米株市場の「年末ラリー」はどうなる?~来週の金融政策イベント観測と相場のモメンタム~(土信田雅之)
トウシル / 2024年12月13日 8時5分
米株市場の「年末ラリー」はどうなる?~来週の金融政策イベント観測と相場のモメンタム~(土信田雅之)
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「どうなる?米株市場の「年末ラリー」~来週の金融政策イベント観測と相場モメンタム~」
今週の国内株市場ですが、米国のFOMC(連邦公開市場委員会)と日本銀行の金融政策決定会合といった、金融政策イベントを来週に控える中、12日(木)の取引では、日経平均株価が4万台を回復する場面を見せるなど、これまでのところ上昇基調を強める展開が目立っています。
こうした株高の背景には、米国株市場の強さがあります。とりわけ、11日(水)に公表された米11月CPI(消費者物価指数)の結果を受けたナスダック総合指数は、最高値を更新しただけでなく、初めて2万pの大台に乗せる記念すべき日となりました。
もっとも、この日のダウ工業株30種平均(NYダウ)は小幅安、S&P500種指数が小幅高にとどまっていますが、それでも全体の米国株は高値圏で推移しており、他国の株価指数と比べてもその強さが際立っています。
米11月CPIを受けてFOMCでの利下げを確信か
そこで、米ナスダック総合指数と日経平均の株価水準を押し上げた米11月CPIについて振り返ってみます。
今回の米11月CPIの結果を簡単にまとめると、前月比で0.3%増、前年比で2.7%増となり、市場予想通りとなりました。また、食料品やエネルギーを除いたコア指数についても、市場予想通りの結果(前月比で0.3%増、前年比で3.3%増)でした。
サプライズ無しの結果だったことで、先週末に公表された米11月雇用統計の結果と併せると、「来週のFOMCでの利下げ実施がほぼ確定的になった」という見方が強まり、株式市場に安心感をもたらしたと言えそうです。
もっとも、今回の米CPIは「FOMCでの利下げ観測を後退させるものではない」程度の結果であり、必ずしも積極的に利下げを後押しする内容ではありませんでした。実際に、下の図1で米CPIの推移を確認すると、前月比・前年比ともに前回から上昇していて、インフレの鈍化ペースは足踏みしているように見えます。
<図1>米CPI(消費者物価指数)の推移
また、今回の米CPIの結果を受けた米債券市場を見ると、米2年債と10年債の利回りがともに上昇で反応する動きとなっており、下の図2の米10年債利回りの日足チャートを見ても確認できます。
<図2>米10年債利回り(日足)の推移(2024年12月11日時点)
実は、11日(水)の10年債利回りも米CPIの結果を受けて、当初は低下で反応していたのですが、その後は時間の経過とともに上昇へと転じる展開になりました。債券市場では根強いインフレへの警戒が意識されていることが推察されます。
確かに、来週のFOMCでの利下げ見通しは強まってはいるものの、今回のようなCPIの結果が傾向として続いてしまうことや、トランプ次期政権が掲げる政策(関税強化策や減税、移民対策)の動向によっては、インフレが再燃してしまう可能性もあります。
そのため、来週のFOMCでは、「来年の利下げのペースと、利下げの打ち止め水準について、FRB(米連邦準備制度理事会)もしくはパウエルFRB議長からメッセージやヒントが出てくるか?」が注目されることになりそうです。
金融政策以外の米国の買い材料
このように、米国株の買い材料には、先ほどまで見てきた「利下げ方向の金融政策」以外にも、「堅調な米国景気」や、「米大手テック株への買いや生成AI銘柄の物色の広がり」などが挙げられます。
米国景気については、米アトランタ連銀が公表している「GDPナウ」の動きを見ると、2024年4Q(10-12月期)の経済成長率は前期比年率3.33%と予測されているなど、当面は力強い見通しとなっています(下の図3)。
<図3>米アトランタ連邦準備銀行が公表する「GDPナウ」の推移
また、足元の米国株市場では、米大手テック株への買いが目立っています。
