2025年、日銀は政策金利を0.75%へ~そのとき長期金利と日銀財務はどうなるか~
トウシル / 2025年1月8日 8時0分
2025年、日銀は政策金利を0.75%へ~そのとき長期金利と日銀財務はどうなるか~
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の愛宕 伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「2025年、日銀は政策金利を0.75%へ~そのとき長期金利と日銀財務はどうなるか~」
新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。今年最初のレポートは、日本銀行の政策見通しとそれを受けた長期金利の先行き、利上げに伴って話題に上りがちな日銀の財務リスクについて考えてみました。
「新たな段階に入った」FRB、追加利下げと米長期金利は読み難く
まず、日銀の金融政策にも大きな影響を及ぼす米国の金融政策と長期金利からみておきましょう。
FRB(米連邦準備制度理事会)は昨年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、0.25%の利下げを行いましたが、パウエル議長はその後の記者会見で「我々は新しい段階に入った」と述べ、利下げペースを遅くすることを明言しました。
この「新しい段階」とは、政策金利が中立金利(景気に引き締め的でも緩和的でもない金利水準)に相当近づき、かつトランプ新政権の経済政策による物価などへ影響が不確実なもとで、データを確認しながら慎重に判断することを意味しています。つまり、政策の先行きが読み難くなることを示唆しています。
12月FOMCで公表された政策金利のドットチャートでは、0.25%の利下げが2025年中2回想定されているわけですが、そのタイミングについては不透明で、金利先物市場では、少なくとも5月FOMCまで利下げを織り込めていない状況です(図表1)。
図表1 金利先物が織り込む利下げ確率
トランプ新政権による財政政策、通商政策、移民政策はいずれもインフレを高める政策であり、中でも立法の必要のない関税引き上げについては、大統領就任(1月20日)にかけて、あるいはその直後から思惑を呼びやすく、今年前半は米長期金利が上昇、ドル高・円安になりやすい状況になることが予想されます(図表2)。
図表2 米国の長期金利とドル/円相場
日銀は政策金利をゆっくり0.75%へ
一方の日銀ですが、12月MPM(金融政策決定会合)で現状維持を決めました。植田和男総裁は記者会見で「利上げ判断にはもうワンノッチほしい」と述べ、今年の春闘と米新政権の経済政策を見定めたい意向を強調しました。
しかし、本当に上の二つが現状維持の理由だったとするなら、11月下旬にかけて12月利上げを織り込ませた、それまでの積極的な情報発信は何だったのかという疑問が残ります。賃金と物価の好循環が急に弱まったわけでもなければ、トランプ氏が突然現れて当選したわけでもありません。
加えて、トランプ新政権の政策を巡る不確実性に配慮するなら、1月23~24日に開催されるMPMの段階でそれが晴れることは考えられないため、次回利上げはどんなに早くても2月初旬の予算教書演説の後、3月MPM(18~19日)になると見込まれます。その頃には2025年春闘の第1回回答集計結果(連合)も確認できます。
もっとも、このレポートでも以前指摘した通り、12月MPMの現状維持の背景が、2024年度補正予算の国会審議や来年度予算編成への配慮だったとするなら、1月のMPM(23~24日)で利上げが決定される可能性は高いと思われます。その場合、1月支店長会議の情報なども踏まえ、春闘の結果が良さそうだということを強調することになるでしょう。
12月27日に公表された12月MPMの「主な意見」では、タカ派的な意見が四つ掲載されていました(図表3)。このうち二つは12月MPMで利上げを提案した田村直樹審議委員のものと推察されますので、四つ意見が出ているということは、利上げに積極的な政策委員が複数名いることを示しています。これも1月利上げをサポートする材料とみることはできます。
図表3 12月の「金融政策決定会合における主な意見」に掲載されたタカ派意見
上の分析を踏まえ、筆者は次の利上げ確率(イメージ)を、1月4割、3月2割とみています。
もともと日銀は利上げについて、昨年12月から3月までのMPMで1回、その後2025年中に1回、可能なら2026年前半に1回(これで政策金利1.0%到達)という青写真を描いていると思われます。その下で、今年1月(もしくは3月)に利上げし、7月の参院選が終わった後の9月にも追加利上げを行うと予想しています。
