[今週の株式市場]トランプ関税をめぐる緊張感~不安定な相場展開に注意~
トウシル / 2025年2月3日 12時0分
[今週の株式市場]トランプ関税をめぐる緊張感~不安定な相場展開に注意~
1月の最終週だった先週の株式市場ですが、週末31日(金)の日経平均株価は3万9,572円で取引を終え、前週末終値(3万9,931円)比では359円安と下落に転じました。
先週は、いわゆる「DeepSeek(ディープシーク)」ショックに揺れ動いた場面があり、前回のレポートで注目していた、日経平均の4万円台定着は達成できませんでしたが、かといって、週末終値の単純な比較を見る限りでは、そこまで大きな相場の変動はなく、むしろあまり下げていない印象です。
では、足元の相場は堅調と捉えて良いのでしょうか?まずはいつもの通り、足元の日経平均の値動きから確認していきます。
日経平均の値動きは悪くはないが、、、
図1 日経平均(日足)の動き(2025年1月31日時点)
あらためて、先週の日経平均の値動きを上の図1で捉えると、「週の前半は下落、週末にかけては反発」という展開となりました。
前半の下落局面では、節目として意識される3万9,000円の株価水準を、28日(火)の取引時間中に下回る場面がありながらも、終値ではキープできたほか、75日移動平均線もサポートとして機能しました。また、後半の反発局面では25日移動平均線も回復しており、下値の「目安」でしっかり下げ止まった様子がうかがえます。
一般的に、下値の堅さが確認されれば株価は上昇しやすくなるため、目先のトレンドの方向感も前回の見方とあまり変わらないことになります。
図2 日経平均(日足)とトレンドライン(2025年1月31日)
上の図2は、前回のレポートでも紹介した、日経平均の日足チャートに2つのトレンドラインを描いたものです。
ひとつは、昨年7月11日と10月15日の高値どうしを結んだ「上値ライン」、そしてもうひとつは、昨年8月5日の安値から10月15日の高値までの上昇幅を基準とした上向きの「ギャン・アングル」です。
先週後半の日経平均は、ギャン・アングルの3×1ラインに沿って株価が反発していたことが確認できますが、今週もこの基調が続くのであれば、図2の①が目先のトレンドの方向感になります。
反対に、今週の相場が弱含むのであれば、同じく図2の②のエリアに株価が足を踏み入れることになり、3本の移動平均線(25日・75日・200日)や、上値ラインがサポートとなれるかが焦点になります。
チャート上の株価の動きだけで判断するならば、①が基本シナリオになりますが、今週の相場環境を見渡すと、月初恒例の米雇用統計(1月分)が週末の7日(金)に控える中、先週に続いて日米で相次ぐ企業決算の動向のほか、週末にかけてから急に動きが慌ただしくなってきた、米トランプ政権の関税政策をめぐる動きなどにも注意する必要も出てきており、②のシナリオについても強く意識する必要がありそうです。
米国市場のポイントを整理
そのため、今週は米国市場の動きがカギになってくるわけですが、そのポイントは、「経済指標と景況感」、「企業決算の動き」、そして、「トランプ政権の動向」の3つに整理できます。
まず、ひとつめの「経済指標と景況感」についてですが、今週の米国では、先ほども述べた雇用統計以外にも、1月分の米ISM(米サプライマネジメント協会)景況感指数(製造業・非製造業)などが予定されています。
現時点での市場予想はいずれも「前回と大きな変化はなさそう」というものが多いだけに、サプライズには要注意なものの、警戒モードはあまり強まっていない状況と言えます。むしろ気を付けたいのは来週以降で、消費者物価指数や小売売上高などの注目の経済指標が公表されます。
前回(12月分)の米経済指標が、トランプ米大統領の就任を前にした警戒感(関税引き上げなど)による駆け込みの影響で上振れしたという見方があり、今回(1月分)の経済指標の結果に、その反動が表れる可能性があります。
続いてのポイントは、「企業決算の動き」です。
図3「マグニフィセントセブン」銘柄の株価推移比較(2024年末を100)(2025年1月31日時点)
上の図3は、2024年末を100とした、「マグニフィセントセブン」銘柄のパフォーマンスを比較したものですが、先週あたりから上昇しているものとそうでないものとで、パフォーマンスにバラツキが出始めています。
今週は、図3で上昇していたアルファベット(GOOG)とアマゾン・ドット・コム(AMZN)のマグニフィセントセブンの一角のほか、半導体関連銘柄のアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などの決算が予定されています。
先週の株式市場が、いわゆる「DeepSeek」ショックに揺れる場面があっただけに、米テック企業の決算の動向が注目されます。こちらのレポートでも解説していますが、AI相場に対して、これまでのように、「AIに多くの投資をするよ」というだけで対象銘柄の株価が大きく上昇していくという段階から「次のステップ」へと移行しつつあり、今後も銘柄の選別が進むことが想定されます。
そして、今週の相場で最も注目が集まりそうなのが、「トランプ政権の動向」です。
