中国は米大統領選の行方をどう見ているのか。八つの視点から解説
トウシル / 2024年10月31日 7時30分
中国は米大統領選の行方をどう見ているのか。八つの視点から解説
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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「中国は米大統領選の行方をどう見ているのか。八つの視点から解説(加藤 嘉一)」
米大統領選が直前に迫る。中国はどう構えているか
米国の大統領選挙(11月5日)まで、1週間を切りました。4年に1度行われる、世界で最も影響力を持つ人物の一人とされる米国の最高指導者を民主選挙で選ぶイベントです。世界中の関係者が、それぞれの立場から、それぞれの思想を持って、それぞれの権利や利益を考慮しながら、固唾(かたず)を飲んで見つめ、準備や対策を進めているのが現状でしょう。
中国にフォーカスする本連載でも、中国経済や台湾問題への影響といった観点から、習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる中国が米大統領選をどう見ているかを適宜検証してきました。
今回、選挙直前というタイミングで、改めて、中国がそれをどう見ているのかに関する、私自身の最新の考察を「八つの視点」で整理し、読者の皆さまと共有してみたいと思います。
八つの視点:中国は米大統領選をどう見ているか?
視点1:中国は外国で起きるイベントの中で米大統領選挙を最も注視している
中国は、習近平国家主席のリーダーシップの下、経済力、科学技術力、軍事力など、あらゆる分野で世界一になり、「中華民族の偉大なる復興」と定義する「中国の夢」を実現すべく、本気で考え、動いているというのが私の見方です。その上で、中国を「既存の世界秩序を変更する意図と能力を持った唯一の国」という戦略的競争相手と見なす米国は、中国にとって(言い方は悪いですが)「邪魔な存在」です。
最も警戒する相手の内政だからこそ、国内外のあらゆる官民機関を総動員し(それこそ数万人規模で)、米国大統領選挙のプロセスや行方を観察し、それが世界経済や国際情勢に与え得る影響を分析し、中国にとっての示唆(しさ)を抽出してきたことでしょう。
選挙ですからふたを開けてみないと分かりませんが、私の見方では、中国共産党指導部はそれらの観察、分析、抽出の作業を基本的に終えていると思います。トランプ、ハリス両候補のどちらかが、どのように勝利するかによって(臨機応変に)打ち出す対策も決まっているでしょう。あとは、結果を待つのみ、というのが党指導部内や外交当局内の雰囲気だとみています。
視点2:中国は「新大統領」・「新政権」にいかなる幻想も抱いていない
2017~2021年のトランプ前政権、2021~2025年のバイデン現政権を通じて、「ワシントンにある米国議会における唯一の超党派コンセンサスは対中政策だ」という構図が徐々に明らかになってきたといえるでしょう。「対中強硬」の四文字はもはや岩石のごとく固いといえます。民主党、共和党含め、米国の国益という観点から、中国とどう向き合うかという点においては、党利党略を超えて、思惑や立場が一致する傾向が強まっているということです。
そんな現状と傾向をどの国よりも切実に受け止めているのが中国自身でしょう。要するに、トランプ、ハリス両候補のどちらが勝っても、上下院で共和党、民主党どちらが多数派を占めても、程度の差こそあっても、「対中強硬」という方向性と構図は変わらない、従って、そこにいかなる幻想や淡い期待をも抱かず、そっちがそう来るなら、こちらもそう行くという、「対米強硬」の姿勢で臨む準備ができており、現時点でもそう動いているということです。
もちろん、そんな米中とて、経済を含めて広範な利益を共有していますから、対話と協力が可能な分野に関しては、可能な限りの歩み寄りを見せるでしょうが、米中が戦略的競争関係という構図は、これからの4年間も続くでしょう。我々もその前提で見るべきです。
視点3:中国はトランプ前政権を教訓としてくみ取っている
2016年、民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破って大統領に当選したトランプ氏を眺めながら、中国は一定程度「淡い期待」を抱いていたというのが私の検証です。「米国ファースト」を掲げ、内向きな政策を取る可能性の高いトランプ氏が率いる米国。中国は、「自らが外に出ていき、国際的に影響力を高める戦略的契機」だと捉えたはずです。
実際に、そういう側面はあったでしょう。日米が主導し、長年の厳しい交渉を経てようやく成立させたTPP(環太平洋連携協定)から、トランプ大統領就任初日に米国が脱退した事実を、TPPを「対中包囲網」と捉える中国はもちろん歓迎したことでしょう。
一方、戦略的契機という「棚からぼた餅」的な要素があった一方、トランプ氏の言動に伴う「予測不可能性」に、中国は困惑したことでしょう。この点を過小評価していたと思います。
トランプ氏当選後、就任前の期間、当選が決まっていた次期大統領として初めて台湾の総統(当時は蔡英文(ツァイ・インウェン)氏)に電話をかけ会談を行い、大いに中国を刺激しました。
世界中が新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ中、トランプ氏はそれを「中国ウイルス」と呼び、中国を怒らせました。
また、中国への貿易戦争を発動したり、「米国ファースト」の観点からヒューストンにある中国の総領事館を閉鎖したり(中国も成都にある米国の総領事館を閉鎖する報復措置を取りました)と、その読めない言動や政策に振り回され、戦略的契機を最大化するところでは到底なかったでしょう。
それらの経験を教訓に、今回はいかなる期待も抱かず、粛々と向き合う冷徹な姿勢を保持するものと思われます。
視点4:ハリスが勝てば基本は現状維持という判断。初の女性大統領はやりにくい?
