米国株最高値の裏に、五つのトランプリスク。インフレ、米中摩擦、ロシアゲート…(窪田真之)
トウシル / 2024年11月12日 8時0分
米国株最高値の裏に、五つのトランプリスク。インフレ、米中摩擦、ロシアゲート…(窪田真之)
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「米国株最高値の裏に、5つのトランプ・リスク(窪田 真之)」
「いいとこ取り」のトランプ・ラリー
法人減税・規制緩和などを公約するトランプ氏が大統領選に勝利したことを好感して、先週、米国の主要3指数(ナスダック総合指数・S&P500種指数・ダウ工業株30種平均)はそろって史上最高値を更新しました。米国第一主義を打ち出すトランプ氏への期待から、米国買い(米国株高・米ドル高)が進んでいます。
トランプ・ラリーは大統領選の前から始まっていました。接戦州での世論調査でトランプ氏が優位だったことから、大統領選前から、金融市場ではトランプ氏勝利を織り込む動きが進んでいました。選挙結果が出てその動きが加速しました。
ただ、気になるのは、このラリーがトランプ氏公約の「良いところ」だけを見ていることです。トランプ氏の公約には、株式市場や世界経済にとってネガティブな内容も含まれています。今日のレポートでは、トランプ氏公約の中から、特に気になる五つのトランプ・リスクにいて、私の考えを書きます。
気になる五つのトランプ・リスク
トランプ氏公約の「株式市場にとって都合の良い部分」はかなり織り込みが進んでいます。一方、ネガティブな側面については、これから織り込みが始まると思います。以下五つのトランプ・リスクについて、今後の展開を慎重にウオッチする必要があります。
【1】インフレ再燃・金利上昇リスク
最大のリスクは、インフレ再燃・金利上昇リスクです。トランプ氏の公約は景気刺激策が主体なので、再びインフレを引き起こす懸念があります。財政赤字が一段と拡大することから、米国債発行がさらに拡大し、金利上昇圧力がかかります。
米国の長短金利(10年金利とFF金利)推移:2021年12月末~2024年11月11日
米長期(10年)金利は、足元4.4%まで上昇しています。4%を超えると、米国株式市場には警戒感が広がることが多いのですが、今はトランプ・ラリーの熱気の中で金利上昇への警戒が薄れています。FRB(米連邦準備制度理事会)が9月18日に0.5%、11月7日に0.25%の利下げを行ったことも、安心感を高めています。
米国の総合インフレ率は、以下の通り、2.4%まで下がっていて、現時点では米景気が堅調な中、インフレが低下する理想的なソフトランディングが進みつつあるように見えます。
米国インフレ率(CPI総合・コア指数の前年同月比上昇率)推移:2020年1月~2024年9月
ただし、最近、米インフレ再燃の兆候があることも事実です。米コア・インフレ率が高止まり、前月比で上昇し始めていることが警戒されます。トランプ氏の財政拡大が、インフレを再び悪化させることがないか、慎重にウオッチする必要があります。
【2】輸入関税引き上げ・米中対立激化リスク
トランプ氏は、自らを「タリフマン(関税男)」と呼ぶほど、関税引き上げに熱意を見せています。大統領になれば、全ての輸入品に一律10%または20%の関税をかけ、さらに中国からの輸入品には60%の関税を課すと公約しています。本当に実施したら、世界経済にも株式市場にもダメージが大きくなります。
実施すればすぐ起こる問題として、米国内の物価上昇、米国の貿易相手国へのダメージ、貿易戦争激化が考えられます。
米国が輸入関税を大幅に引き上げると、米国の生活必需品が一斉に値上がりし、インフレを悪化させます。それで苦しむのは米国の消費者です。
中国品への関税を60%に引き上げれば、米中対立が激化するのは必至です。中国が、米国からの農産品輸入などに報復関税を課すと、米国にも中国にもダメージが大きくなります。米国への輸出が大きい、日本やドイツの製造業もダメージを受けます。
保護主義を強めると、短期的に、米国内の製造業に恩恵がありますが、長期的には、別の影響が出ます。保護された製造業の構造改革が進まず、保護されればされるほど弱体化していく皮肉な結果を招くことがあります。米国の鉄鋼業などがその例に当たります。
【3】パリ協定離脱のリスク
トランプ氏は、大統領になれば、すぐにパリ協定(気候変動問題に関する国際的な枠組み)から離脱すると述べています。米国のような大国が離脱すると、世界的に進められている「脱炭素」に深刻なダメージが及びます。米国および世界中で進められている洋上風力や太陽光発電を拡大する流れに歯止めがかかるリスクがあります。
もし本当に離脱すると、米国は国際的信用を失います。第一次トランプ政権が始まった2017年にパリ協定から離脱し、バイデン政権が始まった2021年に再加入し、第二次トランプ政権で2025年に再度、離脱することになるからです。政権が変わるごとに、国際的枠組みから出たり入ったりすることは国家としての信用を低下させます。
【4】不法移民強制退去に伴うリスク