カナダやメキシコ、中国からの輸入品に対して関税を課す旨のファクトシートが2月2日(日)に米ホワイトハウスのウエブサイトに掲載されたことで、トランプ政権の関税政策が本格的に動き出し始めました。
関税の内容は、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課し(例外として、カナダからのエネルギー輸入については10%)、中国からの輸入品についても10%の追加関税が課されるというもので、先週あたりから報道等で語られていた内容と差異はありません。
また、今回の関税発動については、「違法な外国人や、特定の薬品(フェンタニルや麻薬)によってもたらされる異常な脅威」を理由に、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく「国家緊急事態」の認定が根拠となっています。IEEPAを根拠とする関税発動には調査期間が不要なため、迅速に実行することが可能になります。
ただし、税関など現場の対応準備などを考慮すると、実際に関税が課されるまでには一定の時間がかかると思われるほか、さらにファクトシートでは、関税が課される期限は「危機が緩和されるまで」とあるため、相手国の対応(出国審査や薬物の取り締まり強化)次第では、ギリギリのところで関税の実行が回避される、もしくは早い段階で関税が撤廃される可能性もあります。
このパターンで事態が収拾されれば、関税を武器にした「ディール(取引)」という側面が強まり、株式市場への影響も限定的になると思われますが、相手国からも報復関税が検討されて、貿易戦争の様相を呈してしまうパターンに発展してしまうと、状況としては厄介になります。
米国株市場は意外と不安定
もうひとつ米国市場で気掛かりなのは、「米国株市場は意外と不安定かもしれない」という点です。
先週の米国市場では、「DeepSeekショック」以外にも、28日(火)から29日(水)にかけて開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)も注目されていました。
その結果は市場の予想通り、政策金利の据え置きが決定されたほか、今後の金融政策の見通しについて、記者会見を行ったパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長から、トランプ政権の動向を見極めつつ、「利下げを急がない」という姿勢がうかがえました。
こうした今回のFOMCの結果を受けた29日(水)のダウ工業株30種平均は、前日比で137ドル安と小幅な反応となり、無風通過だった印象ですが、実はこの日の1分足の動きを見ると、少し違った景色が見えてきます(下の図4)。
図4 米ダウ工業株30種平均(1分足)の動き(2025年1月29日)
FOMCの結果が公表されたのが現地時間29日(水)の14時、パウエルFRB議長の記者会見が14時30分から始まったのですが、図4を見ても分かるように、FOMCの結果が出る1時間ぐらい前から取引終了にかけての値動きがかなり荒っぽくなっていたことが分かります。
さらに、ダウ工業株30種平均は、トランプ関税の警戒が高まった31日(金)の取引では、最高値の更新をうかがうところから500ドル近く下落して取引を終えていることもあり、米国株市場はネガティブな材料に反応しやすくなっているかもしれないことは意識しておいた方が良いかもしれません。
日本株で試される下値の堅さ
したがって、今週の日本株は米国株市場の動きに振り回される場面が増えそうですが、国内でもトヨタ自動車(7203)や任天堂(7974)をはじめ、大手商社や東京エレクトロン(8035)など先週末時点で時価総額が1,000億円を超える企業の決算が280銘柄ほど予定されており、個別銘柄の物色が相場を支えられるかも注目されそうです。
図5 日経平均(日足)と予想PERの推移(2025年1月31日時点)
上の図5は日経平均と予想PER(株価収益率)の推移を示していますが、先週末31日(金)時点の予想PERは16.09倍となっています。
チャートを過去に遡ると、日経平均が史上最高値を更新し、3万9,000円台や4万円台を目指して行った昨年3月頃のPERは17倍台を超えていました。PERの計算式は「株価÷1株あたり利益」ですが、当時と比べると同じ株価水準でも現在のPERは低下しており、企業の利益が着実に伸びていることを意味しています。
そのため、目先の株価が下落したとしても、以前よりも買いを入れやすい状況となっています。
また、日経平均は昨年の10月あたりから3万8,000円から4万円の「レンジ相場」が続いていて、その期間は4カ月を超えようとしています。
この期間を振り返ってみると、先週の「DeepSeekショック」をはじめ、2週間前のトランプ政権の発足、さらに、日米の金融政策の方針転換、米大統領選挙や国内衆議院選挙など、相場が大きく動いてもおかしくないイベントがこれだけありながら結局はレンジ相場が続いています。
そのため、仮に今週の相場が下落基調を強めた場合でも、レンジの下限である3万8,000円水準は強く意識されることになりそうです。
(土信田 雅之)
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