米国株は天敵「金利高」にあらがえるか
トウシル / 2025年1月17日 7時30分
米国株は天敵「金利高」にあらがえるか
今回のサマリー
●米国株は、今サイクル4度目の金利高という難敵に直面している
●米景気堅調、トランプ2.0のインフレ・インパクトへの不安から、金利高の着地メドはまだ見えない
●「金利=株価の重力」で、近年の米株相場は、長期金利4.5%が黄信号、5.0%が赤信号
●米国株は高金利に耐性を見せる条件、米金利高を抑制する条件をチェック
金利=株の重力
2025年1月の米株式相場は、テック主導で3~6日に急伸した後、7日に自律反落し、9日の米雇用統計強振れによる金利上昇が、もう一段の下落を促しました。金利は株価にとって「重力」と言われます。金利が高くなるほど、株価への重力は強まり、下落しやすくなるのです。
理由の第1は、株価は理論上、企業が生み出す将来の価値(利益)を現在の価値に換算したものですが、この換算の割引率が金利です。金利高は、将来の企業利益の割引率が高まることを意味します。将来の成長をより大きく織り込むグロース株が、金利高で反落しやすいとされます。
第2は、上がり過ぎた金利はいずれ景気、企業業績を悪化させるというサイクル論の見方です。
第3は、第1と第2が投資家の頭に刷り込まれているため、金利が上がると株を条件反射的に売る動意が出ます。特に相場上昇後は、テクニカルな圧力と金利高が相まって、売り動意が出やすくなります。
過去3回の金利高ケース
図1をご覧ください。コロナ禍以降、インフレ高伸にFRB(米連邦準備制度理事会)が高金利で対抗しました。やがて、この高金利で景気・インフレ鈍化観測が浮上すると、金利、株価、為替が揺れ動きました。もっとも、景気は鈍化しそうでも結局しっかりで、インフレも鈍化後は下げ渋っています。このため、債券金利は軟化と再上昇を繰り返し、株式相場の動意を呼びました。2022年以降、米国の金利ピーク感と株価の巡り合わせ場面をいくつかピックアップします。
図1:米長期金利とQQQ(グロース株)、QQQ(テクノロジー除く)
2022年末
米金利にいったんピーク感が出ました。2022年を通じて下落してきた株価は、金利上昇の停止を好感して「中間反騰」を見せました。景気悪化の兆候が確認されれば、株価は「逆業績相場」の下落局面に移りますが、2023年明け後も景気指標はしっかりで、株式相場は底堅さを保ちました。
2023年10月
米景気は7-9月期に堅調さを増し、インフレ再燃懸念から長期金利が5%超まで上伸。金利高の圧迫で、株式相場全般は頭を抑えられました。2023年後半に浮上した生成AI(人工知能)テーマで注目されたNVDA、GAFAMは上値志向を見せつつも、金利高の先行き不安による圧迫も免れませんでした。
2024年4月
2023年末に再びピーク感の出た米金利ですが、2024年に入ると経済指標が堅調になり、4月に利上げ観測が浮上し、1~2月に高速ラリーとなったAIテック株が3月の自律調整、4月の金利高の圧迫で深押しを余儀なくされました。
金利高と株価の今後の展開は、過去のこうしたケースの韻を踏む(同じような動きになる)面と、今回は違うであろう要素とを踏まえて考えます。
今回の金利高
今回の金利高は、10月以降に確認された経済指標の堅調と、1月20日発足の第2次トランプ政権(トランプ2.0)の政策期待によって促されています。8月に景気悪化必至との見方が優勢となり、9月からFRBは3会合連続で利下げをしました。この景気堅調でも利下げをし、さらにトランプ2.0期待が重なり、11月に株価は急伸しました。2025年を通じた金利低下観測は後退したものの、減税や規制緩和による経済への明るい展望が、株価をサポートした場面です。
しかし、利下げ余地が限定される状況での景気指標の堅調持続は、インフレ再燃への警戒と、利上げ観測を呼び起こします。10日の雇用統計の強振れで、長期金利は4.8%手前まで上伸しています。株式相場は、コロナ禍後のサイクルで4度目の金利高という難敵に遭遇する場面になっています。
足元で、景気悪化の兆しは確認されず、「逆業績相場」への不安があるわけではありません。しかし、長期金利が4.5%を超えると株式相場には黄信号点滅の警戒感が浮上しがちです(図2)。そして、5%の大台超えという象徴的な水準は赤信号と言えます。さらに今回は、景気が堅調なところに、トランプ2.0が重なり、金利高がどこで止まるかのメドをまだ抱けない不安があります。トランプ2.0の公約には、経済・市場にとってプラス・マイナス両面があり得るため、その不確実性が不安を増幅しています。
