2025年中国の見どころ:トランプ、台湾、日本…八つのポイントを解説
トウシル / 2024年12月26日 7時30分
2025年中国の見どころ:トランプ、台湾、日本…八つのポイントを解説
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「2025年中国の見どころ:トランプ、台湾、日本…八つのポイントを解説」
2024年が過ぎ去り、世界は新たな年を迎えようとしています。
本年最後の1本となる本稿では、本連載が焦点を当てる中国の情勢や問題を巡って、私が現時点で「見どころ」として考えている八つのポイントを提示し、新年を先読みしていきたいと思います。
見どころ1:トランプ第2次政権誕生を受けての習近平政権の対応
11月の大統領選挙での勝利を受けて、トランプ氏が来年1月20日、自身2度目の大統領就任式に臨みます。その過程で、習近平(シー・ジンピン)政権としてどんな反応、対応をしていくのかに私は注目しています。祝福の言葉、警戒の反応など、中国側から発せられるいかなるシグナルにも戦略的な意味が込められていますので、それを見逃さないようにしていきたいと思います。
それはすなわち、中国のトランプ第2次政権への対策と行動につながっていくからです。また、トランプ氏は史上初めて、外国の国家元首である習近平国家主席を就任式に招待しているとされますが、それを受けての中国側の対応にも注目していきたいと思います。
これから4年間の米中関係を占う上でも、トランプ大統領就任初日、直後は、極めて重要なタイミングになると思っています。
見どころ2:3月の全人代で発表される経済成長率
中国では毎年3月に行われる全国人民代表大会(全人代)で、国務院総理(首相)が「政府活動報告」を発表し、その中でその年の経済成長率や財政赤字率といった目標を明示します。2024年は「5.0%前後」に設定されました。来年1月中には今年の結果が公表される見込みです。
全人代の前哨戦といえる中央経済工作会議を扱った先週のレポート「年一度の中央経済工作会議が閉幕。見どころは財政出動と金融緩和の強化」で、来年は、財政出動や金融緩和を含め、今年以上のマクロコントロールが実施される見込みと指摘しましたが、この流れの中で、来年の経済成長率目標はどの程度に設定されるのか。私自身は、今年と同水準になるだろうと予測しています。注目していきたいと思います。
見どころ3:解放軍内の粛清と習近平政権の権力基盤
2024年を通じて、中国人民解放軍内では劇的な粛清が行われ、多くの軍幹部が汚職や腐敗が原因で、職を解かれてきました。昨年失脚し、今年にかけて党や軍の籍をはく奪された李尚福元国防相は記憶に新しいでしょう。
そして11月28日、今度は苗華中央軍事委員会委員、海軍上将が「重大な規律違反の疑い」で職務を停止され、立件調査されています。習近平主席は、軍内における汚職や腐敗の摘発に容赦ない姿勢を前面に打ち出していますが、この軍内粛清はどこまで続くのか。それによって、やりすぎると、軍内からの反発や離反を招き、権力基盤にヒビが入ってしまうシナリオも現実味を帯びてきます。
中国は往々にして「政治の国」といわれますが、政治の安定性は経済や治安、外交など全ての分野に実質的に影響してきます。その意味で、2025年も軍内の動向に要注目です。
見どころ4:2回目の「習近平VSトランプ」における米中攻防
見どころ(1)とも関連しますが、2017年1月20日~2021年1月20日の4年間以来、2度目となる「習近平VSトランプ」という構図がこれから生じます。前回、中国はトランプの「アメリカ・ファースト」に着目し、内向きになる可能性の高いトランプ政権を横目に、国際社会における影響力や発言権を高めるべく動こうとしましたが、なかなかうまくいかなかったもようです。
トランプ氏の予測不可能性を過小評価していたという側面もあるでしょう。貿易戦争、新型コロナウイルスの発生源問題、領事館のシャットダウンなど、「米中対立」はトランプ第1次政権で激化したといえるでしょう。
今回はどうなるか。米中間には、経済、通商、人権、台湾、先端技術、地政学、そして地域、世界レベルにおける覇権争いなどさまざまな構造的問題が横たわっています。これらの問題を巡り、トランプ第1次政権、および現在のバイデン政権と比べて、習近平政権はどのように対応していくか。
