金融商品セールスのテンプレトーク「年金不安」に騙されるな!
トウシル / 2024年10月29日 7時30分
金融商品セールスのテンプレトーク「年金不安」に騙されるな!
金融商品セールスのテンプレトーク「年金不安」
ちょっと昔のことですが、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の紹介を金融機関が積極的にしている、というテレビニュースで、セミナーの講師(金融機関の職員もしくは講師として雇われたFP)が「少子高齢化で公的年金は危ない」「いつまで65歳からもらえるか分からない」と述べている様子を見ました。
テレビ局が受講者へインタビューした映像でも同様のコメントがあって、公的年金不安がiDeCoやNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)利用の要因となっている、というようなまとめかたをしていました。おやおや、という感じです。
年金不安を枕ことばにすると、金融商品のセールスに有用であることは昔から言われています。自分自身が年金生活に入って、年金を生活の頼みにしている証券会社のOBが、若い頃は年金不安をトークに使ってずいぶんもうけた、と自虐的に語っていたのを聞いたことがあるので、少なくとも30年以上前から使われていたトークだと思われます。
何度か本連載でも指摘してきましたが「公的年金制度は破たんしない」ですし、「なんとか日常生活費に足りるくらいを何十年であろうと終身にわたって給付してくれることに価値がある」と整理するべきです。65歳でもらえる年金水準を100とすると、そのまま67~70歳に受給開始年齢をスライドする議論はありません。
10年前に盛り上がった年金破たん論のほとんどは誤りであったことが明らかになっています(特にひどかったのは、2020年代に年金積立金は底をつく、という予言でしょう。実際は減るどころか増えています)。本年7月の年金財政検証結果は、むしろ年金の未来像を好転させる結果も示しています。
不安あおりのレベルはいくつかあるが、ほとんどは雰囲気言葉でしかない
こうしたテンプレトークの問題は「年金の将来、不安ですよね?」と聞かれれば「確かにそうですよね」と応じるしかないことです。
一般の方々が、年金制度の未来について確信を持って「大丈夫です」と断言するほど理解していることはまずありません。日本の未来が明るい、と断言できる人もあまりいないでしょう。少なくとも高度経済成長のようなことはもうなさそうだ、と感じているはずです。
ここで、漠然とした年金不安のトークに同意してしまうと、その後のトークの展開は相手の術中です。経済的な不安、資産形成の不十分さを指摘し、そのために有用な金融商品の提案へと話がシフトしていきます。
本当にその金融商品が有用か、ではなく、「今、ちょうどセールスするように言われている金融商品を提案すればいいか」となるのがこの手のセールストークの怖いところで、私たちはあまたある金融商品や制度の中からこれが本当に最適かを検討する余裕もなく、土俵際まで追い詰められることになるわけです。
たったひとつの雰囲気言葉が、全体の流れを決定するほどに「年金、不安」という言葉には力があるわけです。
「お金を貯めたり増やしたりしすぎて困ることはない」のが救いかもしれないが……
こうしたセールスに救いがあるとすれば「老後に向けた資産形成を行わないより、行ったほうがいい」ということくらいでしょう。
何もなければ投資をしなかった人が、これをきっかけに積立投資をするのであれば、まあ悪い話ではありません。何もしないままなら「老後に2,000万円」に対する一定の対策も立たなかったという人が、退職金・企業年金制度を含めてメドを立てられた、というなら結果オーライのところが少しはあります。
目の前のやりくりをセーブして自分の将来のためにリスクのある資産を購入することも、背中を押されなければなかなかリスク資産購入に至らないわけで、一歩目を踏み出す力となったのなら、これまたケガの功名といえるかもしれません。
しかし、入り口がおかしなところに設定されていて、高すぎる水準設定を課していないかには注意が必要です。本当に必要な額ではなく、セールス目標から導かれた購入額となってはいないかが気になります。
悪質な商品セールスについては要注意
もうひとつ気になるのが、不適切な金融商品(特に、数年後には破たんしてほぼ全額を失うようなポンジスキームで設定されているもの)のセールスに誘導されるおそれです。
こうした悪質な商品だけは、注意して避けなければなりません。しかし「老後に2,000万円」問題が話題になった直後は、あらゆる金融商品がこれを「ネタ」にしました。投資信託、銀行預金だけでなく、不動産投資もこれに乗っかりましたし、暗号資産だけでなくあやしい投資話も一様に「老後に2,000万円が大変! だからウチの商品を買いましょう!」と繰り返しました。
「安全、確実、高利回り(時価割れしない)」のような商品性を強く吹聴する商品については、原則として回避しましょう。経済の理屈としても「安全確実」と「高利回り」をセットにするのは疑念がありますし、少なくとも過去の例では詐欺の可能性が濃厚です。
もし悩んだら、証券会社が取り扱っている商品の範囲にとどめておくといいでしょう。WEB広告も現状ではあまり信認がおけません(まっとうな証券会社の名前をかたる広告ですれば露出するわけですしね……)。
もっとシンプルにいえば毎月数万円の積立投資を考えてみてください。つまり「iDeCoやNISAの口座を開設する」「そこで投資信託を買う」で十分なのです。それだけで、実際にはそれほど大きくなくともゼロではない年金不安を補うことができるはずです。
(山崎 俊輔)
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