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2025年の世界十大リスク

トウシル / 2025年1月15日 16時21分

2025年の世界十大リスク

2025年の世界十大リスク

 前回のコラムでは2025年の重要日程をお伝えしました。その中で政治イベントは、その結果によって瞬時に相場に影響を与えたり、その時の経済環境も無視して影響を及ぼしたりする場合もあるため、最重要で注目すべき要因だとお話しました。

 日程が決まっている政治イベントは事前に複数の相場シナリオを想定できますが、日程が定まっていない政治リスクも同時に捉えておく必要があります。例えば、トランプ第2次政権は1月20日に政権がスタートするという日程は決まっていても、政権発足による政治リスクやインフレなどの経済リスクは、政権がいつ、どのように政策を実行するのかは定かではありません。

 しかし、日程が定まっていなくても行動や政策によって、政治環境や経済環境に変化を与える可能性があることを押さえておけば、今後の相場シナリオを想定する際のリスクシナリオとして準備しておくことができます。

ユーラシア・グループが年初に発表する「世界の十大リスク」とは

 このような政治リスクは専門家の見方が参考になります。毎年、年末年始になると、いろいろなシンクタンクや金融機関が「世界の十大リスク」を発表していますが、その中でもマーケットで最も注目されているのが、イアン・ブレマー氏率いるユーラシア・グループ(※)が年初に発表する「世界の十大リスク」です。

※ユーラシア・グループは1998年に米国で設立された世界最大規模の政治リスク専門コンサルティング会社。マーケットを動かす可能性のある世界各国・地域の政治リスクを分析し、機関投資家や多国籍企業にアドバイスしている。戦争や政情不安が起きる危険性など、地政学的リスクの分析に定評がある。社長のイアン・ブレマー氏は国際政治学者で、2011年にすでに「Gゼロ」の時代が来ると指摘したことで一躍有名になった。

「Gゼロ」とは、世界を動かすのはG7(先進国の7カ国グループ〈日米英独仏伊加〉)でもなく、G2(米中)でもなく、Gゼロ、つまり「リーダーなき世界」を意味する。同氏は、世界はますますGゼロの世界になってきていると分析しており、2025年の世界十大リスクでは「深まるGゼロの混迷」を最大リスクとして挙げている。

「世界の十大リスク」とは、政治や経済に大きな影響を与えそうな事象のことで、マーケットを大きく動かす可能性があるリスクでもあります。的中することも多く、例えば、2022年のロシアによるウクライナ侵攻は2月24日に起こることは予想できませんでしたが、2022年の第5位のリスクとして「ロシア」を挙げ、「ウクライナ侵攻の恐れもある」と予想していました。

 そして2023年にはロシアのリスクを第1位に挙げ、「世界で最も危険なならず者国家」になると説明し、「ロシアはウクライナを撤退しない」と予測しています。2024年には3位のリスクとして「ウクライナ分割」を挙げ、ロシアが占領地の支配権を維持し、「ウクライナは事実上の分割統治となる」と分析しています。

 また、5位のリスクとして、「ならず者の枢軸」を挙げ、ロシア、北朝鮮、イランの連携が脅威になると分析しています。2024年12月、ロシアと北朝鮮は軍事的な支援などを明記した包括的戦略条約を結びました。その後北朝鮮はロシアに兵を派遣し、ウクライナ紛争に関与しています。そして、2025年のリスクとしてもロシアを5位に挙げています。

 このように専門家が2025年の政治リスクをどのように見ているかを知っておくことは非常に重要だということが分かります。

 このレポートは有料ですが、数日たつと新聞やネットで概要が公開されます。また、TVニュースでも特集されますので、それらを参考にすることができます。

 このコラムでは、毎年、ユーラシア・グループの「世界の十大リスク」を紹介しています。今年の「世界十大リスク」は以下の通りです。参考までに昨年の「世界十大リスク」も併記しました。昨年との対比によってリスクが内在する地域・国の変化や比重を読み取ることができます。

2024・2025年の「世界十大リスク」

 先述したように「世界十大リスク」の1位は、国際秩序を主導する国家がない「Gゼロ」の進行で、「世界の分裂は深まり、危機に陥りやすくなる」と指摘しています。トランプ政権は単独主義を志向し、世界のリーダーになることは望んでいません。

 また、中国もより内向きになっており、経済問題や国内の課題に専念せざるを得ないとの見方から、Gゼロの世界で地政学的な不安定さが常態することで「力の空白が新たに生まれて拡大し、ならず者国家が勢いづく。新たな世界大戦のリスクは高まっている」と分析しています。

今年は冷戦初期か1930年代以来の地政学的に最も危険な年になる?

