今上昇中の「個人向け国債」と「銀行預金」その魅力とリスク
トウシル / 2024年11月12日 7時30分
今上昇中の「個人向け国債」と「銀行預金」その魅力とリスク
「銀行預金金利」がじわり上昇中
最近、銀行預金金利が上昇しています。楽天銀行の場合だと、楽天証券との連携で最大年0.18%(税引後年0.143%)を普通預金で提示しています(2024年9月1日時点)。
マイナス金利政策下では、ほぼ全行が、預入額、預入期間を問わずに「年0.001%」としていたことを思えば大きな変化です。ニュースでは「○百倍に金利が上がった!」などと報じられたりもします。
今の金利情勢で興味深いのは、定期預金の金利を高めに設定している銀行があれば、普通預金の金利を引き上げて口座獲得、預金獲得の誘い水としている銀行もあることです。金利や設定のタイミングにも違いが見られます。
前世紀では、銀行預金金利はどこも一律にする規制がありましたが、今は金融自由化の時代によって、競争が進むことは良いことです。
といっても、高ければ良い、というわけではありません。それぞれが支払い能力に応じて金利設定を行うわけで破綻リスクを見つつ適当な金利設定か判断することが大切です(まあ、今世紀に入って、高金利で預金を集めて破綻する銀行が現れるとはさすがに思いませんが、注意ゼロでよいとはいえません)。
「個人向け国債」も一時期よりは高利回りに
個人向け国債も、変化が生じ始めています。最低金利として提示されている年0.05%でもありがたい(なにせ銀行預金が年0.001%にずっと張り付いていたわけですから比較すれば50倍も高かった)、と思っていたのは昔の話です。
参考まで、2024年10月募集分の個人向け国債は、
- 変動10(変動金利型10年満期) 年0.57%
- 固定5(固定金利型5年満期) 年0.46%
- 固定3(固定金利型3年満期) 年0.34%
となっています。
0.05%の裁定金利の7~11倍くらいの設定ですから、こちらもずいぶん高まってきています。
マイナス金利政策の修正は、じわりと金利に反映され始めています。
安全確実だが、それでも「物価に対して実質マイナス」であることはお忘れなく
銀行預金と個人向け国債の魅力は安全性です。いずれも満期保有すれば元本と利息が戻ってきます。銀行預金は基本的に解約金利を設定(満期までの金利より低くなる)するので、中途解約でも元本割れは起きません。
個人向け国債の場合は、解約時の手数料という考え方に基づきますから、初期に解約をするとマイナスになる可能性がありますが、大きなものではありません。
そう考えると、預金金利や個人向け国債金利の上昇傾向は魅力が高まっているように見えます。安定的に高利回りが期待できるなら資金をシフトしたくなります。
しかし、「実質マイナス」であることには注意したいところです。ここで比べるべきは物価上昇率です。物価上昇率と同等の金利設定でない限り、「安全、確実、実質マイナス」だからです。
ここ数年の物価上昇率を考えれば年3~4%くらいの金利提示が欲しいところですが、まだまだそこに近づく情勢にはありません。
もちろん、普通預金と定期預金であれば定期預金のほうが高金利提示を行うようになりました(マイナス金利政策時は、いくら預けても何年預けても一律に0.001%だったので十分に大きな変化ではあります)。しかし、定期預金でも物価上昇率には追いついていないのです。
全体の運用リスクを整えるバランサーとして活用したい
資金移動するほどでないなら、保有する必要がないか、というとそうでもありません。
資産形成は「大きく元本割れしたくない」というニーズと「大きく増やしたい」ニーズとの兼ね合いです。これは額面としても、実質価値としても考える必要があります。
このとき「預金ポジション+投資ポジション」を同時に持つことはおかしなことではありません。若い人や投資性向が強い人は「生活資金の数十万円以外は、全額投資!」ということもあるでしょう。
しかし、資産全体の管理としてマイナス20~30%のような暴落が生じても耐えられるように(可能ならリバランスして下落時に投資額を増やせるように)、安全性のある資産を持っておくことは普通の選択です。
安全性の高い資金の投資における使い勝手はまず、「全体としてのリスクを抑える」ということに意義があります。
預金や個人向け国債の保有割合を高めると、残念ながら期待リターンの方も抑制してしまいますし、物価上昇率にも負けてしまうことがほぼ確実ですが、市場の急落時に「資産全体」としては急落を防ぐことになります。
単純に投資割合を5割にすれば、マイナス30%の下落時にも「資産全体としてはマイナス15%」に抑えられます。誰でも無意識にやっている「投資に回すのは資産の半分くらいかな」は、これを狙ってやっている投資選択なのです。
近年の急落(コロナショックなど)は短期的に回復していますが、一般的には数年から5年くらいの回復期間を見込むべきです。焦って値下がりした投資信託や株を売らずに済むことのできる投資割合づくりに定期預金や個人向け国債を位置づけて保有してみてください。
よく、ネットで拡散されているような「郵貯で年7%の金利がもらえる時代は良かった」は、物価上昇を加味していません。預貯金金利が高い時期は、同程度あるいはそれより高い物価上昇が起きているので、「預金だけでお金が増える」というのは正しくないわけです(それどころか、ほとんど増えていない)。
今後もう少し金利上昇があったとしても、やはり私たちはリスク資産と付き合っていく必要があるといえるでしょう。私たちは、投資と付き合っていく世代なのです。
(山崎 俊輔)
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