大乱世で生き残る長期視点の分散投資先
トウシル / 2024年11月5日 7時30分
大乱世で生き残る長期視点の分散投資先
先進国、新興国、次世代新興国という分類
今、大乱世です。世界に目を向けても、身の回りに目を向けても、秩序が乱れて戦争や騒動が絶えません。2000年代前半に起きた、需要増加を背景とした世界的な株式市場、コモディティ(国際商品)市場の熱気を帯びた価格上昇が懐かしく思えます。世界経済の方向性が見いだしやすかったあの時代と今は、大きく異なります。
こうした中、個人投資家をはじめとした市場関係者はどのような発想で投資先を選べばよいのでしょうか。以下は、投資先を分類する際のヒントになり得る国の種類です。
図:さまざまな先進国、新興国、次世代新興国(いずれも一例)
米国、ドイツ、日本はいわゆる「先進国」の代表格です。中国とインドは2000年代前半に頭角を現し、巨大な人口を武器にわずか数年間で世界を席巻する存在となった「新興国」の筆頭です。中東の大国であるサウジアラビアは、中国やインドほどではないものの「次世代の新興国」として関心が寄せられています。
以下は、これらの基本的なステータスです。米国や中国は日本の25倍を超える国土を有しています。サウジアラビアやインドは同5倍以上です。また、インドや中国は日本の10倍超、米国は3倍弱の人口を有すなど、比較的、規模(数)が大きい特徴があります。
図:さまざまな先進国、新興国、次世代新興国(いずれも一例)のステータス
今回のレポートでは、この五つの国のさまざまなデータを確認しながら、大乱世における分散投資の考え方を追求します。
どの国でも労働人口は経済発展の源泉
各国の人口に関するデータを確認します。以下は、労働人口と呼ばれる15歳から64歳までの人口の比率です。その国の最繁栄期がいつだったかがうかがえます。労働力の比率の推移はその国の繁栄の軌跡ともいえます。
図:労働人口(15歳から64歳まで)の比率 単位:%
日本は高度経済成長期の1960年代半ばとバブル期の1990年代半ば、中国は「中国爆食」で世界を驚かせた時代に当たる2000年代前半です。ドイツはGDP(国内総生産)が急激に伸びた1980年代半ばです。米国は1970年代後半から、多くの移民を受け入れているため、比較的高い水準を維持しています。
全体的には、労働人口の比率がその国の人口の65%を超えると、目立った経済発展が起きるといえそうです。その意味では足元、インドとサウジアラビアには、経済発展の源泉が存在するといえます。
以下は、65歳以上の人口比率です。足元の順位は労働人口とおおむね逆です。労働人口の比率が大きく低下すると、目立った上昇を演じる傾向があります。インドとサウジアラビアは低水準で推移していることが特徴的です。
図:65歳以上の人口比率
2050年に最も多い年齢層、国家間の格差大
以下は、今からおよそ四半世紀(25年)後にあたる2050年の人口動態の予想です。United Nations(国際連合)の予想によると、2050年に最も多い年齢層は、米国が42歳、ドイツが61歳、日本が76歳、中国が60歳、インドが48歳、サウジアラビアが32歳です。
先進国の中でも移民を受け入れている国は比較的低く、新興国でも経済発展がピークを迎える前(労働人口比率がピークを迎える前)の国は比較的低い傾向があります。六つの中で最も高い日本と最も低いサウジアラビアの差が40歳以上もあることが印象的です。
この資料は、2050年時点でどの国が潤沢な労働力を有しているかを示唆しています。先進国では米国(42歳は日本の34歳下)、新興国ではインド(48歳は中国の12歳下)です。次世代の新興国であるサウジアラビアはそれらを上回ります(32歳は6カ国中最も低い)。
図:2050年の人口動態(国連予想) 単位:千人
以下は、これらの国々の人口推移の予想です。2050年に赤い縦線を記しています。
図:人口の推移(国連予想) 単位:千人
米国、ドイツ、日本、サウジアラビアは左軸、人口が多い中国とインドは右軸を参照します。ドイツ、日本、中国では、近年始まった人口減少が2100年まで続くことが予想されています(今後、人口増加は起きないと予想されている)。インドは2060年代前半に減少が始まることが予想されています。
こうした中、移民の流入によって米国の人口は増加傾向が続くことが予想されています。1950年から2023年までの実績値から、この期間に米国で人口減少が起きていないことが確認でき、2024年から2100年までの予想値から、この期間に米国で人口減少は起きないことが予想されています。米国はほぼ絶えず「人を吸収する国」だといえます。
サウジアラビアも、移民を比較的多く受け入れています。国際連合のレポートによれば、2020年時点の移民の数は、米国がおよそ5,000万人(世界1位)、ドイツは1,500万人(同2位)、サウジアラビアは1,300万人(同3位)でした。
サウジアラビアの人口は2024年以降増加し続け、2100年には7,000万人台に達し、減少傾向を維持した日本やドイツとほとんど同じ水準になることが予想されています。
民主的=豊か、権威的=貧困とは限らない
次に、国民の豊かさと思想・考え方の関係について確認します。以下は、一人当たりのGDPです。同指標は、国の平均的な豊かさを示すとされています。米国ではリーマン・ショック発生の翌年である2009年と新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年を除けば、1990年以降、上昇し続けています。
米国は富の配分が偏っていることやそれによる格差拡大など、たくさんの問題を抱えているものの、国全体としては豊かになる傾向が続いているといえます。ドイツも同じような傾向にあります。
一方、日本は2012年をピークに低下傾向にあります。甚大な災害がいくつも発生したり、デフレ体質が顕在化したり、各種政策が後手に回ったりするなど、失われた数十年を過ごしています。