 イアン・ブレマー氏は「今年は冷戦初期か1930年代以来の地政学的に最も危険な年になるだろう」と警鐘を鳴らしています。

 2位のリスクには、トランプ次期政権を挙げています。トランプ氏に忠実な側近が起用され、行政権力へのチェック機能の低下や法の支配が弱体化する可能性があると指摘しています。

 3位は、「米中の対立激化」を挙げ、バイデン政権下で安定した米中関係は、トランプ氏の返り咲きによって、経済の混乱と危機のリスクが世界に広がる可能性があると分析しています。

 4位は、「トランプノミクス」を挙げています。トランプ次期政権の政策によってインフレが上昇し、成長は減速すると分析しています。また、イアン・ブレマー氏は対米黒字国に対する関税引き上げで世界の貿易の流れをゆがめ、世界は混乱するだろうと述べ、市場はトランプ政権が経済にもたらすリスクを過小評価していると指摘しています。

 5位は、「ならず者国家のままのロシア」を挙げ、ウクライナとの停戦が成立しても、ロシアは今年、米国主導の世界秩序を弱体化させる政策をさらに推進するだろうと分析しています。

 6位は「追い詰められたイラン」です。2025年、中東は依然として不安定な情勢が続くだろうと分析し、その大きな理由の一つはイスラエルとの対立で弱体化したイランが、米国などとの外交で失敗した場合に核兵器製造に乗り出す可能性を指摘しています。

 7位には「世界経済への負の押し付け」を挙げ、「中国経済の低迷」や「トランプ次期政権の政策」の影響が世界に波及し、世界経済の回復を妨げると分析し、8位の「制御不能なAI」は、AIの能力向上と規制緩和が進み、事故や暴走の恐れがあるとしています。

 9位はならず者国家や非国家主体の影響が拡大するだろうという見解から「統治なき領域の拡大」、10位には「米国とメキシコの対立」を挙げ、トランプ次期政権の関税措置や不法移民の取り締りなどで米国とメキシコの関係はさらに険悪になり、メキシコの成長とインフレに悪影響を及ぼすと分析しています。

 そして番外の「リスクもどき」として、以下3点を挙げています。

  • トランプの失敗
  • 欧州の分裂
  • エネルギー移行の世界的停滞

 また、報告書では、「トランプの失敗」を挙げています。一般的な見方では、トランプの2度目の大統領就任は外交政策の混乱を招くことになるが、今年はそうはならないだろうとして、トランプ氏は失敗せずに、今年、予測されている以上に外交政策で多くの勝利を収めると分析しています。

 その理由は四つあり、第一に、トランプ氏は世界最大の経済と世界最強の軍事力を駆使することに抵抗感を示さない一方、敵対国である中国、ロシア、イランが弱体化しているため、トランプ氏の取引的なアプローチはより効果的になるだろうと指摘しています。

 第二に、トランプ氏の国内における政治力は今回さらに強化されること、第三にトランプ氏は、1期目よりもイデオロギー的に近い友人を国際舞台で多く持つことになるだろうとしています。最後に、トランプ政権1期目よりも世界は危険になっているとして、トランプ氏の逆鱗に触れることのリスクと代償は前回よりもはるかに大きくなっていると指摘しています。

 トランプ氏に逆らうことは自らの危険につながることを理解しているため、トランプ氏は他の国々から譲歩を引き出し、早い段階で成果を上げる点において、1期目よりも高い能力を発揮するだろうということです。

「欧州の分裂」については、経済停滞、安全保障上の脅威、防衛力の不足により、2025年の欧州は困難に直面することになるとしています。トランプ氏の返り咲きは、これらの地政学的および経済的な圧力をさらに悪化させ、欧州の結束を崩壊させる可能性があると指摘しています。

 そして、「エネルギー移行の世界的停滞」については、トランプ氏の返り咲きにより、今年、世界的なエネルギー移行が「ドリル・ベイビー・ドリル(掘って掘って掘りまくれ)」という選挙公約にあおられて逆行するという懸念が高まっていますが、世界のエネルギー移行はトランプ政権2期目も乗り越えるだろうとしています。

 違いは、2017年には世界のエネルギー移行はまだ出発したばかりだったが、2025年にはすでに十分な速度に達しているからだと分析しています。

 リスクもどきの「トランプ失敗」については、興味深い見方をしています。トランプ第2次政権は、トランプ政権1期をトランプ氏も世界も経験していることから身構えていることに加え、2期では米国内の政治的基盤が強化され、敵対国は弱体化していることからトランプ流取引が優位になるというものです。

 1期の時には大きな戦争がなかったように、2期でも世界の紛争が鎮まり、世界経済も拡大していけばよいのですが…。

 以上のように今年もさまざまな政治リスクが想定されます。ここに挙げられたリスクは目新しいものではありません。すでにメディアで報道されているものですが、政治リスクの専門家がどのリスクに重点を置き、そのリスクがどの程度の大きさで世界に影響を及ぼすのかを知ることができます。

