日銀の追加利上げ期待で円高地合いに!
トウシル / 2024年12月4日 16時39分
日銀の追加利上げ期待で円高地合いに!
日米の金融会合に注目
11月のドル/円は、米国大統領選が接戦予想からトランプ氏圧勝となり、政策期待による金利高・ドル高(トランプ・トレード)となりましたが、事前に織り込まれていたため、トランプ氏勝利の報が伝わってもドル高の伸びは鈍い動きでした。
一段の円安を後押ししたのは11月14日のFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の発言でした。パウエル議長は「利下げを急ぐ必要性はない」との認識を示すとドル/円は1ドル=156円台後半の円安に動きました。
しかし、28日の米国感謝祭の休日が近づくと、トランプ・トレードのポジションの巻き戻しによってドル売りが強まり、そこに30日付の日本経済新聞の記事で、植田和男日本銀行総裁が利上げの時期は「近づいている」と述べたことが伝わると1ドル=149円台の円高となりました。
このように11月後半以降の日米金融当局者の発言が一段の円安や円高をもたらしたことから、12月の日米金融会合がますます注目されることとなりました。12月は、この日米金融政策の行方と、就任前の政策発表などトランプ氏の動きに注意する必要があります。
トランプ氏の関税引き上げなどの政策を警戒し、企業は前倒し輸入で対応、企業だけでなく個人も駆け込み消費などで対応しているようです。今月や来月発表の指標は上振れる可能性もあり、FRBの金融政策に影響を与えるおそれもあるため注意しなければなりません。
FOMC(米連邦公開市場委員会)は12月17~18日に開催されます。パウエル議長は利下げは急ぐ必要はないと述べていますが、12月のFOMCまでに6日の米雇用統計、11日の11月CPI(消費者物価指数)の結果次第では12月利下げ期待が高まる可能性があります。
現時点のフェドウオッチによると、12月利下げ確率は74%となっています。先週の確率(59%)と比べると高まっており、市場の12月利下げ期待は後退していません。
6日の米雇用統計は悪化した前月(1.2万人増)の反動で、非農業部門雇用者数は20万人の増加予想となっていますが、予想を大きく上振れない限り、12月利下げ期待は後退しないかもしれません。
3日に発表された米10月JOLTS求人件数が774.4万件と前月も予想を上回りましたが、12月の利下げ確率は変わっていません。また、CPIの鈍化傾向は停滞していますが、多少の伸び率増加はFRBの政策に影響しない可能性があります。
一方で、12月の利下げではなく、1月の利下げ確率が62%となっている点にも留意しておく必要があります。50%を超えているため市場の見方は、まだ12月か1月の利下げに分かれているようです。4日には、パウエル議長の講演が予定されているため注目です。
日銀植田総裁の発言で12月利上げ期待が高まる しばらくは円高地合いか?
一方、市場では植田総裁のインタビュー記事によって日銀の12月利上げ期待が高まっています。この期待によって円高地合いが続くことが予想されます。
11月30日付の日経新聞の記事は、インタビューは28日に実施され、30日未明に日経電子版で報道されました。この中で植田総裁は、追加利上げの時期について「データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では近づいているといえる」と述べるとともに、国内賃金と米国経済を見極めたいとも主張し、拙速な利上げは避ける考えを強調しました。
また、「一段の円安はリスクが大きい」との認識を示し、場合によっては政策変更で「対応しないといけなくなる」と強調しました。この(利上げ時期が)「近づいている」「一段の円安はリスクが大きい」との発言を受けて早期利上げ観測が高まり、ドル/円は1ドル=149円台半ばへ円高が進みました。
そして12月会合での利上げ期待は相当高まりました。当面、この利上げ期待によって円高地合いが続くと考えられるため、円安へ行ってもかなり抑制的になることが予想されます。今週5日(木)には日銀中村豊明審議委員の講演が予定されています。植田総裁の発言をフォローするような内容になるのかどうか注目です。
また、12月12日のECB(欧州中央銀行)理事会では0.25%の利下げの見方が大勢となっています。そして欧米の景況感格差を受けて、ECB(欧州中央銀行)の方がFRBより利下げペースが速いとの見方からユーロ安地合いとなっています。
加えてトランプ次期政権の関税引き上げの影響、特に中国との取引が多い欧州の景気への影響が大きいとの見方やフランスの政局不安、ウクライナ情勢によって、ユーロ売り圧力が続くことが予想されます。その結果ユーロ/円が下落し、ドル/円の円高を後押しすることも予想されます。
トランプ次期政権の人事と政策による影響について
トランプ次期政権の主要閣僚がほぼ出そろいましたが、特に注目されるのは財務長官人事です。財政規律重視派と目されるベッセント氏指名との報道で、インフレ抑制期待から米金利低下とともにドル/円は一時下落しました。
しかし、同氏は10月に、英紙フィナンシャルタイムズ(FT)で「米国が優れた経済政策を進めれば自然とドル高になるだろう」と語っており、その発言がドル高容認とも受け取られ、その後はドル高となりました。
ベッセント氏はジョージ・ソロス氏の下で英ポンド売りを仕掛けるなどヘッジファンド運用者としてウォール街で有名な人物です。通貨政策は基本ドル高としながらもトランプ氏の政策に合わせて柔軟に対応することも予想されるため、注意したいと思います。
米国の対日赤字を意識すれば、日本に対してドル高には触れず「円安」を批判してくることも予想されます。また、日本の為替介入(ドル売り・円買い)についても、介入によるドル売りはドル下落に影響が及ぶと思えば、介入をけん制してくることも予想されます。イエレン財務長官よりけん制圧力が強くなるかもしれません。
トランプ氏は就任後の政策を次々と発表しており、就任前の今でも相場はトランプ氏の発言に振り回されています。今後も翻弄(ほんろう)されることが予想されるため、注意する必要があります。
また、トランプ氏の関税引き上げ政策がインフレ懸念だけでなく、景気後退懸念を高めれば、スタグフレーション(物価高の景気後退)が警戒され、FRBの利下げ期待が高まることも予想されます。
中東情勢やウクライナ情勢についても、それぞれの当事国がトランプ氏就任までに有利に働くような動きに出始めていることから、地政学リスクが高まることも予想されるため警戒する必要があります。米国がウクライナに米国製長距離ミサイルの使用を認めるなどの最近の動きにより、有事のドル高、円高で反応していることにも留意しておく必要があります。
3日の海外市場でドル/円は、韓国大統領による非常戒厳宣言をきっかけに韓国ウォンが急落すると、円買いが活発化し、一時1ドル=148.65円近辺まで円高となりました。その後10月米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が予想を上回るとドルは買い戻され、韓国の臨時国会で「戒厳令解除の決議案」が満場一致で可決されると1ドル=149円半ばまでドルは持ち直しました。
翌4日の東京市場では一時1ドル=150円台に乗せましたが、150円台回復には至らず、円売りは抑制される動きとなっています。
ドル/円は、日銀の利上げ期待によって円高地合いが続くことが予想されます。また、ECBの利下げやフランス政局不安、欧州の景気悪化懸念からユーロ/円が下落し、円高を後押しすることが予想されます。これにFRBの利下げ観測が浮上すれば、1ドル=145円を割れる可能性も高まってきます。しばらくは円安バイアスよりも円高バイアスの方が勝る相場が続きそうです。
(ハッサク)
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