新興国の大国と位置付けられ、人口の多さが経済発展に寄与すると期待されてきたインドは、大変に低い水準を推移しています。人口の多さやそこに向けられる期待が、必ずしも国を(平均的に)豊かにするわけではないことが、うかがえます。
図:一人当たり名目GDP 単位:ドル
権威的な国と言われることがある中国は、大規模ではないものの、少しずつ上昇してきています。王制を敷くサウジアラビアは2000年代に入り上昇が目立ち始め、2022年に日本と同水準になりました。権威的な国は豊かにならない(なれない)、というイメージは実態に即していないことがうかがえます。
その中国とサウジアラビアがどの程度、権威的かを示す資料があります。V-Dem研究所(スウェーデン)が公表している、世界各国の民主主義に関わる複数の情報を数値化した自由民主主義指数を参照します。
この指数は0と1の間で決定し、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いこと(権威的な度合いが高いこと)を意味します。
行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義をはかる複数の側面から計算されています。以下のグラフは、本レポートで取り上げている五つの国の同指数の推移です。
図:自由民主主義指数 単位:ポイント
先進国である米国、ドイツ、日本は高い水準にあります。米国は2016年にトランプ氏が米大統領選挙で勝利したことを受けて、最高水準からやや低下しています。ドイツ、日本は、2010年ごろから続く世界分裂・民主主義の後退の流れに身を任せるように、緩やかに低下しています。
新興国のインドも2010年ごろから世界全体の流れに倣って低下が始まり、汚職などの固有の社会不安がまん延しはじめたことがきっかけで、低下に拍車がかかりました。
こうした先進国や一部の新興国で変化が生じているさなか、権威的と言われることがある中国とサウジアラビアは、ほぼ一貫して、低水準にあります。言い換えれば、両国は先進国のような民主的な状況になったことがないのです。ですが、豊かさを獲得しているのです。
分散のカギは、マイルド権威主義・土台あり
分散先を選択する際に必要なことは「メインと異なる」ことです。値動きについては、しばしば「逆相関が良い」と耳にしますが、逆相関の場合、メインの価格推移が好転した場合に、良かれと思って保有した分散先の商品が足かせになってしまうため、必ずしも逆相関が良いとは言えません。ここで言う「異なる」とは「無相関」のイメージです。相関係数でいえばゼロ近辺です。
本レポートの前半部分の各国の人口の話から、メインの投資先が米国であるとすると、できるだけ異なる性質を目指す分散先として、「労働人口維持」と「人口増加維持」が実現し得る新興国や次世代の新興国がなじむといえそうです。
レポート後半部分の豊かさと考え方・思想の話から、メインの投資先が米国であるとすると、できるだけ異なる性質を目指す分散先として、「マイルドな権威主義」と「1人当たりGDPが先進国並み」という特徴を持つ新興国や次世代の新興国が有望であるといえそうです。
また、「マイルドな権威主義」は、米国などの先進国が採用する民主主義と異なる要素を持っています。
民主主義の環境下では、高い自由度・民主度を背景に自由な競争が繰り広げられ、経済が活発化することが期待される半面、自由すぎて感情が噴出し、建設的な議論が損なわれて社会全体が停滞するマイナスの側面もあります(2010年ごろ以降の世界的な自由民主主義指数の低下の一因がここにある)。
その点、こうした民主主義と一線を画す「マイルドな権威主義」は、自由過ぎない環境を維持できるため、過度な大衆化が起きにくく、熾烈(しれつ)な値下げ競争およびそれによるサービスの質の低下が避けられ、主要産業で疲弊が起きにくいメリットがあります。
自由過ぎる大衆の声に耳を傾けるあまり、リーダーが思い切った行動ができなくなる事態が、複数の先進国で発生しています。マイルドな権威主義であれば、こうした事態を避けることもできるでしょう。
また、分散先に「土台」となり得る、安定した収入源、労働人口維持・増加、自国の特徴を生かしたプラスアルファ、などがあるとなおよいでしょう。
本レポートでは、五つの国のさまざまなデータを確認しながら、大乱世における分散投資の考え方を確認しました。五つのうち、分散先になり得る国と強いて挙げるとすれば、サウジアラビアかもしれません。
近年、脱石油をメインとした経済改革「ビジョン2030」を掲げ、さまざまな自由化がなされた同国は、まさにマイルドな権威主義といえるでしょう。労働人口の維持・増加が期待でき、先進国並みの豊かさを実現している同国は、分散先の有力候補といえるかもしれません。日本人にとって、なかなかなじみがない国かもしれませんが、フラットな目で観察してみると面白いかもしれません。
図:分散先の選び方(筆者イメージ)
[参考]エネルギー関連の投資商品例
国内ETF(上場投資信託)・ETN(NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)成長投資枠活用可)
NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア
外国株式(NISA成長投資枠活用可)
海外ETF(NISA成長投資枠活用可)
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
投資信託(NISA成長投資枠活用可)
HSBC 世界資源エネルギー オープン
シェール関連株オープン
海外先物
CFD
(吉田 哲)
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