資産を使い切ってゼロで死ぬー「Die With Zero」は実現できるのか?
トウシル / 2024年11月29日 7時30分
資産を使い切ってゼロで死ぬー「Die With Zero」は実現できるのか?
著者プロフィール
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ファイナンシャル・プランナー(CFP) 大学卒業後、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に入社。個人富裕層、法人顧客への資産運用設計コンサルタントに従事。その後、会計事務所系のコンサルティング会社を経て、2013年独立。ライフプランに沿って独立性・専門性の高い資産運用アドバイスを行うためシグマ株式会社を設立。 |
「Die With Zero=ゼロで死ぬ」ってなんだ?
今、「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」(著者ビル・パーキンス)という著書が話題です。Die With Zeroとは、その名の通り、(お金を使い切って)残高ゼロで死ぬことを勧める本です。その中では、いくつかのルールが示されています。
「今しかできないことにお金を使う」
「一刻も早く経験に金を使う」
「死ぬまでにやりたいことは時期で考える」
「資産をできるだけ使い切り、お金を残さず残金ゼロで死ぬ」
などです。
著者のビル・パーキンス氏は、「過剰貯蓄と不十分な生活から人々を救いたい」と話しています。多くの人が、「将来のために必要以上に貯蓄し、現状を我慢しながら生活したのに、結局使い切ることなく一生を終えている」とも指摘しています。
私は、ファイナンシャルアドバイザーとして、多くのお客さまの「お金の相談」にお答えしていますが、相談者の「先行きが不安だから、できるだけ多くお金を残しておきたい」という気持ちもよく分かります。
ただ、著者の言う、「同じお金を使うにしても、90歳で100万円を使うより、まだ成長期の子どもたちと一緒の40代で100万円を使った方が、得られる体験は大きい」という主張にも納得がいきます。
お金を「使うため」に運用する
本書の影響もあるのか、最近はリタイア前後の方から、「使うこと」を意識した言葉をよく耳にします。例えば、「75歳までは趣味や旅行でお金を多く使いたい。それ以降はそんなに使えませんからね」といったものです。やりたいことやご自身の健康年齢を考慮したライフプランがあり、それを実現するための資産運用ニーズが高まっているように感じます。
これまでは、老後のために「どう増やすか」が話題の中心で、例えばNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を使って増やすにはどんな商品が良いか? のような質問が多かったのですが、最近は、将来「〇〇円を受け取る」ためにはどうすべきか? といった内容に変化しているように思います。
実際に、投資商品も増やす系の、全世界に投資する、いわゆるオールカントリー系銘柄や、S&P500種指数に連動した銘柄などは相変わらずの人気ぶりですが、「高配当株」や「米ドル建て債券」、そして「毎月分配金」など、受け取りに向いている商品にも注目が集まっていることも、このような理由からではないでしょうか。
今回は、そうした個人投資家の意識の変化を踏まえ、「Die With Zeroは本当に実現できるのか? 実現するなら、何に注意して進めるとよいか」について考えていきます。
「Die With Zero」実現のためのSTEP1:目的を明確化する
59歳の男性Aさんから、こんな話を伺いました。「65歳までは投資で増やして、そこで投資を全てやめて使っていきたいです。Die With Zeroを実現したいのです」
Aさんは、「65歳から取り崩していくためにも、今後6年間で、今あるお金をもっと積極的に増やさなくてはならない」と考えておられました。
私はもう少し詳しく話を伺いました。すると、Aさんの今後の予定は次のようなものでした。
「65歳で引退したときの資産としては、退職金も合わせて1億円くらいは見込まれる。そのお金でこれまでお世話になった方々に恩返しをしたり、夫婦で海外旅行に使ったり、早めにやりたいことにどんどん使って、90歳で0にしたい」というものです。
90歳という年齢設定が妥当かは議論があるところですが、やりたいことが明確になっておられ、とてもすてきだと感じました。
「Die With Zero」実現のためのSTEP2:未来をシミュレーションする
そこでAさんと一緒に、それを実現するための具体的なシミュレーションをすることにしました。