私は、習近平、トランプ両首脳が、どれだけ指導者同士の「個人的関係」を構築できるかが、米中関係の行方と状態、その先にある世界経済や国際関係への影響を考える上で、重要な要素になるのではないかと現時点で考えています。
見どころ5:中国社会における治安の悪化
今年、中国情勢を見る上で、重要なポイントだったのが、無差別殺傷事件に代表される治安の悪化だったと考えています。その過程で、中国で暮らす日本人も巻き込まれています。6月には、江蘇省蘇州市にある日本人学校付近で、日本人の親子が襲われました。9月には深圳にある日本人学校付近で、10歳の日本人男児が刃物で襲撃され、命を落としています。
今年2月以降、私が把握できているだけでも、中国各地で30件近くに上る無差別殺傷事件が発生しています。私が把握できていない案件も含めれば、実際はその倍以上だと推察できます。治安悪化の背景には、景気低迷という経済的要素もあり、この問題の根は深いといえます。
2025年、景気の回復が治安の安定につながるのかどうか。あるいは、景気と治安が負のスパイラルで悪化していくジレンマに陥るのか。中国では10万人以上の日本人が居住していますし、日本にとっても無関係とはいえない、重大なポイントになると思います。
見どころ6:不動産不況とデフレスパイラルの行方
本連載でも度々扱ってきましたが、2024年を通じて「迷走」を続ける中国経済を象徴するのが、不動産不況とデフレスパイラルという両要素だと思います。関連統計を見ても、不動産開発投資は1~11月、10.4%減(前年同期比)と過去半年で伸び率の鈍化は最大となり、CPI(消費者物価指数)は11月、0.2%上昇(前年同月比)で、過去5カ月で上昇率は最も小さくなっています。
前述したように、中国政府は2025年、今年以上の財政出動と金融緩和を含めたマクロコントロールで景気を下支えする姿勢を早くも打ち出しています。これらが、不動産やデフレの分野にどう影響してくるのか。私はこの両分野が今後数年どのような展開を見せるのかを占う上で、2025年は極めて重要な1年になるとみています。
見どころ7:台湾海峡における緊張のエスカレーション
日本で「台湾有事」が議論されて一定期間がたちましたが、2024年は台湾海峡における緊張度がエスカレートした1年だったと思います。1月の台湾総統選で民進党の頼清徳候補が勝利し、5月に総統就任、その後の中国を挑発する発言に対して、中国も大規模な軍事演習などで応戦しました。
この流れは現在に至っても変わっていませんが、来年1月20日のトランプ第2次政権を受けて、米国の台湾政策に何らかの変化が生じれば、中国側の動きも変わって来る可能性があります。そして、変化のベクトルとして、緊張が高まる場合と弱まる場合、双方が考えられると思います。
トランプ、習近平両氏が、台湾問題を巡って、例えば関税など他の分野を巻き込む形で、何らかのディール(取引)を試みるようであれば、台湾海峡を巡る「現状」は変更される可能性もあり、そのあたりを来年は注視していく必要があると思っています。日本の経済や安全保障への影響も直接的なものになるでしょう。
見どころ8:習近平政権による石破政権へのアプローチ
最後に、あえて日本と関連のあるポイントを挙げたいと思います。
11月15日に南米のペルーで、石破茂首相と習近平国家主席との間で初となる首脳会談が行われました。会談は良好な雰囲気の中で進み、それを受けて、日本人の中国滞在ビザ免除措置(30日以内)が発表され、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出への対抗措置として、中国側が取ってきた日本産水産物の禁輸措置も、段階的に解除される方向で現状進んでいます。
私が本稿を執筆している12月25日午前、日本の岩屋毅外相が初の訪中をしています。2025年、日本と中国との間で、外相だけでなく、政府首脳を含めた訪問や往来がなされるのかどうか。日中という歴史的にも地政学的にも特殊な関係だからこそ、経済関係やビジネスを考える上でも、首脳外交は非常に重要であり、政治や外交の引力による雰囲気づくりが求められます。
言うまでもなく、中国との多角的な関係は(インバウンドなど含め)、日本経済や株式市場にもあらゆる形で影響してきますから、2025年の日中関係に注目していきたいと思います。
(加藤 嘉一)
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