、米大統領選挙、中東情勢、米景気動向、ドル円相場といった8月の相場を揺るがした材料に左右される展開が続きそうだ。
米大統領選挙の行方は全く不透明だ。先月申し上げた「トランプなら買い、ハリスなら売り」のハリス売りの部分は幾分和らいだが、それでもトランプ氏なら買いの部分が剥落するだけでも売り要因だ。そうした中、10月に本格上昇するシナリオは描きにくい。
中東情勢はここから1~2週間がヤマ場だ。イスラエルの反撃にイランが再報復しなければ大きく上昇することになりそうだ。
米景気悪化懸念は今のところ杞憂(きゆう)に終わり、市場の注目点は11月FOMCの利下げ幅だが次回会合までにもう一度雇用統計を挟むため10月時点では判断がつかない。
ドル円は植田日銀総裁が利上げ路線を後退させ、石破首相も早期の利上げを否定、円高リスクが
後退したが、長い目で見た日米金利差縮小の方向性は変わらずまだ予断は許さない。
まとめると、10月の相場は決め手に欠ける展開が続きそうだが、中東情勢次第では上昇する可能性もありそうだ。
ただし、ETFフローが本格的に戻るのは大統領選挙後と思われ、それまでは上値余地も限定的か。
BTC・ETH ETFフローとBTC/USD
テクニカルから見た10月見通し
テクニカル
BTC/USD(日足)
BTCはドル建てで史上最高値を更新した3月以降、下降チャネルを形成。8月に下ひげを付けて割り込んだが、結局ダマしに終わりレンジ内に値を戻している。上昇フラッグと呼ばれ、最終的に上抜けを示唆するといわれている。
興味深いのはなぜか多くの月で月初に下ひげを付けている。8月にチャネルの下限でサポートされ、チャネルの上限を探る展開に。9月27日に6万6,000ドル台でチャネルの上限に跳ね返されている。
チャネルの上限で跳ね返されたので、次はチャネルの下限に向かって下がっていくのかというとそうとも言えなさそうだ。9月の安値高値の半値押し5万9,500ドル近辺でサポートされており、また一目均衡表の雲の上限にもサポートされており、3役好転の買いサインも転倒中でまだこの水準でサポートされて上昇トレンドが継続される可能性も残っている。
アノマリー
BTC月別騰落一覧
月別の騰落で見るとBTCは1年で最も弱い8月、9月を1勝1敗でやり過ごし、2月に次いで1年で2番目に強い10月に入った。特に過去9年間で陰線だったのは1回だけ。直近5年連続陽線を続けている。こうした傾向を受け、暗号資産界隈で10月はUptoberと呼ばれている。アノマリー的には10月はポジティブだ。
まとめ
10月のBTC相場は中東情勢次第ではあるものの底堅い展開を予想する。材料的には、決め手にかける部分があるが、半減期サイクルでそろそろ到来する本格上昇には時期尚早と考える。
ただし、8月9月と比べ、ハリス氏の暗号資産スタンスがやや緩和され、円高リスクが後退しており、どちらかといえば上方向。中東情勢もイスラエル・イランの全面衝突となれば下抜けしそうだが、イランはそうした事態を避けようとしており、最終的にはポジティブに働きそうだ。
テクニカル的には半値押しで上下の分岐点にあるが、上昇トレンド継続を示すサインも点灯している。アノマリー的にはUptober入りで、月初は下振れしたが、その分を取り戻す展開を予想している。
2024年 時事イベントと暗号資産イベント(最新順)
8月28日 | SEC、web3最大手OpenSeaに訴追予告 |
8月24日 | ロバート・ケネディ・ジュニア撤退、トランプ支持 |
7月28日 | トランプ氏、BTCを外貨準備(戦略準備資産)に |
7月23日 | ETH ETFローンチ |
7月16日 | 独当局、5万BTC売却完了 |
7月5日 | Mt.GOX、14万BTC弁済開始 |
6月24日 | Mt.GOX 7月初めから14万BTC債権者に弁済 |
6月4日 | BTC ETFオーストラリアでローンチ、タイ証券取引委員会も承認 |
5月24日 | ETH ETF承認 |
5月23日 | 米下院FIT21可決、民主党からペロシ含む71名造反 |
5月15日 | 退職年金運用するウィスコンシン州投資委員会、ビットコインETF保有 |
5月9日 | トランプ候補、暗号資産支持を明確化 |
5月1日 | バイナンスCZ前CEO禁固4カ月 |
4月20日 | BTC半減期 |
4月4日 | ビットコインキャッシュ(BCH)半減期 |
3月13日 | ETHデンクンアップデート |
3月5日 | ドル建てで史上最高値更新 |
2月29日 | ブラックロックのIBITが史上最速7週間で100億ドルファンドに |
2月19日 | 週次の暗号資産ファンドへの流入が過去最高の24.5億ドルに |
2月15日 | 円建てで史上最高値更新 |
1月11日 | BTC現物ETF10件ローンチ |
1月10日 | SEC、ETF承認(日本時間11日) |
*マイニングとは:暗号資産(仮想通貨)は一般的にブロックチェーンと呼ばれるネットワーク参加者が誰でも見られる元帳上に取引を記録していきます。そのブロックチェーン上に取引データを記録する際に、膨大な計算を行うことで新たなブロックを生成する暗号を見つけ出し、その報酬としてコインを手に入れる行為のことです。マイニングの主な役割は「暗号資産の新規発行」と「取引の承認」です。
**BlockFiとは:暗号資産融資プラットフォームBlockFi(ブロックファイ)が提供する暗号資産を預かって利息を払うサービス(レンディング)が証券法に違反したと提訴された事件に関する和解として、SEC(米国証券取引委員会)に1億ドル(約115億円)を支払うと発表。
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(松田 康生)
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