新たな均衡に向けて着実に回復する日本経済(2024~2026年日本経済見通し)
トウシル / 2024年11月27日 8時0分
新たな均衡に向けて着実に回復する日本経済(2024~2026年日本経済見通し)
21日の植田総裁発言と10月全国消費者物価で12月利上げの織り込み進む
先週のレポートで、「円安進行を避けたいと日本銀行が考えるなら12月利上げの蓋然(がいぜん)性が高い。それまでに、市場の織り込みを進めるための情報発信があるかもしれない」と指摘したところ、早速、植田和男総裁による発言で利上げの織り込みが進んだようです。
11月21日に都内で開催された「パリ・ユーロプラス ファイナンシャル・フォーラム2024」で植田総裁は、「現時点で会合の結果を予測するのは不可能だ」「まだ1カ月程度ある。それまでの期間に非常に多くのデータや情報が利用可能となるだろう」(ブルームバーグ)と述べ、12月利上げの可能性を示唆しました。
12月MPM(金融政策決定会合)は18~19日に開催されます。結果が出る直前の18日に、FRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果が判明します。もし、FRBがこのところのインフレ再燃リスクの高まりを受けて利下げを見送れば、米長期金利が上昇し円安が進む可能性があります。
逆に、0.25%の利下げに踏み切ったとしても、さらなる利下げに対してパウエル議長は慎重な態度を示すと予想され、やはり長期金利が上昇して円安に振れる可能性があります。どのみち日銀が過度な円安を避けたいと思っているのなら、12月利上げに踏み切るしか選択肢はないと考えられます。
11月22日に発表された10月の全国消費者物価指数も、12月利上げを後押しする結果となりました(図表1)。
<図表1 全国消費者物価指数>
植田総裁が注目していた「サービス」が前年比1.5%と前月(1.3%)から伸びを高め、賃金上昇をサービス価格に転嫁する動きが広がりつつあるという日銀の見方を裏付ける結果でした。
以上から、データ、戦略、コミュニケーションのいずれの観点から見ても、12月利上げの可能性が高まっていると考えられます。
日本経済見通し~新たな均衡に向けて着実に回復する日本経済~
さて、本日のレポートでは、2026年度まで延長した新しい日本経済見通しを紹介します。まず、見通しの前提として設定した金融政策の先行きと、海外経済の成長率見通しから説明しましょう。
(1)金融政策の前提と海外経済の見通し
日銀の次回利上げは、上で述べた通り、12月とみています。さらに、来年春闘の賃上げ率を4%台後半と想定し、3月中旬に連合から第1回回答集計結果が出た直後の3月MPM(3月18~19日)で0.75%に引き上げ。その後、政局を見極めながら現状維持が続き、2025年12月に1.0%のターミナルレートに引き上げると想定しました。
一方、海外経済の見通しは図表2に示した通りです。米国はソフトランディングをベースシナリオとし、2024年の2.8%から、トランプ新政権による関税引き上げや不法移民強制送還などを受けて減速していくと想定しています。
<図表2 海外経済の見通し>
ユーロ圏はインフレが落ち着く下で低成長を継続。不動産市場が低迷し、消費マインドに改善の兆しが一向に伺えない中国も(図表3)、実質成長率が鈍化すると想定しました。
<図表3 中国の不動産景気指数と消費マインド>
(2)高い賃金上昇率が消費を下支え
以上の金融政策および海外経済の見通しの下で、日本経済は新たな均衡に向けて着実に回復していくとみています。ここでいう新たな均衡とは、新型コロナ後の賃金と物価の中長期的な均衡のことで、3%程度の賃金上昇率と1%台半ばのインフレ率をイメージしています(後述)。
まず、実質GDP(国内総生産)の5割超を占める消費ですが、そのベースとなる所得環境を雇用者報酬で見ると(図表4)、新型コロナ以降、名目ではかなりのペースで増加してきた一方、実質ではインフレを背景に減少傾向が続いていました。
それが今年度に入ってようやく実質ベースも前年比プラスに転じており、今後もインフレ率の落ち着きとともに実質雇用者報酬は緩やかに増加していくとみています。
<図表4 雇用者報酬>
こうした実質雇用者報酬の回復が下支えとなって、名目では著増となっているにもかかわらず実質では停滞が続く民間最終消費支出は(図表5)、着実に回復していくとみています。
<図表5 民間最終消費支出>
ただ、ここで「着実に」と述べたのは、目立って伸びが高まるわけではないからです。2024年7~9月期は所得税・住民税減税の効果もあって前期比0.9%という高めの伸びになりましたが、日本の消費の巡航速度は潜在成長率並みの0.2%程度です。
加えて、新型コロナ対策の現金給付などで増加した現金・預金をインフレでも使わない日本家計の特性に鑑みると(図表6)、賃金が上昇しても多くが貯蓄に回り、実質民間最終消費支出の押し上げ効果はそれほど大きくないとみています。
<図表6 「家計」の現金・預金>
(3)経済対策の実質GDP押し上げ効果は限定的
11月22日に閣議決定された経済対策(「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」)の実質GDP押し上げ効果も限定的なものに止まるとみています。
今回の経済対策は事業規模39兆円、国費13.9兆円で、政府は出尽くしベースで実質GDPを21兆円程度、成長率にして1.2%押し上げると試算していますが、予算の繰越額や不用額を勘案した、いわゆる真水を考えると、目立った押し上げ効果はないとみています。
(4)純輸出はこれまで同様、実質GDP成長率を小幅に押し下げ
財貨・サービスの輸出は、前述した海外経済の見通しをベースに、緩やかに増加していくと想定しています。トランプ新政権の関税引き上げなどの施策を見極める必要はありますが、米国の駆け込み輸入が生じれば、日本の輸出は来年前半にかけて短期的なフレが発生する可能性があります。
もっとも、財貨・サービスの輸入と金額に大きな差がないもとで(図表7)、実質GDPの伸びを小幅に押し下げる純輸出の寄与度は大きく変わらないとみています。
<図表7 財貨・サービスの輸出と輸入(実質)>
(5) 実質GDP成長率見通しは、2024年度0.3%、2025年度1.1%、2026年度1.0%
以上の結果、今回作成した日本経済の見通しは図表8の通りです。実質GDP成長率は、2024年度0.3%、2025年度1.1%、2026年度1.0%になるとみています。
<図表8 日本経済の見通し>
以上の見通しが想定する新たな日本経済の中長期的な均衡とは、名目雇用者報酬、すなわち賃金が3%程度で伸び、インフレ率が1%台半ば、従って実質賃金が1%台半ばで推移する経済をイメージしています。そのためには、現在0.8%程度の労働生産性を1%台半ばまで高める必要がありますが、我々ならそれができると期待しています。
(愛宕 伸康)
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