図2:米長期金利の4.5%黄信号、5%赤信号
金利高にあらがえるか
株式相場が5%絡み以上の金利高に耐性を見せるかは、これまでの展開を見る限り、難しいかもしれません。しかし、その可能性として、以下の2点の想定も念頭に置いています。
第1は、AI関連の需要は通常の景気・金利サイクルを超えて伸びるであろうことです(図3)。この点は、高金利下で一般株は頭を抑えられるものの、AI株はより大きな相場テーマになり得るとして、2023年後半以降一貫して追求してきたところです。
ただし、AI株にも警戒すべきことはあります。相場の上昇が速く高くなることで、相場自らが自律反落の力を生み出すことです。ほどほどの金利高は、AI相場のトレンドを損なうことはないと判断してきた一方、この自律反落を促すきっかけ要因にはなるのです。もっとも、トレンドが上なら、自律反落による相場の押し目は、仕込み直しの好機と言えます。
第2は、景気悪化による逆業績展開への警戒が薄れるケースです。つまり、金利高でも景気そのものは持ちこたえるとの自信が出てくることです。また、インフレがほどほどに抑制されている必要もあります。
このケースは、景気堅調、インフレ抑制、そしてトランプ2.0の政策が絶妙なバランスを保っている「バラ色シナリオ」とも言えます。それほどの楽観はバブル的症状を生むかもしれません。金利の一段高など、このバランスが崩れると、株価は崩落に見舞われるリスクを排除できないでしょう。
図3:AIトレンドは景気・金利に一定の耐性
金利高抑制の可能性
金利高への不安が、目先は相場に圧しかかろうとしています。ここであえて、金利高が一服する可能性としては、以下を注視しています。
第1に、景気・物価指標の弱振れです。足元でその兆しは何も確認されてはいません。しかし、ここ2年、突如として指標が強振れ、また弱振れる明暗変転を数カ月ごとに繰り返してきました。昨年4月への強振れ、8月への弱振れ、10月からの強振れも突如として切り替わっており、今後も変転する可能性を排除しないでいます。この変転の背景を指標の季節調整のゆがみによるものかもしれないと解説してきましたが、他にも11~12月の指標の強振れには、トランプ2.0の高関税導入前の駆け込み需要があり、その反動の可能性が指摘されます。
第2に、トランプ2.0自体が、過激な高関税や、強硬な不法移民排斥で、インフレを高伸させるようなアプローチをとらない可能性です。インフレ再燃懸念が緩和されれば、長期金利もいくらか様子見モードになるでしょう。まずは、大量の大統領令が出されると報道されている20日の大統領就任式、その後の言動一つ一つを注視します。
第3に、金利高への不安が株価を急落させ、それが金利高観を緩和させる可能性です。しかし。この展開での金利低下は、株式相場の大幅下落が先行する展開なので、投資家にとっては本末転倒な状況です。ただし、相場は一方向に動くばかりではなく、金利低下がまた株式相場を浮上させる循環的な波動であることを常に意識して対応を考えます。
投資の対応は?
短期的には、先週の雇用統計、今週のCPI(消費者物価指数)、小売売上など金利に影響し得る経済指標、そして、20日のトランプ大統領就任と同時に署名されるという大統領令を確認し、インフレ不安に対するアク抜け感があるかどうかを注視します。決算発表の集中期間とも重なるので、株式相場の急速な持ち直しの可能性もあります。
ただし、仮に首尾よくアク抜け感を得られたとしても、長期金利が4.5~5.0%ゾーンにある間は、株価が堅調を保つ程度に応じて、金利高への神経質さもくすぶり続けるでしょう。このため、短期的に高下する波動が2月にかけても繰り返されるリズムをイメージしています。
長期投資家なら、
(1)トランプ2.0が有利に作用するとか、トレンドが持続すると思われる銘柄・業種・指数に一括投資して、相場波乱には鈍感力で構える
あるいは、
(2)大波乱を前提として、時間分散買いを続ける
に判断が大別されるでしょう。もちろん、
(3)高金利で不確実という条件下では、株式へのリスク投資はしない
という考え方もありです。しかし、2025年から数年は、不安ばかりでなく、期待が非常に大きいことも踏まえて、対応したいと考えます。
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(田中泰輔)
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