米国の長期金利は金融の1丁目1番地
トウシル / 2025年1月16日 18時43分
米国の長期金利は金融の1丁目1番地
長期金利の上昇は、今日展開されている最も重要なマクロ経済動向である
レーガン大統領の時代の1981年、米国の財政赤字は9000億ドルに過ぎなかった。それが今日では約40兆ドルにまで膨れ上がった。選挙に勝つためには票を金で買うこと、つまり財政政策が非常に効果的であり、どの大統領もそれを行なってきた。それでも2017年末の時点で、8年後に債務が40兆ドルになることを予測していた人は誰もいなかっただろう。1981年に比べて44倍だ。一方、税金による歳入は5倍にしか増えていない。
米国の財政赤字の推移
昨日は米CPI(消費者物価指数)の落ち着きを受けて、米国債売りの投機筋のショートカバーが出て長期金利は低下した。だが、「ぬかよろこび」をしている場合ではない。
米10年国債金利(日足)
昨日の米CPIについてピーター・シフは、「インフレは下がらない。12月の物価上昇率は0.4%で、年率換算すると5%になる。前年同月比でCPI は2.9%上昇した。しかし同じ年、CRB商品指数は24%上昇した。政府が物価に起きていると主張することを信じるか、それとも実際に物価に起きていることを信じるか?」とXに投稿した。
12月の米CPIインフレ率は2.9%だったが、多くの生活必需品のインフレ率はそれよりはるかに高くなっている。
1. 自動車保険インフレ率: 11.3%
2. 交通費インフレ率: 7.3%
3. 自動車修理インフレ率: 6.2%
4. 都市ガスインフレ率: 4.9%
5. 住宅所有者インフレ率: 4.8%
6. 家賃インフレ率: 4.3%
7. 外食インフレ率: 3.6%
8. 病院サービスインフレ率: 3.5%
現実はバイデン政権下で消費者物価は21%以上急上昇しているのである。
バイデン政権下で消費者物価は21%以上急上昇した
現在、米国の巨大な債務の壁がどんどん満期を迎えている。発行残高28兆ドルの米国債のうち、米財務省はこれから1年間で8兆ドル、3年間で15兆ドルの債務(米国債)を借り換えなければならない。米国の債務を返済するための利息コストは1兆ドルを超えて、ここ数カ月で爆発的に上昇している。
巨大な債務の壁と米国債の償還
債券王のジェフリー・ガンドラックは米国の金利上昇と歴史的に前例のない債務水準について、次のようにコメントした。
1) 今後5年間、金利が6%であった場合。 米国の税収の50%を利払い費に充てなければならない。
2) 今後5年間、金利が10%であった場合。 米国の税収の100%を支払利息に充てなければならない。
3) 2025年に景気後退が訪れれば、連銀は積極的に金利を引き下げるだろうが、それはインフレを煽ることになる。 同様に、FF金利はイールドカーブのショートエンドにしか影響しない。 米国の債務問題により、長期金利は大幅に上昇する可能性がある。
米10年国債金利(月足)
【現在の財政政策の優位性は、国の債務と赤字のレベルが十分に高く、金融政策がインフレを制御するための効果的なツールでなくなるときに発生する経済状態だ。実際、常に大きな赤字の環境で持続的に高い金利は、実際にはインフレを悪化させるリスクがある。QEプログラムを通じて国債を購入すると、マネーサプライが拡大し、金融システムに流動性が注入される。これは最終的に資産価格のインフレとドルの購買力の侵食をもたらす。
構造的赤字が続く中、財務省は買い手のプールの縮小に直面している。外国人投資家は米国の債務保有のシェアを大幅に削減し、国内機関は規制と市場の制約により能力の限界に近づいている。この環境では、FRB(連邦準備制度)はますます最後の手段の買い手になり、金融の安定性と通貨の購買力に大きな影響を与える役割となる。
このシステムの持続可能性は、劇的な財政改革か、グローバルな資本の流れの再構成にかかっている。そのような変化がなければ、財務省の減少するバイヤープールへの依存は、米国の長期的な財政とインフレの見通しに重大なリスクを提起する】
(リン・オールデン)
1987年のブラックマンデー以降のグリーンスパンのモラルハザード政策(いわゆる後始末戦略)にどっぷり浸かっているウォール街は、強欲を止めることはない。リーマンショックでは金融機関や格付け機関の不正行為があらわになったが、リーマンショックで刑務所にいった人間は一人もいない。つまり、「やったもの勝ち」なのである。そして、バブルの後始末はいつもFRBがしてくれるというわけだ。
