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台湾有事のマーケットへの影響は?頼清徳総統「訪米」と米政権移行期で情勢緊迫か

トウシル / 2024年12月5日 7時30分

台湾有事のマーケットへの影響は?頼清徳総統「訪米」と米政権移行期で情勢緊迫か

台湾有事のマーケットへの影響は?頼清徳総統「訪米」と米政権移行期で情勢緊迫か

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
台湾有事のマーケットへの影響は?頼清徳総統「訪米」と米政権移行期で情勢緊迫か

「台湾有事」のマーケットへの影響をどう見積もるか

「台湾有事はいつ起きるのか」。

 近年、よくいただく質問です。株式や債券市場への影響を懸念する金融関係者から問題提起される場合が特に多いです。

「仮に、中国が台湾に向かって軍事侵攻をした場合、マーケットへの影響はリーマンショックどころではないとみている」

 昨年議論をしたウォール街に勤務するファンドマネジャーが語っていた言葉です。

 中国研究をなりわいにしてきた私からすれば、台湾有事がマーケット動向に与え得る影響は、「計り知れない」というのが率直な見方です。なぜこのような表現をするのかというと、日本で最近頻繁に用いられる「台湾有事」、習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる中国がもくろむ「祖国の完全統一」、その他「台湾統一」「台湾併合」「台湾侵攻」などさまざまな言い方がありますが、中国が台湾を自らの懐に引き寄せようとする場合、その具体的な方法、あるいは手段によって、株式市場や世界経済全体に与える影響が質的に異なってくるからです。

 例えば、中国が実際に台湾上陸やミサイル発射などを含めた武力行使を通じて台湾を取りに行ったとして、台湾軍は徹底抗戦、そこに米軍が軍事介入し、日本にある複数の米軍基地も米軍の軍事行動に使われるようなシナリオの場合、マーケットへの影響は「壊滅的」になる可能性が高いでしょう。

 次に、武力行使ではなくとも、中国人民解放軍が国際海峡である台湾海峡を封鎖した場合、台湾が孤立するだけでなく、輸出入を含めた輸送ルートが遮断される観点から、日本経済や世界経済への影響は確かなものになり、当然マーケットへの影響も生じてきます。

 一方、中国が武力行使でも海上封鎖でもない、政治、経済、外交、軍事などあらゆる圧力を複合的にかけ、台湾側を屈服させ、「政治交渉」の場におびき寄せる類いの手段を取った場合、(台湾の運命がそこからどう揺れるかはさておき)マーケットへの影響は限定的になるかもしれません。

 このように、異なる手段やシナリオ次第で、市場動向への影響も異なってくる、従って、「計り知れない」という表現を使いました。逆に言えば、中国がどのように米国や台湾の動向を見積もり、「祖国の完全統一」を成し遂げるための意思、能力、条件を備えているかを丁寧に分析することで、中国がどのような手段、時間軸でアクションを起こそうとするか、そしてマーケットへ与え得る影響を計ることがある程度可能になってくるということです。

台湾の頼清徳総統が「訪米」、反発する中国。大規模な軍事演習はあるか

 台湾有事の行方を占う上で、目下、密に注視すべき事象が私たちの目の前で起きています。台湾の頼清徳(ライ・チントー)総統が11月30日から6泊7日の日程で、初の外遊に出ています。問題はその行き先と中身。外遊の目的地は、台湾が国交を持つ太平洋島しょ国のマーシャル諸島、ツバル、パラオですが、外遊の道中で、国交のない米国の領土であるハワイとグアムにトランジット名義で立ち寄ります。

 ハワイとグアムがトランジット拠点として地理的に適切だったからというのは無理なこじつけであり、当然、頼清徳総統として、大洋州諸国への訪問を口実に、米国を実質的に訪問するというのが目的なのでしょう。実際、頼氏のチャーター機が11月30日(日本時間12月1日)、最初の経由地であるハワイ州のホノルル国際空港に到着した際にはグリーン同州知事やブランジャルディホノルル市長らが出迎えています。単なるトランジットで、州知事と市長が出迎えることはあり得ず、米国側としても明確な「国家意思」を持って頼氏の来訪に対応したということです。

 頼氏の「訪米」と同じタイミングで、米国政府が台湾へ3.85億ドル規模の新たな武器売却を批准した経緯もあり、中国側は猛反発し、米国が頼氏を受け入れることに対して厳しい叱責(しっせき)と申し入れをしています。

 台湾の総統による米国でのトランジットは初めてのことではなく、前任の蔡英文(ツァイ・インウェン)氏も2023年4月、中南米諸国を訪問する際に米カリフォルニア州に立ち寄り、その時はマッカーシー下院議長(当時)とも会談を行っています。従って、頼氏の今回の行動は、中国側にとって決してサプライズではなく、その行為自体は、台湾の指導者が従来取ってきた次元を超えるものではありません。

 一方、習近平氏率いる中国共産党の頼清徳氏に対する政治的警戒心は蔡英文氏を凌駕(りょうが)しており、頼氏こそ「真の台湾独立分子」という認識の下で動いています。今後の注目ポイントとしては、中国側が頼氏の外遊に対してどのような報復措置を取るのか。

 私が注目しているのはやはり大規模な軍事演習です。2024年には5月20日の頼総統就任式の後、10月10日の建国記念日談話の後に、それぞれ「聯合利剣-2024A」「聯合利剣-2024B」と題した軍事演習を行っています。今回の頼氏外遊は12月6日に終了する予定ですが、その前後で、中国が台湾海峡で「聯合利剣-2024C」を行うのかどうかに注目したいと思います。それによって、台湾有事を巡る緊迫度は一層エスカレートするのが必至です。

米政権移行期と台湾有事

 台湾有事を巡る情勢に関しては、前述したように、中国側が取り得る手段やタイミング、米国や台湾側の動向などを緊密にモニタリングしていく必要があります。ただ台湾有事は起こるのかどうか、を漠然と議論していても生産性に欠けるということです。シナリオを想定し、モニタリングを徹底し、政府や企業、そして個人投資家を含め、それぞれのプレイヤーにとってのアクションプランにつなげて初めて意味があるということです。

 その意味で言うと、2024年11月5日~2025年1月20日という米国大統領選挙後の政権移行期は、特に警戒度を高めるべきだと思います。理由は二つあります。

 一つは、政権移行期において、現政権と次期政権それぞれの動向にさまざまなフォーカスが当たりますが、現状、米国の内政で注目されているのはバイデン大統領の政策ではなく、トランプ次期大統領の言動や人事でしょう。一方、仮に現在中国が台湾海峡で何らかのアクションを取った場合、対応するのはバイデン政権です。現政権として、この移行期にどこまで実質的な対応策がとれるのかどうかは懐疑的であり、中国がそこに契機を見いだしてくる可能性は排除できないからです。

 もう一つは、トランプ氏が前回大統領に当選した2016年当時、同氏は次期大統領として初めて台湾の総統(当時は蔡英文氏)と電話会談を行った先例があります。今回も台湾政策で同様のアクションに出るのかどうか。政権移行期はまだ1カ月半以上残っています。

 政権移行期における、トランプ氏の台湾に関する言動、およびそれに対する台湾側の対応、そしてそれらに対する中国側の反応とアクションは台湾有事の行き先に確かな影響を与え得る重要なファクターであり、今まさにその時期だとみるべきです。今後も注目していきたいと思います。

(加藤 嘉一)

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