円安方向とは限らない!日米金融政策の思惑で動きづらい相場
トウシル / 2024年12月11日 16時28分
円安方向とは限らない!日米金融政策の思惑で動きづらい相場
米11月雇用統計発表後、利下げ確率は90%超となったが…
先週6日に発表された米11月雇用統計は、非農業部門雇用者数がハリケーンによる減少の反動とボーイングのストライキ終了を受けて前月比22.7万人の増加となり、さらに、9月、10月分は合わせて5.6万人の上方修正となりました。
しかし、失業率は10月の4.1%から4.2%に上昇したことから、労働市場は依然として調整過程にあることが示唆されたため、12月利下げ観測を後退させる内容ではないと市場は捉えました。その結果、先行きの米政策金利の織り込み度を示す米国CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチ(FedWatch)によると、12月利下げ確率は前日より上昇し、一時90%を超えました。
米雇用統計発表後、ドル/円は一時1ドル=149円台前半まで円高が進みました。しかし、その後は米長期金利の上昇とともに150円台に乗せ、152円の円安になっていますが、円安方向を形成しているという動きではないようです。
今週11日の米11月CPI(消費者物価指数)、12日の米11月PPI(卸売物価指数)、そして17~18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)が控えていることから相場が動きづらいようです。
11日の米11月CPI、12日のPPI予想は、
CPI(前年比10月2.6%→予想2.7%)、CPIコア(前年比10月3.3%→予想3.3%)
PPI(前年比10月2.4%→予想2.5%)、PPIコア(前年比10月3.1%→予想3.3%)
となっています。あまり上振れなければ、市場の12月利下げ期待は維持されることが予想されます。
一方で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は4日(米雇用統計発表前)、米経済は9月に利下げを開始した当初よりも力強く推移しているため、FRBはさらなる利下げに慎重になる可能性があると述べています。
市場で高まっている12月利下げ期待を冷やすためだけの発言なのか、あるいはトランプ次期政権下ではインフレ圧力が高まる可能性が高いことから1月利下げについて期待し過ぎないようにとけん制しているのかもしれません。
もしくはトランプ2.0が引き起こすインフレ懸念に対して市場に安心感を与えるために、FRBとしては利下げに慎重に対応していくとの姿勢を示したのかもしれません。
また、一歩突っ込んだ別の見方もあります。パウエル議長が追加利下げを急がない姿勢を示したのは、年明けのトランプ政権の政策を見極めたいため、利下げ休止に向けた軌道修正を図るためではないかという見方です。
しかし、この発言後もフェドウオッチの12月利下げ確率は低下せず70%台を維持していました。市場はパウエル議長の発言後も、米雇用統計発表後も12月利下げの見方は高まっており、FRBは来年の景気下振れに備えるため、12月利下げを行うとの観測が強いようです。
また、利下げの慎重姿勢は、FOMCの金利見通しで来年の利下げペースが前回9月より鈍くなることを示唆しているのかもしれません。9月のFOMCの金利見通しは、2024年末4.4%、2025年末3.4%となっています。来年は0.25%刻みで4回の利下げを行い、政策金利は1%下がるという見通しです。この利下げペースがどの程度緩やかになる(利下げ回数が減る)のか注目です。
FRBが利下げをしても、FOMCの金利見通しで来年の利下げペースが鈍くなる見通しになれば、利下げによるドル安は戻る可能性があるため注意したいと思います。それでも翌日には日本銀行が控えているため、頭の重たい状況は続くことが予想されます。
日銀による12月利下げはあるか?
一方、日銀の12月利上げ観測は先週後退しましたが、大幅な円安要因とはなっていないようです。12月利上げがなくても、来年1月には利上げを行うだろうとの見方が円売りを抑制的にしているのかもしれません。1月利上げとの見方も多いようですが、トランプ氏就任前に日米とも12月に政策変更を行ったほうがその後の政策運営がやりやすいのではないでしょうか。
そしてFRBの利下げペース、日銀の利上げペースが緩やかになっても、日米金利差縮小の方向が変わらなければ、ドル円はクロス円の円高も後押しとなって、ゆっくりと円高に向かうシナリオが想定されます。
このように、市場では日米金融政策の行方に注目が集まっていますが、世界情勢を揺るがす変化が相次いで起こっていることにも注意する必要があります。
シリアで反体制派の決起からアサド政権の崩壊、フランスの内閣総辞職、韓国の44年振りの戒厳令発令と撤回で左派政権誕生が時間の問題となったことなど、重大事件が次々と起こっているのに市場が消化し切れていない印象です。トランプ第2次政権が発足することが政変の間接的きっかけになっているのかと思わせるほど、11月以降の短期間で起こっています。
来年の中東情勢や東アジア情勢、ウクライナ紛争や欧州政局など政治力学が動き、世界情勢が大きく変化していけば、為替相場に影響が及んでくるとみておく必要があります。
各国の金融政策もトランプ第2次政権が来年1月に発足することに身構えています。トランプ2.0が引き起こすインフレや、関税引き上げによる貿易の停滞と世界経済の後退を懸念し始めています。インフレ再燃と経済停滞となれば、かなり難しい政策判断に直面するかもしれません。
金融政策にどのような影響を与えるのか現時点ではなかなか予想をするのは難しいため、パウエル議長のような発言が出たのかもしれません。
FOMCの前にはECB(欧州中央銀行)理事会が12日に開催されます。ECBは0.25%利下げの見方が大勢となっていますが、ラガルド総裁はフランスの政局混迷や政界情勢の動きを念頭に、今後の金融政策についてどのような発言をするのか注目です。
(ハッサク)
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