「習近平新年談話」から読み解く中国経済の現在地と見通し。にじみ出る危機感
トウシル / 2025年1月9日 7時30分
「習近平新年談話」から読み解く中国経済の現在地と見通し。にじみ出る危機感
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「「習近平新年談話」から読み解く中国経済の現在地と見通し。にじみ出る危機感」
習近平国家主席が新年談話を発表
皆さま、新年あけましておめでとうございます。2025年1本目のレポートになります。
本年は、本連載がテーマとして扱う中国の習近平(シー・ジンピン)第3次政権にとって「折り返し地点」を意味するイヤーになります。現時点で、それが何を意味するのかは明らかではなく、1年を通して、あらゆる情勢や事象を観察しながら判断していくべきものだと思っています。
2025年が終わるとき、「この年は中国にとって○○な1年だった。それは日本を含めた世界経済や国際関係にとって、××を意味、示唆していた」と、それなりの確証を持ってレビューできるように、今年も本連載を大いに盛り上げていきたいと思いますので、皆さま、辛抱強くお付き合いいただければ幸いです。
中国では毎年の12月31日、国家主席が新年の挨拶としての談話を発表します。過去の1年を振り返り、これからの1年に向けて、自国民を労い、鼓舞するためのメッセージが発せられます。一方、これは単なる「新年の挨拶」ではなく、外界が往々にして闇に包まれる中国情勢、中国問題を理解、把握する上で重要な中身や情報が詰まっています。
しかも、他でもない、中国の最高指導者である習近平国家主席自らが語り掛けるわけですから、我々としても、そこから何かをくみ取るべく、真剣に解読に努めるべきだと考えます。
最高指導者自身が中国経済の現状と見通しについて言及
ここからは、習近平国家主席の新年談話を、経済情勢・政策に焦点を当てながら解読していきます。
習氏は簡単な挨拶の後、次のように切り出しています。
「我々は国内外における環境の変化がもたらす影響に積極的に対応し、一連の政策を、拳を組み合わせるような形で打ち出した。質の高い発展を着実に推し進め、我が国の経済は回復し、前進している」
まずこの文言から読み取れるのは、中国にとって、2024年というイヤーは「国内外における環境の変化」に随所で見舞われたということであり、それらに対する「積極的な対応」に追われた1年だったということです。その上で、一連の政策を、拳を組み合わせるような形で打ち出したと主張しています。中国語で「組合拳」と言いますが、この言葉は主に、景気を上向かせるための、財政出動や金融緩和を含めたマクロコントロールを駆使する際に使われます。
海外に目を向ければ、米国の経済動向、欧州や中東における戦争が及ぼす影響、米国との対立などあらゆる不確定要素が山積みで、国内では不動産不況、デフレ、需要不足などこちらも難しい問題が混在しています。これらに対応すべく、中央政府として、ありとあらゆる政策を組み合わせる形で、後手に回らないような対応を心掛けたと言っています。やることはやった、逆に言えば、それだけのことをやらなければ、状況はもっとまずかった、ということでしょう。
習氏は続けます。
「国内総生産は130兆元を超え、食料生産量は7億トンを突破する見込みである。中国の茶碗には、より多くの中国産食料が盛られた」
異例とはいえませんが、習近平という最高指導者が、「国内総生産130兆元」(約2,795兆円)、「食糧生産量7億トン」といった具体的数字に言及したのは特筆に値します。この日のために、経済官僚たちが省庁間で連携しつつ、これらの数字をはじき出したのでしょう。その思惑は、最高指導者自らに、中国が経済成長や食料安全保障という分野で、それなりの成果を上げ、情勢が比較的安定に推移していると語ってもらうということだと思います。
参考までに、習近平氏は同じく12月31日に開催された全国政治協商会議の会合で行った談話の中で、2024年の国内総生産は5%前後の成長が見込まれると明言しています。また、食料生産量が7億トンを突破するのは「史上初」とも語っています。共産党指導部として、国内外に発信したいメッセージは一緒ですが、ここで重要なのは、習近平氏は、一つの談話ではなく、複数の談話や場面を通じて、異なる数字や表現を通じて、最高指導者としての現状認識を伝えようとする傾向があるという点です。我々が中国を客観的、複合的に理解する上で重要なポイントになると考えます。
習近平国家主席が年の瀬に、130兆元、5%前後という具体的な数字を用いて中国経済の現在地を語った事実は重いです。中国共産党指導部として、国内外の市場関係者が、中国経済の現状や先行きを楽観的、前向きに見ていない、あらゆる不安や不信を打ち消す必要があると考えている、そういう危機感を如実に表している証左と見るべきでしょう。
中国が国家戦略の見地から重視する「領域」
習近平国家主席の新年談話には、中国経済の今後を占う上で、示唆に富む内容も含まれていました。いくつかをケーススタディーとして見ていきましょう。
「各地域の発展は協同、連動し、長年の蓄積が勢いとなり、新型都市化と農村振興が互いに融合、共鳴している。グリーン・低炭素の発展は深い次元で進行している」
この文言には、中国共産党指導部が
- 地域間の発展を巡る格差を問題視している
- 都市化と農村の振興を経済成長の起爆剤としようとしている
- 環境に配慮するグリーンや低炭素、あるいは脱炭素が持続可能な成長にとっての方向性だと位置づけている
という見解や立場を感じさせます。
「地域の実情に応じて新たな質の生産力を育成し、新たな産業や業態、モデルが相次いで生まれている。新エネルギー車の年間生産台数は初めて1千万を超え、集積回路や人工知能、量子通信といった分野で新たな成果が得られた」
習近平政権が国家戦略の見地から重視する「領域」を最高指導者自らが語っているのは極めて重要です。EVを含めた新エネルギー車の生産台数が初めて年間1千万を超えたとのことですが、自動車産業を含め、中国はグリーンで勝負していくということでしょう。政府による補助金を含めた支援策がどうなるのか、それが国境を越えた産業の形態や市場の秩序にどう影響していくのか見ものです。
また、「集積回路、人工知能、量子通信」という三つの分野にピンポイントで言及していますが、中国が国としてこれらの産業、領域を盛り上げる、そのための政策を打ち出し、関連企業を支援していくという「立場表明」にほかなりません。外国の競合、関連企業は中国のこの動きや流れにどう対応していくのか。それは我々自身の問題になるでしょう。
最後に、習近平氏は、第14次五カ年計画の最終年に当たる2025年は、「より積極的で、行動を伴った政策を実施すること」で、「経済社会の発展が良好な勢いを保持できるようにする」と主張しています。昨年12月に行われた中央経済工作会議でも表明されたように、2025年の中国政府は従来以上に積極的な財政出動、緩和的な金融政策を打ち出す見込みです。
足元の景気に目を向ければ、例として、中国国家統計局が発表した製造業PMI(購買担当者景気指数)は12月に50.1となり、景気の好不調の節目である50は上回ったものの、11月の50.3から下落しています。サービス業PMIは52.2と前月の50.0から大きく上昇しましたが、景気を巡る動向は依然錯綜(さくそう)、混乱、迷走していると言わざるを得ません。
以上、習近平氏の新年談話をレビューしてきました。
2025年、中国経済が不動産不況やデフレ、需要不足などを克服し、「好循環」を実現できるか否かに注目していきたいと思います。
(加藤 嘉一)
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