トランプ氏は、米国内に大量に滞在する不法移民の強制退去を進める方針です。不法移民の大量流入は、バイデン政権の失策ですが、それを強制退去させることには人道上の問題もあり、実行すればさまざまな社会問題を引き起こします。
大統領選で民主党大敗につながった要因に、インフレへの不満と、不法移民の大量流入への不満があります。不法移民の問題はバイデン政権の失策です。
第一次トランプ政権が移民排除を打ち出していたことに対し、バイデン政権は移民を積極的に受け入れると表明しました。中南米諸国の政治・経済・治安が悪化している中でこの方針を発表したため、米国への不法移民が急激に増加しました。
毎年200万人もの不法移民が流入する状態となりました。この状態を受けて、不法移民があふれるフロリダなど南部の州は、NY州などへバスに乗せて大量に不法移民を送りました。
このため、NYでは、グランドセントラル駅近くのホテルや、学校・公共施設などが不法移民のシェルターとなり、人道上の問題から、これを税金で支援しなければならない事態となっています。
不法移民は働くことができません。働く意思があって米国に来ているのに働くことができず、シェルターで保護されるだけになっているのは、大変な問題となっています。
不法移民はこれまでも常に米国に入ってきていました。それを密かに農業や建設業、あるいはホームヘルパーとして使うことがありました。不法移民は生涯、表立って働くことはできませんが、その子供世代は米国籍を得ることができます。
不法移民でも労働力不足の米国でなんとか働く場所を見つければ、何世代か経るうちに、米国民として定着していったと言う過去があります。
ところが、バイデン政権下で、年間200万人も不法移民が入ってきてしまうと、対処できなくなります。労働力不足の米国で、これを労働者として使いたい企業は多数ありますが、表立って雇うことはできません。
もし、出身国で政治的迫害を受けてきたことが証明できれば、亡命を申請し、認められれば米国で働くことができます。ただし、年200万人もの不法移民について、そうした解決策を見いだすことは困難と考えられます。
【5】ロシアゲート疑惑再燃のリスク
トランプ氏は、「大統領になったらすぐにウクライナ戦争を終わらせる」と述べています。かねてより、ロシアのプーチン大統領と親密な関係にあることが知られており、ウクライナへの武器支援を停止することで、ウクライナ戦争を終わらせる可能性を示唆しています。
戦争を終結させることは、ウクライナにとっても、世界にとってもとても良いことです。ただし、やり方によっては禍根を残す可能性もあります。最悪、ロシアゲート疑惑【注】が蒸し返されことがあるかもしれません。
【注】ロシアゲート疑惑
トランプ氏は2016年の大統領選に勝利した後、ロシアによる選挙介入に関与した疑いから、一時訴追の可能性があった。2016年の大統領選のさなかに対抗候補であったヒラリー・クリントン氏に不利なメールが大量に流出した事件で、ロシアによるハッキングが疑われた。これにトランプ氏が関与した疑いが持たれた。この一連の流れが「ロシアゲート疑惑」と呼ばれる。十分な証拠がなく疑惑は終息した。
トランプ氏がロシアのプーチン大統領と親密であることは周知で、昔も今もロシアに有利な発言を繰り返している。トランプ氏勝利にプーチン大統領は祝意を表明しなかったが、祝意を表明することで、ロシアゲート疑惑が蒸し返されるのを避けようとしたと考えられる。
以上が、私が現時点で考える、五つのトランプ・リスクです。
もう一つ、日本株に影響の大きいトランプ・リスクがあります。それは、円高反転リスクです。
【トランプ・リスク番外編】円高反転リスク
トランプ・トレードで、米金利が上昇し、ドル高(円安)が一段と進みました。ところが、トランプ氏自身は、「ドル高は災難」と述べています。
また、パウエルFRB議長が2018年に0.25%の利上げを4回、実施した時、大統領であったトランプ氏が、利上げをするなと圧力をかけたことがあります。つまり、トランプ氏自身は、米国の製造業に有利になるように、米金利を引き下げて、ドル安(円高)にすることを望んでいます。
トランプ氏が大統領になった後、円安批判を復活すると、円高が進みやすくなるリスクにも、注意が必要と思います。
株式保有は「中立」に
五つのトランプ・リスクについて、解説してきました。米国株にはやや過熱感があり、リスクが顕在化すると、利益確定売りが増える可能性に注意が必要です。
米国株も日本株も、もし「オーバーウエート」(通常の保有高を超えた保有)になっていれば、「中立」(通常の保有高)にしても良いと思います。ただし、「アンダーウエート」(通常の保有高を下回る保有)にするべきではないと思います。米国株も日本株も、短期的なショックで下がることはあっても、長期的にはさらなる上昇余地が大きいと考えているからです。
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▼著者おすすめのバックナンバー
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