米CPIが公表された11日(水)には、アップルがサーバー向けのAI半導体でブロードコムと提携すると報じられたほか、アルファベットも傘下企業のグーグルが生成AI「ジェミニ」の改良版の提供開始し、株価が最高値を更新しました。テスラも、経営者のイーロン・マスク氏がトランプ次期政権に参加することでメリットを享受するとの観測で株価が急上昇しています。
<図4>マグニフィセントセブン銘柄のパフォーマンス(昨年末を100)(2024年12月11日時点)
上の図4では、いわゆる「M7(マグニフィセントセブン)銘柄」の株価推移(昨年末を100)を示しています。図を見てもピンと来ないかもしれませんが、いちばん出遅れているマイクロソフトでさえも2024年の上昇率が19%を超えており、エヌビディアやメタ・プラットフォームズ、テスラ、アマゾンなどのパフォーマンスが突出していることがうかがえます。
<図5>生成AI関連銘柄のパフォーマンス(昨年末を100)(2024年12月11日時点)
さらに、生成AI関連銘柄についても、これまでデータセンターや開発需要に伴う半導体関連銘柄(エヌビディアなど)が中心となっていましたが、足元では、ビッグデータ分析を手掛けるパランティア・テクノロジーズや、CRM(顧客管理マネジメント)システムのセールスフォースなど、AIを使ったビジネスサービスを提供する銘柄も物色される動きを見せているなど、物色の対象に変化が見られ、今後も拡大するのであれば、来年も生成AIは息の長いテーマになりそうです。
米国株の年末ラリーは何処まで続く?
これまで見てきたように、米国株市場の強さはまだ続きそうではありますが、このまま年末ラリーへとつなげて行くには、まずは、来週のFOMCで今後の利下げペースについて、どんなアナウンスがあるかを見極めて行くことになります。
無難に通過することができれば、株価がさらに上値を追う展開も期待できますが、足元の米国については、「モメンタム(勢い)」相場の側面があることも意識しておく必要がありそうです。
以前のレポートでも指摘したように、PER(株価収益倍率)の水準や、S&P500の株式益回りと米10年債利回りとのあいだに差があまりないことなど、割高感があるほか、先日のトランプ次期政権の財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏の登場によって、懸念されているネガティブな側面(財政赤字の拡大やインフレ再燃)が抑制されるとの期待が先行していること、4年前のM&A(買収や合併)をめぐって、中国が米半導体大手エヌビディアの調査を始めたことなど、米中対立の動きなどもあり、不安の火種がないわけではありません。
テクニカル分析的にも、相場をけん引しているナスダック総合指数の週足チャートで現在の状況を確認すると、相場の過熱感と目先の上値の目安も見えてきます。
<図5>米ナスダック総合指数(週足)と移動平均線乖離(かいり)率(26週)(2024年12月11日時点)
週足で見たナスダック総合指数は、2022年末を起点に、26週移動平均線をサポートにしつつ、2年近く上昇基調が続いているわけですが、上値と下値を結んだ線を書き加えて行くと、株価の振れ幅が大きくなりながら上昇しており、やや不安定な面がうかがえ、上値の線まで株価の伸びが期待できる半面、株価の調整についても深くなる展開も考えられます。
また、26週移動平均線の乖離率についても、11日(水)時点で+10.3%となっていますが、チャートを過去にさかのぼると、+12~15%あたりでピークをつける傾向にあるため、11日(水)の26週移動平均線の株価(1万8,163p)で計算すると、2万342~2万887pあたりが上値の目安となりそうです。
モメンタム相場というのは、「株価が高いか安いか」よりも「相場が強いか弱いか」で動きやすい局面であるため、株価水準が割高であろうとも、勢いを強めながら株価が上昇していくことも珍しくありませんが、ムードが急変して崩れやすいという難しさも抱えています。
基本的には年末ラリーの見通しが続きそうですが、ファンダメンタルズやテクニカルの目安を超えて株価が上昇するなど、「違和感」がある動きを見せた際には特に要警戒となりそうです。
(土信田 雅之)
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