日銀の利下げは株式市場にとって大きなリスクとなる!?
トウシル / 2025年1月23日 15時8分
日銀の利下げは株式市場にとって大きなリスクとなる!?
2025年もインフレ期待は上昇するが、それは日本にとって最も重要!
BCA ResearchのチーフエコノミストであるDhaval Joshiが日本経済に言及し、大変示唆に富む「インフレ期待は2025年に引き続き上昇する!それは日本にとって最も重要だ」というレポートを書いていた。今週のレポートではそれを抜粋して以下に紹介したい。
パンデミック後の目立ったインフレ時代は、パンデミック前の注目されていないインフレの時代と比べ、集団的経験の中でより大きな部分を占めるようになるため、インフレ期待は高まる傾向にある。
より正確には、インフレ期待が再び低下するようなデフレ・ショック(または外生的なデフレ・ショック)が発生しない限り、インフレ期待は上昇する傾向にある。そのようなショックは日本からやってくるかもしれない。
日本10年国債金利(月足)
日本のインフレ期待は達成されつつあり、ミッションは達成される。
日本を除く先進国では、インフレ期待の高まりにより、インフレ率は目標の2%をさらに上回るだろう。これは二つの理由から、さらなる利下げの余地を制限することになる。
第一に、それはインフレ期待をさらに固定化しないリスクがあるためだ。
第二に、経済にとって重要なのは実質債券利回りだ。インフレ期待が高まれば、金融政策の実質スタンスを一定にするためには名目債券利回りも上昇する。つまり、債券利回りは、それを引き下げるようなショックが訪れるまで、上昇傾向にあるということだ。しかし日本では、インフレ期待が高まれば、債券利回りは日本銀行の目標である2%まで上昇する。
日本のインフレ期待の高まりは、物価上昇率目標を2%に引き上げるだろう
世界の中央銀行の政策金利と実質金利
ミッションが遂行されれば、特に実質国債利回りが現在、大幅なマイナスとなっていることから、日銀が何十年も続けてきたゼロ金利政策(ZIRP)を正当化する理由がなくなる。
低インフレが長年続いた後では逆説的に聞こえるかもしれないが、インフレ率が目標値に近づくと、実質国債利回りが大幅にマイナスになることは、日本のインフレ率が高くなりすぎるリスクをはらんでいる。
日本の金融政策の正常化は株式に大きなリスクをもたらす
日本の金融政策の正常化は株式にとって大きなリスクとなる。なぜなら、日本は金融市場の流動性の主な供給源であり、それによって株式市場の評価を高めてきたからだ。
2019年から2022年まで、ナスダックの評価(収益利回り)は、予想されるように米国の実質債券利回りと完全に連動して動いた。しかし、2022年後半になると、ナスダックの評価は米国の実質利回りから離れ、世界に残る最後のマイナス実質債券利回りである日本に連動するようになる。
米ハイテク企業のバリュエーションは、米国の実質利回りに連動しているのではなく、日本の実質利回りに連動している
従って、2023年から2024年にかけて、ナスダックの収益利回りは日本の実質債券利回りとほぼ完全に連動している。
つまり、米国ハイテク企業のバリュエーションに対する最大のリスクは、米国実質債券利回りの上昇によるものではない。最大のリスクは日本の実質債券利回りの上昇である。
このことは、米国ハイテク企業のバリュエーションが最近の米国実質債券利回りの急上昇に対してほとんど無傷である理由の謎を解くものでもある。
繰り返すが、米ハイテク企業のバリュエーションは米実質利回りに連動しているのではなく、日本の実質利回りに連動しているのだ。日本の実質利回りが急騰していないため、米ハイテク企業のバリュエーションはほとんど影響を受けていない。
しかし、構造的(1~2年)な時間軸で見れば、日本の実質利回りは上昇する可能性が高い。そうなれば、2023年から2024年にかけての株式市場のバリュエーション上昇を支えていた金融市場の流動性の源泉が失われることになる。従って、この構造的(1~2年)な時間軸では、株式対債券、特に米国の超大型株の下落が予想される。
しかし、タイミングの観点からは、市場が日銀に対してハト派的になりすぎるまで、あるいは米国の超大型株に対して強気になりすぎるまで待つことになるだろう。
言い換えれば、米ドル/円やナスダック対30年物国債の複雑な価格トレンドが、2023年末と2024年夏に過去の反転を示唆した崩壊点に達したときである。
米ドル/円、ナスダックと米30年国債の複雑な価格推移を見る
日銀は世界の中央銀行による型破りな政策の大実験の終結を示すことになるだろう
植田和男日銀総裁は普通の金融政策を取り戻し、金利をマイナスからプラスに戻し、表向きにはイールドカーブのコントロールを手放した。日本は過去数十年間、経済と社会の安定を維持するために驚くほど多額の赤字国債を発行してきたため、政府の財政は非常に脆弱(ぜいじゃく)であり、わずかな金利上昇でさえ破滅的な事態を招きかねない。
日本の対GDP(国内総生産)債務比率はおよそ250%である。日本は金利を上げることはできない。なぜなら、金利を上げると政府の予算が破綻し、低金利債務でいっぱいの年金基金のほとんどが破綻する可能性があるからだ。
日本は過去30年間、ステファニー・ケルトンが指摘しているように疑似MMT(現代貨幣理論)を行ってきた。これは必然的に現金(日本円)の崩壊に近づいていく。
MMTは政府が自国通貨建ての借金をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるとする理論である。通貨の崩壊は日本が長年の疑似MMTという狂った金融政策の代償として支払っているものである。結果、通貨インフレという詐欺的増税が到来している。
日銀は世界の中央銀行による型破りな政策の大実験の終結を示すことになるだろう。これまで日本の異常低金利と量的緩和が、世界のエブリシングバブル(なんでもバブル)を支えてきた。そしてドル/円の上昇(円安)はエブリシングバブルの象徴である。
CAPE(Cyclically Adjusted Price Earnings Ratio)は株価の割高・割安を判断する投資指標
ドル/円(月足)
円売りのゲームに参加しているのは日本の個人投資家だけではない。日銀が異常低金利を続ける中、円は調達通貨となり、20兆ドル(約3,100兆円)のキャリートレードが行われているという。これは必然的にグローバル金融システムにおける大規模な流動性危機を引き起こす可能性がある。円キャリートレードの巻き戻しは、「大円安の次に警戒すべき事態」であろう。
円高にせよ円安にせよ、過度な円相場の変動は市場の流動性に大きな影響を与える。従って、株式市場をクラッシュさせないために、日・米の金融当局はドル/円のボラティリティに神経をとがらせている。
日本人は今、「給料は上がらないが物価は上がる」という典型的なスタグフレーションの渦中にいる。この傾向は、これからもっとひどくなるだろう。
公的債務の対GDP比の限界は250%程度といわれ、1940年代に英国が一度経験しているだけである。少子高齢化が進む日本は金利が上がると厳しい事態を迎える。円の暴落は赤字支出が制御不能になったときに何が起こるかの予告である。
日本銀行が輪転機で刷った円で政府の借金を帳消しにするというインフレの方向性は、これから、日本国債や円に対する信認を揺るがすことになるだろう。
1月22日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
1月22日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、荒地潤さん(楽天証券FXアナリスト)をゲストにお招きして、「トランプ相場で為替はどうなる?」「南海泡沫事件2.0か?」「個人投資家のFXポジション動向」「カギを握るベッセントの政策は?」「レイ・ダリオの警鐘」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。
1月22日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
(石原 順)
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