ハリス候補はバイデン現政権の副大統領ですから、今回の選挙で勝利した場合、基本的にはバイデン政権の各種政策を受け継ぐことでしょう。中国側の認識も基本的にはそうだと思います。
一方、前述したとおり、既存の政策は「対中強硬」をベースにしていますから、経済安全保障の観点から、中国の先端技術が軍事力に転用されるのを防ぐべく、「スモールヤードハイフェンス」の方針で、解放軍と関係のある企業には制裁措置を取り、各種規制を行使していくことでしょう。米中経済間の一定程度のデカップリングが進行すると思います。
1点注目すべきだと思うのが、仮に初の女性大統領としてハリス氏が勝った場合、それに対する習近平氏がどういう感想を抱くかです。習氏にとって、バイデン氏は、両者が副主席・副大統領時代からの旧知の仲であり、個人的関係という次元においては、「話しやすさ」「親しみやすさ」があったと思います。そういう関係は、両国関係の管理に役立ってきたはずです。
一方、ハリス氏に関しては、中国側も事前にさまざまな人物分析やプロファイリングをするでしょうが、習近平氏は彼女と向き合う中で、一定程度の「やりにくさ」は感じると思います。それが米中関係にどんな影響を及ぼすか、注目していきたいと思います。
視点5:中国経済への下ぶれ圧力という観点から「トランプ関税」を警戒
私が日ごろ中国の政府や市場関係者と意見交換する中で、大半の方が、「2025年の中国経済は2024年に比べて、下ぶれ圧力に見舞われる可能性が高くなる」と言います。その前提が、「トランプが大統領選で勝利した場合」です。
トランプ氏は就任後、中国の全ての商品に60%の関税を追加で課すと言ってきました。また、その言葉の信ぴょう性は検証の余地がありますが、仮に中国が台湾海峡を封鎖すれば、150~200%の関税を課すとまで公言しています。
中国政府は「トランプ関税」が中国経済に与える影響を懸念しています。トランプ第2次政権の発足を、中国経済にとっての脅威だと見なしているということです。米大統領選挙と中国経済の関係と影響についても注目していく必要があるでしょう。
視点6:最も警戒するのは新大統領・新政権の台湾政策
とはいえ、中国が最も警戒しているのは、自らが「核心的利益」と定義する台湾問題でしょう。ハリス氏が勝った場合、米国の台湾政策は基本現状維持でしょう。バイデン政権が継続的に台湾へ武器を売却し、台湾との関係を強化する法案や政策を打ち出し、米台間の公式・非公式な協議が強化されている「現状」を、中国はとても嫌がっているでしょう。そんな現状が維持されるという意味で、米中関係と台湾問題という文脈でいえば、緊張度はエスカレートしていくと思います。ただ、コントロールは可能という意味です。
一方、トランプ氏が勝った場合、コントロール不能に陥る可能性があります。「一つの中国」を認めない、「中国が我々に協力しないなら、私は台湾の独立を支持する」といった類いの発言をする、逆に、「習近平は良い男だ。私は彼の台湾統一を支持する」などと言い出すかもしれません。トランプ氏はこのようなことをつい言ってしまい、しかもそれを実行すべく動くタイプの「政治家」でしょう。
トランプ氏が勝った場合、どちらに触れるかはともかく、台湾海峡は「揺れる」と思います。
視点7:タイミングとして注視するのは選挙直後と就任直後
米大統領選のプロセスという意味で、中国が注視しているのは選挙の直後と新大統領就任直後でしょう。トランプ氏勝利の場合、前回蔡英文総統に電話をかけたように、就任前というタイミングで何らかのアクションを取ってくる可能性がありますし、前回TPPを脱退したように、就任初日というタイミングで自らが掲げる重要政策を早くも打ち出してくる可能性もあります。それが中国関連の場合は要注意、ということでしょう。
ハリス氏勝利の場合で注意すべきだと思うのは、仮にハリス氏が僅差で勝利し、トランプ氏がそれを認めず、4年前の議会襲撃事件のように、トランプ氏の(国内外の)支持者たちが動き、暴れだし、米国が内乱に陥るケースです。その時、中国がそれを戦略的契機と見なし、(例えば台湾海峡で)何らかのアクションを取るのかどうか、世界情勢を動かし得るトリガーになる可能性があるため、我々も注意すべきだと思います。
視点8:米国がどうなろうと、究極的に、中国には関係ない
最後に、中国の国家戦略、世界戦略という観点からすると、究極的には、今回の大統領選挙でどちらが勝とうが、それによって米国の政策がどう変化、推移しようが、中国は「我が道を行く」でしょう。社会主義市場経済、中国式現代化、共同富裕、中国の特色ある社会主義、中華民族の偉大なる復興といった政治スローガンを掲げつつ、米国の動向を注視しつつも、そこに惑わされず、「世界覇権」を目指して歩みを止めないでしょう。
2012~2013年にかけて発足し、すでに3期目に入っている習近平政権最大の特徴が、誰に何と言われようが、我が道を行く、という態勢というのが私の理解です。その意味で、来たる米大統領選挙を前に、おそらくどの国よりも中国は準備と対策をしてきていますが、究極的には、「我が国には関係ない」という、突き放した見方をしているのではないかと思います。
(加藤 嘉一)
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