日本の長期金利は今年度後半1.6%超へ~10年金利の推計結果~
日銀が利上げすれば、当然、長期金利も上がります。そこで、日本の10年金利が今年どのくらい上昇するのか、短期金利、景気動向指数、消費者物価、日銀の国債買い入れ額、日銀の長期国債保有残高、民間主体の長期国債保有残高などを説明変数とする関数を設定し、推計してみました(図表4)。
図表4 日本の10年金利の推計結果
推計式の詳しい説明は割愛しますが、「民間の長期国債保有残高」とは、日銀のホームページでダウンロードできる「国債現存額」から日銀の長期国債保有残高を差し引いた額で、説明変数にする際は、民間主体の国債保有余力に上限を設定し(850兆円と650兆円)、それとの差を2乗する形にしています(そうすることで、民間の長期国債保有残高が上限を超えると長期金利が上昇することになります)。
この推計結果を利用し、政策金利を2025年1月、9月、2026年3月に0.25%ずつ引き上げると想定した上で、10年金利の先行きを試算したものが図表5になります。結果は、2026年3月が1.6%台前半となりました。
もちろん、あくまで推計の結果なので、ある程度の幅をもって見る必要はありますし、説明変数に加えていない米国の長期金利次第で大きく振れる可能性には注意が必要です。
図表5 2025年の10年金利
気になる財務リスク~政策金利1.0%で日銀は赤字になるか~
もう一つ気になるのが、日銀が政策金利を引き上げると、FRBと同じように、収益が赤字にならないかという点です。くしくも日銀は昨年12月26日、「日本銀行の財務と先行きの試算」と題するペーパー(日銀レビュー)を公表しています。
それによると、短期金利を今後数年程度かけて1.0~2.0%に引き上げ、かつ長短スプレッドがタイトになるという厳しい条件を設定すると、収益は赤字になるという試算結果が示されています。その上で、一時的に赤字または債務超過になったとしても、政策運営能力に支障を生じないと説明しています。
市場では、こうしたレポートが出たこと自体、利上げを進めていく上での周到な準備との受け止めがあります。それはその通りなのですが、本当に日銀レビューの試算結果が正しいのか、自分で確認したくなるのがエコノミスト(日銀ウオッチャー)というものでしょう。
というわけで、実際に計算してみました。計算方法やさまざまな条件設定など、全てを説明すると分厚い論文になってしまうのでやめますが、結果は図表6に示した通りです。
ここでいう収益とは、日銀が保有する長期国債から得られる「長期国債利息」とETF(信託財産指数連動型上場投資信託)から得られる「分配金など」から、超過準備に支払われる「補完当座預金制度利息」を差し引いたものとしています。従って、実績値の最終年度である2023年度の収益は、経常利益4.6兆円より低い水準になっています。
図表6 日銀の収益シミュレーション
図中のドット付き実線がベースケースで、利上げの想定を図表5と同じ2025年1月、9月、2026年3月とし、2026年4月以降は1.0%で横ばい。長期金利は2027年まで図表5の推計値(2)の結果を利用し、その後は2%で横ばいとしています。これを見ると、2026年度から3年程度、小幅の赤字に陥る結果となりました。
ちなみに、薄い青色の面グラフは、下限が政策金利を2028年度に2.0%まで引き上げて逆イールドになるケース、上限は利上げが0.5%に止まるケースです。濃い青色の面グラフは、薄い青色の下限に加えて「分配金など」が2028年度にゼロになるケースです。
このように、想定される利上げを前提とするベースケースでも、一時的に赤字になるリスクが高いことが分かります。日銀レビューの想定はやや楽観的かもしれません。
いずれにせよ、日銀自身が「中央銀行の財務と金融政策運営」(2023年12月、多角的レビューシリーズ)でも指摘している通り、いくらオペレーショナルな意味で問題がなくても、赤字になったこと自体が市場に注目され、金融政策の遂行能力に疑義を持たれるようなことになれば、信認の低下につながるリスクがあります。
要するに、日銀に赤字が出ること自体が問題なのではなく、それによって物価安定を追求する姿勢が緩むことが問題なのであって、明確にビハインド・ザ・カーブ(利上げが手遅れになってインフレを許容していること)に陥っているにもかかわらず、植田日銀のロジカルに釈然としない妙な慎重姿勢が、そうした見方につながることがないよう注意する必要があるように思われます。
(愛宕 伸康)
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