2025年のプラチナ相場、10年の呪縛から解放か
トウシル / 2024年12月31日 7時30分
2025年のプラチナ相場、10年の呪縛から解放か
2024年のプラチナ相場は安値水準継続
近年のプラチナ相場は、以下のグラフのとおり、1トロイオンスあたり1,000ドルを挟んだプラスマイナス250ドル程度のレンジ内で推移しています。2024年のプラチナ相場も、このレンジ内に収まりました。
図:海外プラチナ現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1974年~)
レンジ相場は、相場が上昇圧力(下に掲載の図中の赤い上向き矢印)によって形成された下値の目安と、下落圧力(青い下向き矢印)によって形成された上値の目安の間で推移している状態のことです。つまり近年のプラチナ相場は、比較的低い水準で、上昇圧力と下落圧力に挟まれ続けているのです。
下値の目安である750ドルは、リーマンショック(2008年9月)直後以降、長期視点で維持している安値水準です。上値の目安である1,250ドルは、2021年序盤にコロナショック発生後に行われた大規模な金融緩和時に一時的につけた高値水準です。
リーマンショック発生直前は2,000ドル近辺でした。この水準に比べると、近年のレンジの中心である1,000ドルはおよそ2分の1です。このため、近年のプラチナ相場は、長期視点の安値水準で推移しているといえます。
2025年のプラチナ相場を展望する上で必要なことは、現在の上昇圧力と下落圧力が何であるかを明らかにすること、そしてそれらの圧力がどう変化するのかを展望することであるといえます。筆者が考える上下の圧力は、以下のとおりです。
図:プラチナ市場を取り巻く環境(2024年)
下限を形成する上昇圧力は、短中期的には「主要国の景気楽観論」「金(ゴールド)相場の動向」など、中長期的には「フォルクスワーゲン問題関連」、上限を形成する下落圧力は、短中期的には「主要国の景気悲観論」「金(ゴールド)相場の動向」、中長期的には「フォルクスワーゲン問題関連」がもたらしていると、考えられます。
複数のテーマが同時進行していること、価格はそれらがもたらす圧力が相殺されて形成されていること、同じテーマでも正反対の圧力を生むことがあること、などに留意の上、考えていきます。
フォルクスワーゲン問題が低迷を強いた
近年のプラチナ相場は、比較的低い水準のレンジ(レンジの中心の水準がリーマンショック直前の2分の1)で推移していると書きました。プラチナが水準感を下げた主因は、2015年9月に起きた「フォルクスワーゲン問題発覚」だと、考えられます。
図:プラチナと金(ゴールド)の国際価格 単位:ドル/トロイオンス
2015年9月、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン社が違法な装置を使って排ガス浄化装置のテストを不正にくぐり抜けていたことが明らかになりました。
これにより、多くの金融関係者や投資家の間で、同社の主力車種であるディーゼル車を否定する動きが強まり、同車の排ガス浄化装置に使われるプラチナの需要が激減する、プラチナ価格が急落する、プラチナはもうダメだ、などといった悲観論が膨れ上がりました。
図:プラチナの需要内訳とフォルクスワーゲン問題(2015年)
問題発覚前までは、金(ゴールド)相場と一定の連動性を保ちながら大幅反発する場面もありましたが、問題発覚後はそれが全く見られなくなりました。このことは、まことしやかな悲観論がプラチナ相場に悲劇をもたらし、こうした悲観論が、価格が上昇できないようにする呪縛となったことを意味します。
10年の呪縛からほぼ解放されたプラチナ
以下はフォルクスワーゲン問題が発覚した際、多数の市場関係者が急減すると指摘した自動車排ガス浄化装置向け需要の推移です。確かに同問題発覚後、西欧での同需要は減少しましたが、急減はしませんでした。
図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス
問題発覚とは別の要因(コロナショック)により一時的に減少幅が拡大した時期がありましたが、現在は北米、中国、インドなどでの増加が目立ち、2025年は世界合計で、問題が発覚した2015年とほぼ同水準になる見通しが出ています(WPIC)。これにより、プラチナはほぼ、フォルクスワーゲン問題の呪縛から解き放たれたと言えるでしょう。
増加の背景については、電気自動車の影響が及びにくい大型車(トラックやバス)の排ガス浄化装置向け需要が増えていること、北米や欧州の一部でハイブリッド車への回帰が起きていること、世界各国で排ガス規制が年々強化され、自動車一台当たりに使われる排ガス浄化装置向けの需要が増えたこと(浄化装置の機能向上を背景とした需要増加)などが考えられます。
図:内燃機関を有する自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属需要(筆者推計 世界合計) 単位:グラム/台
超長期視点の需要増加期待と供給減少懸念
長期視点で見れば、日本と欧州各国が連携してルール作りを行っている水素社会に、プラチナが大きく貢献する可能性があります。水の電気分解の原理を利用する水素の生成過程で、使用する電気が再生可能エネルギー由来であれば、そこで生成された水素は「グリーン水素」と呼ばれます。グリーン水素は、生成時に二酸化炭素を発生させない、環境に最も優しい水素です。
