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米大統領選挙はトリプルレッドで終結か。次の注目点は「トランプ人事」

トウシル / 2024年11月14日 7時30分

米大統領選挙はトリプルレッドで終結か。次の注目点は「トランプ人事」

米大統領選挙はトリプルレッドで終結か。次の注目点は「トランプ人事」

米大統領選挙は「トリプルレッド」で終結か

 先週のレポートで扱った米大統領選挙に関して、その後詳細な結果が出て今日に至ります。米国の大統領選挙は、選挙人獲得数(過半数は270人)で共和党のトランプ候補が312人、民主党のハリス候補が226人、激戦州とされる七つの州全てをトランプ氏が獲るという「圧勝」と言える結果でした。

 ハリス氏も早々に「敗北宣言」をし、政権の平和的移行を保証すべく振る舞いました。今回の大統領選挙で私が最も懸念していたのは、ハリス氏が僅差で勝利し、その結果を認めないトランプ氏の支持者たちが暴れだし、米国内が一種の「内戦状態」に陥る局面でした。世界の超大国であり、国際情勢や世界経済の安定的推移にとって核心的な役割を担っている米国(の首都)が機能不全に陥れば、その隙を狙うような、地域情勢を不安定化させる行為が一部国家、あるいはテロ組織を含めた非国家主体から出てくるリスクもあったと思います。

 とりあえず、米大統領選に端を発するその手のリスクは回避されたと言っていいでしょう。

 もう一つの注目点が同時に行われた議会選挙です。私が本稿を最終確認している11月13日15時(日本時間)時点では、上院はすでに全結果が出ており、共和党53議席、民主党47議席で、前者が4年ぶりに多数派を奪還。下院は共和党216議席、民主党207議席で、いずれもまだ過半数(218議席)には届いておらず、残り12議席の行方が注目されるという状況です。

 とはいえ、下院も御覧の通り共和党優勢であることに変わりはありません。仮にこのまま共和党が下院で多数派を獲れば、大統領府、上下両院を占める「トリプルレッド」の局面が出現します。そうなれば、注目される関税政策を含め、トランプ氏は政権運営を有利に運ぶことが可能になるでしょう。米大統領選の再終幕として、下院の動向に引き続き注目です。

トランプ政権を左右する人事には「対中強硬派」議員の名前が

 さて、「トリプルレッド」になるかと同時に、ある意味それ以上に注目すべきなのが、トランプ政権入りする、閣僚を含めた人事でしょう。

 2017年1月~2021年1月の1期目もそうでしたが、トランプ氏とて自分のやりたい放題に政権運営できるわけではありません。今回、トランプ氏の側近や周囲には、前回以上の同氏に「忠誠心」を尽くす、いわゆる「イエスマン」で固められる可能性が高いですが、それでも、経済、通商、外交、軍事、気候変動などを含め、それぞれの政策分野においては相当程度、担当閣僚に権限を委任する可能性が高いです。だからこそ、「誰が政権入りするか」が、トランプ第2次政権の行方を占う上で極めて重要だということです。

 中国を扱う本連載では、トランプ政権の対中政策に深い次元で関与する人事について、現時点で表沙汰になっている情報を基に見ていきたいと思います。

 外交の要である国務長官として名前が挙がっているのが、ルビオ上院議員(フロリダ州選出)です。両親がキューバ人の移民2世で、2016年の大統領選挙では、共和党の候補者指名争いでトランプ氏に敗れましたが、共和党を担う次世代のリーダー&ホープとして注目を集めてきた人物です。

 ルビオ氏の中国観は過激というよりは、現実的なものだというのが私の見方です。2018年に発表されたルビオ氏の上院議員としての活動をまとめた報告書において、「米国と世界にとって、中国ほど長期的に強大な脅威をもたらす国はない」と述べています。具体的政策では、台湾との戦略的関係の強化をうたい、香港や新疆ウイグルにおける人権問題を問題視し、経済安全保障政策では、中国の通信、半導体、EV(電気自動車)といった産業や企業に対する規制を強化すべきという一貫した態度を取ってきています。

 外交・安全保障という意味で重要なポストである国家安全保障担当大統領補佐官には、ウォルツ下院議員の名が挙がっています。米陸軍特殊部隊出身の退役将校です。中国に対しては、新型コロナウイルスの世界的感染拡大を招いた、新疆ウイグルでの人権侵害に関与しているといった理由から、米国は2022年北京冬季五輪をボイコットすべきだという主張を展開した経緯があります。また、自らの専門である軍事政策においては、中国人民解放軍に対抗すべく、米海軍の艦船や装備の増強を主張しています。

 トランプ第2次政権の対中外交、安全保障政策をルビオ、ウォルツ両氏が担当することになった場合、「対中強硬」が一層鮮明になり、米中関係の緊張と対立は必至、というのが昨今における各国政府、有識者、市場関係者らの大まかな見方のようです。

 私も、そういう見方を否定する立場を取るわけでは決してありません。対中強硬も、米中対立も続くでしょう。特に経済、通商の分野において、米中のはざまで生存と成長の空間を見いだしていかなければならない日本の官民にとっての正念場も続くでしょう。

中国側の心境は?

 上記の人事を含めて、現時点ではまだ確定しているわけではありませんし、何より、来年1月20日まではバイデン政権が続きます。政権移行期にあるとはいえ、米中関係の現在地と行方という観点からすれば、まずは今月これからペルーで行われるAPEC(アジア太平洋経済協力)会議、ブラジルで行われるG20首脳会議で実現するとみられるバイデン大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席による「最後の」首脳会談に注目すべきでしょう。そこで、トランプ政権発足後の米中関係を占う上で重要な示唆(しさ)が出てくるかどうかは見ものです。

 一方、中国政府は疑いなくトランプ次期政権の閣僚人事を、固唾(かたず)を飲んで注視し、準備と対策を始めていると言えるでしょう。例えば、ルビオ氏に関しては、香港やウイグル問題における過去の言動を問題視し、2020年から制裁を科している状況です。仮に同氏が予想通り国務長官になった場合、制裁措置を解除するのかどうか、仮にしない場合、米中の外交トップ間の往来、および両国外交関係にどんな影響が出るのか、今から注目すべきだと思います。

 習近平国家主席はトランプ氏圧勝から間もない11月7日、同氏の当選を祝福するメッセージを送り、米国新政権と連携して米中関係を安定させ、前進させる姿勢を打ち出しました。  

 中国としては、相手がトランプ大統領だろうが、ルビオ国務長官だろうが、ウォルツ補佐官だろうが、自らの対米政策は変わらず、やることも変わらないという断固とした、毅然(きぜん)としたスタンスでいるというのが私の基本的な理解です。

 トランプ新政権が、台湾、通商といった問題で、中国の国益を揺さぶって来るのは必至という姿勢も崩していないでしょう。米中関係を巡る不確実性という意味では、中国側よりも米国側にあると言えます。

 そんな中、私が注目しているのは、仮にルビオ、ウォルツ両氏がそれぞれ国務長官、補佐官に就任したとして、トランプ氏の従来の主張(「中国へ60%の関税を科す」「台湾海峡を封鎖したら150~200%の関税を科す」など)をどう受け止め、外交や安全保障の統括者としてどう折り合いをつけ振る舞い、政権の政策として打ち出してくるかです。

 トランプ第2次政権の重要人事は、思ったよりも迅速に決まっていく様相を現時点では呈していますが、来年1月20日に向けて、引き続き注目していきたいと思います。

(加藤 嘉一)

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