 また、政治リスクは突然起こる場合は避けようがありませんが、どの地域にどのようなリスクがあるかを把握しておけば、為替の想定シナリオにそのリスクシナリオも加えておくことができます。

 事前にリスクの兆候が見られ、そのリスクが高まってくる場合は、そのリスクに対応する準備ができます。心構えとしてリスクシナリオを加えておくのとおかないのとでは大きな違いがあるため、事前に準備しておくことが肝要となります。

金融市場にとって最大のリスクは、「トランプノミクス」政策による影響

 今年の「世界十大リスク」は金融市場にどのような影響を及ぼすでしょうか。金融市場にとっても最大のリスクは、イアン・ブレマー氏も4位に挙げている、トランプ次期政権の政策「トランプノミクス」による影響です。

 関税引き上げと移民規制によってインフレが上昇し成長が減速すること、そして、市場はトランプ政権が経済にもたらすリスクを過小評価していると指摘しています。

 FRB(米連邦準備制度理事会)は、現在の米国の経済状況であれば、利下げを急がない姿勢を続ける意向ですが、インフレ再燃懸念が台頭し、景気が後退した時にFRBの判断はどのように変わるのか注目です。市場参加者もかなり悩むことになりそうです。

 また、経済がスローダウンした時にはトランプ次期大統領からの利下げ圧力が強まることも予想されます。FRBのパウエル議長は独立性を示すために強硬な姿勢を取らざるを得なくなり、利下げのタイミングが遅れる可能性も予想されます。

 また、報告書ではトランプノミクスが米国のインフレ再燃によって円安が進み、日本のインフレ上昇につながる場合、日本の金融政策正常化に影響を及ぼすことになると指摘しています。

 日本経済が後退している場合は、円安やインフレ再燃でも利上げをできない、あるいは利上げのタイミングを逸し、スタグフレーション(物価上昇を伴う景気後退)に直面しているかもしれません。

 報告書は日本に対する影響にも触れており、世界の十大リスクで4位に挙げられた「トランプノミクス」が日本にとって最大のリスクだとしています。トランプ次期大統領は貿易赤字を問題視していることから、日本の対米輸出額が最も大きい自動車が標的となった場合、日本経済に打撃を与える可能性があると指摘しています。

 3位の「米中決裂」と10位の「米国とメキシコの対立」も日本にとってのリスクと指摘しています。

 中国と米国は日本の最大貿易相手国であり、米国と中国の関係が悪化すれば日本も巻き添えを食う可能性が高く、日本の自動車メーカーは米国市場に向けた生産拠点としてメキシコを活用していることから、メキシコに対する関税引き上げによって、日本の自動車メーカーに直接的な影響を与えるのではないかとしています。

 今年の為替相場の最大注目要因は日米の金融政策ですが、これに加えトランプノミクスが波乱材料になるため、かなり相場が翻弄(ほんろう)されそうです。1月20日の第2次政権発足以降、政治リスクとして急浮上する可能性があるため注意しなければなりませんが、政治リスクは経済環境とは別の大きな流れの中で為替の動きを見ていく必要があります。

 以上のようにさまざまシナリオが想定されますが、トランプ第2次政権がスタートする前にすでにトランプ旋風は吹き荒れています。それでもマーケットは1月20日のトランプ大統領就任までは動きづらく、様子見姿勢が続くことが予想されます。

今年最も危惧されるのは、地政学リスクの高まりが経済に影響を与え、円安要因になること

 ハッサクが最も警戒したいのは、1位のリスクに挙げているGゼロの世界が進行し、力の空白が新たに生まれて拡大すると、「今年は冷戦初期や1930年代以来の地政学的に危険な一年になるだろう」とイアン・ブレマー氏が警鐘を鳴らしている点です。

 その動きはすでに現れています。前回も触れましたが、ユーロ圏の2大経済圏のドイツ、フランスの政局混迷や欧州での極右勢力の台頭、カナダ首相の辞任による政権崩壊、韓国も政府が崩壊している状況となっています。

 日本も少数与党の政権が、7月に12年に一度の参院選と東京都議選でより不安定な政局になることも予想されます。そのような環境の中で韓国政府が、反米、反日、親中政権になれば、東アジアの緊張は高まることが予想されます。

 イアン・ブレマー氏が「今日本は選挙の結果で弱い政権になっている。安倍晋三元首相とトランプ氏のように個人と個人、政府と政府の強い関係は築けないだろう」と指摘しているように、自国第一主義のトランプ第2次政権がこの東アジアの変化にあまり関心を示さなければ、日本を取り巻く地政学リスクが一気に高まることが予想されます。

 この地政学リスクの高まりが経済に影響を与え、円安要因になることが今年の最も危惧される要因として考えています。

(ハッサク)

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