FRBは今後も市場に介入し金融市場の信用の流れを維持するモラルハザード政策を、それが崩壊するまで続けるだろう。グリーンスパン以降の米国の金融政策は「後始末戦略」であり、資産価格バブルには事前に働きかけず(バブルを放置して)、資産価格バブルの崩壊後に思い切り緩和的な金融政策で極力相殺する、という考え方である。
だが、バブルが崩壊しても、その時にインフレが終息していなければ、新しいバブルを作れない。これが今の米金融当局の直面している問題である。今回のバブルの崩壊は、インフレによってホテルカリフォルニアをチェックアウトしなければならないかもしれないのである。
事実上、カジノの大物プレーヤーは、ハウスが損失を補填してくれることを知っているので、リスクの高い賭けに出ることができる。信用取引、マルチ商法、リスクの高いギャンブルにのめり込んだ個人は一掃され、救済措置はない。一方、カジノを可能にした(大きすぎてつぶせない)金融機関やシャドーバンクは、リスクの高いギャンブルの結果から救われる。
金融資本主義はリーマンショック(世界金融危機)で終わったのである。金融資本主義が格差の拡大と富の偏在で終えんを迎えたのだ。それでもリーマンショック後、FRBはデフレ回避という大義名分の「バブル飛ばし(損失先送り策)」をやってきた。
レイ・ダリオのビッグサイクル
これはバブルというより、社会主義的な国家管理相場(中央経済計画)で、金融当局の自作自演の相場をみて、金融資本主義が続いているように錯覚しているのが今の市場である。中央銀行の緩和的な金融政策によってもたらされた資産価格の膨張は「ポンジスキーム(ねずみ講)」であり、いずれ崩壊は避けられない。
【ほとんどの中央銀行が通貨の価値を下げることを望んでいる場合、『次の通貨』を検討するのも良い機会だ。ほとんどの人は現在のリスクある投資で株式、レバレッジド・プライベート・エクイティファンド、ベンチャーキャピタルなどへの投資を考えていると思うが、私はこれらが実質的に良いリターンをもたらす投資となる可能性は低いと思う。バランスの良いポートフォリオを持つためにゴールドを追加することは、リスク軽減と収益向上の両方につながるだろう】
(レイ・ダリオ)
1990年からの日本のバブル崩壊や失われた20年でも証明されたことだが、バブルが崩壊しても、国は個人には何もしてくれない。アラン・グリーンスパンが100年に1回の危機と呼んだ2008年の暴落(世界金融危機=リーマンショック)は事実上、ミニ暴落であった。修正は行われなかった。暴落は膨大な負債によって覆い隠された。そして、次の避けられない大暴落が起こったとき、その深刻さは歴史上のどの暴落をもはるかに超えるものになることが確実となったのである。
利下げしているのに長期金利が上がっていくような現状は、米国(および世界)の歴史上最大の債務危機という文脈に置き換えると、今後到来する「破綻」は本当に醜いものになる。
資本主義経済の中で、企業も個人も負債と資産の両建て経済に便乗してきたが、リーマン危機で個人や企業の負債は国家に付け替えられた。もう、この負債を転がす先はない。国家は破綻しないが、破綻するのは国民である。
米国に財政規律を催促するのは、イーロン・マスクとビベック・ラマスワミの政府効率化省(DOGE)ではない。それは国債市場や外為市場である。資産運用の究極の目的はインフレへのヘッジに他ならない。
米国の負債は持続不可能な速度で増加している。それがいつ壊れるのかは誰にもわからないが、いつかは壊れる。われわれはそのリセット後にも生き残る資産を購入すべきだろう。米国は分裂と内輪もめ(市民戦争)の中で、金利上昇という現実が歴史的に前例のない債務水準と衝突し、あらゆる層の人を押しつぶすことになるかもしれない。「ゆっくりと、そして一気に・・」。
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「為替どうなる?トランプ新大統領と世界マネーの新構図」というテーマで、14時10分から田中泰輔さんと対談します。私も楽しみにしています。ぜひ、ご参加ください。(石原順)
(石原 順)
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