まずは、65歳以降の支出を試算します。毎月の生活費や将来のリフォーム費、「やりたいこと」も全部含めて、分かりやすく月平均にします。すると毎月70万円ほどが支出の合計となりました。
一方で、年金などの収入は月20万円の見込みなので、差し引きして毎月50万円ずつが取り崩しです。年間では600万円です。たとえ65歳時点で1億円あったとしても、年間600万円ずつの取り崩しになるため、およそ16年後の81歳で枯渇してしまうことになります。思った以上に早く、資産が枯渇してしまうことが分かります。
「だから今のうちにもっと増やさないと」というのがAさんの思いでした。実際にAさんは好調な米国株を中心に投資しており、さらなるリターンを目指して追加で米国の高配当株や投資信託を購入しようとしていました。
「Die With Zero」実現のためのSTEP3:目標を微調整する
ただ、いま好調なものが今後も続くとは限りません。うまくいけば大きく殖やせる可能性がある半面、大幅に資産を減らしてしまう恐れもあります。Aさんの場合だと、65歳になる6年後の米国株が、仮に2倍になっていればよいのですが、なんらかの金融ショックで半分になってしまったら目も当てられません。
そこで、もう少し長い視点で考えるようお話ししました。Aさんがしたいことは、「65歳から90歳までの25年間で、当初の1億円を毎月50万円ずつ取り崩すこと」です。これを取り崩しシミュレーションツールを使って計算をすると、年率3.6%のリターンがあれば実現可能と試算されました。
この程度のリターンであれば、さほど大きなリスクを取らずとも、実現の可能性は高まります。短期間で増やそうとするのではなく、時間をかけてじっくり増やすことで大きなリスクをとる必要がなくなるのです。そうなれば投資先も、株式だけでなく債券などを含めたバランス運用でも十分で、計画的な取り崩しもしやすくなるはずです。
無理のないプランの立て方
このように、Die With Zeroを実行しようとした場合、あらかじめ次のような順番で計画を立ててシミュレーションをしておくことが重要です。
1.やりたいことを書き出す
2.計画を立てる(具体的な時期、金額を決める)
3.シミュレーションを行う
まずは、ゼロにする時期(死期)を仮に100歳などと決める。これが一番難しいですが、とりあえずでかまいません。
次に、死ぬまでにやりたいことを書き出します。リフォームや車の買い替えなど将来必要なことから書き始めてもよいかもしれません。そして、「やりたいこと」「一度はやってみたかった」ことに思いを巡らせます。世界一周旅行、自宅の住み替え(建て替え)、スーパーカーの購入、母校への寄付など、いろいろ溢れてきそうですね。
そして、それらに優先順位と実行する時期、必要な金額を加えてシミュレーションを実施します。リタイア後であれば、今ある資金を運用しながら取り崩すシミュレーションになるでしょうし、40代、50代などでリタイアまでの期間がそれなりにあれば一部を老後のために増やす資金として、残りは使う資金などと分けて計画しても良いでしょう。
運用リターンをシミュレーションに入れる場合は、リスク値も考慮することがお勧めです。そうすることで、うまくいかないケースもあらかじめイメージすることができます。簡単に試算できるサイトもいくつかありますので活用してみてください。
▼金融庁つみたてシミュレーター
また、目標となる時期が先であれば、とりあえずは大まかなプランでも大丈夫です。ただし、3年ごとなど、状況に合わせた見直しを忘れないようにしましょう。
「Die With Zero」は本当に実現できるのか?
さて、改めてDie With Zeroは本当に実現できるかどうかといえば、私の答えは「NO」です(ビル・パーキンスも「そもそも不可能」としています)。なぜならば、当然のことながら亡くなる時期を正確に予測することができないからです。しかし、実現するためのプロセスにこそ価値があると思います。
自分が死ぬまでにやりたいことを真剣に考えることで、「やりたいこと」を先延ばしするのではなく、前倒しすることになります。お金だけにとらわれずに、本当の幸せに気づくことができるかもしれません。
本の中でも、「富」の最大化から「人生」の最大化という一節がありますが、私も大いに賛同します。お金を増やす方法を考える前に、なんのために増やすのか? 自分や家族にとって何が幸せなのかを考える。このプロセスこそが大切なのかもしれません。
これを機に、自分なりの「Die With Zero」の実現を目指して、ライフ&マネーのプランニングに取り組んでみてはいかがでしょうか。
(トウシル編集チーム)
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