水素は生成過程を明確にする目的で色分けされています(水素自体は無色)。グリーン水素のほか、化石燃料を原料とし、生成過程で発生した二酸化炭素を回収した水素はブルー水素、回収せずに大気中に放出した水素はグレー水素と呼ばれます。
グリーン水素のうち、使用する電力が太陽光発電によって得られたものであればイエロー水素、原子力発電によって得られたものであればピンク水素と呼ばれます。また、グレー水素のうち石炭由来であればブラック水素などと呼ばれることもあります。
図:期待されるプラチナの新しい需要(水素関連)
かつて、銀の「太陽光発電向け需要(photovoltaics)」のデータは、統計内に存在しませんでした。しかし、環境配慮・脱炭素のムードが西側諸国を中心に世界で拡大し、同需要が増加しはじめたため、統計に主要な項目の一つとして追加されました。
プラチナの統計(WPIC)にも、2024年5月に公表された統計から「水素関連」のデータが収録されるようになりました。まだ全体の1%前後の規模ですが、今後、長い時間をかけて同需要は増加していく可能性があります。
また、供給面でも長期視点の価格上昇要因があります。プラチナの供給面は、「鉱山生産」と「リサイクルからの供給」の二つに分かれます。2023年は、供給全体の78%が鉱山生産、残りの22%がリサイクルからの供給でした(WPICのデータより)。
プラチナの主要な鉱山生産国は、南アフリカ、ロシア、(南アフリカと隣接する)ジンバブエなどです。これら三カ国で鉱山生産のおよそ90%を占めます(同)。世界各国の民主主義の状況を数値化しているV-Dem研究所(スウェーデン)が公表する「自由民主主義指数」を確認すると、これら三カ国の同指数が低下傾向にあることが分かります。
図:プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数
同指数の低下は、自由で民主的な度合いが低下してきていることを意味します。2010年ごろから目立ち始めた西側と非西側の分断深化の流れの一端です。
分断深化が進むことで、非西側から西側への資源供給に支障(非西側による資源の武器利用)が起きやすくなります。
例えば、原油の減産は、非西側産油国が行う西側への人為的な供給削減という意味がありますし、近年しばしば見られる非西側の農産物大国であるロシアやインドなどの「安全保障のための農産物の輸出規制」は、政治的意図を含んだ出し渋りという側面を感じさせます。
その意味では、主要鉱山生産国のほとんどで民主度が低下し、非西側化が進行しているプラチナにおいても、将来的に出し渋りが発生する可能性を否定することはできません。世界全体が分断状態にあるからこそ、プラチナにおいても分断起因の出し渋りが起きる可能性があることに留意が必要です。
「人の行く裏に道あり花の山」実現し得る
「もうダメだ!」と多くの市場関係者から強く否定され、諦めムードが漂いはじめた2015年から、2025年で10年目を迎えます。本レポートで述べたとおり、すでに足元、自動車排ガス浄化装置向け需要がほぼ2015年の水準に回復しているため、もう、呪縛におびえる必要はないでしょう。
2025年のプラチナ相場について、短中期的には「主要国の景気楽観論」や「金(ゴールド)相場の動向」がもたらす上下の圧力を受けながら、それらのバランスに応じて細かく上下する展開が予想されます。
中長期的には「フォルクスワーゲン問題」の呪縛から解放されつつあることを受け、底値を切り上げる可能性があります。超長期的なテーマである水素関連の新需要増加や民主度低下をきっかけとした主要鉱山生産国からの供給減少が目立てば、なおのこと、底値切り上げが目立つ可能性があります。
図:海外プラチナ現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年~)
これらをもとに、2025年のプラチナ相場は1,000ドルをはさんだプラスマイナス250ドル、下値のめどが750ドル、上値のめどが1,250ドルという、近年のレンジを踏襲すると筆者は考えています。プラチナの価格推移に、金(ゴールド)のような華やかさはないかもしれません。このため、注目する市場関係者は多くないかもしれません。
ですが、相場格言「人の行く裏に道あり花の山」で示唆されているとおり、まだ注目が集まっていないからこそプラチナは「裏の道」になり得ます。つまりそれは、花の山(利益)に近づく道になり得るということです。長期視点の上昇のきっかけになることを期待し、2025年のプラチナ相場に注目していきたいと思います。
金(ゴールド)に比べて相当な割安感があることは、プラチナを投資対象に選ぶ際の大きなポイントです。(あの時、プラチナを否定した関係者らが作ってくれた「安値」を、投資機会として活用する場面がきたと、筆者は感じています)
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例
長期:
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)
中期:
関連ETF(NISA対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:
商品先物
CFD
(吉田 哲)
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